格闘家世界チャンピオン、敵なしだったので引退しサバンナに行きジャガーを狩る〜現代ダンジョンが発生したので帰還、美少女になって配信します〜   作:tetois

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第八話 コラボ配信

 

 俺は馴染みのある自宅にいた。6畳のやや狭く、蚊取り用の線香の匂いが漂う部屋。整理用のラックが壁沿いに2台あり、反対側には布団を入れた押し入れがある。……昨日割れた机が消えたからか、すこしだけ広くなったように見える。

 

 

 初配信後の翌日の朝十時……俺はそこで頭を悩ませていた。勿論原因はポンコツAIによる収益化剥奪とアーカイブ削除にある。メールを動画サイト運営に送ってはみたが対応は暫く時間がかかるのは確定だ。

 

 

「難儀なものだ……」

 

 ――まず俺の初配信のデュラハンの一撃。あれによって俺の衣服が破れたのが原因だろう。

 

 ……よくよく考えたら鎖骨、右肩どころか際どい所まで少し見えていた気がする。

 

 変装スキルには弱点がある。それは服の耐久性が著しく低いことだ。一応変身解除し、再び変身すれば服は蘇るが、それは配信状態では不可能。

 

 

 今までは底辺だったから収益化の対象にはならずターゲットにされていなかったがこれからなんとかする必要がある。

 

 

 

 

 それらの問題点を整理した後只管ノートになぐり書きした。

 

 

 ――服の耐久性、それによる露出、AIのポンコツ分析……。

 

 

 つまりはAIに判定されないようにある程度対策すればよい。ダンジョン配信者であるが故に完全にはダメだが、保険は少しだけかけた方がいいだろう。

 

 

 ―――まず俺がラックから取り出したのはガムテープ。

 

 

 黒ガムテープは危険部位を隠す時の常套手段だ。とある芸人も使用し、収益化をできていることから実績はある。プリンの姿になり、早速右にテープを貼ろうとする。

 

「よいしょ……くっ…………」

 

 つい声が出てしまった。こんな場面ファン……いや全世界に見られるとしたら恥だ。だがこのくらい耐えて見せよう。……次は左だ。

 

 

「う……くっ……」

 

 

 苦戦しながらもテープ貼りは終わった。

 

 ――何をしているんだ一人で……。

 

 俺は倒れ、虚無感のまま天井を見つめた。そもそもこんなおふざけの罰ゲームみたいなことになったのはポンコツAIが原因だ。……徐々に運営に対し沸々と苛立ちと反骨心が沸いてくる。

 

 

 俺は強い奴と戦いをしたいだけ。そして戦いを通じて視聴者にエンタメを届けたいだけだ。世界は上手く行かないことが多いのは百も承知だが、鎖骨が見えたくらいで収益化剥奪、アーカイブ削除など……。

 

 

 

デュラハンに斬られ、包帯でぐるぐる巻きにした右腕を力強く握る。

 その時ダンジョン配信者ではなく格闘家としての俺が蘇る。

 

 

 

――服の破れ、身体のキズ、戦いの中で噴き出した血液……。これは誇りの一部だ!不埒扱いなど許せん!

 

 

 ……俺は俺のやり方で認めさせてやる。

 

 

「やーめた」

 

 

 対策はガムテープだけで終わりにした。自身が一番求めているのはお金ではないのだから。

 

 

 ★

  

俺は迷いを消した後、再びダンジョン入口の前の待機所に来ていた。……あいも変わらず扇風機だけの熱帯地だ。だがそんなことはどうでもいい。今の俺はモチベーションに溢れている。

 

「よし!やるか!」

 

 背伸びをし、拳の音を鳴らす。そのままギルドに手続きを行おうとしたその時後ろから声がかかった。

 

 

「あのすみません。貴方もしかして……」

 

 

 俺が振り向くとそこには黒髪を短くまとめた見覚えのある女性がいた。あの配信の時に助けた女性。あきたんだった。

 

 あきたんは俺の顔をみるやいなや一気に距離を詰め、手をとった。

 

 

「あ、やっぱり!プリンティスさん!やっと会えました!私あの時助けていただいたあきたんで……貴方に用があったんです!」

 

「あ!そうだ!これも言っておきたくて!私あなたの配信を見た時、確信しましたよ!あのデュラハンを倒した技に、リップサービスという言葉……。あなたもしかして石坪――」

 

 

 

 突如発された石坪というキーワード。それは俺の心に微量な電力が走らせた。もしや……バレた?額から冷汗が降り、思わず息を飲む。 

 

 確かにかつての俺のファンならば……あれは純次だと見抜くことができるかもしれない。なにしろ戦い方の癖だけは格闘家は抜くことのできないものであるから。特に俺の様な特殊な物ならば尚更。

 

 バレた場合、今後の活動にも関わる。俺が刻み付けようとしたプリンティスという新たな伝説は打ち止めという可能性もありゆる。この瞬間、あきたんは俺の心臓を握りつぶしていた。

 

 

 呼吸が速くなる中、あきたんが次の言葉を発した。

 

 

「純次のファンだよね?」

 

 

 ……ファンかあ……。

 

 

「あっ!大丈夫?」

 

 

「いや大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」

 

 

 差し伸べられたあきたんの手を取り、身体を起こす。どうやら気づかない内に腰が抜け、地面に尻もちになっていたらしい。――情けないな。

 

 

「でで?そこんとこどうなんです?てかそうですよね!?私は感じ取りましたあなたの純次愛!あれはまさしくプロ純次ファン親衛隊の姿!」

 

 

 あきたんは俺の手を握りながら一気に声のトーンを高くし、早口でまくし立てた。

 

 ――グイグイ来るな……。

 

 思わず少しだけ笑みを浮かべながら、俺は返答する。

 

 

「まあ新参的な感じです。ふふっ……」

 

「やっぱり!?くう――!私の目に狂いは、無かったあ!」

 

 

 あきたんは小刻みに身体を揺らし、ぴょんと跳ねた。

 

 

「あ……そうだ!私御礼をしにきたんだった!ごめんなさいこっちばっか話進めちゃってて……で……えーと……あ……そうだバッグに……」

 

 

 あきたんは抱えていたベージュ色のバッグからクリアファイルを取り出した。

 

 

「はい!プリンティスさん純次ファンだから話も合うし再生回数も私で貢献できるかな?って思って!」

 

 

 

 紙に書かれていたのは手書きで書かれた御礼の手紙だった。ハイテンションさに似合わない流麗な文字で書かれている。

 

 そして目に留めたのは最後の一文。

 

――宜しければ私とコラボ配信してみませんか?いつでもお待ちしております。

 

 

「コラボ配信……」

 

  

 

 

 

 

 

 

 

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