僕のヒーローアカデミア:スパイダーウェブ 作:スパイダーキャット
グラウンドβに出ると、男子陣がすでに集まっていた。
それぞれのコスチュームに身を包んだクラスメイトたちは、教室にいた時とはまるで別人に見えた。鎧のような装甲を纏った者、体にフィットするスーツの者、マントを羽織った者──みんな、ヒーローの形をしている。
「おお! みんなコスチューム似合ってるね!」
葉隠が手袋をぱたぱた振りながら声をかける。手袋とブーツだけが宙に浮いている光景は、見慣れてきたとはいえまだ少し不思議だ。
「みんなかっけえな! ヒーローって感じだ!」
切島が興奮気味に周囲を見回している。
イトも周りを見た。
緑谷のコスチュームが目に入った。緑の全身スーツに、白い装甲のようなパーツ。そして頭にはうさぎの耳のような──いや、あれは。
(オールマイト……のイメージ?)
なんとなく、分かった気がした。あのデザインに込められた意味が。
「デクくんかっこいいね! 地に足ついた感じ!!」
「麗日さんに安良久根さ…うおお…!!!」
麗日の声に反応してこちらを向いた緑谷が、突如口を押さえて大声をあげた。
「あの、そのコスチュームは……」
「たはは、恥ずい」
「あんまり見ないで……」
「ごごごごごめん!?」
慌てて目を逸らす緑谷に、峰田が近づいてくる。
「ヒーロー科最高」
「えぇ!?」
混乱する緑谷を後目に、峰田の視線がイトに向いた。
「な、なに……」
「ロリ巨乳万歳」
「えっ」
馬鹿みたいに真剣な表情で宣言され、イトは固まってしまった。
「男子って……」
「一緒にしないでくれたまえ!」
呆れる耳郎の横で、イトは自分の体を見下ろした。白いボディスーツは体のラインをそのまま映し出す。更衣室では女子しかいなかったからまだよかったが、男子の視線があると話が違う。
(やっぱり恥ずかしい……今から設計変えられないかな……無理だよね……)
「ではでは! 諸君、たまらんね! みんなカッコいいぞ!」
コスチュームデザインについて割と真剣に悩んでいると、オールマイトがやってきた。全員の前に立つ銀幕のヒーローそのもののような巨躯が、コスチューム姿の生徒たちを見渡している。
「さて、早速だが戦闘訓練のルールを説明しよう!」
オールマイトが紙を取り出した。……紙。No.1ヒーローがカンペを読んでいる。少しだけ、親近感が湧いた。
「今回の訓練は、ヒーローチーム対ヴィランチームの2対2だ! ヴィランチームが建物内に核兵器を隠している想定! ヒーローチームは制限時間内にそれを確保──もしくはヴィランを捕獲すれば勝ち! ヴィランチームは核を守り切るか、ヒーローを捕獲すれば勝ちだ!」
「設定アメリカンだな……」
2対2。室内戦。攻めと守り。
(入試のロボット退治とは全然違う……)
「チームはくじ引きで決める!」
くじが回された。イトは引いた紙を開く。
──Iチーム。
「Iの人ー!」
葉隠の声がした。手袋がひらひら振られている。
「葉隠さん、同じチーム?」
「やったー! よろしくね安良久根ちゃん!」
知っている相手で少し安心した。
対戦カードが発表される。
まず第1試合──Aチーム対Dチーム。
ヒーロー側:緑谷出久&麗日お茶子。
ヴィラン側:爆豪勝己&飯田天哉。
(緑谷くんが……爆豪くんと)
あの威圧感。初日に教室で「どこ中だテメエ」と凄んでいた男。爆豪勝己。個性把握テストではソフトボール投げ705m。明らかにクラスで最も攻撃的な個性。
そしてイトたちのIチームは──
ヴィラン側:安良久根イト&葉隠透。
ヒーロー側:轟焦凍&障子目蔵。
イトの背筋が冷たくなった。
(轟くん……氷使ってたすごい人……と、障子くん。確か腕とかいっぱい出してた。勝てるかな……)
「安良久根ちゃん、大丈夫? 顔真っ白だよ」
「……うん。大丈夫。たぶん」
嘘だ。正直大丈夫じゃない。体が震える。でも、やるしかない。
誤魔化すように、イトはマスクを被りなおした。
*
第1試合が始まった。
モニタールームで、クラスメイトたちはモニター越しに試合を見守っている。画面には建物内部の映像が複数のカメラで映し出されていた。映像のみで音声はない。
ヴィラン側の飯田と爆豪が核のある部屋にいる。飯田が何か言っている──いや、叫んでいるように見える。身振りが大きい。爆豪は聞いているのかいないのか、そっぽを向いている。
「あの二人全然連携取れてなくない?」
耳郎が呟いた。
試合開始のブザーが鳴る。
ヒーロー側の緑谷と麗日が建物に侵入する。ゆっくりと、壁に張り付くようにして廊下を進む。緑谷が何か言いながら──たぶん分析しながら──麗日に指示を出しているようだ。
(あの分析力だ……きっとちゃんと作戦を立ててる)
──唐突に、爆豪が動いた。
モニターの映像が切り替わる。爆豪が核のある部屋を飛び出し、一人で廊下を走っている。飯田が後ろで何か叫んでいるが、爆豪は振り返りもしない。
「おいおい、ヴィランが核から離れてどうすんだよ」
切島が声を上げた。
爆豪が角を曲がった瞬間──緑谷と鉢合わせた。
爆炸。
カメラが白く飛んだ。爆豪の掌から爆発が炸裂し、緑谷に襲いかかる。
「いきなり!?」
モニタールームがざわついた。
煙が晴れると、緑谷はなんとか回避していた。マスクの一部が破れている。イトは画面に釘付けになった。
爆豪が追撃する。掌を振り下ろす。爆発。また爆発。容赦がない。
だが──緑谷は避けていた。紙一重で、だが確実に。体を捻り、姿勢を低くし、爆豪の攻撃パターンを読んでいるかのように。
(すごい……あの爆発を避けてる)
しかし避けるだけだ。緑谷は一度も攻撃を返していない。
爆豪の攻撃は激しさを増していく。感情が――怒りが、拳に乗っているように見えた。何に怒っているのか。モニター越しでは分からない。音声がない。でも、表情と動きだけで伝わってくるものがある。
──あの二人には、何かがある。
(……幼馴染、って、麗日さんが言ってた)
モニタールームは静まり返っていた。訓練というには、あまりにも感情がむき出しだった。
「個性出さねーな緑谷」
「昨日の見たろ、リスクあんだよ」
その時──
緑谷が動いた。
爆豪の腕を掴み、背負い投げのような動きで地面に叩きつけた。あの動き──あれは、個性ではなく体術だ。格闘技の動き。
「すげえ! タツジンだタツジン」
上鳴が目を丸くした。
だが爆豪はすぐに起き上がる。今度はさらに激しく攻め立てた。
戦いは一進一退ではなかった。爆豪が圧倒的に押している。緑谷は防戦一方。でも──倒れない。
画面が切り替わった。別のカメラ。麗日が一人で建物の上階に向かっている。飯田が核の部屋で待ち構えている。
(そうか……緑谷くんが爆豪を引きつけている間に、麗日さんが核を)
作戦だ。緑谷は、最初からこれを想定していた。自分が爆豪と戦い、その間に麗日が核を確保する。
でも──
画面が再び爆豪と緑谷のカメラに戻った。
緑谷の動きが変わった。右手を構えている。力が集中しているのが、画面越しにも分かる。あの個性。使ったら体が壊れるあの──
「……だめ」
イトは無意識に呟いた。
緑谷が拳を振り上げた。──天井に向かって。
衝撃波が建物を貫いた。
天井が吹き飛ぶ。壁が砕ける。カメラが激しく揺れ、映像が乱れる。モニタールーム全員が画面に顔を寄せた。
上階のカメラに切り替わる。麗日が──核に手を伸ばしていた。天井からの衝撃で生まれた隙を突いて。飯田が反応するより一瞬早く──
麗日の手が、核に触れた。
「ヒーローチームWIIIIIN!!」
オールマイトの声が響く。
モニタールームから安堵と歓声が漏れた。
イトは画面を見つめていた。
緑谷が映っている。右腕が──歪んでいた。明らかに、あるべき形ではない。個性把握テストの時は指だけだったが、今度は腕ごと。
(……やっぱり、そういう個性)
緑谷の右腕は傍目にも酷い状態だった。ただ折れているだけではない、まるで内側で爆弾が爆発したかのようにバキバキだった。
きっと分かっていたはずだ、あの個性を使えば腕がどうなるかも。分かった上で、撃った。
イトは拳を握りしめた。
(知り合ってあんまり長くないけど、少しわかった気がする)
物事を深く観察し、分析し、備える。
その上で、必要とあらば迷わず自分の身を削ることができる。
それが緑谷出久という人間なのだと、イトは理解した。
(……かっこいいな)
──私も、そんな風になりたい。
「安良久根ちゃん、次私たちだよ! がんばろ!」
「……うん」
興奮したように跳ねる葉隠に、イトは答えた。
震えは、もう止まっていた。
尾白くんには悪いが今作の葉隠ちゃんの戦闘訓練の相方はイトなのじゃ。許せ。
……イトの中で緑谷の評価がガンガン上がってて正直困っています。
中学編、USJ編みたいな章区分あった方がいいですか?
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あった方がいいかも
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なくてもいいかも