僕のヒーローアカデミア:スパイダーウェブ   作:スパイダーキャット

15 / 35
ちょっと短め。でも今日二話目だしいいですよね?


第13話 スパイダーセンス

「安良久根、残れ」

 

 終礼が終わり、生徒たちが席を立つ中で、相澤の声がイトを呼び止めた。

 

「はい」

 

 教室を出ていくクラスメイトたちを横目に、イトは教壇の前に立った。相澤はいつも通り、感情の読めない目でこちらを見ている。

 

(私、何かした…?)

 

「サポートアイテムの件だ」

「!」

「パワーローダーに話を通しておいた。用がなければ今日のうちに一階の開発工房に顔を出しておけ」

 

(……やった!)

 

 少し前に、イトは相澤にひとつ相談をしていた。ウェブシューターの調整を、校内でも行えるようにしたい──と。

 ウェブシューターはイトの自作サポートアイテムだ。カートリッジの補充、射出機構のメンテナンス、部品の微調整。自宅に工房があるからこそ運用できている装備だが、裏を返せば自宅でしか整備ができない。日常的に使う装備である以上、学校で調整できれば大きい。

 相澤はその時「考えておく」とだけ言って、以降何も触れなかった。正直、忘れられたかと思っていた。

 

「ありがとうございます、先生」

「別に構わん。──他に何もなければ行って良し」

 

 何気ない確認のはずだった。

 だが──イトの足が止まる。

 

 言おうか。言うべきか。あんな曖昧なことを先生に言って、意味があるのか。

 

「……あの、先生」

「なんだ」

「今日の、食堂の件で」

 

 相澤の目が、ほんの僅かに動いた。

 

「あの騒ぎの時……マスコミとは別に、何か変な感じがしたんです」

「変な感じ」

「うまく言えないんですけど……すごく嫌な、冷たい感覚で。マスコミの人たちとは違う何かが混じっている気がして。何か見つけたわけじゃないし、何があったわけでもないんですけど……なにかが、いた、ような」

 

 言葉にすると、あまりにも漠然としていた。こんな報告に意味があるとは思えない。

 

 相澤はしばらく黙っていた。

 それから、ぽつりと言った。

 

「なるほど。お前の個性か」

「……え?」

 

 なんのことか分からないという様子のイトに、相澤の眉がわずかに動く。

 

「なんだ、知らなかったのか。虫に類する個性には稀に、周囲の微細な変化を感知する能力が備わることがある。空気の振動、温度変化、生体電気──いわゆる危機察知だ」

 

(危機察知──個性……?)

 

 頭の中で、いくつもの記憶が点滅した。

 

 中学の時、真後ろから飛んできたボールを見もせずに避けた。

 入試の時、姿が見えないはずの葉隠が「いる」と分かった。

 戦闘訓練で、轟の凍結が来る直前に体が勝手に跳んだ。

 今日の食堂で、人波に飲まれる前に天井に飛んだ。

 

 ──全部、勘が良いだけだと思っていた。

 

「……個性だったんですか、あれ」

「自覚してるのとしてないのじゃ個性の成長具合も変わる。意識しとけ」

「は、はい」

「よし」

 

 相澤は淡々と続けた。

 

「食堂でお前が感じた異変の件は覚えておく。以上だ、行け」

「……はい。ありがとうございます」

 

 頭を下げて、教室を出た。

 

 

    *

 

 

 廊下を歩きながら、イトはさっきの言葉を反芻していた。

 

(個性……。あの感覚が、個性)

 

 ずっと「勘が良い」で片付けてきた。自分の体が蜘蛛の個性で強化されていること自体は分かっていた。筋力も、吸着も、糸も。でもあの感覚──あの、体の奥底から走る警告だけは、個性だと思ったことがなかった。

 

(意識しとけ、か……)

 

 試しに、意識を集中してみる。周囲に何かの気配はないか。危険はないか。

 

 ──何も感じない。放課後の静かな廊下が広がっているだけだった。

 

(……やっぱり無理だ。来る時は、勝手に来るんだよなあ)

 

 階段を降り、一階の奥へ向かう。サポート科の開発工房は校舎の端──ヒーロー科の教室からはだいぶ離れた場所にあった。

 聞こえるのは自分の足音と、遠くの部活動の声だけ。それなのに、相澤の言葉を聞いた今は、自分の感覚が妙に意識される。

 

 角を曲がると、大きな鉄の扉が見えた。扉の上に英語で「開発スタジオ」と書かれたプレートが掲げられている。中から、かすかに金属が軋む音と排気のような音が漏れている。

 

(ここか……)

 

 深呼吸をひとつ。扉のノブに手を伸ばした。

 

 

 ──ぞわっ。

 

 

 手を一気に引っ込め、イトはその場から飛び退いた。

 

 

 直後──轟音。

 

 

 扉が内側から吹き飛んだ。鉄の塊がイトの立っていた場所を通過し、廊下の壁に叩きつけられる。爆風と黒煙が、枠だけになった入口から噴き出した。

 

(──ッ!)

 

 天井に張り付いた状態で、イトは目を見開いていた。心臓がばくばくと鳴っている。

 

(こ、これ、今の──)

 

 個性だ。さっき相澤先生に聞いたばかりの、危機察知。あの扉をまともに食らっていたら確実に吹き飛ばされていた。

 

(この学校危ないことばっか……)

 

「発目ぇ!! お前何回目だ!!」

「フフフ、数えてないんですかパワーローダー先生? 七回目です!」

「そういう話じゃねえ!!」

 

 煙が晴れていく中、部屋から声が聞こえた。

 

 開発スタジオの中は──控えめに言って、戦場の跡だった。

 工具や部品があちこちに散乱し、壁には焦げ跡が幾重にも重なっている。その中で、ヘルメットのような装具を被った小柄な男性──パワーローダーが頭を抱えていた。

 

 そして、その横に。

 

「あら、お客さま?」

 

 ゴーグルを額に上げた女子生徒が、煤だらけの顔でにっこりと笑った。ピンクの髪が煤で灰色がかっている。服はあちこちが焦げ、手にはまだ何か──爆発の原因としか思えない装置を持ったまま。

 爆発の直後とは思えない、あっけらかんとした声だった。

 

「あなた初めましてですね! 私サポート科の発目明です!」

 

 イトは天井に張り付いたまま、答えた。

 

「……安良久根イトです。ヒーロー科の」

「ヒーロー科! なる程!」

 

(何に納得したんだろう)

 

「では私は忙しいので! 第四子の完成までもうすぐなんです」

「その前に片付けだよ! お前まさか散らかすだけ散らかしてこのまま帰る気じゃないよな?」

 

 発目のマイペースな声とパワーローダーの怒声が廊下に響く。

 イトは天井からゆっくりと降りた。

 

(……すごい人がいた)

 

 あの感覚は、この人物に対して何の反応も示さなかった。

 

 ──危険ではある。でも、悪意はない。たぶん。

 




発目明、襲来。

感想、評価お待ちしております。

中学編、USJ編みたいな章区分あった方がいいですか?

  • あった方がいいかも
  • なくてもいいかも
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。