格闘家世界チャンピオン、敵なしだったので引退しサバンナに行きジャガーを狩る〜現代ダンジョンが発生したので帰還、美少女になって配信します〜 作:tetois
服は至る所に深く切り刻まれ、泥のように黒く変色した血が身体全体を覆っている。意識は完全に途絶えている様子で、俺が近づこうがびくとも反応しない。
この階層に潜んでいる奴は格が違うと本能が告げている。レア種どころの話ではない。さらに恐ろしいものが今俺に対し片鱗を見せているのだとまざまざと理解させられた。
"やば"
"スレだけで想像していたらさらにやばそう"
"てかこいつってハゲに似てね?"
様々なコメントが流れる中。俺は不思議な感覚を覚える。ヒヤリとした恐怖が身体を締め付けているのにも関わらずそれと同等の熱と期待が心中に籠もっている。
身体も疼く。右腕が心臓より激しい鼓動を刻む。
――先に何が?
確かめざるを得ない。身体が震えるのに、見なければ、戦わなければという探求心が抑えられない。
まるで正体不明の病に意識を狩られているような、身体と心が二つあってそれが不自然に融合しているような、そんな気分がする。
"顔どういう感情やねん"
"プリンおかしくなってません?"
"草"
"切り抜き確定"
"スタンプだすならこれ欲しい"
"ドラゴンワンチャンやめたほうがよい説"
"見せられないレベルの顔で笑う"
「……へ?やばかったですか?」
視聴者からのコメントで少しペースを戻した。
――どんな表情をしていたのだろうか?
困るのはキラーの扱いだ。見捨てるわけにもいかない。カメラを破壊した因縁の相手ではあるが。まず、安全な場所に避難しよう。
キラーの身体を抱え、場所を移ろうとしたその時。
――っ!?
感情より先に、生物としての反応がキラーを投げ飛ばした。破壊された回廊の上でキラーが転がり落ちる。
投げた後の俺の目の前には銀色に煌めく尾が迫る。
紙一重で頬がかすむ。頬には硝子で掻っ切られたような切り傷が生じる。
アクロバティックに宙に身体を浮かし、回転力で制御し、着地する。回る視界の中、視界に映る敵。
「あれ、ですか」
薄暗がりから見えたのは龍。暗闇の中で銀色の肌が煌めき、尾の鱗全てがガラスのようにダンジョン内を映している。身体の至る場所に傷があり、右眼が塞がっているにも関わらずこの階層の主と言わんばかりの威圧感を放っていた。
俺を視界に捉えても龍は咆哮の一つも上げない。ただ俺を隻眼で見つめるのみ。モンスターとしては不気味すぎる程に沈黙している。
常時魂を狙う死神とも思えるほど。
"やっば!?"
"ドラゴンやん"
"伝説の戦いが始まるのか?"
"強そう"
"サキュバスは何だったの?"
"↑魅了洗脳されたやつはお黙りなさい"
"はよ"
視聴者はドラゴンに衝撃を受け、そして今にも戦いを開始しろと待ち遠しく願う様子だった。それを察するかの如く龍は隻眼で戦いの開始を促すように睨見つけた。
「行きますっ!」
一言。火蓋を切るにはそれだけで十分だった。
龍に向かって駆ける。
瞬間、応対するように龍の両翼が扇の如く展開する。
耳を震わせる音だけが最初に到達。
風を感じるのはそれから少し経過した後。
「あっ、つ――」
台風の化身とも思えるほどの風。俺はその中でも進む。
全力疾走の中、尾が再び身に迫る。少し当たるだけでも斬撃を生み出すまさに名刀。名刀は著しく凶器として発達した尾の鱗が作り出した生物の天然モノ。この白銀の龍だけが持つことを許される防衛機関だ。
防衛機関が迫る中、俺は隙をついた。地面と名刀の間のスペース、それを前転で潜り抜け、一気に懐に近づく。地面に龍の頭部の影が映し出される。瞬間飛ぶ。顎のアッパー、胸に蹴りを入れ、首を掴み、投げ飛ばす。
"ウウ……"
唸り声を少し上げながら地上へ落ちていく龍。 が地面スレスレで翼を用い、静かに宙に浮く。
――突然の急加速。空気を歪ませる程の速度を出しながら風と一体化し、スクリューのように自身の身体を回転させる。
反撃に転じた強襲。俺は地面に向かい、空中に身を乗り出し殴りつけることで急降下した。身体が地面についた瞬間、轟音が響いた。
それと同時、ピンク色の髪が空気上に舞った。
それを見つめた龍は翼を靡かせ、旋回し、静かに、着地した。対称的に地面に一つの傷も残さない。戦闘でありながら慈悲を辺りに振りまくほどに余裕がある。生物としての格の違いを見せつけられているかのようだった。
"やっべ"
"これ勝てるんか?"
"ドラゴンさんまだ実力出してなさそう"
"ワンパン不可かよ"
俺の拳のみ戦術ではこの龍と相性が悪い。今までの敵は良くも悪くも人間クラスの肉体。大きいのはエヴォラドオークレベル。
今回は巨大な龍。巨大というからにはその分、衝撃や痛みが分散する。今までのような何となくの攻撃ではダメージを見いだせない。
――作戦はある。