格闘家世界チャンピオン、敵なしだったので引退しサバンナに行きジャガーを狩る〜現代ダンジョンが発生したので帰還、美少女になって配信します〜 作:tetois
衝撃を身体全体に馴染ませるのではなく、特定部位にブチ込み、弱体化を狙う。それが結論だった。
――特定部位への攻撃。まず狙う箇所を選定するところから作戦は始まった。どのように戦術を練るか、それが問われる。
機動力を落とすならば両翼、攻撃力を落とすならば喉元と脚、安全を目指すならば背であろうか。
両翼は潰せばこちらが優位になるのは間違いない。ただこの中だと非常に狙うのが難しい部位であることは容易に想像できる。
喉元と脚。喉元はブレスへの対策、脚は強靱な爪攻撃の防止に役に立つ。どうやら掲示板で見た限り、火属性をこの龍は有する。ブレスの可能性が高いだろう。ただしどちらも懐の位置まで近づけばならない。邪魔になるのは両翼から吹く強風。それに抵抗する持久戦になる。
背は想定通りに事が進んだならば、もっとも安全なルートだろう。ヒットアンドアウェイで戦術をとるならば一番適切であるとも言えるかもしれない。だが尾が最も近い部位でもある。尾は異常な切れ味を誇る。事が想定通りに進まなければあっと言う間にやられてしまう。
どの戦術もそれぞれ問題点がある。
まず翼は外そう。俺の戦闘方法に遠距離攻撃はないが
故に戦略としては実現がやはり厳しい。残りは二つだが、背中はどうも盛り上がりに欠く気がしなくもない。
この中だと顎と脚を選ぶのが戦略を立てやすく、盛り上がりには期待できる。
思案の中、俺は龍に再び向き合い、構えを取る。それが仕切り直しの合図となった。
龍の右脚が地面から離れたかと思うと、低空飛行で俺に猛スピードで強襲する。突き出した右脚の高さはまさに俺の頭程度。魚を掴む鷲の如く、俺を掴み投げ捨てる算段だ。
俺は目と耳に頼った。目で時間を測り、音で勢いを予測した。
「やりますか!」
俺は強襲した龍の右脚が頭に届く少し前、動いた。地面を蹴り上げ、こちらも同じように右脚を甲に向け、放つ。
接触した瞬間、響く轟音。龍の眼が揺れ、怯んだ。
その隙、硬さに耐えながら右脚を掴む。掴むを見るや否や両翼で風を起こし抵抗する龍。俺は逆にそれを利用した。強引に肩を振りまわし、追い風側に振り向き、地面に投げ飛ばした。
【ウゥ゙?】
唸り声がダンジョンに響く。追い風による速度強化、そして低空飛行。この2点を以てして、龍はついに地上に受け身で落ちた。
背と地面が接触する。摩擦により鱗が削られていき、龍は苦痛の咆哮を上げていた。
――そこからの縮地、右脚に膝蹴り、そしてそれを起点とした殴りの追撃。追撃を原因に、龍は苦痛の声を上げながら吹っ飛んで行った。
"普通あそこで突き出そとはならんやろ……"
"龍でも平常運転?"
"いけるんじゃね?"
"何か転がり方ダサくて笑う"
"やっぱつっよ"
龍が勢いを失い、地面に不時着した瞬間、周囲に粉塵が舞い、砂埃が視界を塞ぐ。龍がいる方向にゆっくりと歩き出す。一メートル、二メートル。近づく中、砂埃の奥が一瞬朱く光ったかのように見えた。
「!」
不意を突いた高速の火の玉。回避行動を右に取ろうとするも、間に合わない。
正面から受け止める形で一撃を貰った。
そこから龍が反撃に転じる。砂埃を風の波動で吹き飛ばしながらまたもや俺の頭目掛けて右脚を突き出し突進を開始した。
まさに強襲。反応などできないまま、掴まれてしまう。強靱に発達した脚は獲物を逃さない。
ダンジョンの空を高く飛び上がる龍。角度をつけ、優雅に遊覧飛行しながら、俺を空中で投げ捨てた。龍の綺麗な意趣返しだった。
右肩から地面に不時着する。衣装の右部の損傷。下着の紐が少し見え、二の腕が露出し、出血がさらに悪化。サキュバスの時のダメージは蓄積されているのは明らかだった。
「…………」
そして龍はさらなる一撃を既に用意している。喉元が淡い紅に染まり、龍の異常とまで言える吸い込みは風を舞わせ、俺の身体を自身の近くへと徐々に引きずり込んでいく。
今からの退避は出来そうにない。
一か八か。俺はあえて風を利用した。龍の元へ自ら直進した。
ほぼ同時に、龍のブレスが地面へ照射される。尋常ではない熱がダンジョン全体を包み、視界には業火に照らされた龍の顔と至る所に残る火の海が映っていた。
追尾する火の波。俺は懐を目指して走る。狙いは喉元。背後から迫る火の波から逃走していると脇腹目掛けて、尾が迫る。
地面を蹴り上げ、宙で一回転。
そしてそのまま、目標地点に向かい、喉元目掛け、上方向に殴り飛ばした。
龍の口が反動で閉じきり、業火の出口が消滅する。追尾した火は消え、喉元で過剰に蓄積された火はやがて限界を迎え、爆破した。
龍の眼が閉じたその隙、前脚を果敢に攻撃する。拳が擦れる度に割れていく鱗、紅く変色していく前脚。龍は最早完全な銀色を失い、赤という不純物が混ざり込んだ。
連撃の中、龍の爪が少し動いたのを感知し、即座に離れる。互いに一矢譲らずの状況。
だが、龍は未だ余力を残しているかのようであった。まだ前哨戦に過ぎないのかもしれない。