僕のヒーローアカデミア:スパイダーウェブ 作:スパイダーキャット
施設の中は、想像以上だった。
水害ゾーン、土砂災害ゾーン、火災ゾーン、暴風ゾーン──広大なドームの中に、あらゆる災害の模擬環境が詰め込まれている。まるでテーマパークの裏側に災害を丸ごと収容したような規模。
「すごい……全部シミュレーションできるんだ」
「そう、あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も──
思わず漏れた声に13号が答えてくれ、イトは顔を赤くして俯いた。というか本当にUSJだった。
「スペースヒーロー13号だ! 災害救助でめざましい活躍をしてる紳士的なヒーロー!」
「わー私好きなの13号!」
他のクラスメイトたちも13号の姿に興奮している。
イトは改めて施設内を見渡した。
13号が作ったこの施設で、たくさんの生徒が訓練を行ってきたのだろう。そして、数え切れない救助ヒーローが育ってきた。
「えーでは、始める前にお小言を一つ二つ・・・三つ、四つ⋯⋯」
(増える⋯⋯)
「皆さんご存知かと思いますが、僕の個性は"ブラックホール"。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」
「その個性でどんな災害からも人を救い上げるんですよね!!」
緑谷が興奮した様子で言い、麗日が勢いよく首を縦に振る。
あらゆるものを吸い込み、チリと還す個性。イトもよく知っている。しかし、その本質は──
「ええ。しかし簡単に人を殺せる個性です」
空気が変わった。
「皆の中にもそういう個性がいるでしょう」
13号の声は穏やかだった。
「この超人社会は個性の使用を資格制とし、厳しく規制することで一見成り立っているように見えます。しかし、一歩間違えば容易に人を殺せてしまう"いきすぎた個性"を、各々が持っていることを忘れないでください」
だが、一言ごとに重みがあった。生徒たちは真剣な面持ちで耳を傾ける。
「相澤さんの体力テストで自身の力の可能性を、オールマイトの対人戦闘でそれを人に向ける危うさを、それぞれ知ったかと思います。この授業では心機一転! 人命のためにどう個性を活用するかを学んでいきましょう」
13号が両手を広げ、明るい声で宣言した。
「皆さんの個性は人を傷つけるためにあるのではない。救けるためにあるのだと! そう心得て帰ってくださいな」
イトは少しだけ涙ぐみ、そしてそれを拭った。
イトが憧れ、こうなりたいと描いたヒーローが、今目の前にいる。
胸がいっぱいになる気持ちだった。
「以上! ご静聴ありがとうございました」
「ブラボー! ブラーボー!!」
「ステキ!」
「13号カッケーなあ」
13号が大きなヘルメットをぺこりと下げ、大きな拍手が起きた。
イトも拍手をしながら、胸の奥がじんと熱くなるのを感じていた。
「さあ皆さん、早速──」
13号が訓練の説明を始めようとした、その時だった。
──ぞく。
背筋を、氷の刃が走った。
食堂の時とは桁が違う。体中の毛穴が開き、心臓が一拍飛ぶ。全身が叫んでいる。逃げろ。逃げろ。逃げろ──
「安良久根、どうした」
相澤が振り向いた。イトの様子が変わったことに、即座に気づいたらしい。
「先生……来ます」
「何がだ」
「分からない……でも、来ます。食堂の時と同じ──いえ、もっとずっと──」
言い切る前に、それは始まった。
USJの中央広場──噴水の前の空間が、黒く歪む。
「──なんだ、あれ」
誰かが呟いた。黒い靄のようなものが、空間を侵食するように広がっていく。
そこから──人が出てきた。
一人、二人──次々と。フードを被った集団。異様な風貌の者たち。そしてその中心に、無数の手を体に張り付けた男と──全身が黒い靄で構成された、人の形をした何か。
「ひとかたまりになって動くな!!」
相澤の怒声が響いた。
「13号、生徒を守れ!」
「はい!」
「先生、あれは──」
「黙ってろ。あれは…
「おかしいですね…」
靄の男が口を開く。
「先日頂いた教師側のカリキュラムでは、オールマイトがここにいるはずなのですが……」
「どこだよ……せっかく大衆引き連れてきたってのに…」
手の男が、苛ついた様子で続ける。
「オールマイト…平和の象徴……いないなんて……」
その声は。
「子どもを殺せば来るのかな?」
底なしの悪意に満ちていた。
*
「ヴィラン!? バカかよ! ここヒーローの学校だぞ!?」
「先生、侵入者用のセンサーは…」
「もちろんあります。ですが……」
「反応してないのね、ケロ」
「奴らの個性だろうな」
轟が冷静に言った。
「襲撃の場所とタイミングも良すぎる。これは…目的があって、用意周到に画策された奇襲だ」
「目的って……ヒーローの学校襲う理由なんてあんのかよ?」
「知らねえ」
「その辺にしとけ」
相澤が口を開く。
「13号避難開始! 学校に連絡試せ。センサーが無効化されてるくらいだ、電波系の
「はい」
「上鳴おまえも個性で連絡試せ」
「…っス!」
「安良久根、また何か感じたらすぐに13号に報告しろ」
「わ、分かりました。あの、先生は……」
「先生は!? 一人で戦うんですか!?」
静かに戦闘準備を整える相澤に、緑谷が叫ぶ。
「イレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の個性を消してからの捕縛だ! 正面戦闘は……」
心配そうに言う緑谷に、相澤はゴーグルを下ろしながら答えた。
「一芸じゃヒーローは務まらん」
*
相澤が、広場に現れた敵を単独で圧倒している。
「すごい…! 多対一こそ先生の得意分野だったんだ」
「分析してる場合じゃないぞ!! 早く避難を──」
「させませんよ」
突如イトたちの目の前に現れた靄の男が、飯田の言葉を遮った。
「初めまして、我々は
悍ましい雰囲気にそぐわない、丁寧な言葉遣いで、靄の男は──
「平和の象徴オールマイトに、息絶えて頂きたいと思ってのことでして」
雰囲気通りに、世にも悍ましい台詞を口にした。
「本来ならばここにオールマイトがいらっしゃる筈…何か変更あったのでしょうか?」
「…!」
(学校の予定を知ってた? 轟くんも言ってたけど…やっぱりこれは計画された襲撃)
「まあ、どちらにせよ私の役目は変わりませんが」
黒い靄が急激に膨張──する瞬間。
「オラァ!」
「死ねェ!!」
切島と爆豪が動いた。硬化した拳と爆破が襲い掛かるが、靄の男は
「その前に俺たちにやられることは考えなかったか!?」
「危ない…そうだった。生徒といえど優秀な金の卵」
「! ダメだ、どきなさい二人とも!!」
13号が叫んだ。イトの感覚が絶叫する。
「散らして、嬲り、殺す」
(まずい──!)
今度こそ大きく広がった黒い霧が、生徒たちを呑み込んだ。
*
「何が……」
視界が回復する。
周囲を見ると、数人のクラスメイトの姿が確認できた。飯田、麗日、障子、砂藤、芦戸──そして13号。
だが、他の皆の姿がない。
「緑谷くん……葉隠さん……!」
(みんな──!)
「消えた者たちは!? 確認できるか!?」
「散り散りになってる。だがこの施設内だ」
「!」
飯田の質問に、複製椀から耳を生やした障子が答える。消えてしまったと思ったクラスメイトは、どうやら施設内にバラバラに飛ばされたらしい。
(ワープの個性……!!)
13号が前に出た。黒い靄の男は、まだそこにいる。入口を塞ぐように。
「……委員長」
「はい!」
「君に託します。学校まで駆けてこの事を伝えてください」
「…!!」
13号の声は、訓示の時と同じように穏やかだった。
「電話も圏外になっています。先輩…イレイザーヘッドが個性を消し回っているのに電波が復活しない、つまり
「しかしクラスの皆を置いていくなど…」
「行けって非常口!」
砂藤が叫ぶ。
「外なら警報もある! だからこいつらは
「救うために、個性を使ってください! 飯田くん!!」
「食堂の時みたく…サポートなら私超できるから! する、から! お願いね委員長!!」
「……ッ!!」
背中を押す皆の声に、飯田の表情が苦しそうに歪む。
(……私、も)
飯田を外に送り届ける。そのために──
(「救う」ために……動くんだ)
「飯田くん……行って」
イトはマスクを被りながら、姿勢を低くした。
中学編、USJ編みたいな章区分あった方がいいですか?
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あった方がいいかも
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なくてもいいかも