格闘家世界チャンピオン、敵なしだったので引退しサバンナに行きジャガーを狩る〜現代ダンジョンが発生したので帰還、美少女になって配信します〜 作:tetois
いつもの朝、アパートの玄関を開ける。朝日が俺を照らす。
ついに、あのドラゴンとのリベンジマッチ。必ずあのドラゴンに勝利する。それが今回の目標だ。
幸いにもドラゴンはまだ討伐情報は一切出ていなかった。むしろずっとダンジョン内に居座り、支配者として君臨しているらしい。
誰も倒していない存在を打ち倒す。これ程面白いことはない。ダンジョンの支配者と元帝王。ダンジョンという名の国家を賭けた国取り合戦。まさにその火蓋が下ろされようとしていた。
★
ダンジョンの百階層へたどり着き、俺はカメラを起動させた。
「うっし!いっちょうやるか!」
腕回しや首回し、軽めの準備体操をした後、配信スタートのボタンを押した。
「こんプリン!地獄から蘇りましたプリンです!今回はリベンジということでドラゴンをぶっ飛ばします!」
"ガチ生存してた!"
"ドラゴン討伐期待"
"魔法少女は死なない"
"今度は頼むぞ"
"良かったあああああああ!"
"帰ってきたな"
ファンの生存への安堵と期待が俺に降り注ぐ。ドラゴンをまだ誰も倒していないという事実も期待の後押しになっているのだろう。
「このプリン!期待通りに倒して見せましょう!」
はっきりと宣言した。まだあのドラゴンの力の全貌を把握したとは言えないかもしれない。だがただ一つの事実――俺は負けず嫌いであること。それが俺を動かした。
一度負けた相手。そいつには百倍に、いや一億倍に返すのが俺だ。白銀よ。俺はお前の世界を超えてみせよう。
宣言の直後、俺は自分の奮い立つ闘志を表すが如く拳を握りしめ、天へ掲げた。
"いきなり勝利宣言!?"
"うおw"
"勝てるのか?"
"やってみせろよプリン!"
"やる気満々やん!"
"ドラゴン「返り討ちにするうおー」"
"応援してます!"
勝利宣言とともに溢れ出すコメントの山。そこには期待も冷やかしもネタもあった。同接数は4500。良くも悪くもこのコメント欄にはファン以外にもあのドラゴンを討伐すると聞き、興味本位で覗きにやってきた者、冷やかしにきた者などもいる。まさにごった煮だ。
この戦いはあのドラゴンとの決戦だけではない。興味を持ってくれた人をどれだけ楽しませることができるかの戦いでもあるのだ。
戦士の資質以外にもエンターテイナーとしての資質も問われている。
――いいだろう。
俺は心躍らせた。障壁は何個あっても構わない。壁があればあるほど燃えあがる。
「嘘じゃなく本気!本気と書いてマジです!」
"うおおおお!"
"ここまでいうか!"
"頑張ってくだせえ"
"くくっ……"
"2時間後「すみませんでした」←はよ"
"行くねえ!"
俺は視聴者を焚き付けた。瞬間、爆発したかのように急増する数々のコメント。面白いくらいに混沌を極めている。
さて――やるか。
「行きます!」
俺はクラウチングスタートの構えを取る。これから討ち入るは百三十五階層の白銀の龍。
目標はただ一つだ。最短距離でブチ抜く。
俺は駆け出した。俺の動きに反応し、集まり始めるダンジョン内の敵。リザードマンに、ゴーレムに、スケルトンナイト。いずれも身体全体が焔に覆われ、身体が紅に変色している。
目の前に現れ、王を守護するべく護衛を固めるモンスターたち。
一斉に襲い掛かる。
俺は疾走とともに腕を動かした。正拳突き、肘打ち、ラリアット。暴力の嵐がそれらのモンスターを打ち砕く。疾走した箇所に残るは粉々になった鉄の残骸に首を吹き飛ばされた血塗れの身体、真っ二つに折れた剣。
そのまま、俺はダンジョンの数々のモンスターを亡骸にして、ただ一つの目的地。―――百三十五階層へとただ只管駆けていく。
"一般モンスターボコボコで笑う"
"いつぞやの逃走劇か?"
"これはひどい"
"ガチダイジェストで草"
"はい邪魔ですどいてください←粉砕"
"遅刻遅刻のノリで物騒なことをするな"
コメント欄が盛り上がっている中、俺はダンジョンを直進した。
★
どのくらい経っただろうか。暫くして俺はダンジョン百三十五階層へと侵入した。内部は以前来た時よりさらに酷い状態になっており、壁の至る所にはクーレターができ、そこら中に焼け溶けた松明や柱の数々があった。
薄暗がりの中、俺はダンジョン内を突き進む。視界より先に伝わったのはあのゾクリとする感覚。
目を凝らすと白銀の龍がいた。以前と同じく咆哮一つも上げず、俺を見つめる。
――やるのだろう?
そう白銀の龍は俺に語りかけているかのようだった。俺はすぐに確信した。このドラゴンも俺を待っていたのだと。自らを打ち倒す意志のある強者を待っていたのだと。そのことを隻眼の瞳から感じた。
白銀の龍は沈黙こそすれど、尋常ではない闘争本能と、全ての挑戦者を消し去るといわんばかりの殺意を秘めていた。
互いの瞳が交差する。支配者と帝王との決戦がまさに今始まる。