僕のヒーローアカデミア:スパイダーウェブ 作:スパイダーキャット
第19話 それぞれの動機
USJ事件後、雄英は一日臨時休校となった。
その翌日。教室に入ると、空気が違った。
ざわめきと、どこか高揚した雰囲気。クラスメイトたちの声が飛び交っている。休校明け特有の開放感──もあるが、それだけではなかった。
「安良久根さん! もう大丈夫なの?」
「安良久根くん、良かった! もう動けるのだな!」
緑谷と飯田を始め、クラスメイトが駆け寄ってくる。
「みんな、おはよう。うん、もう大丈夫」
嘘だ。まだ少し痛む。でも、心配をかけたくなかった。
「よかったー! ホントに心配したんだから!」
「血すげかったし、まじやべえと思った」
「すまなかった! 君が体を張っていたというのに俺は……」
(聖徳太子……)
「もう皆! 安良久根ちゃん病み上がりなんだから!」
最終的に葉隠が間に入ってくれ、一同は解散して席に戻った。
席に着くと、緑谷がこちらを見ていた。
「安良久根さん……本当に大丈夫?」
「緑谷くんこそ。私と一緒に保健室運び込まれたって聞いたよ」
「いや僕は……自分の個性のアレだから」
緑谷が少し目を伏せる。何か言いたげだったが、言葉にならないようだった。
(……緑谷くんも、何か考えてるんだろうな)
チャイムが鳴り、教室が静まる。
扉が開いた。
「──お
顔の半分を包帯に覆われた相澤が、いつも通りの様子で教壇に立った。
「先生復帰早え!!」
「包帯すごっ……」
「大丈夫なんですか先生!!」
教室が騒然とする。相澤は片手を上げてそれを制した。
「俺の安否はどうでもいい。何よりまだ戦いは終わってない」
教室が固まる。
「戦い?」
「…どういうこと?」
「まさか…」
「またヴィラン!?」
(また別の事件……!?)
不安が渦巻き始めた生徒たちを前に、相澤は宣言した。
「雄英体育祭が迫ってる」
「「「「クソ学校っぽいの来たあああ!!!」」」」
安堵と共に、教室は一気に熱気に包まれる。
雄英体育祭。
現代日本のビッグイベントに数えられる、国中から注目が集まる祭典。
生徒たちにとっても年一番のチャンスとなる。スカウト目的で観に来るプロヒーローに見込まれれば、その場で将来が拓けることになるからだ。
「ヴィランに襲撃された後だからこそ、普段通り開催することで危機管理が盤石だと示す…ってことらしい。警備は例年の五倍に強化するそうだ」
相澤が淡々と続ける。
「雄英体育祭がどういうものかは説明不要だろう。プロの目に留まる最大の機会だ。ここでの活躍が、お前たちの将来に直結する。それと…」
教室の空気が引き締まった。
相澤の目が、一瞬だけイトを見た気がした。
「体育祭の規則だが、サポート科以外はサポートアイテムの使用が禁止されている。個性発動に必須のアイテムのみ、事前申請を条件に例外的に許可する方針だ」
(……え)
心臓が跳ねた。
ウェブシューター。イトの戦力の半分を支えるサポートアイテム。それが、使えない?
「質問は」
「あの、先生」
手を上げた。
「私のウェブシューターは……」
「許可しない」
即答だった。
「お前のアイテムは個性ではなく、活動自体を補助・拡張するものだ。個性発動に必要不可欠とは認められない」
「……はい」
「自身にあった武器・道具を選び使いこなすのもプロの条件だが、それがないと戦えないヒーローはプロ失格。体育祭は己の身一つで臨め」
(身一つ…)
イトは自分の手首を見た。ウェブシューターのない、素の手首。
「以上だ。気合入れろ。授業は通常通りやる」
相澤が教室を出たところで、ようやく皆の緊張が解けた。
*
昼休み。
「体育祭かー!! あんなことはあったけど…なんだかんだテンション上がるなオイ!!」
切島が拳を握っている。その隣で芦戸がウキウキと身体を揺らしている。
「毎年すっごい盛り上がってるよねー! 楽しみ!」
「私絶対目立つ!」
「あはは…がんばってね」
「皆すごいノリノリだ……」
「うん…」
やる気全開のクラスメイト達を遠目に眺めながら、イトは緑谷に同意する。
「君らは違うのか?」
飯田が割り込んでくる。
「ヒーローになるため在籍しているのだから燃えるのは当然だろう!?」
「そ、そりゃ僕もそうだよ」
「私も……なんだけど、メインの装備が使えないとなるとどう立ち回ろうかって悩んじゃって」
「なるほど!」
(ウェブシューターなし、か……)
体育祭まであまり日がない。自前の蜘蛛糸は体力を大きく消耗する。連発すればすぐに動けなくなってしまう。
(ウェブなしで動く訓練をしないと)
「デクくん、飯田くん、安良久根ちゃん……」
「…? 麗日さん?」
珍しく静かだった麗日が、ようやく口を開いた。
「頑張ろうね体育祭」
「顔がアレだよ麗日さん!?」
麗日はいつものうららかな雰囲気ではなく、まるでスポーツ漫画の主人公のような熱血を思わせる表情になっていた。
「どうした? 全然うららかじゃないよ麗日」
「皆!! 私頑張る!!!」
「お、おう…どうしたキャラがフワフワしてんぞ」
(麗日さん……すごい気合いだ)
勢いよく拳を突き上げて宣言する麗日を、イトは感心した気持ちで見ていた。
*
「お金欲しいからヒーローに!?」
「究極的に言えば…なんかごめんね不純で……!!」
昼食をとりに食堂へ向かっている途中、緑谷が麗日にヒーローを目指す理由を聞いていた。
麗日は自分の動機が不純で恥ずかしいものだと思っているらしい。
(たくさん稼いで親孝行なんて、十分すぎるほど立派だと思うけどな)
緑谷と飯田もイトと同意見のようで、麗日を励ましている。
「そ、それはそれとして! そういえば安良久根ちゃんはなんでヒーローに?」
「え?」
緑谷と飯田の褒め殺しに恥ずかしくなってきたのか、麗日が強引に話を振ってきた。
「わ、私?」
「あー、そういえば」
「そうだな、安良久根くんの動機も聞いたことがなかった!」
緑谷と飯田も気になるようで、イトに注目し始める。
「わ、私は、その……」
(……そういえば、ちゃんと考えたことなかった)
困っている人を助けたくてヒーローを志した。
でも、なぜそう思うのか、なぜそうしたいのかを、言語化したことがなかったことにイトは気づいた。
「……困ってる人を、助けたくて」
「ふむ」
「…いや、ごめん待って今のナシ」
なんとなく、そんなありきたりな言葉で誤魔化すのは不義理な気がして、イトは改めて考え込んだ。
「…………例えば、なんだけど」
そして、ゆっくりと話し始めた。
「もし……目の前でなにか、良くないことが起きてて。私にはそれをなんとかできる力があって……」
時折詰まりつつも、頭に浮かんだことを言葉として紡いでいく。
「私にはできることがあって。なのに、それを……しなかったら。それで、もっと酷いことになっちゃったとしたら……私はそれを、自分のせいだって、そう…思う」
緑谷たちは、黙ってイトの言葉を聞いている。
「それは……すごく、嫌なの。だから、その……そういう時に、動いてもいいって、動かなきゃいけないって……そういう人に、私はなりたいんだと思う」
最後まで言い終えた。その合図のように、イトは俯く。
「……ブラボー!」
最初に口を開いたのは飯田だった。
「素晴らしい! まさにヒーローじゃないか!!」
「うん、カッコイイ!」
「僕もそう思う。すごくヒーローらしい動機だよ!」
「そう……かな」
──そうだといいな。
なんだか皆と近づけた気がして、イトは少し嬉しくなった。
「その……ありがとう。みん「おお!! 緑谷少年がいた!!!」
「うわあ! オールマイト!?」
お礼を言おうとしたところで急に現れたオールマイトが、緑谷を連れていってしまった。
「デクくんなんだろね」
「USJの件じゃないか? オールマイトの前に飛び出したと聞いたぞ」
(出久くん、オールマイトと仲良いよね。いいなあ…)
妙にスッキリとした気持ちで、イトは昼食に向かった。
イト、ウェブシューターなしで体育祭へ。
別になんか理由付けて装備してもよかったんですけど、なんかズルいし、何よりこの方が面白くなりそうだったのでこうしました。
中学編、USJ編みたいな章区分あった方がいいですか?
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あった方がいいかも
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なくてもいいかも