僕のヒーローアカデミア:スパイダーウェブ   作:スパイダーキャット

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ヒロアカって序盤は特にイベント目白押しでオリジナルエピソードを挟む隙が全然ないんですよね



第12話 がんばれ飯田

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに──』

 

「まじかよ!」

「やっべえ!!」

 

「え、なになに」

「さん?」

 

 慌て始める2,3年生に対して、1年生は警報の意味が分からずにいた。

 

「先輩がた! セキュリティ3とは何でしょう!!」

「校舎内に誰か侵入したんだよ!」

「三年間でこんなこと初めてだ!!」

「ほら早く逃げるぞ!」

「あっ、ちょ──」

 

 内に走る感覚に従って葉隠を脇に抱え、テーブルを蹴って跳躍する。

 

「きゃっ──!?」

 

 天井に着地。四肢の指が天井面に吸いつき、片腕で葉隠を抱えたまま体を固定した。

 

「あ、安良久根ちゃん……」

「ごめん、隣にいたからつい」

「ううん、ありがと。でもまたこのパターン……」

 

 イトたちの下を、人の濁流が押し寄せていく。さっきまで座っていたテーブルは、もう人波で見えなくなっていた。

 

「わあ……」

 

 天井から見下ろす食堂は、凄まじい光景だった。

 数百人の生徒が一斉に出口を目指している。椅子が蹴倒され、トレーが宙を舞い、食器の割れる音が連鎖する。食堂の出入り口は広くない──そこに何百人もが殺到し、人の壁ができていた。

 出入り口に折り重なるように密集した生徒たち。押し合い圧し合い、悲鳴と怒声が入り交じっている。

 

(このままだと怪我人が出る……)

 

 緑谷も、麗日も、飯田も、人の海に呑まれている。何とかしないと。でも天井から何ができる──

 

 視線を巡らせた時、窓の外が目に入った。

 校門の方角。テレビカメラ。マイク。中継車。

 

(──マスコミだ)

 

 侵入者は、ヴィランじゃない。今朝正門前に殺到していた報道陣が、敷地内に入り込んだのだ。

 だが、それをこの場の全員に伝える手段が──

 

 

「安良久根くん!!」

 

 

 下から、声が飛んできた。

 人波の中で、飯田が天井を仰いでいた。周囲に流されまいと両足で踏ん張りながら、真っ直ぐにイトを見ている。こんな状況でも冷静に周囲を見渡し──天井に張り付いた自分を見つけたのか。

 

「窓の外を見ろ! 侵入者はマスコミだ!」

 

(飯田くんも気づいてる──!)

 

「俺が皆を鎮める! 麗日くんのところまで運んでくれ!!」

 

(麗日さんの──無重力……!)

 

 飯田の意図を理解した。

 

 天井から食堂を見渡す。出入り口付近が最も混雑している。その渦中に──茶色い髪。麗日だ。飯田と10mは離れた位置。人の壁が隔てている。歩いてたどり着くのは不可能だ。

 

「葉隠さん、ここ掴まってて!」

「え、ちょ──」

 

 葉隠を天井の梁に掴まらせると、イトは片手を飯田に向けた。

 制服の袖の下──手首に装着したウェブシューター。

 

「飯田くん、腕!!」

 

 シュッ、とウェブを射出する。白い線が素早く飛び、飯田の伸ばした腕に張り付く。

 

「引くよ!!」

 

 天井に張り付いた両足で踏ん張り、引いた。

 飯田の体が浮き上がる。人波を飛び越え、宙を滑る長身。イトは天井を走るように移動しながら、片腕で飯田を吊って食堂を横切った。

 

「飯田くんが宙に浮いてる!?」

「天井に誰かいる──!」

「なんか糸出てる!!」

 

 下で声が上がるが、構っていられない。

 

 ──茶色い髪が、真下に来た。

 

「麗日さん、上!!」

「えっ──安良久根ちゃん!? 天井!?」

「麗日くん! 俺を浮かせてくれ!」

 

 麗日は一瞬だけ目を瞬かせたが、飯田の目を見て──頷いた。

 

「──うん!」

 

 五本の指が、飯田の足首に触れた。

 飯田の体から、重力が消える。同時にウェブを切り離した。

 

 脚のエンジンが唸りを上げる。飯田は急加速し、出口の上方──非常口の標識のすぐ横に到達する。壁に両脚を叩きつけるようにして固定した。

 

 その姿は。

 非常口のピクトグラムそのものだった。

 

 

「皆さん!!」

 

 

 食堂に、飯田の声が轟いた。

 

「大丈ーーーー夫!!!」

 

 その声に、食堂の喧噪が一瞬止まった。

 

「ただのマスコミです! パニックになることはありません大丈ーー夫!!」

 

 ──静まっていく。

 ざわめきが、波のように引いていく。押し合いが止まる。密集が緩む。窓の外を確認した生徒たちが「マスコミだ」「ヴィランじゃないの?」と口々に呟き、その声がさざ波のように広がっていく。

 

「ここは雄英! 最高峰の人間に相応しい行動をとりましょう!!」

 

 呼吸ができる空気が、食堂に戻った。

 

(すごい……)

 

 天井に張り付いたまま、イトは飯田を見ていた。

 あの混乱の中で、冷静に状況を見極めた。自分一人では目的地に届かないと判断して、迷いなく他人の力を借りた。そしてたった一声で、何百人もの生徒を鎮めてみせた。

 仮にイトが飯田の位置まで一人で向かっていたとしても、同じことはできなかっただろう。

 

(飯田くん……すごい)

 

 感心して──見とれていた、その時だった。

 

 

  ──ぞわ、と。

 

 

 背筋を、何かが這い上がった。

 

 さっきとは、違う。

 

 人混みに押し潰される危険を感じた時とは、次元の違う感覚。もっと深い。もっと冷たい。体温が一度下がったかのような──本能の奥底からの、拒絶。

 

(──な、に……?)

 

 反射的に立ち上がり、周囲を見回す。

 生徒たちは落ち着きを取り戻している。教師たちが駆けつけてきている。校門付近ではマスコミが教職員に対応されている。

 何も起きていない。何も、見えない。

 

 ──なのに。

 

(……なにかが、いた)

 

 いた。ほんのさっきまで、この混乱の中に。マスコミとは違う何かが。

 だがそれが何なのか、誰なのか、どこにいたのか──何一つ分からない。感覚はすでに薄れている。指先に残る寒気だけが、それが気のせいではなかったことを告げていた。

 

「安良久根ちゃん! 安良久根ちゃん!」

「え?」

 

 少し離れた位置から──正確には天井の梁から──葉隠の声が響き、イトは我に返った。

 

「あ、ごめん。すぐ降ろすから」

「そうじゃなくて! いや、それもだけどそれより──」

 

 いやに焦った様子の葉隠を、イトは訝しむが──

 

 

「いま安良久根ちゃん逆さまだから! スカート、スカート押さえて!!」

「え? ………………あ」

 

 

    *

 

 

「穴があったら入りたい……」

「どんまい」

 

 昼休みが終わり、教室。

 机に突っ伏して悶えるイトを、葉隠が慰めていた。

 

「みんな飯田くんに注目してたし、見られてないよ。たぶん。きっと」

「希望的観測……」

「それにほら、かわいいやつだったし」

「やめてぇ……」

 

 足をばたつかせて羞恥を逃がす。しばらくそうしていると、緑谷と八百万がいつの間にか教壇に立っていた。

 

「ほら委員長、開始の音頭を」

「でっでは! 他の委員決めを執り行ってまいります!」

 

 いつの間にか始まっていたらしい。首を振り、背筋を伸ばした。

 

「けど、その前に」

 

 緑谷は緊張した面持ちのまま続ける。

 

「委員長は、やっぱり飯田くんが良いと…思います!」

 

(! ……出久くん)

 

「……食堂の件。あんな風にかっこよく人をまとめられるんだから、僕は…飯田くんがやるのが相応しいと思うよ」

 

 飯田のことをまっすぐに見つめながら、緑谷は言った。

 

「良いんじゃね? 飯田超活躍してたし! 緑谷でも良いと思うけどな!」

「非常口の標識みてぇになってたよな」

「めっちゃ笑った」

 

 投票で勝ち取った委員長の座を、自分から譲った。飯田の方が相応しいと──迷いなく。

 少しだけ残念に思う自分がいる。緑谷が委員長としてがんばる姿を、もう少し見たかった。

 

 でも──昼のことを思い出す。あの混乱の中で真っ先に状況を掴み、天井の自分を見つけ、迷わず助けを求め、全校生徒の前に立った飯田。昨日の昼食で語っていた、インゲニウムへの憧れ。"多"を導くリーダー。

 

(飯田くんなら、大丈夫だ)

 

「……委員長の指名ならば仕方あるまい!!」

 

 飯田の声が、教室に響いた。背筋をまっすぐに伸ばした、力強い声。

 

「任せたぜ非常口!」

「非常口飯田! しっかりやれよー!」

 

 拍手が起きた。イトも、小さく手を叩いた。

 

 ふと隣に目を向ける。

 緑谷は──ほっとしたような、どこか晴れ晴れとした顔をしていた。自分が立つことよりも、相応しい人に託すことを選んだ顔。

 

(……やっぱり出久くんは、かっこいいな)

 

 ふと思って、少し自分に驚く。

 

 イトは視線を窓に移した。

 空は、穏やかに晴れている。

 

 ──指先だけが、まだ冷たかった。

 




かわいいやつ^^

中学編、USJ編みたいな章区分あった方がいいですか?

  • あった方がいいかも
  • なくてもいいかも
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