僕のヒーローアカデミア:スパイダーウェブ   作:スパイダーキャット

29 / 35

毎日投稿途切らせずに10万文字達成しました。ほめてください


第27話 私だって

 

「そりゃ!」

 

 試合開始と同時に、芦戸が動いた。掌から放たれた酸が、イトめがけて飛ぶ。

 

「よっ!」

 

 予想通り。イトは横に大きく跳んで避けた。

 

「やっぱそう来るよね──」

「と思うじゃん?」

 

 着地したイトが顔を上げると、既に芦戸が目の前まで迫ってきていた。

 跳ばした酸が空中で飛沫を散らし、視界を遮った──その一瞬の間に、芦戸が足元に酸を敷いて滑走し、一気に距離を詰めたのだ。

 

「もらったァ!」

 

 低い姿勢から跳ね上がるようなアッパーカット。拳が真下から突き上げてくる。

 

「うおッ──」

 

 拳が顎にヒットする──

 

 ──寸前、イトは上に跳んだ。

 

 上向きに迫る拳に合わせるようにジャンプし、芦戸の頭上で一回転。くるりと宙を返って背後に着地する。

 そして着地の勢いを殺さず、そのまましゃがみ込んで──足払い。

 

「そおい!」

「わあっ!?」

 

 芦戸は咄嗟にバック宙で回避する。

 

「よっ、ほっ!」

 

 酸を撒いて追撃を防ぎつつ、芦戸はそのままバク転で距離を取り直した。

 二人の立ち位置が戻る。

 

 

『のっけから素早い攻防! アレだな、今日イチヒーローっぽかったな!!』

『二人とも高い機動力と身体能力を活かすタイプだ。そりゃ見栄えするだろうよ』

 

 

「ふぃーあっぶな! やるね安良久根!」

「そっちこそ! ダンスとかやってたの?」

「当ったりー!」

 

 言うと同時、芦戸が再び足元に酸を敷き、滑り出す。

 

 だが今度は、真っ直ぐ来なかった。

 

(回ってる──!?)

 

 芦戸はイトの周囲を弧を描くように高速で周回し始めた。通過するたびに、ステージの表面に紫色の酸の軌跡が残される。

 円。また円。芦戸が一周するごとに──イトの立てる場所が、削られていく。

 

「ちょちょタンマ! 目ぇ回るって!?」

「行っくぞー!」

 

 周回の軌道から突然のステップイン。スピンしながら腕を振るい、酸を散弾のようにばら撒く。

 

「うわっと!?」

 

 感覚が反応する。イトは紙一重で身を逸らした。

 

「そいそいそい!」

「ちょ……待──多い多い!」

 

 立て続けに飛んでくる酸を、首を傾け、体を捻り、かわし続ける。だが避けるたびに、足元の安全な場所が減っていく。

 

 

『酸を撒きながら滑って回る! フィギュアスケートみたいだぜ!!』

『不意打ちが通用しないなら次は撹乱。良い切り替えの早さだ』

 

 

「フィギュアスケートもやってたの!?」

「それは外れ!」

 

 酸の網が狭まる。少しでも足を滑らせたら、溶ける。

 芦戸が滑走の勢いのまま、また突っ込んできた。今度はブレイクダンスのような回転蹴り。

 

「おりゃあ!」

「わっ──と!」

 

 イトはしゃがんで回避──直後、芦戸の手から至近距離で酸が飛んだ。

 

「っ──!」

 

 咄嗟に服で顔を庇う。体操服にジュッと音が走り、白い蒸気が立ち上った。

 

 

『おォーっと安良久根ワンヒット! 服がちょいとセクシーになっちゃってるぜ!!』

『やめとけよ』

 

 

「お、当たり! 数撃ちゃ作戦成功!?」

「こんだけやって一発だし失敗かもよ! もうやめといた方が良いと思うな!」

「やーなこったね」

 

 芦戸がまた円周機動を再開する。酸の円が、さらに狭まった。

 

(騎馬戦であの直感も見せちゃったわけだし、そりゃまあ対策するよね……)

 

 芦戸が再び加速する。今度は正面から──フェイントを入れつつの急接近。

 

「もっかいもらうよ!」

 

 拳が迫ってくる。イトは感覚のままに体を捌き──カウンター気味に、芦戸の二の腕を掴みにいった。

 

「捕まえ──」

 

 指が、ぬるりと滑った。

 

「──え!?」

「甘い甘い!」

 

 芦戸の腕が手の中を抜けていく。腕全体が薄い酸の膜で覆われていた。掴もうとしても、ツルツルと滑って引っかからない。

 

「弱めの酸でコーティング済み! 掴みにくいっしょ?」

「その腕まくり気合入れてるんじゃないんかい!」

「それもあるー!」

 

 そのまま芦戸はターンし、イトの横をすり抜けながら肩を押した。軽い力だったが、足場のないイトはたたらを踏む。

 背中に風を感じた。半歩後ろはもう、ステージの端だ。

 

 

『安良久根追い詰められたァ! ステージ際!!』

 

 

「あぁーーーーやっば…」

「勝ったァ!!」

 

 芦戸がイトの左右に酸を投げ、逃げ道を封じながらイトを場外に押し出そうと迫る。

 

 

「──と思うじゃん?」

 

 

 ──イトの目の前にまで迫ると同時、芦戸の視界からイトが消えた。

 

「えっ」

 

 足を強く吸着させ、膝から上を地面と水平になるほど大きく反らす。

 イトの小柄な体躯は芦戸の股を抜け、芦戸の背後をとった。

 

「──うああああっとととと!?」

 

 芦戸が慌ててブレーキをかけ、場外スレスレで停止する。

 だが──

 

「はいどーん!」

「ぐえっ!?」

 

 

「芦戸さん場外!! 安良久根さん二回戦進出ッ!!!」

 

「やったー!」

「ぐあああやっちゃったー!!」

 

 ミッドナイトが旗を振り、会場が沸いた。

 

 

 

 

「かぁーいててて……くっそー油断したぁ」

「ご、ごめん芦戸さん。大丈夫?」

 

 場外で地面に座り込んだ芦戸に駆け寄り、イトは手を差し出す。

 

「あー大丈夫大丈夫、ありがと」

 

 芦戸が、その手を取った。引き上げられて立ち上がり、体操服についた埃を払う。

 

「もう戻ってる。ホント戦ってるときは別人だよね安良久根」

「小さい頃からの変な癖で……」

「なんじゃそりゃ」

 

 芦戸がケラケラと笑う。イトも苦笑を返した。

 

「あー負けた! くやしー!!」

「えっと……」

「そこは胸張って喜びなよ! こうなったら優勝してよね、そしたら私実質準優勝だって言い回るから!」

「……うん!」

 

 笑いながら、固く握手する。

 

 

『いーい試合だったぜ! 二人のエキサイトな試合を称えて、クラップユアハンズ!!』

 

 

 会場からは、大きな拍手が鳴り響いていた。

 

 

 

 

    *

 

 

 

 控室に戻ると、先客がいた。

 

「あ、安良久根ちゃん。おつかれ、どうだった?」

「麗日さん? うん、勝ったよ……どうしたの眉間!?」

 

 麗日お茶子が椅子に座っていた。──眉間に、すさまじいシワを寄せて。

 

「みけん? あー……ちょっとね緊張がね、眉間に来てたね」

 

 指で眉間を揉みほぐしながら、麗日が苦笑する。

 第八試合──麗日お茶子 vs 爆豪勝己。それを待つ顔だった。

 

「……そっか、麗日さんの対戦相手……」

「……うん」

 

 イトは麗日の隣の椅子に腰を下ろした。しばらく、二人とも黙っていた。

 通路の奥から、歓声がくぐもって聞こえてくる。第六試合が始まったらしい。

 

「……安良久根ちゃんはさ、すごいよね」

「え?」

 

 麗日が膝の上で拳を握りながら言った。

 

「障害走も騎馬戦も上位だし……爆豪くんにもさ、認められてて。私もがんばらななあ」

 

 真っ直ぐな目だった。羨望でも嫉妬でもない。ただ、自分を奮い立たせるための言葉だった。

 

「そんな! 麗日さんだってすごいよ!」

 

 思わず声が大きくなった。イトは少し俯いて、言葉を探す。

 

「私……騎馬戦の時、いろいろ考え込んじゃって、緑谷くんになかなか声かけられなかったんだ。でも麗日さんは、まっすぐ緑谷くんのところ行って……一緒に戦おうって。私にできなかったこと、なんでもないみたいにやれちゃうんだもん」

「え、いやそんなん私デクくんに頼っちゃっただけやし……」

「でもあの時の緑谷くんにはきっと救いだったよ。すごい避けられ方だったし……その中で一番に出久くんに声かけてさ。麗日さんはすごいよ」

「そ、そうかな……」

 

 麗日が照れたように頬を掻く。──と、ふと首を傾げた。

 

「ん、あれ? 今出久くんて言った?」

「……え!?」

 

 イトの顔が、みるみる赤くなった。

 

「嘘、あ、いや違うの! 普段から呼んでるわけじゃなくて……仲良くしたいなって思った人はなんとなく心の中では名前呼びしちゃうっていうか、それがうっかり出ちゃっただけで……」

「ふーん。普通に呼んだげたらいいのに。デクくん嫌がらんと思うよ?」

「いやいやいや! 男の子を面と向かって名前呼びはちょっと……ハードルが……」

「うーん」

 

 麗日が少し考えて、ぱっと顔を上げた。

 

「あ、じゃあ私のことは呼んでくれる?」

「え」

「名前で」

 

 イトは口をぱくぱくさせた。それから、おそるおそる口を開く。

 

「……お、お茶子さん」

「まだ距離感じる」

「……お茶子ちゃん?」

「うん、イトちゃん!」

 

 麗日が──お茶子が、花が咲くように笑った。

 

「……えへへ」

 

 イトもつられて、照れくさそうに笑った。胸の奥が、じわりと温かい。

 

「よーし、ちょっとだけ元気出たよ! ありがとイトちゃん! お互い頑張ろうね!」

「うん。私も応援してる。頑張ろう」

 

 お茶子の拳に、イトはそっと自分の拳を合わせた。

 さっきまで眉間にあったシワは、もう消えていた。

 

 

 ──そこへ、控室の扉が開く。

 

「はあぁぁぁ……」

 

 飯田が特大のため息と共に現れた。

 

「あ、おつかれ飯田くん」

「……大丈夫?」

「麗日くんと安良久根くんか……ああ、大丈夫だ」

 

 こちらに気づき、飯田は姿勢を正す。

 

「麗日くんはもうすぐ出番だったな。…大丈夫か? 君の相手……」

「うん、爆豪くん。正直超怖い」

 

 言葉とは裏腹に、麗日はあっけらかんとした声音で言う。

 

「でも大丈夫! 飯田くんのアレとか……あとイトちゃんにも勇気もらったし!」

「そ、そんな…私は全然。お茶子ちゃんが強いんだよ」

「…そうか。なら俺からは何も言うまい、健闘を祈るよ」

「うん、祈ってて!」

 

 飯田が微笑みながら言う。麗日もうららかに応えた。

 

「ところで君らいつの間に名前で呼び合う仲に?」

「え? さっき」

「さっき! まあ仲良きことは良いことだな」

 

「麗日さん!」

 

 再び控室のドアが開く。緑谷が中に入ってきた。手にはノートを持っている。

 

「デクくん! みんなの試合見なくていいの?」

「うん、さっき第六試合終わって……あ、安良久根さんおめでとう! それで、今は切島くんとB組の人がやるとこだよ」

「わ、ありがと緑谷くん」

「もう次かぁ……やっぱ緊張するね」

 

 お茶子が体の前で両手を組む。

 

「しかしまァさすがの爆豪くんも女性相手に全力で爆発は…」

 

「するね」

「すると思うなあ…」

「……」

 

 緑谷とイトが同時に即答した。飯田が口を噤む。

 

「……みんな、夢のためにここで一番になろうとしてる。かっちゃんでなくとも手加減なんて考えないよ」

 

 緑谷の声は静かだったが、確かだった。お茶子も小さく頷く。

 

「僕は麗日さんにたくさん助けられた。だから…少しでも助けになればと思って」

 

 緑谷がノートを取り出して、続けた。

 

「麗日さんの個性でかっちゃんに対抗する策、付け焼刃だけど…考えてきた!」

「おお! 麗日くんやったじゃないか!」

 

 飯田が目を輝かせる。だが──

 

「ありがとうデクくん。でもいいや」

「え……」

 

 お茶子は穏やかに笑っていた。

 

「私もね! 自分の力で頑張りたいなって……それに」

 

 ちらり、とイトの方を見る。

 

「私だってけっこうすごいよ?」

 

 それから全員を見回して──拳を突き上げた。

 

「だからさ……イトちゃんは準決勝、デクくん飯田くんは…決勝で会おうぜ!」

 

 

 

    *

 

 

 

『さァいよいよ一回戦最終試合!!』

 

『中学からちょっとした有名人! 堅気の顔じゃねえ──ヒーロー科爆豪勝己!!』

 

(バーサス)! 俺こっち応援したい!! ヒーロー科麗日お茶子!!!』

 

 

『スタァァァァト!!!』

 

中学編、USJ編みたいな章区分あった方がいいですか?

  • あった方がいいかも
  • なくてもいいかも
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。