僕のヒーローアカデミア:スパイダーウェブ   作:スパイダーキャット

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もしかして私ってけっこう筆はやいのでは?



第14話 技術仲間

「いやあ、悪いね。改めてよろしく、安良久根さん」

 

 パワーローダーが差し出した手を、イトは控えめに握った。ヘルメットのような装具の奥から覗く目は、厳しそうだが理不尽ではなさそうだ。

 

「よろしくお願いします、パワーローダー先生」

「イレイザーヘッドから話は聞いてるよ。ドリルと旋盤は自由に使っていい。溶接機だけは事前に声をかけてくれ」

「はい。ありがとうございます」

「構わないよ」

「その、扉のこと……」

「ああ、あれはいつものことだから気にしなくていい」

「いつもの……」

 

 廊下に転がった鉄の扉を見る。壁にめり込んでいた。

 パワーローダーは工房の奥に目を向けた。煤だらけの背中が、何かの装置に向かってカチカチと作業を再開している。

 

「……あの人は、いつもああなんですか」

「発目か」

 

 パワーローダーは少し疲れたような、でもどこか誇らしげな声で言った。

 

「入学初日から毎日、閉門ギリギリまでここにいるよ」

「初日から……」

「技術屋ってのは大抵どっかネジが飛んでるもんだが、あいつは別格だ」

 

 パワーローダーの視線が、発目の背中に向く。

 

「サポート科と思えばそれも才能だけどな。──まあ、爆発にだけは気をつけてくれ」

「肝に銘じます」

 

(サポート科に入っていたら、あの人がクラスメイトだったかもしれないのか……)

 

 背筋が薄ら寒くなった。ヒーロー科を選んでよかったと、入学以来最も心の底から思う。

 

「散らかしっぱなしにさえしなければ、ここは好きに使って構わない」

 

 パワーローダーがイトに作業スペースを案内しながら言った。壁際の一角に、工具棚と作業台が用意されている。最低限の設備だが、ウェブシューターの整備には十分だ。

 

「その手首のアイテム、自作なんだってね」

「あ、はい。家の工房で──」

 

「自作?」

 

 声が──横から飛んできた。

 

 さっきまで背中を向けて作業に没頭していたはずの発目が、いつの間にかイトの真横にいた。近い。位置がおかしいくらい近い。

 

「興味あります! ちょっと拝見!」

「え、ちょっ──」

 

 発目がイトの右腕を掴んだ。そのまま手首を自分の顔の前に持ってきて、ウェブシューターに十字の瞳を近づける。

 

「手首に装着…用途はなんでしょう。このスイッチは起動用? 押すと──」

 

 シュッ。

 

「へぶっ」

 

 至近距離から射出されたウェブが、発目の顔面に直撃した。白い糸が顔全体を覆い、張り付く。

 

「はっ、発目さん!?」

 

 発目が両手で顔をバタバタと叩いている。ウェブが口と鼻を塞いでいる。息ができていない。

 

「ま、待って──剥がすから!!」

 

 イトは慌てて発目の顔に張り付いた糸を剥がしにかかった。自分の糸だから剥がし方は分かる──端を見つけて、繊維の方向に沿って──

 

 べりっ。

 

「ぷはっ!」

 

 糸が剥がれ、発目が盛大に息を吸い込んだ。顔に糸の跡が残っている。

 

「死ぬかと思いました!」

 

 あっけらかんとした声。反省の色はゼロだった。

 

「発目!! 人のアイテムを勝手に──」

「こちら見てくださいパワーローダー先生! この射出機構、小型なのにちゃんとしたバルブが入ってます!」

 

 パワーローダーの叱責を完全に無視して、発目は再びイトの手首に目を向けた。今度は射出ボタンを避けて、本体の構造を覗き込んでいる。

 

「えっと……あの、大丈夫ですか顔」

「何がです? それよりこれカートリッジ式ですよね? 何を射出してるんです? 充填方法は?」

「あの…」

「あと電源は? バネ式? 空気圧? まさか電磁式?」

「えっと、順番に──」

「あとあと、この本体の材質は何です? チタン? 強化プラスチック?」

 

(こわい)

 

 矢継ぎ早すぎて処理が追いつかない。

 でも──聞かれていることの一つ一つは、的確だった。

 

「……えっと」

 

 ひと呼吸して、イトは続ける。

 

「……カートリッジは私の個性を参考に調合した液が圧縮されて入ってます、それを糸として射出するんです。充填は手動」

 

 ひとつ答えると、発目の目が輝いた。

 

「ほう、射出圧の調整も手動ですか?」

「バネ式で、ダイヤルで三段階」

「糸の太さは?」

「液は射出後の空気接触で固化するから、射出口の径で決まるの。今は0.8mmの単一径」

「可変にする気は?」

「したいけど、機構が大きくなりすぎて──」

 

「あーーー、もったいない!!」

 

 発目が声を上げた。

 

「ノズルの交換式にすれば解決しません? 径の違うノズルを複数用意して──」

「考えたけど、交換にかかる時間が戦闘中だと致命的で」

「だったら回転式にして──こう、ドラムマガジンみたいに──」

「……それ、バルブの配置次第では──」

 

 止まらなくなっていた。

 

「あとここの射出口、あと2mm広げれば射程15%は伸びますよ」

「でもそうすると糸の拡散率が上がって精度が──」

「だったら内壁に螺旋溝を切ればどうです? ライフリングと同じ原理で直進性が──」

「……! それ、いけるかも」

 

 発目がにんまりと笑った。イトも、気づけば前のめりになっていた。

 

 パワーローダーは二人のやりとりを、腕を組んで黙って見ていた。

 

 

    *

 

 

「あとはこの部分の回路なんですけどね」

 

 気がつくと、イトは発目の作業台の横に座っていた。

 目の前には発目の「第四子」──さっき爆発を引き起こした装置の改良版が広げられている。基板がむき出しになった状態で、配線が蜘蛛の巣のように絡まっている。

 

「ここの出力が安定しないんです。電流を上げると過熱して、下げるとパワーが足りない」

 

 発目が回路図を指さす。手書きの図面だが、思考の密度がすごい。走り書きのメモが余白を埋め尽くしている。

 

「……ここ、抵抗値が合ってなくない?」

「え?」

「この経路、電流がここで分岐してるのに抵抗が均等じゃない。だから片方に電流が集中して過熱する」

 

 イトは作業台のペンを借りて、回路図の余白に数式を書いた。

 

「こう分圧すれば、両方の経路に均等に──」

「……なる程、盲点!!」

 

 発目が身を乗り出した。

 

「やりますね! この計算ぱっと出ます?」

「回路設計は伯父に教わったから……基礎的な分圧計算くらいなら」

「それ基礎じゃないです! あなたなんでヒーロー科にいるんです?」

「……」

 

 発目はもう回路の修正に取りかかっていた。イトの計算を元に、ものすごいスピードで配線を組み替えていく。その手際は──正直、すごかった。理論を実装に変換する速度が尋常じゃない。

 

(この人……わたしが計算で出したことを、手で実現できるんだ)

 

「できました! 通電しますよ! 三、二、」

 

 パワーローダーの声が工房の端から飛んできた。

 

「お前ら、時間だ」

 

「えー!! あとワンステップなのに!!」

「閉門時間だよ。片付けろ」

「あと5分だけ!」

「あと5分認めたらあと50分居座ろうとすんのがお前だ。これ以上食い下がると出禁にするぞ」

「そんな!?」

 

 発目が心底残念そうな顔をした。イトも──自分でも意外なことに、同じ気持ちだった。

 

「発目さん。……明日もここに居る? できれば今日の続き…」

「もちろんです! 放課後来てください! あと、射出口の件も計算してきてくれたら!」

 

 発目が目を輝かせる。あの十字の瞳が、まっすぐにイトを見ている。

 

「あ……うん。計算、してくる」

「ではまた明日! ええと……お名前忘れました!」

「えぇ!?」

 

 まさかの会って数時間で名前を忘れられ、イトは戦慄した。

 

「……安良久根イト」

「イトさん! 覚えました!」

「え、名前呼び!?」

「だって安良久根って発音しづらいです。いけません?」

「……いや、いい…けど」

「ではそういうことで!」

 

 工具を片付け、作業台を拭いて、工房を出る。パワーローダーがイトの背中に声をかけた。

 

「気に入られちまったね」

「……みたいです」

 

 廊下を歩きながら、イトはふと笑った。

 

 すごい人だった。距離感はゼロだし、人の装備で窒息しかけるし、パワーローダーの言うことは聞かない。でも──あの人の目が技術を見る時の輝きは、伯父さんと同じだった。

 

(また明日、か)

 

 帰り道の足取りが、少しだけ軽かった。

 




ウェブシューター強化フラグ。
発目さん書いてて楽しいけど無限にむずいです。

中学編、USJ編みたいな章区分あった方がいいですか?

  • あった方がいいかも
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