格闘家世界チャンピオン、敵なしだったので引退しサバンナに行きジャガーを狩る〜現代ダンジョンが発生したので帰還、美少女になって配信します〜 作:tetois
仮説通りならば、ブレスの届かない懐に潜り込み、ヒビの入った傷にもう一度パンチを御見舞いすることはある程度容易いかもしれない。
――白銀の龍は聡い。ブレスのフェイクに、視界を防いだ上での追撃、ビームの分割。弱点に気づくのも時間の問題だ。
俺は超短期戦。あと一撃――。どんな手段を利用しようが、当てることを決めた。
「エンディングを迎えさせていただきます!」
"勝利宣言きったあああ!"
"決めたれ!"
"ドラゴンくんに勝てる!?"
"一気にやる感じか"
俺はビームから逃走しながら白銀の龍に思い切り指を刺し、挑戦的な言葉を吐いた。
それに呼応するが如く、白銀の龍は準備している銀色のブレスを吐く。背後からジリジリと迫る白い光。背中に確実な熱気が伝わる。
そして。
「おっと……」
背後から俺を縦横無尽に追尾したままだったビームがいつの間にか何十本も数を増やし俺に立ち塞がる。自身の露出した弱点を守る砦が俺を迎撃しようとしていた。
俺はただ相手の懐に全てぶち込む。それだけを考えた。リベンジを果たし、勝利を掴む。その目的の前ではどんな犠牲も軽いものだと思えた。
飛び上がる。目の前の何十本ものビームが交差し、ただ一つの狙い――俺の心臓を獲りにくる。
横にずらし、回避。瞬間見上げると、別軌道で頭を貫き通すまいと当然のように待ち構えていた。
――だったらやるよ。
「っ――……」
ただし頭ではなく左手だが。
盾にした左腕に何十本の熱線が辿る。筆舌し難い程の痛みと熱さ。左目が一瞬捉えた。何十本もの熱線により焼き切られた腕を。
だが、俺は止まらない。くるんと宙で身体を捻じらせ、地に着地する。
【ガアッ!】
追いつけないと悟ったかブレスを辞めた龍。紫に染まった龍爪を突き出した。龍爪の周りにはスパークが舞っていた。
「なら私も――」
右足を前へ踏み出し、腕を迫る龍爪に対抗するべく腕を振り上げる。
――龍と人の衝突。強靱な爪は俺の拳を抉り、指に突き刺さっていた。
「おりゃあああああ!」
されど闘気は止まない。むしろ全てを投げ出しても勝つという意志が加速するだけだった。
【グギャオオオオ!?】
拳にめり込み、突き刺さった筈の龍爪は音を立て、根本からへし折れ、地に転がる。前進する拳は爪を崩壊させ、その次へ。
【ヴギャアカアアァ!!!】
迫る俺に来るなと言わんばかりに咆哮を上げ、ノータイムで銀色のブレスを吐く。目の前が白い光に染まる。再び身体に刻まれる熱気。
だが、俺が目的地に辿り着けないことは無かった。ただ勝利を追い求めるだけに集中した俺を小手先のブレスで食い止めることは不可能だった。
白の世界を抜け、視界に映ったのはヒビが入ったあの懐だった。
「ファイナルプリンアタァク!」
拳が龍の懐に入る。拳が擦れた瞬間、響く皮膚が、鱗が割れる音。俺の拳は皮膚組織を破壊し、龍の身体内部まで到達していた。その割れ目は龍の身体全体にヒビを伝達するかの如く生き渡る。
「ニ撃ぃ!」
内部まで進出させた腕。その腕でトドメを刺すべく、アッパーを御見舞いする。
アッパーは白銀の龍の身体を崩壊させ、真っ二つにした。
【ギュルガ……ガ……ヵ】
最期の白銀の龍の断末魔がダンジョンに弱く響き、身体が地面に溶けていく。そしてその瞬間、俺は始めてリベンジを果たすことができたのだと強く実感した。
「…………勝てましたぁ!」
"きったあああああ!"
"まじすか!?"
"伝説が……始まる……"
"つっよ"
"二撃←これ良すぎる"
"他ダンジョン配信者見てるぅ?"
"えぐいえぐいえぐいえぐいえぐいえぐい"
"プリン時代きたな"
溢れ出す祝福の声。俺はそのライブのコメントを見て、より達成感を感じた。
「ふふ……。もすこし褒めてもいいです!てか褒めてください!早く!」
俺はライブコメントの様子を見た後、調子に乗るの半分、ネタ半分で視聴者に褒めをねだる。
カメラには腹立たしい表情を浮かべた魔法少女の顔が反射していた。それに気づいた途端、俺は以前と同じように赤面した。
★
ほんの少しのトークを視聴者と交わし、俺は配信をお開きにすることにした。
「ドラゴンにリベンジを果たしたとはいえ、まだプリンは配信いたします!次のダンジョン攻略を楽しみにしてください!」
その言葉を告げ、俺は配信を切った。同接数6500人。一番のハイスコアだった。
「ふぅ……。何とかやった……な」
6500という数値。それが俺の見た最後の景色だった。