格闘家世界チャンピオン、敵なしだったので引退しサバンナに行きジャガーを狩る〜現代ダンジョンが発生したので帰還、美少女になって配信します〜   作:tetois

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第五十一話 修行前の夜

 

「ありがとうございました――」

 

 店員さんの声が耳に届く中、俺達はコンビニから出ていった。レジ袋の中身はチョコレイトアイスが二本。そして俺が購入したパンケーキの素があった。

 

「家近くにコンビニあるのいいよね――」

 

 俺のアパートの真隣にコンビニがある。立地はそこまで悪くはない。毎回買い物に行く時は助かっている。

 

 何気ない会話をしながら、俺達はアパートの階段を登り、部屋に近づく。

 俺は登りながらも自分の部屋の鍵を探し、片手で取り出した。

 

「……と」

 

 ドアノブに鍵を刺し、ロックが解除される音が聞こえた。

 

 狭い部屋の灯りがともる。馴染みのある押し入れとラック、蚊取り線香の香りが俺を出迎えた。

 

 あきたんはほんの一瞬、驚きの表情を浮かべたが、その後はただ静かに微笑むだけだった。

 

 ★

 

 

「で……本題だけど、どんな修行をするの?」

 

 全員で修行の内容を話そうとしていた。部屋の真ん中の机に三人が囲むように座っている。

 

「……別のドラゴンと戦うのが一番だと思いました」

 

「ドラゴンか……」

 

 結論はこうだった。あれから考えを少しだけ煮詰めたが、ブレス対策、そしてダメージの与え方を学ぶためには同じモンスターを狩るのが最良だと思われる。

 

 なりより、後者は重要だ。例えば、同じ一撃でもスライムのような小型、オークのような中型、ドラゴンなどの大型では話は変わってくる。今の俺は中型以下に慣れすぎている。過去の格闘家も、ジャガーも、ボスも全てが中型以下。強いて言うならばスケルトンホースくらいが大型と最低限言えるのではなかろうか。

 

「――実はちょっと調べたけどこれとかどう?」

 

 あきたんがスマホを見せた。百二十五階層の中ボス。俺が出会ったサキュバスとは別のモンスター。その中にドラゴンがいるらしい。

 

 名前はアドミックドラゴン。奇しくもあのドラゴンと同じ火属性のブレスを使用する。また、大きさもどうやらあのドラゴンより少しだけ小ぶりくらいらしい。

 

 そして今、同族のあのドラゴンを傷つけさせないべく、ずっと中ボス部屋に陣取っているらしい。

 

「いいですね」

 

 修行相手としても求めているラインは満たしている。これほどまでに最適と言える敵はいない。

 

 兎にも角にも修行方針は固まった。ダンジョンの道中を攻略し、アドミックドラゴンを見つけ、討伐する。やることとしては非常に分かりやすい。

 

「じゃあ――作戦会議はおしまいっ!後は食べて寝るだけ」

 

 あきたんはどさっとレジ袋を机に置き、晩酌を今にも始めまいとしていた。

 

「そうですね!よし食べま――」

 

 レジ袋の中身を漁ろうと視点を動かそうとした瞬間、手が止まった。

 ふと、ダークネスエンペラーの方向を見ると、彼女はスケッチブックとペンを取り出し、今にも何かをおっ始めようと準備していたからだ。

 

「何をしようと――」

 

「くくっ……。儀式を始めるぞ」

 

 あきたんが真隣に座り、スケッチブックをちらっと見る。

 

「うわあ……」

 

「何だ?私の絵に驚くしかないか?今からは魔法陣を描くぞ」

 

 ダークネスエンペラーの絵を見たあきたんが俺を手招きした。どうにかしてくれと助けを呼んでいるかのような表情を浮かべながら。

 

 手招きに従い俺が近づくとこれ見よがしにダークネスエンペラーはスケッチブックを押し付けてきた。

 

「……下手」

 

 率直に声が漏れた。どうやら前のページは動物を描いているらしいが線はガタガタ、どれがどのパーツか分からない。

 

「な…?」

 

 俺の辛辣な一言にダークネスエンペラーは開いた口が塞がらない。

 

「……び、美術部だ私は。芸術の闇を表現しようと……」

 

「やっぱり下手だよね~」

 

 焦る中、あきたんの追撃の一撃が飛ぶ。二人の辛辣な一言。それは錆びたナイフで突き刺すかのようにダークネスエンペラーの心を抉った。

 

 

「……………………ふふ。そうか。まだ時代は……早かったようだな。ぎ、儀式はまたにしよう……」

 

 表面では完全に余裕そうにごまかそうとしているが、ところどころに言葉の詰まり、声の震えが確かにあった。

 

「……の、伸びしろ!伸びしろがあるって!」

 

 そこからさらに全くフォローになっていないあきたんの発言。傷口に毒を塗っている。

 

 ――グロい……。

 

 軽くとは言え、一人の心にヒビを入れる状況を俺は見届けることになった。

 

 

 ★

 

 窓を見ると、辺りはすっかり暗くなっていた。空に映る満月。夜風が吹く音と、二人の眠りの声以外聞こえない程、静寂が訪れていた。

 

 明日からはついに修行。アドミックドラゴンはどれ程の強さかは分からないが、恐らくあのドラゴンに勝つためにはある程度の余裕はいるだろう。

 

 俺はあのドラゴンの戦いを回帰する。……あれはもしかしたらまだ本気を出していない可能性がある。少なくとも序盤の佇まい、ゆったりと空を舞う姿とこちらを気に留めない瞳は余裕の表れだ。

 

 今度は全力で倒してみせる。

 改めてリベンジを誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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