僕のヒーローアカデミア:スパイダーウェブ   作:スパイダーキャット

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第28話 見届ける

 

「あ、安良久根ちゃんおつかれ! 一回戦おめでとー!」

「葉隠さん、ありがとう」

 

 イトが観客席に戻ると、葉隠が出迎えてくれた。そのまま隣に座る。

 飯田と緑谷もそばに座った。

 

「次爆豪と麗日かあ」

「ウチあんま見たくないかも」

「爆豪容赦ねえもんな…」

 

 周りからはお茶子を心配する声が聞こえる。

 イトにもその気持ちがないわけではなかったが、口には出さなかった。

 

(気持ち的にはどっちも応援したいけど……まあいいや、どっちも応援しちゃおう)

 

 心持ちを新たに、イトはステージで向かい合う二人を見た。

 

(がんばれ、爆豪くん、お茶子ちゃん!)

 

 

 

    *

 

 

 

 試合は爆豪優勢で進んでいた。

 

 個性発動のために対象に触れる必要があるお茶子はどうにかして爆豪に近づこうと動くが、爆豪はそれを許さない。

 

「死ねェ!!」

「んぐ……ッ!」

 

 フェイントや緩急も爆豪の反応速度の前には意味をなさず、お茶子は再び爆豪の爆破に巻き込まれて吹き飛んだ。

 

「く……まだ……!!」

 

 お茶子は爆豪の爆破を受けながらも、何度も立ち上がり、前に出た。吹き飛ばされても、焼かれても、立ち上がる。

 そして姿勢を低く構えなおし、再度突撃した。

 

「おらああああ!!!」

「……チッ」

 

 再度の爆破。地面を抉るほどの威力を持つそれは、大量の床の破片とともにまたもお茶子を吹き飛ばした。

 

「……麗日さん」

 

 緑谷が拳を握りしめている。飯田も身を乗り出して試合を見つめていた。

 

「まだまだぁ!」

 

 またも同じ姿勢。だが通じない。

 

「……最初の変わり身が通じなくてヤケ起こしてるよ」

 

 観客の一人が呟いたのがイトに聞こえた。

 

(ヤケ? ……そんなわけない)

 

 最初の呟きを皮切りに口々に、観客から不満や怒りの声が増え始める。

 

 もう勝負はついている、女の子相手にやりすぎ、これ以上甚振(いたぶ)るな、などと。

 

 爆豪とお茶子を侮辱する言葉の数々に、イトは苛立ち始めていた。

 

(爆豪くんはお茶子ちゃんを甚振ってなんかない! お茶子ちゃんを警戒してるから、下手に追撃せず迎撃に徹してるだけ…)

 

 その証拠に、爆豪の表情は真剣そのものだ。視線はお茶子から少しも外さず、自然体のようでいて半身でどこからの攻撃にも反応できるよう構えている。油断など欠片もしていない。

 

(それに、お茶子ちゃんも……目は死んでない。勝負を捨ててなんかない)

 

 絶対になにか考えがあって、一見無謀な正面突撃を続けている。イトにはその確信があった。

 

「ぅああ!!」

 

 またも瓦礫とともにお茶子の体が宙を舞う。そして瓦礫が──

 

(……あれ?)

 

 イトはステージ上の異変に気付いた。

 

(ステージの損壊具合に対して……飛び散ってる破片が少なすぎる。分からないほど細かく砕けた? そんなはずは……ッ!?)

 

 消えた瓦礫の行方を追ってイトの視線は泳ぎ──ついに上を向いた。

 

(お茶子ちゃん……!!)

 

 

 

「いい加減にしろ、それでもヒーロー志望かよ!」

「女の子甚振って遊んでんじゃねーよ!!!」

 

 

 いよいよ観客席のブーイングは収拾がつかなくなっていた。それを──

 

 

『──今遊んでるっつったのプロか? 何年目だ?』

 

 

 相澤が遮った。

 

 

『シラフで言ってんならもう見る意味ねえから帰れ。家で転職サイトでも見てろ』

 

『爆豪はここまで上がってきた相手を警戒してるからこそ…本気で勝とうとしてるからこそ、手加減も油断もできねえんだろうが』

 

 

(……先生)

 

 珍しく怒気の籠った相澤の声に、観客は押し黙ってしまった。

 

 

「……そろそろ、かな」

 

 またも吹き飛ばされ、地面を這っていたお茶子が、よろよろと立ち上がりながら呟く。

 

「ありがとう爆豪くん」

「…あ?」

 

 そして。

 

 

「油断してくれなくて」

 

 

 『無重力(ゼログラビティ)』を解除した。

 

 ──瞬間。

 

 

『うおおおおお流星群ーーーー!!!』

『気づけよ』

 

 

 少しずつ少しずつ。爆破を受けるごとに貯めていた空中の瓦礫。

 それらが一斉にステージ上に降り注いだ。

 

 

「勝ああああつ!!!」

 

 

 瓦礫の雨の中、お茶子が爆豪に向けて駆け出す。

 

 だが──

 

「フン」

 

 爆豪が右手で左手首を掴んで支え、高く掲げる。そして……

 

 

 ──BOOOOM!!!

 

 

 一発の爆破が、降り注ぐ全ての瓦礫を吹き飛ばした。

 客席まで爆風が押し寄せる。

 

「うあァッ!!!」

 

 お茶子が爆発の余波だけで大きく吹き飛ぶ。

 

「…デクのヤロウとつるんでっからなテメェ、何か企みあるとは思ってたが……危ねえな」

「…………一撃て……」

 

 お茶子が青ざめた表情で呟く。

 

 ──だが、イトは見逃さなかった。

 爆豪の左手が、微かに震えている。

 

(あれ……隙を見せないためになんでもない風を装っているだけだ)

 

 あの量の瓦礫を粉砕するためには、やはり爆豪でもある程度の無茶が必要だったのだ。

 爆豪は、見た目よりも追い詰められている。

 

「うぐ……ッ、まだ…それでも……!!」

「……いいぜ。こっから本番だ、麗日!」

 

 爆豪がお茶子の名を呼び、不敵に笑う。

 二人が再度構え、駆け出し──

 

「ぁ……」

 

 お茶子が、倒れた。

 

「んの…ゎたし、まだ……ッ!!」

 

 お茶子は這ってでも前に進もうともがく。

 が……やがて動かなくなった。

 

 ミッドナイトが旗を上げる。

 

 

「……麗日さん行動不能!! 爆豪くん二回戦進出!!」

 

 

 会場が静まり返った。わずかな話し声が聞こえてくるほどの静寂。

 

 イトは立ち上がって、力強く拍手した。

 勝利した爆豪へ。全力で戦った、そして爆豪の全力を引き出したお茶子へ。

 

(爆豪くん、おめでとう! お茶子ちゃん、お疲れ様!!)

 

 やがてまばらに拍手が聞こえてくる。A組の面々も、共に拍手してくれた。

 

 やがて、お茶子は担架でリカバリーガールの元へ運ばれていった。

 イトは様子を見に行きたい衝動に駆られた。駆け寄って、心配して、励ましたいと。だが……

 

(……やめよう)

 

 お茶子は自分の力で立ち向かうと決めた。緑谷の作戦も断って、自分の意地で戦った。

 

 その戦いの結果を──慰めに行くのは、違う。

 

(その結果を、私が慰めるのは……違う気がする)

 

 イトは客席に座り直した。緑谷と飯田も心配そうな顔で麗日を見送っている。

 やがて、緑谷が立ち上がった。

 

「僕、二回戦の準備もあるし……先に控室行くよ」

「ああ、そうだな。頑張ってくれ緑谷くん」

 

 緑谷は足早に客席を離れていった。

 

(……準備、じゃないよね。お茶子ちゃんのところに行くんだ)

 

 イトにはそう見えた。緑谷はそういう人間だと、イトは知っていた。

 

 

    *

 

 

 一回戦の全試合が終わり、二回戦までの準備時間に入った。

 

 しばらくして──お茶子がA組の客席に戻ってきた。

 

「まだ始まっとらん?」

「おお麗日くん、おかえり……目をやられたのか!?」

 

 お茶子の腫れあがった瞼を見て、飯田が叫ぶ。

 

「早くリカバリーガールのところへ!!」

「行ったよ。コレはアレ……違うやつ」

「違うのか! それはそうと悔しかったな……」

「……うん」

 

(……お茶子ちゃん、泣いてたんだ)

 

 イトには分かった。彼女は傷つき、膝をついて……それでも立ち上がって戻ってきたのだと。

 

(やっぱりすごいよ、お茶子ちゃんは)

 

「今は悔恨よりもこれからの戦いを己の糧とすべきだ」

「うん、だね! デクくんあの氷結どうすんだろ」

 

 常闇の言葉にお茶子が応える。常闇なりの励ましだろうか。

 

「おかえりお茶子ちゃん。お疲れ様」

「あ、イトちゃん。ありがと!」

 

 何も聞かないことに決めたイトは、お茶子を素直に労った。すると──

 

「ちょっとちょっと!! 安良久根ちゃん、お茶子ちゃんのこと名前呼びした!? いつから!?」

 

 隣から葉隠が身を乗り出してきた。

 

「わ、葉隠ちゃん」

「私も! 私も名前で呼びたいし呼ばれたい!」

 

 葉隠がイトの手を掴んだ。透明の指に、確かな温度がある。

 

「え、えっと……」

「ほら! 名前! 名前呼んで!」

「……と、透ちゃん?」

「きゃー!! 嬉しー!!」

 

 葉隠が──透が、イトに抱きついてきた。照れくさくなってしまい、イトは少し顔を反らす。

 

「ちょ、透ちゃん苦しい!」

「ごめんごめん嬉しくて!」

 

 お茶子がお腹を抱えて笑っている。イトも、なんだかおかしくなって笑った。

 

 

 

    *

 

 

 

 二回戦が始まる。

 

 胸の奥で、イトの二つの感情がぶつかり合っていた。

 轟の事情を知る……知ってしまったイトにとって、この試合は──ただの勝負ではなかった。

 

 

『二回戦第一試合!! この二人の対決を待ってた奴も多いだろ!!!』

 

『緑谷!! (バーサス)!! 轟!!!』

 

 

 二人がステージに上がる。轟は静かに、緑谷は真っ直ぐに──お互いを見た。

 あの通路で交わした宣戦布告。「僕も君に勝つ」と、そう宣言した緑谷の声が、耳に蘇る。

 

(二人とも……頑張って)

 

 それ以上は言わない。言えない。どちらにも勝ってほしくて、どちらにも負けてほしくない。

 だから──ただ、見届ける。

 

 

『スタァァァァト!!!!』

 

中学編、USJ編みたいな章区分あった方がいいですか?

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