僕のヒーローアカデミア:スパイダーウェブ   作:スパイダーキャット

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第25話 それぞれの覚悟

 

 騎馬戦が終わり、一時間の昼休憩に入った。

 

「悔しいわ…三奈ちゃんイトちゃんおめでとう」

「いやー私言われるまま酸撒いてただけだし……爆豪と安良久根のおかげだよ」

「そ、そんな……芦戸さんだってすごかったよ」

 

 食堂へ向かいながら、クラスメイトたちが騎馬戦の話で盛り上がっている。

 

「飯田くんあんな超必持ってたのズルイや!」

「ズルとはなんだ! あれはただの"誤った使用法"だ! …どうにも、緑谷くんとは張り合いたくてな」

「男のアレだな~……ていうかそのデクくんは?」

「それもそうだな、どこだ?」

 

(……出久くん、いない?)

 

 麗日と飯田の会話が耳に入り、イトは周囲を見回す。確かにいない。

 

「安良久根どしたん?」

「誰か探してるのかしら」

「あ、うん……緑谷くんどこかなって」

 

 思わず答えると、芦戸の口角が見る見る吊り上がっていく。

 

「いやァ~~~私も見てないね。安良久根探しに行ってあげたら?」

「…………違うからね」

「あとで何話したか聞かせてね!!」

「違うってば…」

 

 ニヤつきを隠そうともしない芦戸に呆れつつ、イトは歩き出した。

 

「……じゃあ探してくる」

「はぁ~い、いってらっしゃい!」

 

 

    *

 

 

 スタジアムの奥、人気のない通路。

 曲がり角の手前で、声が聞こえた。轟の声だ。緑谷と話している。

 

(いた! 珍しい組み合わせだな?)

 

 イトが角を曲がろうとする──と、横から腕が伸びて、イトは壁際に引き寄せられた。

 

「止まれ」

「っ!?」

 

 爆豪だった。壁に背を預け、腕を組んで通路の奥を睨んでいる。

 

「爆豪くん……? なんでここに」

「黙ってろ」

 

 爆豪が通路の奥に顎をしゃくる。轟と緑谷の会話が聞こえてくる。

 

 

「──俺の親父はエンデヴァー、知ってるだろ。万年No2のヒーロー」

 

 轟が淡々と話す。

 

「おまえがNo1ヒーローの何かを持ってるなら俺は……尚更勝たなきゃいけねえ」

 

 轟の声は静かだった。だがその裏に、底知れない重みがある。

 轟は語り続ける。

 

 エンデヴァーはずっとオールマイトを超えることを目指していた。だが、いくら鍛えても、いくら実績を積み上げても、その頂には届かなかった。やがて悟る──自分の力では、オールマイトは超えられない。

 

 そこでエンデヴァーが取ったのは、次の世代に託すという手段だった。

 

 『個性婚』。より強い個性を持つ子供を生み出すため、相性の良い個性を持つ相手と戦略的に結婚すること。倫理的に問題視されて久しいが、個性が社会の中心にある以上、完全にはなくならない慣習だった。

 

 エンデヴァーは自分の炎を補完する氷の個性を持つ女性──轟の母親に目をつけた。そしてNo.2ヒーローとしての実績と財力で、彼女の親族を説き伏せた。

 

 その結果、生まれたのが轟焦凍。炎と氷、二つの個性を併せ持つ──エンデヴァーにとっての『最高傑作』だった。

 

 

「記憶の中の母はいつも泣いている……」

 

 

「『おまえの左側が醜い』と、母は俺に煮え湯を浴びせた」

 

 

 イトの呼吸が止まった。

 

(轟くんの顔の火傷……お母さんにつけられたなんて)

 

「……ざっと話したが俺がおまえにつっかかんのは見返すためだ。クソ親父の個性なんざなくたって……いや…」

 

 轟の声に初めて感情が宿る。それは──

 

「使わず一番になることで、奴を完全否定する」

 

 父親に対する、強大な憎しみだった。

 

「……オールマイトとの関係、言えねえなら別にいい。おまえがオールマイトの何だろうと俺は()だけでおまえの上に行く。時間取らせたな」

 

「……僕は」

 

 緑谷が口を開いた。

 

「僕は……ずうっと助けられてきた。さっきだってそうだ…僕は、誰かに救けられてここにいる」

 

 轟と同じく静かで、しかし、強い意志を宿す声だった。

 

「オールマイトのようになりたい…そのためには一番になるくらい強くなきゃいけない」

 

(出久くん……)

 

 イトは壁に爪が食い込むほど手を握りしめていた。胸が痛い。緑谷が言葉を絞り出している。

 

「君に比べたらささいな動機かもしれない…でも僕だって負けられない」

 

 ささいなんかじゃない、とイトは思った。だが口を挟めるはずもなかった。

 そして──緑谷の声が、はっきりと通路に響いた。

 

 

「さっき受けた宣戦布告、改めて僕からも……僕も、君に勝つ!」

 

 

 

    *

 

 

 

 ──イトは曲がり角の壁に背中を預けたまま、動けなかった。

 

「……フン」

 

 爆豪が小さく鼻を鳴らし、踵を返した。

 

「……爆豪くん」

「うっせェ」

 

 爆豪は前を向いたまま歩いていく。

 

「いや、あの……今の話」

「知るか」

 

 それだけ言って、爆豪は行ってしまった。

 イトは一人、通路に残された。

 

(轟くん……あんな目をしてたのは……そういうことだったんだ)

 

 控室で感じた違和感。闘志の裏にあった何か。それは──父親への憎しみだった。

 

(私には……何もできない。でも──)

 

 拳を握り締めた。

 

(……ごめん轟くん)

 

 イトは、結果的に盗み聞きする形になってしまったことを心の中で謝罪しながら、食堂へ向かった。

 

 

 

「あっ、戻ったんですのね安良久根さん。丁度よかったですわ」

「あれ、八百万さん。どうしたの?」

「はい、先ほど峰田さんと上鳴さんに伺ったのですけど……」

 

 

 

    *

 

 

 

 昼休みが終わり、午後の部が始まる。

 

 

『さァ最終種目の前に全員参加のレクリエーションだ!! 本場アメリカからチアリーダーも呼んで一層盛り上げ……ん?』

『なーにやってんだ……?』

 

『アリャ!? どうしたA組!?』

 

 

 チア衣装に身を包んで真顔のまま固まるA組女子の面々を見つけ、プレゼントマイクが叫んだ。

 

「峰田さん上鳴さん!! 騙しましたわね!?」

「イェア」

「俺らいい仕事したぜ!」

 

 昼休み、峰田と上鳴が八百万に「午後は女子全員でチア衣装を着て応援合戦をする」と嘘をついた。「相澤先生からの言伝だ」と言われれば八百万は断れず、自身の個性でチア衣装を人数分作成。女子全員に配り、着替えさせたのだった。

 

「何故こうも峰田さんの策にハマってしまうの私……」

「どんまい」

「アホだろアイツら…」

 

 ──そして。

 

「死んじゃう……死んじゃう……」

 

 イトは真っ赤な顔で丸くなって震えていた。

 

「なんで……なんでこんな……全国で見られてるのに……」

「安良久根ちゃんパッツパツ……!」

「ご、ごめんなさい安良久根さん! 大きめに作ったつもりだったのですが…」

 

 目に涙を溜めながら、イトは本気で死にそうだった。

 

「……安良久根、背低いけどソコはヤオモモ級だよね」

「言わないで……」

 

 耳郎が死んだ目で呟く。イトはさらに小さくなった。

 

「安良久根ちゃん恥ずかしいなら私の後ろに隠れてなよ!」

「あんま意味ない……」

「たしかに!」

 

 葉隠がボンボンを振りながらイトの前に立つ。

 

「まあ本戦まで時間空くし張りつめててもシンドイしさ…いいんじゃない? やったろ!!」

「透ちゃん好きね」

「うぅ……」

 

(もう帰りたい……)

 

 

    *

 

 

 レクリエーションが終わり、ミッドナイトが最終種目を発表した。一対一のトーナメント戦。騎馬戦を通過した4チーム16名による個人戦だ。

 

 ただし、辞退者が二名出た。尾白と庄田──いずれも心操チームのメンバーだった。騎馬戦中の記憶がほとんどなく、自分の力で勝ち上がったとは言えないと。

 代わりに鉄哲のチームから二名繰り上がり、16名のトーナメントが組まれた。

 

 くじ引きの結果が、ホログラムに表示される。

 

 

 第一試合──緑谷出久  vs  心操人使。

 第二試合──轟焦凍   vs  青山優雅。

 第三試合──塩崎茨   vs  上鳴電気。

 第四試合──飯田天哉  vs  発目明。

 第五試合──芦戸三奈  vs  安良久根イト。

 第六試合──常闇踏陰  vs  八百万百。

 第七試合──鉄哲徹鐵  vs  切島鋭児郎。

 第八試合──麗日お茶子 vs  爆豪勝己。

 

 

「…………」

 

 イトは自分の対戦相手の名前をじっと見つめた。

 芦戸三奈。

 第二種目では、同じチームとして戦った仲間だ。

 

「いやあ、一回戦から安良久根とかぁ」

 

 芦戸が笑いながらこちらに歩いてきた。いつもの明るい芦戸。だが……

 

「容赦しないよ?」

「……うん。私も」

 

 芦戸が不敵に言う。イトは拳を握りながら返した。

 

(チームはもう終わり。ここからは──)

 

「よろしくね、芦戸さん」

「うん、よろしく安良久根!」

 

 

 ──そして爆豪の声が、横から降ってきた。

 

「蜘蛛女」

「わ、爆豪!」

「……爆豪くん」

 

「絶対にブッ殺してやるから勝ち上がって来い。途中で負けたら殺す」

 

(私いずれにしろ殺される……)

 

 イトは苦笑して、答えた。

 

「うん、頑張るよ」

「……フン」

 

 爆豪は鼻を鳴らして行ってしまった。

 だがその言葉は──爆豪なりの決意表明だと、もう分かっている。

 

「私眼中にナシって感じ」

 

 芦戸が立ち去る爆豪を眺めながら、唇を尖らせて言った。

 

「あ、ごめん芦戸さん」

「いや安良久根が謝ることじゃないでしょ。私に負けて爆豪に殺されても文句言わないでよね!」

「あはは……うん」

 

 笑う芦戸につられて、イトも自然と笑顔になった。

 

 

 

「ところで安良久根、いつまで丸くなってんの」

「控室に戻るまで」

「運んだげようか?」

「……お願い」

 





トーナメントの組み合わせはほぼ原作通りです。「ほぼ」なので、ちょっと変わりました。

…いや、最初は一回戦で轟くんと戦う予定だったんですが、どうこねくり回しても一回戦で戦う場合に轟くんがイトに勝つパターンが想像できず……。

一回戦の轟くんの精神状態の原因が試合直前のエンデヴァーにある以上、むしゃくしゃした轟くんが初手に許容上限ぶっぱをやらかすのは既定事項で……当然ながらイトならそれを避けちゃうので、その後の冷え切った轟くんをイトに勝たせることがどうしてもできませんでした。
イトが初手の氷を避けられないパターンにするのは正直逆に都合が良すぎるなとも思いまして(あと話として盛り上がらなすぎるので)、最終的に別の生贄を差し出すこととなりました。すまんな青山くん。

中学編、USJ編みたいな章区分あった方がいいですか?

  • あった方がいいかも
  • なくてもいいかも
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