格闘家世界チャンピオン、敵なしだったので引退しサバンナに行きジャガーを狩る〜現代ダンジョンが発生したので帰還、美少女になって配信します〜 作:tetois
「ふぅ――」
俺はアドミックドラゴンとの戦闘から帰還した。それはそうとあの二人は無事なのだろうか。結構離れたところに避難はさせたものの、ドラゴンの攻撃により火の海となった箇所がいくつもある。
「二人ともどこですか?」
俺は百二十五階層内で呼びかけた。
「あ!ここ、ここだよ!」
あきたんの声が聞こえ、手を振っていた。彼女の周囲は多少ブレスの火が広がってはいるものの、特段危険となるような部分はない。それに加え、あきたんには魔法なのかバリアのようなものが貼られていた。
「結構被害大きめでしたけど大丈夫でしたか?」
「へーき!ダークネスちゃんも」
「くく……」
俺が近くに駆け寄り、二人の姿をみてみても、平気そうに笑顔を浮かべていた。
「なんか結構熱いし……ついてきて良かったのですか?」
「ううん良いの見れた。……やっぱりすごい」
あきたんの発された言葉にはどこか深みがあるような気がした。その言葉はただの配信者に向けられたものではない。
「右腕の封印をあのタイミングで解くとは……」
そんなあきたんはお構いなしにダークネスエンペラーがいつもの調子で何かブツブツと呟いていた。またまたお得意の厨二病発症だ。
今触れたら間違いなく、語るモードに移行する。そっとしておこう。
修行は済んだ。後は帰還してリベンジ戦配信をする。
★
「そういやさ――ダークネスちゃん。あのドラゴン倒したことあるらしいよ!」
ダンジョン帰還中に三人並んで歩いていた時にあきたんがキラキラした目で俺に言った。
「へ……へえ……そうなんですね……」
「すごくない!?ドラゴンを倒せるなんて!暗黒の魔法陣を展開して倒したらしいよ!」
「……くく。当然だ……」
俺が戦っている間に、あきたんにさらなる誤解が生まれていたようだ。ダンジョンに入って直後の不安がここにくるとは。
あきたんはグイグイくる会話スタイル。そしてダークネスエンペラーは自分を大きく見せる癖がある。
恐らくあきたんの会話スタイルとダークネスエンペラーの特性が最悪な形で噛み合ってしまったのだろう。先程のダンジョン階層の話に引き続いてどんなモンスターをたおしただの質問したところ、とりかえしのつかないところまで来てしまった。
ダークネスエンペラーの様子を見ると一目瞭然だった。表面上ではカッコつけてはいるものの、明らかにまばたきの量が多い。
彼女は性格的に実はドラゴン倒せませんとは口が裂けてもいえないだろう。
そして厄介なのはあきたんの期待がさらに膨張していることだ。何しろプリンと同じことができるのがすぐそばにいるのだ。期待するだろう。
「せっかくだしどんな感じで戦うか見てみたい!闇の魔法を使えるんだっけ!」
「…………くくっ。小娘、そこまでせがんでくるとは」
「……い、いいだろう」
あちゃーと頭を抱えた。見栄っ張りな部分と調子に乗る部分がこうにも相乗するとは。
俺はこの後どうなるか、察しがつく。オチはボロボロになりながら減らず口を叩いて――だろう。
「あきたん、ダンジョンにはもうモンスターはいないですよ」
「あ、そっか。プリンがまあまあ倒しちゃったから。ならまたの機会にしようかなあ」
俺は即落ち三コマにならないように助け舟を出した。俺が道中にモンスターを狩り尽くしたのは事実である。ターゲットがいないとなるとあきたんも諦めがつくだろう。
だが――。
「雑草など探せば直ぐに見つかる!小娘よ、我が闇の力に直ぐに酔わせてやる!」
――やったな。
乗せられたダークネスエンペラーは助け舟に乗らない。虚像の自信で自らの矜持の為に自爆を選択した。
「探しても見つかりま――」
俺が呼び止めようとするもダークネスエンペラーは全速力で既にダンジョンを駆け巡り始めた。
暫くすると、想定通りのオチが俺達の元に待っていた。
★
あの後ダークネスエンペラーはボロボロの状態になりながらもダンジョン待機所の救護室で回復した。またまたまたまた闇の力が暴発したとか言っている。
「暴発系かあ。私の友人も怪我したしやっぱりリスキーなのかな?」
「小娘には扱えようのない呪いの代物なのだ……」
あきたんと俺はダンジョン奥地にモンスターを探しに行き、戦闘したダークネスエンペラーの姿を見てはいない。そして見つけた頃にはモンスターは消えていたのだ。
これが余計に誤解を深めていた。
――後で合わせるように言っておこう。
俺はというと救護室にてリベンジ配信の準備を行い、編集も完了していた。
後は白銀の龍に挑み、勝つだけだ。
「あ、私修行も終わったし帰ります。ありがとうございました」
「私たちも楽しかったよ」
「ふっ……」
二人の見送りの挨拶を受け、俺は救護室から出ていった。
救護室からいつものダンジョン待機所に。リベンジ前の時間とは言え、その空間に何とも言えぬ感情が湧き出る。
新天地への挑戦は全てここから始まった。ダンジョンには確かに数々の強敵がいて、それと戦ってきたのだ。
そして奇妙ではあったが、色んな出会いもあった。
――らしくない。
何故かは分からないが感傷に浸っていた。
まあ、今までもこれからも俺のやることは変わらないだろう。決戦を挑むだけだ。
「プリン?まだ帰ってないよね」
閑散とした待機所にあきたんが来た。額には汗があり、息を切らしているようだった。
「どうしました?」
「いや……改めてリベンジ頑張れっていいにきただけ。あと、これあげる」
手渡したのはどこかの神社の御守りのようだった。
「これ効くんだよ?私の手術の時も成功したし!勝利の御守りてやつ?」
「貰っておきます。ありがとう」
「うん。じゃあ頑張れっ!」
俺はあきたんの声援を背にダンジョン待機所を後にした。
「――頑張れ純次」