僕のヒーローアカデミア:スパイダーウェブ 作:スパイダーキャット
第15話 救助訓練
「──以上です」
相澤が言葉を締めた。雄英高校、職員室棟。放課後の会議室に教員たちが集まっている。
長い机を囲む椅子には、校長の根津を筆頭に、ブラドキング、エクトプラズム、ミッドナイト、プレゼントマイク、13号、セメントス──雄英ヒーロー科に関わる教員のほぼ全員が顔を揃えている。オールマイトも端の席に座っていた。
「なるほど」
根津が口を開く。
「個性由来の情報とはいえ、生徒一人の曖昧な報告を鵜呑みにはできないのさ」
「しかし……」
「分かってるのさ。雄英バリアーが破壊された件もある……無視するわけにもいかないのさ」
「ですよねえ」
ミッドナイトが同意する。
「物的証拠と生徒からの報告──二つが重なった以上、対策を講じるべきだろうね」
根津はゆっくりと会議室を見渡した。
「敷地内警備を強化するのさ。教員のパトロール頻度を上げ、セキュリティシステムの見直しも行う。ただし──」
ここで根津の声が、少し慎重になった。
「生徒や外部には公表しないのさ。侵入者の存在が確認されたわけではなく、あくまで予防措置。不要な不安を広げれば、それ自体がリスクになる」
異論はなかった。
「それと、オールマイト」
根津が視線を向けた。
「君には別途、お願いがあるのさ」
オールマイトが姿勢を正した。
「勤務時間外のヒーロー活動を、当面の間自粛してほしいのさ」
「……校長」
「今の雄英に、君の不在が生むリスクは大きすぎるのさ。事件や災害に駆けつけたい気持ちは分かるけど、この街には君以外にもたくさんヒーローがいる。雄英教師を引き受けた以上は、学校の事情を優先してほしい」
オールマイトは口を開きかけて、閉じた。
「……了解しました」
低い声は穏やかだったが、重かった。会議室の空気が一瞬だけ張り詰める。
「頼んだのさ」
根津は柔らかく微笑んで、次の議題へ移った。
*
──あの日から、数日が過ぎた。
イトの放課後は、開発工房に通う日々になりつつあった。
初日に計算してきたライフリングの件を発目に見せたところ、発目は即座に設計図を引き始めた。翌日には試作品の素材を用意し始め、三日目にはスパナを片手に「イトさん、ここ押さえてください!」と叫んでいた。どうやら発目のペースは常にこの速度であるらしい。
信じられないことに発目は、これらを自身の開発と並行して行っていた。
(いつ来ても居るし……授業中にも入り浸ってたりしないよね?)
イトはウェブシューターの日常整備をしながら、隣で炎を上げる発目の作業を横目に見る日々を送っていた。
「イトさんご覧ください! 記念すべき第十子です!」
「えっすごい。ここの機構どうなってるの?」
「そちらはですね……」
パワーローダーは二人のやりとりに苦笑しつつも、特に止めなかった。
教室では、ちょっとした事件があった。
落とした消しゴムを拾おうとして、腰を折らずに背中だけを曲げながら地面に手をつき、身体がほぼ二つ折りの状態で拾い上げた。イト本人にとっては無意識の自然な動きだったが、周囲がドン引きしていたことに遅れて気づいた。
それ以来「後ろから安良久根に声をかけたら首が180度回りそう」という噂が一部で流れている。回らない。
「安良久根ちゃんって体柔らかいよねー」
「まあ、人並みよりは」
「あははは、人並みて。関節おかしかったもん完全に」
葉隠はもう慣れたもので、笑い飛ばしてくれる。ありがたい友人だ。
*
そんな日常を過ごしていた、ある日の午後。
「本日のヒーロー基礎学だが…」
教壇に立つ相澤が、淡々と告げた。
「オールマイトは欠席、俺ともう一人で見ることになった」
(オールマイトが欠席──?)
「内容は、災害水難なんでもござれの
「「「救助訓練!!」」」
教室の空気が一気に変わる。
「今回も大変そうだなー」
「ね!」
「バカおめーこれこそヒーローの本分だろ! 鳴るぜ腕が!」
「水難なら私の独壇場、ケロ」
興奮するクラスメイトたちに混じって、イトも静かに高揚していた。
(救助……いよいよだ!)
「おいまだ途中」
相澤の言葉で、教室に静寂が戻る。
「コスチュームの着用は各自の判断に任せる。活動場所を選ぶコスチュームもあるだろうからな」
コスチューム収納棚を展開しながら続ける。
「訓練場まではバスで移動だ。以上、準備開始」
全員がコスチュームに着替え、校舎の前に集合した。バスが停まっている。
「整列! スムーズに乗車できるよう番号順に二列で並ぼう!」
「飯田くんフルスロットル……!」
委員長の飯田が笛を吹いて列を整えようとしたが、バスの座席はオープンシートだった。出席番号はあまり関係ない。
「くそう!」
「ドンマイ」
落ち込む飯田を横目に、皆がバスに乗る。
窓際の席に滑り込むと、隣に耳郎が座った。
「よっ」
「あ、うん」
バスが発進する。周囲ではすでに賑やかな会話が始まっている。
「私思ったことなんでも言っちゃうの、緑谷ちゃん」
蛙吹の声が聞こえた。いつもの率直な口調で、緑谷に何かを聞いている。
「あなたの個性オールマイトに似てる」
「えっ!? そそそそそうかないやでも僕はそのえー…」
緑谷が慌てて否定しているのを聞きながら、イトは小さく笑った。
「あんたさ」
しばらく緑谷たちの会話を聞いていると、耳郎が声をかけてきた。イヤホンジャックを指先で弄びながら、少し興味深そうに。
「最近毎日どっか行ってない? 放課後とか休み時間」
「あ……うん。サポート科の工房借りてて」
「へえ。何やってんの」
「ウェブシューターの調整とか」
「あー、あの手首のやつ。自分でいじってんの?」
「まあ、うん」
「へー、すご。ウチも楽器のメンテくらいはするけど、そーいうのは無理だわ」
(耳郎さん、楽器やるんだ)
「そのうち見せてよ、工房」
「いいけど、爆発に注意」
「は?」
説明する前にバスが減速した。
「もう着くぞ。いい加減にしとけよ」
「ハイ!!!」
騒々しい車内に、相澤の怒声と飯田の返事が響く。
窓の向こうに、巨大なドーム型の建物が見えていた。
*
「わあ……!」
「すっげーーー!! USJかよ!!?」
救助訓練場はレジャー施設のような広さだった。
バスを降りて中に入ると、一人の人物が待っていた。宇宙服のような丸いスーツ。両手を広げて出迎えるその姿に、イトの心臓が跳ねた。
「みなさん、いらっしゃい!」
あらゆる災害現場で活躍し、数え切れない人を救ってきた──救助のスペシャリスト。
(ほんものだ)
イトの目が、見開かれた。
(13号だ──!)
生徒の話はちゃんと聞いてる相澤センセ素敵。
耳郎さんは原作では爆豪の隣に座ってましたが、女子の隣が空いてればそっちに座るだろうと思いまして今回の位置になりました。かわいいよね、耳郎さん。
中学編、USJ編みたいな章区分あった方がいいですか?
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あった方がいいかも
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なくてもいいかも