格闘家世界チャンピオン、敵なしだったので引退しサバンナに行きジャガーを狩る〜現代ダンジョンが発生したので帰還、美少女になって配信します〜 作:tetois
――何の防御も無く露出した首。それに俺は可能性を感じた。あそこを攻撃すれば良い。
そして俺は人間相手ならばもう既に条件を満たす技をしている。それがヘッドロックだ。首に腕を回し、相手から抵抗力を奪う技。龍は大型が故に不可能だと無意識に思っていた。だがそれが腕だけでなく、身体全体で行ったならば?
不可能かもしれない。だがやる価値は十二分にある。なんならこれが通じるならば銀龍のブレス対策にもなり得るピースにもなるのだ。
"ギュガァ!"
緋色の龍は再び咆哮を上げる。まだ勝負は始まったばかりだと主張するかの如く。
――こちらもそのつもりだ。
両者臨戦態勢。静かに燃え盛る業火が両者を照らしていた。
緋色の龍の喉元がほんの少しだけ動き、紅く染まる。俺はただ一つの目的地、首を狙い、前進した。
「っ!?」
だが龍は俺の予想を覆した。俺を襲ったのは尾。見ると、喉元の紅い光は消えている。
龍はフェイントすら利用する。モンスターの大半は理性なく戦闘本能で襲撃してくる。だがこの龍は違う。フィールド変化といい、頭脳戦を演じることのできる曲者だった。
奇襲する尾に俺は反応が遅れつつも、すんでのところで回避した。
瞬間、火が飛ぶ。判断の遅さ。それは時に危機をもたらすものだ。龍はチャージを中断した火をこの時の為に発射したのだった。
「――あつ!」
火が服の右袖に引火する。非情なブレスの火が身体を包みはじめる。
俺は前進しながら服の右袖、まだ引火が浅い部分を覚悟して掴んだ。触った刹那、鮮烈な熱さが俺を襲いかかる。苦汁を舐めるような顔を俺は屹度浮かべているだろう。
「はあっ!」
気合で勢いよく右袖を破り捨てた。右腕と肩が露出。自分から攻撃してくれと肌を晒したようなものだ。
火の海のフィールドといい、次々と時間切れになり得る要素が積み重なる。まるで時限爆弾の解体処理のようだ。
「おっと……!」
龍が振るった翼から風の波動の様なものが生まれ、俺に飛んでくる。そして追撃の尾。その二つは十字を描く。
十字の右上に回避。
飛び上がった今がチャンスだ。一気に距離を詰める。人間にとっては空は思い通りに動くところのできない場所だ。
だが俺は白銀の世界にたどり着きたい。獲物の首をかっきってやる。その二つの執念で手を伸ばした。
首の鱗に触り、右腕で掴んだ。人間と比較すると規格外の大きさ。自分のちっぽけな手では首を包み込むことなど不可能だ。
"グラギギギ!"
当然ながら緋色の龍は抵抗を始めた。翼を広げ、ダンジョンの空高くに飛び上がり、俺を必死に振りほどくまいと激しく小刻みに身体を動かす。
――直ぐに仕留めなければ。
俺は掴んだ右腕を軸に身体を回転させ、うなじに昇る。そして揺れる龍の上で俺は拳を振り上げた。
本気を込めた一撃。鱗、骨、内部組織へダメージを与え、龍は高度を失い始めた。
作ったうなじの傷。それは緋色の肌を青白く染め上げ、亀裂が入っていた。如何に頑丈な皮膚と言えどもこれを利用すればヘッドロックにつなげることができるだろう。
「はっ!」
首を身体全体でつつみ込み、絞め上げながら、傷を勢いよく頭突きした。何度も繰り返す度にあがる龍の悲鳴。
ついに完全に高度を保てなくなり、龍は墜落を始めた。
さらなるダメージを与えるべく、俺は頭を首の下へと位置を取り直し、墜落に乗じてバックドロップを仕掛けた。
先に地面に当たるのは龍の方。龍は頭に衝撃を受け、脳を揺らしたのか身体が痙攣を起こす。
「よし……」
当の俺はというと作戦通り、龍の身体が盾となり、傷は最小限に済んだ。
ひっくり返った龍。痙攣しながらもそのまま着地した俺を息を吸い込み、ブレスを仕掛けようとした。
だが今の龍には首絞めの影響かブレスを撃つには時間をさらに要するようだった。口元から見える火は今まで通りの纏まりのある強固なものではなく、若干纏まりを失っていた。
「今です!」
俺は勢いよくひっくり返った龍の身体の元に向かい、一気に登った。
そして俺は宙に飛び、いつもの必殺技を繰り出した。
「久々のプリンキック!」
突き出した右脚。右脚は腹をめり込ませ、そのまま身体を貫き通した。
緑の龍の血が服や身体に纏わりつき、戦いは終わりを迎えた。