格闘家世界チャンピオン、敵なしだったので引退しサバンナに行きジャガーを狩る〜現代ダンジョンが発生したので帰還、美少女になって配信します〜 作:tetois
「許さ――ん!」
ウルフの隠れ家の中、ベッドに寝たきりのキラーが絶叫した。怒りの声は部屋中に響き渡る。隠れ家は森の中。木々は揺れ、風は吹き荒れた。
「鳥、逃げた」
僕の肩に乗せていた鳥もキラーの絶叫にすっかり怯え、窓の外に行ってしまった。もう少し一緒にいたかったのに。
「うるさいライ!元はと言えばお前何で逃走してるんだ!?お前がいれば0.1%は頼もしかった!」
「――少ない。あと僕にはあれは倒せない」
関口が出したドラゴン。あれは相当強いことが分かった。キラーを実験台にしてどのくらいか測ろうとやってみたが想定よりも実力があるということが分かった。
――あれは恐らくカイでも倒せないだろう。
「というか熱い。夏だからかな」
「部屋の中でもヘルメットを着用しているからだ!」
あっ、そうか。何で気づかなかったんだろう。
「まあいいか。ライめんどくさい」
ヘルメットを取るのをやめた。なぜなら腕を髪に持っていくだけでも力を浪費してしまうから。これを三十五回繰り返すだけで、相当疲れがたまると思う。
「――というか俺は許せん!」
「誰を?」
「プリンだ!」
キラーがこの後どんな事を言うのか僕は既に察しがついていた。僕は諦観を込めた冷えた瞳で語り出すキラーを見つめる。
「そもそも俺はやつと出会ってから、運がない気がする!今回のドラゴンにやられた理由はプリンがこの世に存在していたこの一点だ!」
僕は毎度毎度清々しい責任転嫁にもはや職人芸すら覚える。そもそもその原因は全てキラーなのが真実なのだが言わないことにした。
「ライ!……お前が逃走したのは許さん!だが逃走理由はプリンがこの世に存在するから。――なあそうだろう!……そうだろう!」
「あっ――……うん」
僕はあのプリンとかいうやつはあまり興味はない。が、否定したらめんどくさく暴れそうなのでやめた。配信者のプリンに復讐するより、お菓子のプリンを食べたい。
「よしウルフ次はプリン討伐作戦をする!トドメを刺すのは勿論俺だ!」
「ドラゴンはいい?」
「ドラゴン!?うーん……それも勿論だが先にプリンだ!」
多分キラーは問題を先送りした気がする。キラーが今の負の感情を自動的にプリンに注いでいく姿を見て、少しだけプリンに同情する。
「それよりもライ!お前何故俺を病院ではなくここに連れてきた!――完全に治療が終わるまで時間かかるではないか」
僕はあの後仕方なくボロボロのキラーを回収し、帰還した。
その後が問題だった。医療機関に行かなかったのではない。行けなかったのである。というものの、キラーはいつの間にか殺人罪でお尋ね者になっていた。
調べてみたら、僕が退去した前のアパートが事件場所だったからそこで何かしら問題を起こしたと推測は容易だった。
つまりもう表の世界で医療機関のお世話になることは不可能に近い。ダメ元でダンジョン待機所横の救護室も考えたが、キラーはダンジョン内でも悪い方向に有名かつ、ダンジョン待機所の類は元を辿れば国の直属へと繋がる。あまり連れて行くのは良くない。
というわけで僕は隠れ家で治療するしかなかった。何が入っているか分からない点滴を既に6度は打っている。よく分からないがまあここまで暴言を吐ける程に元気ならばオッケーだろう。
……ただいつに歩くことになるのかは分からないが。
カイなら確か治療魔法は使用できた筈だ。まあそのカイを殺したのはキラーなのであるが。
……改めてまとめるとキラーにとっての不都合は全てキラー自身が作ったということになる。まさに自業自得の究極系。この歪んだ人格を矯正できるものはいるのだろうか?
「行けなかったから」
「行けなかったじゃない!行くんだよ!」
キラーは本当に状況が分かっていっているのか?僕はつい、キラーに向けていた目を細めた。
「うーん……。まあ僕が病院する」
僕は腹立ったので、そこら辺に落ちていた何が入っているか分からない注射針をキラーの腕に予告無しで突き刺した。
瞬間、溢れ出すキラーの声にならない悲鳴。
「……っ!ライ!注射する前は言ってくれと言っただろうが」
「あっごめん」
キラーは注射が大の苦手だ。最近の治療のなかでも注射だけする時はすぐに報告しろとうるさい。報告したらしたでとっととやれだの待ってくれだの主張をコロコロ変化させる。
「でライ!これは何の注射なんだ!」
「知らない」
知らないと言った瞬間、キラーの顔が若干少しだけ青ざめ、沈黙した。
「まあ治るんじゃない?」
沈黙を打ち破るが如く僕はそう言った。