僕のヒーローアカデミア:スパイダーウェブ   作:スパイダーキャット

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第16話 襲撃事件

 

 施設の中は、想像以上だった。

 

 水害ゾーン、土砂災害ゾーン、火災ゾーン、暴風ゾーン──広大なドームの中に、あらゆる災害の模擬環境が詰め込まれている。まるでテーマパークの裏側に災害を丸ごと収容したような規模。

 

「すごい……全部シミュレーションできるんだ」

「そう、あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も──ウソの災害や事故ルーム(U S J)!!」

 

 思わず漏れた声に13号が答えてくれ、イトは顔を赤くして俯いた。というか本当にUSJだった。

 

「スペースヒーロー13号だ! 災害救助でめざましい活躍をしてる紳士的なヒーロー!」

「わー私好きなの13号!」

 

 他のクラスメイトたちも13号の姿に興奮している。

 イトは改めて施設内を見渡した。

 13号が作ったこの施設で、たくさんの生徒が訓練を行ってきたのだろう。そして、数え切れない救助ヒーローが育ってきた。

 

「えーでは、始める前にお小言を一つ二つ・・・三つ、四つ⋯⋯」

 

(増える⋯⋯)

 

「皆さんご存知かと思いますが、僕の個性は"ブラックホール"。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」

「その個性でどんな災害からも人を救い上げるんですよね!!」

 

 緑谷が興奮した様子で言い、麗日が勢いよく首を縦に振る。

 あらゆるものを吸い込み、チリと還す個性。イトもよく知っている。しかし、その本質は──

 

「ええ。しかし簡単に人を殺せる個性です」

 

 空気が変わった。

 

「皆の中にもそういう個性がいるでしょう」

 

 13号の声は穏やかだった。

 

「この超人社会は個性の使用を資格制とし、厳しく規制することで一見成り立っているように見えます。しかし、一歩間違えば容易に人を殺せてしまう"いきすぎた個性"を、各々が持っていることを忘れないでください」

 

 だが、一言ごとに重みがあった。生徒たちは真剣な面持ちで耳を傾ける。

 

「相澤さんの体力テストで自身の力の可能性を、オールマイトの対人戦闘でそれを人に向ける危うさを、それぞれ知ったかと思います。この授業では心機一転! 人命のためにどう個性を活用するかを学んでいきましょう」

 

 13号が両手を広げ、明るい声で宣言した。

 

「皆さんの個性は人を傷つけるためにあるのではない。救けるためにあるのだと! そう心得て帰ってくださいな」

 

 イトは少しだけ涙ぐみ、そしてそれを拭った。

 イトが憧れ、こうなりたいと描いたヒーローが、今目の前にいる。

 胸がいっぱいになる気持ちだった。

 

「以上! ご静聴ありがとうございました」

 

「ブラボー! ブラーボー!!」

「ステキ!」

「13号カッケーなあ」

 

 13号が大きなヘルメットをぺこりと下げ、大きな拍手が起きた。

 イトも拍手をしながら、胸の奥がじんと熱くなるのを感じていた。

 

 

「さあ皆さん、早速──」

 

 13号が訓練の説明を始めようとした、その時だった。

 

 

 ──ぞく。

 

 

 背筋を、氷の刃が走った。

 食堂の時とは桁が違う。体中の毛穴が開き、心臓が一拍飛ぶ。全身が叫んでいる。逃げろ。逃げろ。逃げろ──

 

「安良久根、どうした」

 

 相澤が振り向いた。イトの様子が変わったことに、即座に気づいたらしい。

 

「先生……来ます」

「何がだ」

「分からない……でも、来ます。食堂の時と同じ──いえ、もっとずっと──」

 

 言い切る前に、それは始まった。

 

 USJの中央広場──噴水の前の空間が、黒く歪む。

 

「──なんだ、あれ」

 

 誰かが呟いた。黒い靄のようなものが、空間を侵食するように広がっていく。

 

 そこから──人が出てきた。

 一人、二人──次々と。フードを被った集団。異様な風貌の者たち。そしてその中心に、無数の手を体に張り付けた男と──全身が黒い靄で構成された、人の形をした何か。

 

「ひとかたまりになって動くな!!」

 

 相澤の怒声が響いた。

 

「13号、生徒を守れ!」

「はい!」

 

「先生、あれは──」

「黙ってろ。あれは…(ヴィラン)だ」

 

 

「おかしいですね…」

 

 靄の男が口を開く。

 

「先日頂いた教師側のカリキュラムでは、オールマイトがここにいるはずなのですが……」

「どこだよ……せっかく大衆引き連れてきたってのに…」

 

 手の男が、苛ついた様子で続ける。

 

「オールマイト…平和の象徴……いないなんて……」

 

 その声は。

 

 

「子どもを殺せば来るのかな?」

 

 

 底なしの悪意に満ちていた。

 

 

 

    *

 

 

 

「ヴィラン!? バカかよ! ここヒーローの学校だぞ!?」

「先生、侵入者用のセンサーは…」

「もちろんあります。ですが……」

「反応してないのね、ケロ」

「奴らの個性だろうな」

 

 轟が冷静に言った。

 

「襲撃の場所とタイミングも良すぎる。これは…目的があって、用意周到に画策された奇襲だ」

「目的って……ヒーローの学校襲う理由なんてあんのかよ?」

「知らねえ」

「その辺にしとけ」

 

 相澤が口を開く。

 

「13号避難開始! 学校に連絡試せ。センサーが無効化されてるくらいだ、電波系の個性(やつ)が妨害している可能性もある」

「はい」

「上鳴おまえも個性で連絡試せ」

「…っス!」

「安良久根、また何か感じたらすぐに13号に報告しろ」

「わ、分かりました。あの、先生は……」

「先生は!? 一人で戦うんですか!?」

 

 静かに戦闘準備を整える相澤に、緑谷が叫ぶ。

 

「イレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の個性を消してからの捕縛だ! 正面戦闘は……」

 

 心配そうに言う緑谷に、相澤はゴーグルを下ろしながら答えた。

 

「一芸じゃヒーローは務まらん」

 

 

    *

 

 

 相澤が、広場に現れた敵を単独で圧倒している。

 

「すごい…! 多対一こそ先生の得意分野だったんだ」

「分析してる場合じゃないぞ!! 早く避難を──」

 

「させませんよ」

 

 突如イトたちの目の前に現れた靄の男が、飯田の言葉を遮った。

 

「初めまして、我々は(ヴィラン)連合。僭越(せんえつ)ながらこの度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは」

 

 悍ましい雰囲気にそぐわない、丁寧な言葉遣いで、靄の男は──

 

 

「平和の象徴オールマイトに、息絶えて頂きたいと思ってのことでして」

 

 

 雰囲気通りに、世にも悍ましい台詞を口にした。

 

 

「本来ならばここにオールマイトがいらっしゃる筈…何か変更あったのでしょうか?」

「…!」

 

(学校の予定を知ってた? 轟くんも言ってたけど…やっぱりこれは計画された襲撃)

 

「まあ、どちらにせよ私の役目は変わりませんが」

 

 黒い靄が急激に膨張──する瞬間。

 

 

「オラァ!」

「死ねェ!!」

 

 

 切島と爆豪が動いた。硬化した拳と爆破が襲い掛かるが、靄の男は(すんで)の所で回避する。

 

「その前に俺たちにやられることは考えなかったか!?」

「危ない…そうだった。生徒といえど優秀な金の卵」

「! ダメだ、どきなさい二人とも!!」

 

 13号が叫んだ。イトの感覚が絶叫する。

 

「散らして、嬲り、殺す」

 

(まずい──!)

 

 

 今度こそ大きく広がった黒い霧が、生徒たちを呑み込んだ。

 

 

    *

 

 

 「何が……」

 

 視界が回復する。

 周囲を見ると、数人のクラスメイトの姿が確認できた。飯田、麗日、障子、砂藤、芦戸──そして13号。

 だが、他の皆の姿がない。

 

「緑谷くん……葉隠さん……!」

 

(みんな──!)

 

「消えた者たちは!? 確認できるか!?」

「散り散りになってる。だがこの施設内だ」

「!」

 

 飯田の質問に、複製椀から耳を生やした障子が答える。消えてしまったと思ったクラスメイトは、どうやら施設内にバラバラに飛ばされたらしい。

 

(ワープの個性……!!)

 

 13号が前に出た。黒い靄の男は、まだそこにいる。入口を塞ぐように。

 

「……委員長」

「はい!」

「君に託します。学校まで駆けてこの事を伝えてください」

「…!!」

 

 13号の声は、訓示の時と同じように穏やかだった。

 

「電話も圏外になっています。先輩…イレイザーヘッドが個性を消し回っているのに電波が復活しない、つまり電波妨害(これ)をやっているヴィランは襲撃に参加していません。ならばそいつを見つけ出すよりも君が駆けた方が早い」

「しかしクラスの皆を置いていくなど…」

「行けって非常口!」

 

 砂藤が叫ぶ。

 

「外なら警報もある! だからこいつらは施設()の中だけで事起こしてんだろ!」

「救うために、個性を使ってください! 飯田くん!!」

「食堂の時みたく…サポートなら私超できるから! する、から! お願いね委員長!!」

 

「……ッ!!」

 

 背中を押す皆の声に、飯田の表情が苦しそうに歪む。

 

(……私、も)

 

 飯田を外に送り届ける。そのために──

 

(「救う」ために……動くんだ)

 

「飯田くん……行って」

 

 イトはマスクを被りながら、姿勢を低くした。

 

 

中学編、USJ編みたいな章区分あった方がいいですか?

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