格闘家世界チャンピオン、敵なしだったので引退しサバンナに行きジャガーを狩る〜現代ダンジョンが発生したので帰還、美少女になって配信します〜 作:tetois
「さて……今日も配信するか……。前回は三十六階層迄したから……三十七階層からだな。キリよく五十まで配信で上るか……。ボスまでいこう」
前回の配信から数日後、俺は太陽がさんさんと晴れ渡る朝からダンジョン入口近くの管理局運営の待機所にて栄養ゼリーを飲みながら配信準備をしていた。
しかし10月だというのに未だ夏真っ最中の暑さを感じる。待機所にはいくつかの扇風機しかなくエアコンなる物は存在しない。恐らく国営であるが為に昨今の経済状況を鑑みて経費削減しているのであろう。なんとも迷惑な話だ。
前より人が来てくれるようなサムネやタイトルを考えながらスマホを操作するだけでも全身から汗が吹き出す状態だ。折角キャラに合わせた衣装を着ているのに感覚が気持ち悪くてついすぐに脱いでしまいたいという欲求がある。だがそれは出来ない。今の俺が演じる清純魔法少女キャラのイメージが崩れかねない上、何よりここは公共の場だ。朝の朝刊に「世界チャンピオン魔法少女になりきって裸になっていた!」――なんて載れば一生の恥だろう。
結局俺は3時間編集を我慢して暑さを乗り切った。因みに家で編集しない理由は電気代を浮かしたいからだ。それ程底辺配信者は危機に陥っているという事だ。
☆
管理局直営の梅おにぎり、プロテインを飲み、ダンジョンの入り口へと来た。俺は松明が両隣で燃え盛る扉に入り、薄暗い廊下を歩き、一階層へ突入した。そしてスタート地点のすぐ隣にある転移装置へ向かう。
この装置はダンジョン攻略者の記憶を読み取り、最高到達階層へ直ぐ様送ってくれるスグレモノだ。「どの階層にしますか?」という聞き馴染みがあるシステム音にタッチパネルの操作で答える。決定をタッチすると俺の体は一瞬で目的地へ送られた。
さて配信だ。そう考え俺はスマホを起動し、手慣れた手つきでライブ配信画面に遷移し、配信をスタートさせる最終準備をした。……しかし、俺の指は動きを止めた。何故なら今までの俺の配信では考えられない程の視聴者が待機していたからだ。その数なんと二千……。俺は驚愕した。ぜ、ぜろが……三つ?何故にこの様な数値を叩き出すのか理解が出来ない。
自分で自身の顔を強く抓る。ちゃんとビリッとした感覚がある。それでも信じられない俺はグーで殴り飛ばしてみた。つい「いたぁ!」という声を出してしまった。
これでやっと自然に理解する事が出来た。夢ではなく現実だという事を。
だが……何故こんなにも待機者が多いのか。まず注目したのはライブコメントだ。そこにはワンパン少女だのあきたん救世主だの強すぎオーク討伐者だの色々書かれていた。
オーク、ワンパン、救世主、あきたん……。まさか……。俺はハッとした。最近オークをワンパンした事と言えば……あの若い女の子を助けた時。それ以外考えられない。だが……あの時は配信は切り終わった後だ。しかも周りに人はいない。外部が知るわけが……。
待てよ。あきたんは何かはよく分からないがこれがあの助けた女の子を指すならば……彼女は配信者でそのカメラから映りこみをした可能性があるのではないか。つまりあの女の子を助けた姿が彼女の配信を通じてバズったという事か。
俺はその事実を仮定した瞬間、嬉しい反面どこか認められない感覚を覚えた。確かにバズって多くの人が増えた。その事実は非常に嬉しい。だがそのきっかけが他の配信者を助けて起きたというのは半分自分の実力のみではなくその配信者の実力も込みなのではないか。どんな事があろうが自分だけで頑張る。その目標を持っていたのにこれはあまりにも卑怯なやり方ではないのか?その葛藤が俺を襲う。
配信に訪れたファンも勿論大事ではあるが、自分の信念に従って貫き通すのも大事。どうすれば良いだろうか……。決めに決めあぐね、配信まで3分になった頃、一つの結論が出た。
とりあえず今回は来てくれた人に失礼がないように配信しよう。そうして配信を続けていき次第に人が減り過疎配信になるならばそれが俺本来の実力である。それに格闘技時代の知名度に頼るわけでもない。
折角あきたん?さんと神様に頂いたチャンス……それを受け取ると決めた俺はライブコメントにこう打ち込む。「配信はあと少しでスタート致します。暫くお待ち下さい」と。
俺のコメントを受け、視聴者のコメントのペースが上がる。俺はドキドキしていた。後2分、1分50秒……。時が経過する度に視聴者に楽しんでもらえるのかという不安感が増大する。
だがそれを抑えたのはかつての格闘技時代の経験。俺には確かにあの時から積み重ねた技とエンタメ力がある。ライブ配信開始から30秒前には既に迷いは消えていた。
そしてとうとう配信開始の時がやってきた。カメラに映り込む見慣れた自身の姿。息を整え、すぅと深呼吸し、お決まりの挨拶を全世界に向けて発信する。
「はい皆さんはろはろこんぷりん!魔法少女系ダンジョン配信者のプリンティスです!」