僕のヒーローアカデミア:スパイダーウェブ   作:スパイダーキャット

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第17話 止まらない、止まれない

 

「手段がないとはいえ、敵前で策を語る阿呆がいますか」

「バレても問題ないから語ったんでしょうが!!」

 

 言うのと同時に、13号がブラックホールを発動した。

 全てを引き込む力が、靄を跡形もなく──

 

 

「13号ッ!!!」

 

 

 気がついた時には地面を蹴飛ばしていた。

 個性把握テストの時に思いついた、個性の活用。地面に足を吸着させ、踏み切りの瞬間に解除することで跳躍に足の力を最大限伝える。

 イトは無意識のうちにその技術を使い、13号に突っ込んでいた。

 

「な──」

 

 靄の男が驚愕の声を上げる。

 

 ──刹那。

 

 13号が立っていた場所の背後に、黒い穴が開いた。

 ブラックホール。13号自身のブラックホールが、ワープゲートで背後に転送されていた。

 イトが13号に体当たりした勢いで、二人の体は横に跳ぶ。ブラックホールの吸引範囲から──

 

 ──抜け切れなかった。

 右腕が、灼けた。

 

 

「──ッッッ!!!」

 

 

 声にならない叫び。右腕の外側──前腕から手首にかけて、表面が削り取られている。手首のウェブシューターも半分が消失し、露出した金属部品が火花を散らしていた。

 肉眼で自分の腕の断面が見える。濁流のように血が噴き出す。空気に触れた筋繊維が、灼けるように痛い。

 

「安良久根さん!!」

 

 13号が叫んだ。スーツの背面が一部チリと化し、背中に浅い傷が走っている。しかし行動不能にはなっていない。無事だ。

 

(──動く。右手、動く)

 

 指を握る。激痛が走るが、握れる。折れてはいない。

 

「ぐ……っ」

 

 歯を食いしばって立ち上がる。血が滴って床に水溜まりを作っていく。

 

「安良久根、大丈夫!?」

「安良久根くん!! 腕が──!」

 

 芦戸と飯田が駆け寄った。その目が、イトの右腕を見て凍りつく。

 

「飯田くん……!」

 

 イトは飯田を見た。

 

「飯田くんッ──行って!!!」

 

 ──飯田の目が、大きく見開かれた。

 

「走って!! お願い!!!」

 

 血の滴る腕で、出口を指す。

 飯田は──唇を噛んだ。

 

 イトの目。折れていない目。怪我を負ってなお、自分に「走れ」と叫ぶ目。

 

「……ッ!!」

 

 飯田は振り返った。脚のエンジンが、唸りを上げた。

 

「させると思いますか──ぐッ!」

 

 靄の男が動く──が、一瞬動きが鈍る。

 ワープに呑まれぬよう遠距離で再発動したブラックホールに引っ張られていた。

 

「させて貰うよ!」

「小癪ッ!!」

 

 遠距離では引力が足りず、靄の男はすぐにブラックホールの影響から抜け出す。

 13号を仕留め損ねた苛立ちを押し殺し、飯田の行く手を塞ごうと靄を広げた。

 

「やらせん」

 

 だが、その僅かな時間で十分だった。

 障子が複製腕を広げて靄の男の前に立ちはだかった。巨大な壁のような体躯が、飯田への道を開く。

 

「行け、早く!」

「飯田くん、行って!!」

 

 障子が、麗日が叫ぶ。

 

「くっ──」

 

 靄の男が障子を迂回しようとする。その隙を──

 

「オラァ!!」

「ぐ……いい加減にしろよガキどもが…ッ!!」

 

 砂藤が拳を叩き込んだ。砂糖を口に放り込み、膨れ上がった腕で殴りつける。衝撃で靄の体は一瞬だけ動きが止まる。

 そこに──

 

「理屈は知らへんけど……」

 

 麗日が駆け寄り、

 

「こんなん着とるなら、実体あるってことだよね!!」

「ぐおぉ!?」

 

 靄の中にわずかに見えるコスチュームに触れ、空中へ飛ばした。

 

「飯田くん!」

「今だ飯田!!」

 

 飯田が駆けた。エンジン全開。出口に向かって一直線に──

 

「皆……ッ! 必ず!!!」

 

 飯田の声が遠ざかる。背中が小さくなっていく。

 

 ──行った。

 

(飯田くん……頼んだ)

 

 イトは右腕にウェブを張り付け、強引に止血して息を整えた。少し頭がくらつくが、まだ動ける。ウェブシューターは右側が使用不能。左側は無事だが──

 靄の男が態勢を立て直している。13号が前に出て、残ったクラスメイトの盾になるように立ちはだかった。

 

「安良久根さん、下がりなさい。その腕では──」

「大丈夫です。動けます」

「大丈夫じゃありません!」

 

 13号の声が厳しくなった。

 

「君は既に重傷です。これ以上は──」

 

 

 ──ぞくん。

 

 

 また、来た。

 さっきまでの警告とは違う。もっと遠い。施設の中心──中央広場の方角から。

 

(──先生)

 

 相澤先生が戦っている場所。

 あの場所で、何かがとてつもなく悪い方向に向かっている。

 

「安良久根さん?」

 

 13号が異変に気づいた。イトの目が、中央広場を向いている。

 

「……先生が」

「何?」

「先生が、危ない」

 

 立ち上がった。右腕が脈打つように痛む。それでも、足は動いた。

 

「待ちなさい!!」

 

 13号が叫んだ。

 

「君は怪我をしている! 行ってはいけません!」

 

 ──聞こえている。13号の言葉は、正しい。

 

 でも。

 

(先生が──)

 

 体が、止まらなかった。

 

「安良久根さん!!」

 

 走り出していた。マスクを脱ぎ捨て、右腕を庇う暇もなく跳躍し、前方の建造物にウェブを張り付ける。

 13号の制止が背中に当たる。クラスメイトの声が聞こえる。全部聞こえている。聞こえているのに、体は止まらない。

 

 中央広場が近づいてくる。相澤先生が戦っていたはずの場所。

 

 ──そこに見えたのは。

 

 巨大な、黒い体。

 脳が剥き出しの、異形の怪物が。

 

 相澤の頭を掴み、組み伏せていた。

 

 

    *

 

 

「無理するなよイレイザーヘッド」

 

 手の男が相澤の肘を掴む。五指の触れた場所が軽く崩れた。

 

「ぐッ…!」

 

 相澤が手の男を殴りつける。男は倒れるが、怯んだ様子はない。

 

「その個性…集団との長期決戦は向いてなくないか? 普段の仕事と勝手が違うんじゃないか?」

 

 相澤は聞く耳持たず、次のヴィランを捕縛布で縛り上げる。

 

「それでも真正面から飛び込んできたのは、生徒に安心を与えるためか?」

 

 起き上がろうとする手の男を叩くため、再び男に向き直る。

 

「かっこいいなあ……ところでヒーロー」

 

 その相澤の背後に──

 

「本命は俺じゃない」

 

 

 いつの間にか現れていた、脳が剥き出しの怪物が、相澤の頭を掴み地面に叩きつけた。

 

 

「──ッッッ!!!」

 

 

 脳が揺れ、相澤の体から力が抜ける。

 

「対平和の象徴…改人"脳無"だ」

 

 相澤が脳無と呼ばれた怪物の、地面についた手を"視"る。

 しかし、脳無の力は弱まる様子を見せなかった。

 

(コイツ…素の力でこれか……!!)

 

「"個性を消す個性"も、圧倒的な力の前じゃ何の意味もないね。……脳無」

 

 脳無が、相澤の腕を掴む。そしてそのまま──

 

 力を籠める前に、脳無の体が宙を舞った。

 

 

「……は?」

「ぅッぐ……ぁぁあああ!!!」

 

 

 飛びかかりざま脳無の背中に張り付けたウェブを、イトは両手で力の限り引き絞った。右腕に張り付けたウェブの隙間から血が噴き出す。無視した。

 そのまま宙を舞う脳無を、背負い投げの要領で地面に叩きつける。黒い巨体が地面と激突し、砂埃が巻き起こった。

 

「安良久根、お前…!」

「せん、せい……怪我は大丈夫ですか」

 

 自由になった相澤がよろめきながらイトに駆け寄る。片目が腫れ、頭からは血が流れているが、大事はなさそうだ。

 

「よかった…」

他人(ひと)より自分の心配しろ。助かったが……無茶するな」

 

 相澤は周囲を警戒しながら、イトの右腕に捕縛布を巻き付ける。

 

「ありがとう、ございます。もう大丈夫です」

「大丈夫じゃない。動くな、もうじっとしてろ」

「……はい。ごめんなさい」

 

「おいおい嘘だろ……ガキにやられてんじゃねえぞ脳無……!!」

 

 手の男が喉を搔きむしりながら怒声をあげる。

 すると、脳無は何事もなかったかのようにむくりと起き上がった。

 

「……うそ」

「頑丈なやつだ」

 

 イトは驚愕し、相澤は戦闘態勢を取り直す。

 その時──

 

 

「……死柄木弔」

「遅いぞ黒霧……!!」

 

 黒霧と呼ばれた靄の男が、死柄木の前に出現した。

 

「13号は殺れたんだろうな…?」

 

 苛立ちを隠そうともせず、死柄木は問う。

 

「……そこの子どもに阻止されました」

「あ?」

「また、散らし損ねた生徒のうち一名に逃げられました。足の速い個性の子どもです、すぐに教師が駆けつけます」

「……………黒霧おまえ、おまえがワープゲートじゃなかったら粉々にしてたよ」

 

 死柄木が喉を掻く速度が速まっていく。

 

「はーーーー……さすがにプロ何十人相手じゃ敵わない。今回はゲームオーバーだな。帰ろっか」

 

「……は?」

 

 ──帰る。帰ると言ったのかこのヴィランは、ここまでのことをしておいて?

 

 相澤は死柄木の内心が計れず、警戒を深める。

 

「けどもその前に、平和の象徴としての矜持を少しでも」

 

 死柄木が明後日の方を向く。そして──

 

「へし折って帰ろう!!」

 

 その先の、水辺から顔を出した蛙吹の顔を掴んだ。

 

 

「──梅雨ちゃんッ!!」

 

 

 イトが叫んだ。駆け出そうとして──唐突に足の力が抜け、膝が折れた。

 死柄木の手が、蛙吹の顔に触れている。五指全て。蛙吹の顔が崩れ──

 

「……あれ」

 

 ──なかった。

 死柄木が首を傾げた。何も起きない。個性が発動しない。

 

「……そうだった」

 

 ゆっくりと、視線が動く。

 

「おまえが居るんだったな──イレイザーヘッド」

 

 相澤が血を流しながら、死柄木を"視"ていた。片方の目は腫れて塞がりかけている。それでも──個性を消している。

 

「……脳無」

 

 死柄木の声に、脳無が動いた。

 瞬き一つの間に──脳無の拳が相澤の腹に突き刺さった。

 

「が──ッ!!」

 

 相澤の体が吹き飛ぶ。地面を二度跳ね、瓦礫に叩きつけられて止まった。動かない。

 

「先生!!」

 

 ──その瞬間。

 

「手ぇ離せ!!!」

 

 緑谷が飛んだ。

 拳を握り込む。"力"が緑谷の腕に流れ──死柄木に向かって繰り出された。

 

 

SMASSH(スマッシュ)!!!」

 

 

 衝撃と共に、死柄木が──吹き飛ばない。

 緑谷と死柄木の間に、脳無が割り込んでいた。緑谷の拳を、腹で受け止めている。

 ──衝撃がない。拳に伝わるはずの反動が、消えている。

 

「え……」

「いい動きするなあ。スマッシュって…オールマイトのフォロワーかい? まあいいか」

 

 死柄木の声。その声を合図に、脳無が緑谷の腕を掴んだ。

 

「っ──この…ッ!!」

 

 緑谷がもがくが、脳無の腕はびくともしない。

 蛙吹がその隙に死柄木の手を振り払う。水辺に跳び退きながら、緑谷に舌を伸ばした。

 

(出久くん──!)

 

 イトは立ち上がろうとした。右腕が言うことを聞かない。左手でウェブを──

 

「さて……やっと一人──」

 

 

 扉が、吹き飛んだ。

 

 USJの入口、正面扉。巨大な扉が蝶番ごと弾け飛び、轟音が施設全体を揺らした。

 

 土煙の中に、影が立っていた。

 大きな影。

 途方もなく、大きな影。

 

 

「もう大丈夫」

 

 

 その声は、施設の隅々まで届いた。

 

 

「私が来た」

 

 

(オール、マイト……)

 

 イトの体から力が抜けていく。

 

 ──間に合ったのか。飯田が呼んできてくれたのか。

 ──わからないが、何にせよ、彼が来たのなら。

 

(もう、安心……)

 

 そして、イトの意識は闇に沈んだ。

 





入れててよかった残酷な描写タグ。
プロット段階では怪我する予定なかったんですけどやること考えたら「あれ、これ食らうな?」ってなっちゃいまして。
行動による必然であって重傷で無茶するイトが見たかったのではありません。断じて、ええ。

中学編、USJ編みたいな章区分あった方がいいですか?

  • あった方がいいかも
  • なくてもいいかも
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