僕のヒーローアカデミア:スパイダーウェブ   作:スパイダーキャット

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言い訳するんですけど、今回のタイトルは中身ができてから付けました。


第10話 共通の趣味

 モニタールームに戻ると、オールマイトがスクリーンの前に立った。

 

「さて! 講評といこう! 今回の試合、MVPは誰だと思う?」

 

 クラスメイトたちがざわめく。

 

「轟じゃね? 氷やばかったし」

「でも捕まってたよね」

 

 上鳴と耳郎のやり取りに、オールマイトが頷いた。

 

「いい着眼点だ耳郎少女! では正解を言おう──今回のMVPは、障子少年だ!」

 

 障子は腕を組んだまま、表情を変えなかった。

 

「理由を説明しよう。障子少年は二つの仕事をこなした。一つ、個性による探知で安良久根少女たちが凍結を免れていることに気づき、轟少年に伝えた。二つ、轟少年が安良久根少女と戦っている間に、単独で核の部屋に向かい、確保した」

 

 オールマイトがスクリーンに試合の映像を映す。障子が建物の外壁を登り、別の窓から核の部屋に侵入する映像だった。

 

「つまり障子少年は、探知役と目標達成の両方を一人でこなしたんだ。轟少年の火力に頼るだけでなく、自分の役割を見極めて動いた。これはチームワークにおいてとても大事なことだ!」

 

 オールマイトの言葉に、ある者は頷き、ある者は感心したような声を漏らす。

 

「では、それぞれの講評にいこう」

 

 オールマイトが姿勢を正した。

 

「まず轟少年。開始直後の建物全凍結、あれは見事だった。火力は圧倒的、核も傷つけない、完璧な初撃だったね! だが──2対1とはいえ、結果的に君は捕縛された」

 

 轟は無言で聞いている。

 

「初撃で全てが終わったと判断し、警戒を怠った。安良久根少女が初撃を回避した時点で、想定外が起きている。その時点で作戦を修正すべきだったね。実際に切り替えて対応はしたが、相手の冷静さを見誤ったな」

「……はい」

「とはいえ、さっきも言った通り障子少年と自然に役割分担ができていた。そこは見事だったぞ! 次に障子少年」

「はい」

 

 短く返事をする障子。

 

「文句なしだ。探知能力を活かした判断、冷静な状況把握、そして味方に任せきりにせず自ら目標を取りに行く姿勢。素晴らしい!」

「ありがとうございます」

 

 障子が静かに頭を下げた。

 

「さて、ヴィラン側だ。安良久根少女」

 

 イトが背筋を伸ばす。

 

「轟少年の全凍結を直前に察知し、葉隠少女を抱えて回避した。あれがなければ試合は数秒で終わっていた。そしてすぐに守りから攻めへ頭を切り替え、自分が囮になりながら葉隠少女に確保テープを渡した。判断力、状況分析、味方との連携──どれも素晴らしかった!」

「……ありがとうございます」

「ただし!」

 

 オールマイトが指を立てた。

 

「君たちの敗因は明確だ。安良久根少女、分かるかい?」

「……障子くんのことが、頭から抜けていました」

「その通り! 轟少年の脅威に集中するあまり、もう一人のヒーローの存在を見落とした。戦闘で最も危険なのは、見えている敵ではなく、見えない敵だ。覚えておくといい」

「……はい」

「最後に葉隠少女!」

 

 オールマイトが葉隠の方に向き直る。

 

「透明という個性を最大限に活かした動き、お見事だった! 裸足で氷の上を我慢しながら轟少年の背後を取った根性、あれはなかなかできることじゃないぞ!」

「えへへ! 寒かったけどね! でも安良久根ちゃんの作戦があったからだよ!」

「いいチームワークだ。結果は敗北だったが、学ぶところの多い試合だった!」

 

 オールマイトがクラス全体を見渡した。

 

「いいか皆、今日の訓練で覚えておいてほしいことがある。火力だけでは勝てない。個人技だけでは勝てない。勝敗を分けるのは──状況を見て、仲間と連携し、目的を見失わないことだ。いいね?」

 

 モニタールーム内に、元気な返事がこだまする。

 

「じゃあちょっと休憩にしよう! 次の試合は10分後だ!」

 

 

    *

 

 

 休憩に入った途端、イトは囲まれた。

 

「安良久根すごかったね! あの凍結よけたのどうやったの!?」

「ていうか轟捕まえたのマジ? モニターで見てて声出ちゃった!」

「あの糸、自分で出してんの? いや手首のやつか」

「めちゃくちゃ揺れてた」

 

 芦戸に耳郎、上鳴、そして峰田が矢継ぎ早に話しかけてくる。

 直後峰田は耳郎に耳たぶのプラグを突き刺されていた。

 

「え、あ、えっと……」

 

 イトはたじろいだ。一度に三方向から質問が飛んでくる。処理が追いつかない。

 

「あの凍結は……なんか、来るって思って……」

「『なんか来る』で避けられるの!?」

「エスパーじゃん」

「エスパーとはまた違うんだけど……」

「つかさあ!」

 

 上鳴が身を乗り出してきた。

 

「戦ってる時めっちゃ喋ってたよな? 音なくても分かったぜ」

「えっ、あ、あれは……」

「轟の氷も半端なかったけど、一歩も引いてなかったな! 漢気だぜ」

 

 切島が横から入ってくる。

 

「漢気じゃなくてパニック……」

「なんか油断させる作戦だったの? 轟も驚いたでしょ」

「ああ」

 

 轟が静かに首肯した。イトの顔が見る見る赤くなっていく。

 

(恥ずかしい……恥ずかしすぎる……)

 

「安良久根ちゃん、私思ったことなんでも言っちゃうの」

「あ、蛙吹さん」

「梅雨ちゃんと呼んで」

 

 蛙吹がおもむろに口を開いた。

 

「あの動き…天井を走ったり壁に張り付いたり、相当な機動力だったわ。蜘蛛の個性かしら」

「う、うん……壁にくっつけたり、あと体が少し丈夫なのと……」

「ケロ、なんだか親近感があるわ。あなたの個性私と似てる」

「……そうかも」

 

 蛙吹のペースの変わらない話し方に、少しだけ落ち着いた。

 

「その……ありがとう、えっと…つ、つゅ、梅雨ちゃん」

「自分のペースでいいのよ」

「でもさー」

 

 芦戸がにやにやしながら言った。

 

「負けたのに全然暗くないよね安良久根。めっちゃ前向きじゃん」

「……そうかな。内心はけっこう悔しいんだけど」

「それ隠せてないって、さっき拳めっちゃ握ってたもんよ」

 

(見られてた……)

 

「安良久根ちゃん! 安良久根ちゃん!」

 

 葉隠が声を上げた。

 

「さっきから見てたけど、みんなと普通に話せてるじゃん!」

「え?」

「昨日までの『うん』しか言わない安良久根ちゃんどこ行ったの!?」

 

(……あ)

 

 言われてみれば。いつもなら目を逸らして黙り込むところだ。戦闘でスイッチが入ったまま、素に近い状態で話していたのかもしれない。

 

「あ、いや、これは……」

 

 途端に恥ずかしくなって、声が小さくなった。

 

「あーーー戻った! もったいない!」

「うぅ……」

 

 

    *

 

 

 全チームの試合が終わり、オールマイトが最後の総評を述べて授業は終了した。コスチュームを着替え、教室に戻る。

 

 ──緑谷の席は、空席のままだった。

 

 午後の授業が終わっても、緑谷は戻ってこなかった。リカバリーガールの治癒を受けてすぐに復帰すると思っていただけに、イトの心には不安が募る。

 

(大丈夫かな……)

 

 終礼が終わると同時、いてもたってもいられずイトは席を立った。

 

「あれ、安良久根ちゃんどこ行くの?」

 

 葉隠の声がする。イトは少し迷ってから言った。

 

「ちょっと、保健室に……」

「え? どうしたの、大丈夫? 気分悪い?」

「あっいや違くて!」

 

 言葉が足りず、誤解させてしまった。イトは慌てて訂正する。

 

「私がどうってわけじゃなくて、その」

「……あ、もしかして緑谷くん?」

 

 得心いったとばかりに葉隠は手を打った。

 

「へー……ほーーん……」

「えっ…な、なに?」

「んーん! いってらっしゃい!」

「う、うん」

 

 葉隠は楽しそうな雰囲気を隠そうともせずにイトを見送った。

 

 

 

 

「ねえ、皆で訓練の反省会しようって話になってるんだけどそっちも……あれ、安良久根は?」

「お見舞いだってさ、緑谷くんの」

「緑谷の!? ほほう、それはちょっと詳しく聞きたいところですねえ!」

「ね! 気になっちゃうよね!」

 

 

    *

 

 

 保健室のドアをノックする。

 

「リカバリーガール先生、入ってもいいですか」

「お見舞いかい? あぁ、いいよ。入んな」

 

 中に入ると、ベッドに緑谷が寝ていた。右腕に包帯が巻かれ、目は閉じたまま──まだ眠っている。

 

「……治癒、できてないんですか?」

「この子の体力が足りないのさ」

 

 リカバリーガールが椅子に座ったまま、イトの方を見た。

 

「私の個性は人間の治癒力を促進するもの。治癒そのものは本人の体力を使ってるから、体力がなければ治せる量も限られる。この子は昨日も似たような怪我してたしね。こう頻繁に大怪我されたんじゃ一度に全部は治せないのさ」

 

 リカバリーガールがため息をついた。

 

「あんただって他人事じゃないよ全く。入学してからはまだ無茶してないようだけどね」

「……はい。その節はお世話になりました」

 

 覚えていてくれたらしい。

 イトはベッドの脇に立って、緑谷の顔を見た。眠っている表情は穏やかだ。あの戦闘の時の覚悟を決めた顔とは全然違う。

 

「……ん」

 

 緑谷の瞼が動いた。ゆっくりと目が開く。

 

「あ……安良久根、さん……?」

 

 寝ぼけた声だった。

 

「あ、起きた。……大丈夫?」

「え、ここ……保健室……あ、そっか、僕……」

 

 緑谷が右腕を見て、状況を思い出したらしい。起き上がろうとして、顔をしかめた。

 

「無理しないで」

「う、うん……ありがとう。あの、なんで安良久根さんが……」

「……教室に戻ってこなかったから。ちょっと心配…で……」

 

 言いながら、今更恥ずかしくなってきた。同級生の男の子のお見舞いにわざわざ来るという自分の行動をようやく客観視する。

 

「わざわざ来てくれたの……? ごめんね、ありがとう」

「いやそんな! 別になんか変な感じじゃなくってただ純粋に心配だったというかいや心配はみんなしてたんだけど私が代表でみたいなそんな感じで…」

「えっう、うん」

 

 イトの剣幕に少し驚きながら緑谷が相槌を打つ。少し腕を動かそうとして、痛みからか顔をしかめた。

 

「あっごめん! 腕痛いのに……」

「あ、いや。痛いけど……大丈夫だよ」

「大丈夫なもんかい、動かすんじゃないよ」

 

 腕を動かそうとする緑谷を、リカバリーガールが呆れたような声で諫める。

 

「今日できる分の治癒は済ませてある。でもまだ全然完治してないからね。安静にして、ちゃんと明日も来るんだよ」

「は、はい。ありがとうございますリカバリーガール」

「ほら、もう戻りな。そんな頻繁に保健室(ここ)の世話になるもんじゃないよ」

 

 

 急かされるように、二人は保健室の外に出た。

 

「……………………」

「……………………」

 

 教室に向かって歩く二人の間に、気まずい空気が流れる。

 

(同い年の男の子相手って、どんな話すればいいの!? ぐああ分かんない、なんで来ちゃったんだろ私…)

(よく考えたら女子がお見舞いにって人生で初めてだ! お礼は……何回も言うのは変だし、でも他に何を…)

 

「あっあの!」

「は、はい!」

 

 意を決した緑谷が声をかけ、イトの背筋が伸びる。

 短い沈黙。

 

「…………安良久根さんは、好きなヒーローとかいる?」

「えっ」

 

 悩んだ挙句にひねり出した話題は、完全に自分の趣味全開のものだった。

 

「……えっと、13号かな。よく動画見返してて……」

「13号! 13号の動画って言ったら、塩野山の土砂崩れ事故のやつとか?」

「! そ、そう! ブラックホールの使い方がすごくって、何回も見ちゃうんだ!」

「それなら僕もよく見てるよ! あっあとは僕、砂九川大洪水の時の救助動画も好きで……」

「えっ私も! あれはチームアップした他のヒーローとの連携が──」

「あと他のヒーローだと──」

 

「──」

 

「─」

 

 

    *

 

 

「おお緑谷来た! おつかれ!!」

 

 教室のドアを開くと、緑谷はすぐさま囲まれた。

 

「何喋ってっかわかんなかったけどアツかったぜおめー!!」

「よく避けたよー!」

「一戦目からあんなの見ちまったから俺らも力入ったぜ」

「わ、わ、わ……」

 

 次々に声を掛けられ、緑谷は固まってしまっている。

 

「あの、切島くん。い…緑谷くん怪我治ってないから、あんまり」

「っと、そっか悪ぃ」

 

 イトが制止すると、皆が一歩下がった。

 

「俺ぁ切島鋭児郎。今皆で訓練の反省会してたとこなんだよ、緑谷もどうだ?」

「私芦戸三奈! よく避けたよー」

「蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで」

「俺砂藤!」

「う、うん。みんなよろしく」

 

「あ、デクくん!」

 

 緑谷が挨拶を返していると、イトたちと反対側の出入り口から教室に帰ってきた麗日がこちらに気づいた。

 

「怪我治してもらえなかったの!?」

「あ、これは僕の体力のアレで……あの、麗日さんそれより」

 

 

 

 緑谷は爆豪に用があったらしい。

 麗日に行き先を聞くと、緑谷は走り出してしまった。

 

「追っかけなくていいの?」

「えっそれは……なんで?」

 

 ニヤニヤとした様子で寄ってきた葉隠と芦戸に対し、イトは不思議そうに返事した。

 

「そりゃあなた……」

「自分の胸に聞いてみるとよろしい」

「てか私たちにも聞かせて!」

「…………えっあっいやいやいや!!!」

 

 ようやく二人の意図を理解し、イトは激しく首を横に振った。

 

「ち、違うから!」

「ふはは無駄よ無駄よ」

「廊下でずいぶん盛り上がってたじゃん、何話してたの!」

「ホントに違くて……」

 

「あ、デクくんいた」

 

 廊下から麗日の声が響く。イトは逃げるようにそちらへ向かった。

 

「なにか話してるわ」

 

 緑谷は、校門前で爆豪と何かを話しているようだった。

 爆豪はしばらく黙って緑谷の話を聞いている様子だったが、破裂するように鬼の形相で何かをまくしたてると、そのまま歩いて行ってしまう。

 

「……あ、オールマイト」

「オールマイトも爆豪くんに用事?」

「でもすぐに終わったみたいね」

 

 歩き去る爆豪と立ち尽くすオールマイトを見て、蛙吹は静かに呟いた。

 

「結局何を話してたのかしら」

「男の因縁ってやつです!」

 

(出久くん……大丈夫だったのかな)

 

 オールマイトと何か話している様子の緑谷を眺めながら、イトは漠然と心配した。

 

「ほら、行きなよ安良久根」

「傷心中の男は狙い目だよ安良久根ちゃん」

「だから違うの……」

 

 その前にこの二人から逃げるのが先だと、イトは思い直した。




八百万さんに話を振るとめっちゃ言われることを学習して最初から自分で説明することにしたオールマイト、かわいい。

…いやプロット段階ではお見舞いに行く予定はなかったんです。でもいざ放課後になったら用事ないのに行かないの変だなってなっちゃって……。

中学編、USJ編みたいな章区分あった方がいいですか?

  • あった方がいいかも
  • なくてもいいかも
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