格闘家世界チャンピオン、敵なしだったので引退しサバンナに行きジャガーを狩る〜現代ダンジョンが発生したので帰還、美少女になって配信します〜   作:tetois

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第四十話 銀龍vs狂戦士の波動

 

 "ライ引っ越した言っていなかった?わすれてた"

 

「……ライ!」

 

 先程メッセージにはそう送信されていた。本当に舐めている。報連相は基本だろうがと送ってやった。

 

 苛立ちと焦りを感じながらダンジョンへ俺は駆けこんだ。

 

 結果的には俺単体かつドラゴンの位置すら知らない状態で行くことにはなる。だが撤退の二文字は頭には浮かびはしない。プリンを関口に殺らせでもしたら一生分の汚名を背負うことになる。

 

 プリンは俺が実行しなければならない。正義の処罰を、死刑を、必ず叩き込まなければならない。その物語には関口の存在は癌にしかならない。

 

「ウルフ行くぞ!」

 

 情報は百階層付近の何処か。攻略は造作でもない。ドラゴン以外のモンスターなどプランクトン以下に過ぎない。

 

 "ウガア!!"

 

 "キュキュ――"

 

 "グルル……"

 

 早速お出ましだ。常闇のヘルバウンド、ミニエヴォラドオーク、ボムスライム。統率の組まれた魔物が一斉に襲い掛かる。

 

 ……狂戦士の波動機動!

 

 瞬間、俺の周囲に紫の風がうねりはじめる。あの敗北、そして筋トレから掴んだ専用のユニークスキル。あの時使ったバフスキルのさらに先の領域。波動は俺のパワー、スピードを著しく上昇させ、紫の風はダンジョンの天井まで届くほどの強大なオーラに変貌した。

 

 

 オーラから吹き荒れる業風に並大抵のモンスターの抵抗は意味をなさない。ボムスライムと常闇のヘルバウンドは台風に吹き飛ばされ、エヴォラドオークだけが残る。

 

 "……ウウ!ガア!"

 

 エヴォラドオークが怒りを全開にし駆け寄る。瞬間、爆発に巻き込まれた。

 オーラはウィップのように遠距離攻撃も可能。紫色の槍はボムスライムのコアを砕き、起爆剤とした。

 

 瞬間、ダンジョン内に連鎖する数々の爆発。粉塵が舞い、空気が淀む階層を階段目掛けて走る。

 

「関口ィ!プリンは渡さん!」

 

 このような雑兵など話にもならん。さっさとドラゴンを!

 

 俺にはユニークスキルがある。それだけで勝利の確信と、有り余る自信と、優越感が迸しり、関口のドラゴンなどゴミ捨てにしかならないのだと強く感じていた。

 

 

 ★

 

 階層百三十二。階層の降りる階段に進んでいる時だった。降りている時その階段を勢い良く登る音と僅かな呼気が耳を刺激する。

 

 暗闇に隠された影がヴェールを外し始める。頬は焼け、服の至る所が切り刻まれ、血を流した男がこちらに向かっていた。こちらに気づく。

 

「おい……あんた……!近づく……な」

 

 息と声は切らし、瞳は戦意がまるでなくなったかのように弱々しい。

 

「ドラゴンか!?」

 

「ああ……!て……あんた……あの時の……。やめと――」

 

「……あの時の?……何だあ!」

 

 その五文字は感情の着火剤になった。

 

 ――粛清を!

 

 ――死をもって!

 

 ――償え!

 

 

 ボロボロになり、最早戦える様子ではない男にブローを繰り出す。吐きだされた朱い液体が俺の靴を染める。

 

「……や、やめ……」

 

「俺はっ!敗北者っ!って言いてえ!ってのか!!!」

 

 どいつもこいつも侮辱侮辱侮辱侮辱侮辱侮辱!!!死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑!!!!!

 

 気づけば目の前にいた男は最早顔の原型を留めていなかった。目の半球は飛び出し、唇は割れ、内部の歯茎まで露出している。

 

 

「ハァハァハァ。くっそが!」

 

 死体に痰を吐く。怒りに呼応してかオーラは棘々しさを増し、際限なく力が湧き出ていた。ここまでやったにも関わらずまだ、青筋を顔に浮かばせていた。

 

「まあいい!ドラゴンだ」

 

 俺は死体を遺棄し、ダンジョンへ忠告を無視し駆け出す。

 

 

 ★

 

 ダンジョン百三十三階層。異変が起きていた。柱は崩れ、折れた松明が行く道々に道しるべのように落ちている。空気には吸い込むだけでも咳を発する程に灰が混ざり、死臭が充満していた。

 

 

「関口ィ!出てこい!ドラゴンを処刑する!」

 

 

 声を叫ぶ。関口の返事はない。代わりにダンジョン内に風が吹き荒れた。暗がりの中、姿を現したのは今回の討伐対象。身体は銀色を基調とし、眼は緑。ダンジョンの中心に鎮座するそれはほぼ全ての範囲を占有する程に巨大。尾の鱗はこちらの顔を反射する程に煌めきがあり、触るだけでも身体に傷が付くとは容易に想像しうる。

 

 

 カイが苦戦し、一人で突破したドラゴンとは全くと言っていいほどに異なる。目の前のそれはモンスターとは思えない程に荒々しさが欠如し、全てを頭上から冷徹に見下ろしているかのようにただ静かだった。こちらを向いても咆哮をすることなく、ただ強風だけが迫る。

 

「そうかこいつか。――グッ!!?ガッ――」

 

 何かに勢い良く弾き飛ばされ、壁へと叩きつけられる。鱗に切り刻まれて、身体の至る所から出血する。

 

 空気の揺れも、音も、敵対した時に感じる威圧感も無かった。ただ自然にドラゴンはゴミを払うかのように凶器を纏った尻尾を用いて吹き飛ばしただけだった。

 

 

 格がまるで違うと直ぐに理解できた。だがプリンを処刑しなければならない。俺は腹を括った。

 

「かっあ!」

 

 気合いとともに身体に全魔力を注ぎ込む。ドラゴンの放つ風を遥かに凌駕するオーラがダンジョン内に吹き荒れ、折れた松明に火が灯り始める。ユニークスキル狂戦士の波動が持つ一撃必殺。全魔力と体力を注ぎ込み、全てを塵にする。

 

 

「アルテマバースト!」

 

 

 身体と視界が光を覆う。発動した瞬間、世界から音が、揺れが、匂いが消えた。

 

 

 ――暫く立ち。光が視界から消え失せた頃。身体から著しい脱力感を感じる。立つのが最早やっとと言ったところか。

 

「……ハァハァハァ。手間取らせやがってよ!」

 

 俺は確信していた。勝利を。だが光が晴らしていく中、それは直ぐに打ち砕かれることになる。

 

 ドラゴンがまだ、立っていた。右眼は切られ、銀色の身体には至る所に外傷が付き、出血している。

 

 が、まだ静かに佇んでいることには変わりなかった。

 

「なっ……!」

 

 

 ただ立ち竦むしか無かった。巨竜は傷ついたとはいえ余力がまだ残っている。全力を賭けた一撃は何も生み出すことは出来なかった。

 

 巨竜の口が開く。それだけで強風が俺を襲い、地面に倒れ込んだ。

 

 

「せっ……」

 

 

「関口ィィィィィィィィ!」

 

 

 叫びは無情にも銀龍が放った銀色のブレスにかき消され、俺は意識を暗黒に落とした。

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

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