格闘家世界チャンピオン、敵なしだったので引退しサバンナに行きジャガーを狩る〜現代ダンジョンが発生したので帰還、美少女になって配信します〜 作:tetois
「まさか……あれ!?」
アドミックドラゴンを見てあきたんが反応した。声色は高い。彼女は配信の中でドラゴンを目にすることはあれど、実際に見ることは恐らく初めてだろう。
そしてあきたんをさらに刺激する出来事が起こった。
アドミックドラゴンが目覚めたのである。
"ギュガガザザザ!!"
瞬間、ダンジョン内に響く咆哮。紅き喉元から発せられるそれは地を震わせる。少し黒が滲んだ剛翼が咆哮とともに展開した。
深緋の龍は銀龍とは対称的だった。銀龍が静寂をもたらすものというならば、深緋龍は混沌をもたらすものとでもいえるだろう。形は違えど、深緋龍もドラゴンとしての強さを確実に滲ませていた。
「くくっ……煉獄……。相まみえるのは初めてか……」
煉獄。多くのダンジョン配信者がこのドラゴンに名付けた異名。中ボスでありながら、この龍は強靱な力を以てして数々の配信者を追い詰めていく姿から畏怖を込めてそう名付けられたのだろう。
俺にとってはこの深緋色の龍は修行相手としてオーバースペックでありながらも、ちょうど良い相手だった。
どちらにせよ、こいつを討伐しなければ、銀龍を倒すことなど到底不可能。煉獄の世界を超えてこそ白銀の世界へと挑むことができるのだ。
「後ろに離れておいてくださいね」
柱の影へ避難を促し、俺は龍の前に立つ。銀龍より小ぶりとはいえ、大きさは有に15メートルを越えている。まさに大型モンスター。
俺は心を躍らせていた。
戦いは何の予兆も無く、開戦した。始めは龍の焔のブレスからだった。照射される一瞬手前、俺は龍の喉元を動きを見て、横へ回避する。ブレスは銀龍と異なり追尾しない。
反撃に転じようと構えた時、俺はこの龍の特異性に気づく。
ブレスを止めた龍。されど照射された場所は火が勢い止まぬ状態で燃え盛っていた。
――早めの討伐。それが成されないならばダンジョン内はすぐに火の海になるだろう。
俺は直ぐに懐に向かって前進する。銀龍と同じ戦法だ。
銀龍へのアプローチ。それを受けて、煉獄は尾を回転させ、俺の身体に直撃させようとした。
俺は上空にくるんと宙返りし、前進を試みようとする。
「……!?」
だが、それはこの龍は許さなかった。顔面に伝わる強い衝撃。俺は地面へと叩きつけられた。
俺が当たったのは一回転目ではなく、初動より遥かに速度を増した二回転目。強靱な肉体を活かした力任せの一撃が俺に直撃したのである。
「いたあ!」
痛みに悶絶しながら気を取り直し前進する。またもや尾の攻撃。
上空に回避。
次に来たるは尾でなく、口元から発されし火の玉。俺の腹に目掛けて龍は発射した。
俺は右脚で着地した後、受け身を取りながらバランスをあえて崩し、回避する。一旦地面に倒れた後に再び立ち上がり走る。
次は黒の龍の爪。
「とりゃあ!」
横の角度から拳をぶつける。擦れた瞬間、拳に衝撃が走る。鋭利なそれは鋼鉄を想起させる程に硬く、銀龍より明らかに上。
そして硬さに右拳の勢いが殺される中、すかさず龍は巨大な火の玉を放つ。
俺は爪から離れ、すぐさまバックステップをした。火の玉が着弾した瞬間、爆発とともに龍の周りが燃え盛る。
「きっ……」
バックステップを取りながらも俺は爆発に少し巻き込まれ、かすった。
当の龍はというと爆発と火に包まれながらされど何も感じることのない様子だった。
――中々厄介だ。
この龍は周りを火の海のフィールドに徐々に変え、自分の有利な環境を作り出し、そこに攻略者たちを引きずり込む。呼吸、体温……、火の海では熱さ以外にも人を襲うものが多くある。
この龍はゲームメイカーだった。
こちらの対抗策は環境を作られる前にトドメを刺す、もしくは何かしらで龍の動きを停滞させつつダメージを与えるの二択だった。
現実的なのは後者。銀龍で嫌という程に味わった大型モンスターのダメージの分散。それがある限り、一瞬で勝負を終わらせるのは難しい。恐らく前者は魔法があるならば使用できる。
こちらに求められているものは龍の攻撃を停滞させつつも、確実にダメージを与えていくこと。銀龍の時のようにただの連続攻撃からヒットアンドアウェイも戦略としては優秀だが、この龍だと少々危ゆい。
ダメージを与えつつ、反撃の機会を作らせない立ち回り。
俺は頭を捻らせながら龍の攻撃に備えていた。次に来たのはブレスの構え。
息を吸い込む動作が見えた時、俺は動いた。
「させません!」
速度を解放し、ローキックを懐に打ち込む。
"ガァギッ!?"
瞬間、龍の喉元から溜め込んでいた火が爆発し、頭が後ろに仰け反る。そして懐へのキックが炸裂し、龍は後方へとズレた。俺はズレた龍から離れ、自分の持場に戻る
――!!
蹴りを入れたあの瞬間、俺は妙案が浮かんだ。いや浮かんだというよりかは無意識に放棄していた選択肢を拾ったと言ったほうが正しいかもしれない。
俺は今求められた物に相応しい技を既に持っている。