僕のヒーローアカデミア:スパイダーウェブ   作:スパイダーキャット

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第20話 もう一周

 

「発目さん、私明日からしばらく来れないかも」

何故(なにゆえ)!?」

 

 その日の放課後。発目に工房通いを控える旨を伝えると、発目が心底意外そうな声を出した。

 

「え……いや、もうすぐ体育祭だし」

「どうして体育祭が近いと来なくなるんです?」

「えっ」

「えっ」

 

 目を見合わせる。

 

「……雄英体育祭だよ?」

「ええ、存じてますが」

 

 …会話が嚙み合っていない気がする。

 

「あの……ヒーロー科はサポートアイテム装備できないから、ウェブシューターなしの動きを練習したいなって」

「……………………そういえばあなたヒーロー科でしたねえ!!」

 

(マジかこの人)

 

 本気でイトがヒーロー科であることを失念していたらしい。

 

「サポート科が体育祭前に工房以外で何をするのかと、私びっくりしちゃいました!」

「そっか…なんか気合入ってると思ったら、今作ってるのは体育祭用?」

「ええ勿論! 体育祭は、全国のサポートアイテム会社の皆さまに私のドッ可愛いベイビーたちをご紹介する大チャンスですので!!」

「あ、うん。がんばってね」

 

 目がギラギラしている。怖い。

 

「ではそういうことなので。今日はもう話しかけないでください」

「え、あっはい」

 

(相変わらずだなあ)

 

 

    *

 

 

 翌日の昼休み。

 

「つ、梅雨ちゃん」

「何かしら?」

「あのさ、体育祭の前に一緒に訓練しない?」

 

 蛙吹が少し目を丸くした。

 

「私と?」

「うん。私、いつものサポートアイテムが体育祭で使えないから……それで、ウェブなしの動きを練習したいんだ。梅雨ちゃんは私と個性似てるからその……」

「参考にしたいのね」

「……だめ、かな?」

 

(体育祭ではライバルになるわけだし……良くなかったかな)

 

「良いわよ。一緒に訓練しましょう」

 

 即答だった。

 

「ほんと?」

「ケロ、もちろん。お友達と一緒に訓練なんて素敵」

 

 蛙吹が小さく微笑んだ。嬉しくなる。

 

「あの、僕も!」

 

 横から声がした。緑谷だった。

 

「僕も一緒に訓練させてもらえないかな。僕も個性まだ上手く扱えなくて…体育祭までになんとかものにしたいんだ」

「緑谷くん! もちろん、いいよね梅雨ちゃん」

「ええ」

「ホント? ありがとう!」

 

「おっ、何の話だ?」

 

 切島が聞きつけて近づいてきた。

 

「体育祭に向けて一緒に訓練しようって」

「マジか! ちょうど俺たちも放課後に訓練しようって話してたんだよ。合流しないか?」

「俺たちって?」

「芦戸と砂藤と上鳴。それと常闇が考え中」

 

 切島が指を折りながら数える。

 

「学校のトレーニング施設、予約人数が多い方が広い場所を取りやすいんだ。一緒にやりゃでかいスペース使えるぜ」

「…なるほど」

 

 イトは蛙吹と緑谷を見た。二人とも異論はなさそうだ。

 

「じゃあ、お願いします」

「よっしゃ! 来週でどうだ? 今日中に申請出すから!」

 

 切島が嬉しそうに駆けていった。

 

 

    *

 

 

 合同訓練の前に、まずは一人で体を動かしておきたかった。

 

 学校から少し離れた雑木林。入学前、イトが一人でウェブスイングの練習をしていた場所。

 木々の間を跳ぶ。枝を掴み、幹を蹴り、着地して即座に次の木へ。ウェブなし、吸着と身体能力だけのパルクール。

 

(足の裏で幹を捉えて──蹴る。手は次の枝に──吸着)

 

 ウェブシューターがあれば、糸を放って空中を自在に移動できる。だが今は使わない。木から木へ、接触点を繋いでいくしかない。

 

(…遅いな。ウェブスイングならこんな距離すぐなのに)

 

「…あっ!」

 

 枝を掴み損ねて、地面に落ちた。受身を取って転がる。

 

「……ウェブに頼りすぎてたな」

 

 ──それがないと戦えないヒーローはプロ失格。

 

 相澤の言葉が反芻される。

 

(……焦るな。ウェブスイングは周囲に背の高い木や建物がないとできない。今回のことがなくてもいずれ考えなきゃいけないことだった)

 

 立ち上がって、もう一度やる。今度は吸着のタイミングをもっと早くする。足が幹に触れた瞬間に吸着し、反発力を使って跳ぶ。

 

(──うん。こっちの方がいい。足を着いた瞬間に吸着、蹴る瞬間に解除。個性把握テストの時と同じだ)

 

 少しずつ、リズムが掴めてくる。ウェブの代わりに吸着の精度を上げる。到達点は見えた。道は遠いが──

 

(体育祭までに、もっと速くなるぞ)

 

 

    *

 

 

 合同訓練当日。放課後のトレーニング施設。

 

 切島のおかげで確保できたのは、障害物付きの広めのアスレチックスペースだった。壁、段差、ロープ、バランスビームなどが設置されている。

 

「おおー、広いな!!」

「これだけあれば十分だね」

 

 集まったメンバーは切島、芦戸、砂藤、上鳴、常闇、そしてイト、蛙吹、緑谷。

 

「よし、じゃあ各次解散! 寄りたいやつは寄って、好きに訓練しようぜ!」

 

 否はなく、それぞれ好きなスペースへ散っていった。

 イトがアスレチックコースのひとつを見る。

 

「……梅雨ちゃん、緑谷くん。あのコース、競争しない?」

 

 壁を乗り越え、段差を跳び、ネットをくぐり抜けてゴールする障害物コース。身体能力の基礎が出る。

 

「やりましょう」

「うん、やろう!」

 

 三人で位置につく。

 ──スタート。

 

 蛙吹が最初の壁を一気に跳び越えた。凄まじい跳躍力。イトも吸着を使って壁を駆け上がり、飛び降りる。緑谷は足で個性を発動しようとしたようだが──二人には一歩遅れた。

 

 段差の連続。蛙吹は蛙の脚力で段差を一つ飛ばしに跳んでいく。イトは蛙吹の動きを後ろから見ながら、足の運び方を観察していた。

 

(──あの踏み切り方。足裏全体で面を捉えてる。指先じゃなくて──)

 

 自分の動きに取り入れる。わずかに速くなる。だが蛙吹には追いつかない。蛙吹の機動力は、ウェブのないイトよりもまだ上だった。

 ネットをくぐり抜け──

 

 ゴール。蛙吹、イト、緑谷の順。

 

「梅雨ちゃんすっご……」

「蛙だもの。こういうのは得意なの、ケロ」

「はぁ……はぁ……二人とも速すぎる……」

 

 緑谷が膝に手をついて息を整えている。

 

「いやでも緑谷、お前十分速かったぜ!」

 

 切島が水のボトルを投げてくれた。

 

「ナイスファイトー!」

「三人ともすげえぞ!」

 

 いつの間にか見物していた芦戸と上鳴が拍手していた。

 

 

    *

 

 

 訓練後、三人で施設の隅に座って息を整えていた。

 

「梅雨ちゃん、跳ぶ時って足のどこで踏み切ってる?」

「足裏全体ね。指先だけだと滑るから」

「やっぱりそうだよね。私は吸着がある分つい指先だけでやっちゃうんだけど、面で捉えた方が安定するんだね」

 

 蛙吹と個性の話をするのは初めてだった。似た能力を持つ者同士、感覚が通じる部分が多い。

 

「二人はその……個性を使うのに集中って要る?」

 

 緑谷が、少し切り出しにくそうに聞いた。

 

「集中?」

「えっと……まだ僕、個性使う時にすごく集中しないといけないんだ。ぐっと力を込める、みたいな……だから咄嗟に使うのが難しくて」

「なるほど。さっきずっとじっとしてたのがそれ?」

「うん、なるべく早く引き出せるように練習を」

「うーん……個性使うのに集中か。ごめん、あんまり経験ないや」

「私も。ごめんなさいね緑谷ちゃん」

「……いやいや! すごく参考になるよ」

 

 明らかに気を遣った風の緑谷は、困った様子で続ける。

 

「僕の個性…怪我せずに使えるようにはなってきたんだ。オールマイトは、全力を100%とすると今僕が出せてるのは5%くらいだって言ってたんだけど」

「…緑谷くん、オールマイトと訓練してるの?」

 

 イトが聞くと、緑谷は明らかに狼狽した。

 

「え!? あーいやそれは……ええと、個性が似てるからたまに見てくれるというか…その」

「へー、すごい!」

「仲良しだものね」

「う、うん」

 

 どうやら緑谷はオールマイトに気にかけてもらっているらしい。

 

(No1ヒーローに気にかけて貰えるなんて…さすが出久くん!)

 

「ええっと…とにかく! 今はまだ使うのにも結構集中が必要で……いずれは足に使って安良久根さんやあす…つ、梅雨ちゃんみたいな大ジャンプとか、そういうこともできたらなって思うんだけど」

「がんばってくれてるのね」

「なるほど」

「だから、何か素早く個性を使うコツみたいな、そんな話があれば聞きたいなって」

 

 話は分かった。だが、イトにはやはり有用なアドバイスは思いつかなかった。

 

「素早く、かあ。感覚としては私の吸着と近いんだろうけど……難しいね。あんまり理屈で考えたことなくて…筋肉に力入れてるのと気持ち的には一緒というか」

「そっか……そうだよね」

「あ、そういえば緑谷くんの個性はどんな制限があるの? ちょっとしか保たないとか、ずっと使ってると疲れちゃうとか」

「え……どうして?」

「いやさ、そういうの許容できるんだったらずっと個性使ってたら解決じゃないかなって思って。ほら、プールで腹筋ずっと力んでるみたいな」

「…………」

「本当に常に力入れっぱなしじゃ動きにくいだろうけど、あくまで個性使うための感覚だし……緑谷くん?」

「………………………」

 

 いつの間にか緑谷が黙ってしまっている。

 

(なにかまずいこと言っちゃったかな……あ、弱点の話とか競う前にするの良くなかったかも?)

 

 

「………………………………!!!!!」

 

 

 そして唐突に背筋を伸ばし、目を見開いた。

 

「み、緑谷くん?」

「大丈夫、緑谷ちゃん?」

 

「あ、う、うん! 大丈夫! 大丈夫……いや……今のすごい……すごいかもしれない……!」

 

 緑谷がブツブツと呟き始めた。

 

 

「そうだそうだよ、何もスマッシュの瞬間しか使っちゃいけないわけじゃない…出すのに時間がかかるなら常に出しっぱなしにしておく…なんでその発想が出なかったんだろうすごいぞこれならもう使う箇所を腕に限定する必要もないむしろ──」

 

 

 

「……自分の世界に入っちゃった」

「イトちゃんもたまにあんな感じよ」

「えっ嘘」

「似た者同士ね、ケロ」

 

 

 ──瞬間。

 緑谷の全身にスパークが走った。

 

 

「…え? 緑谷くんそれ……」

「ぐ、く……まだ、ちょっと難しいけど、これで!」

 

 

 ──全身常時、身体許容上限、5%。

 

 

「安良久根さん、蛙吹さん……アスレチックコース、もう一周…付き合ってもらっていいかな」

 





緑谷、フルカウルに到達!
…いやまだじっとしてる状態でめっちゃ集中してようやく維持できるくらいだと思いますが、それでも原作よりはOFAへの習熟が早くなってますね。
原作ではこの時期の緑谷はOFA発動の感覚の反芻のみを行っていたようですが、この緑谷は「体育祭までにものにしたい」という言葉通り、USJでのイトの無茶に感化された結果慎重にではあるものの実践まで行っています。結果として、時間をかけて集中すれば安定して5%を引き出せるようになってる感じですね。その際にオールマイトから「0か100かで言えば」の話を早めにされたようです。

二次創作では割とよく見かける流れですがやっぱ私もはやくフルカウルが見たくて。

あ、トレーニング施設云々は捏造です。でもありそうじゃないですか?

中学編、USJ編みたいな章区分あった方がいいですか?

  • あった方がいいかも
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