僕のヒーローアカデミア:スパイダーウェブ   作:スパイダーキャット

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第30話 蜘蛛の糸

 

 ステージ修復後、すぐに行われた第二試合は即座に終了した。

 

 

「塩崎さん場外! 飯田くん三回戦進出!」

 

 

「飯田くんはっや……」

 

 試合開始と同時に飯田は恐ろしい速度で塩崎の背後をとり、あっという間に場外へ運び出してしまった。

 

(レシプロバーストだっけ……お茶子ちゃんが言ってた)

 

 なんにせよとてつもないスピードだった。イトでも避けられるか分からないほど。

 

「飯田くん、お疲れ。さすがだね」

「おお、安良久根くん! そうか、次だったな君」

 

 入場口に戻ってきた飯田に声をかける。

 

「常闇くんは手強いだろうが……しっかりな! 応援しているよ」

「うん、ありがとう」

 

 短く言葉を交わし、イトは進みだした。

 

 

 

『二回戦第三試合! 安良久根(バーサス)常闇!!』

 

 

黒影(ダークシャドウ)……素早く動く分身みたいなやつ。今のところ弱点らしい弱点は見たことない……)

 

 ステージの上には既に常闇が待機していた。腕を組み、じっとイトを観察している。

 

(とにかく、私は近づくしかない。なんとか隙を見つけなきゃだな)

 

 

『スタァァァァト!!!!』

 

 

黒影(ダークシャドウ)!!」

「アイヨ!!」

 

 常闇の声と同時に、黒い影が弾丸のように飛んできた。

 

「っ──!」

 

 イトは横に跳んだ。ダークシャドウの爪がさっきまでイトがいた場所を抉る。

 

(速い……!)

 

「追え、黒影(ダークシャドウ)

「アイヨ!」

 

 ダークシャドウが即座に軌道を変え、横薙ぎに追撃してくる。

 

「あっぶ……!」

 

 イトはブリッジで回避──直後に上からの叩きつけ。後方に転がって躱す。

 

「わッ──ちょ、ずるいずるい!」

 

 間髪入れず次の攻撃。イトは感覚に従って体を捌き続けるが、反撃の余裕がない。

 

(攻撃を避けるので精一杯だ……近づけない!)

 

 黒影(ダークシャドウ)は常闇から離れて自律的に動く。射程は長く、攻撃パターンも多彩。イトが隙を見せれば一撃で持っていかれる。

 

 だが──

 

「……なかなかに厄介」

 

 常闇が呟いた。

 イトの体捌きは尋常ではなかった。攻撃が当たらない。首を傾け、体を捻り、時に地面に手をついて回転し、紙一重で全てを躱す。

 

 近づけないイトと、当てられない常闇。

 

 

『膠着状態!! 安良久根は避けまくるも攻め手がない! 常闇は攻め続けるも一発が入らない!!』

『互いの長所が噛み合って拮抗してるな。どっちが先に崩すか……見物だ』

 

 

「せっかく2対1なんだしさ、常闇くんも参加してみない!?」

「近づいてほしいと顔に書いてあるぞ。悪いが乗るつもりはない」

「だよね、言ってみただけ!」

 

 常闇は慎重だった。イトを決して侮らず、勝負を急がない。

 

(まあこのままだと先に限界が来るのはたぶん私だし……当然か)

 

 黒影(ダークシャドウ)にスタミナという概念があるのか分からないが、少なくともステージを跳ね回り続けているイトよりも先にバテるとは思えなかった。

 

(このままじゃジリ貧……どこかで仕掛けるしかない。だったら……)

 

 イトは思考を巡らせながら、少しずつ──本当に少しずつ、ステージの端に寄っていった。

 攻撃を避けるたびに、半歩ずつ後ろへ。自然に追い込まれているように見せながら。

 

(芦戸さんの時と同じ……追い詰められた体で、相手を誘い込む)

 

 ステージの端まであと数歩。ダークシャドウが落としにかかってきた。大きく振りかぶった横薙ぎ──イトは真下にしゃがんで躱した。

 ダークシャドウの腕が頭上を通過する。

 

(今──!)

 

 イトが全速力で駆け出した。ダークシャドウの攻撃を躱した直後の一瞬。常闇までの直線距離を、一気に詰める。

 だが──

 

「迂闊」

 

 常闇の声は、冷静だった。

 

「その作戦は既に見ている」

 

(……っ! 読まれてた!?)

 

「同じ手を二度使うとは……勝負を()いたな。黒影(ダークシャドウ)!」

「アイヨ!!」

 

 置き去りにしたつもりだった黒影(ダークシャドウ)は、既に常闇のもとに戻っていた。前のめりに突っ込んでくるイトに向けて──全力の一撃が放たれる。

 

「ぅひ……ッ!?」

 

 イトは咄嗟に大きく上に跳んだ。ダークシャドウの爪がイトの遥か下を通過する──だが。

 

「空中では、避けようがないだろう」

 

 常闇の声が、下から聞こえた。

 

 黒影(ダークシャドウ)が空中のイトを追う。跳躍の頂点──最も無防備な瞬間。

 

「仕留めろ、黒影(ダークシャドウ)!!」

「アイヨ!!」

 

(来る──!)

 

 黒影(ダークシャドウ)が迫る。だが空中では方向転換ができない。足をつける壁も天井もない。そして──

 

 

 黒影(ダークシャドウ)の拳が、イトの胴体を捉えた。

 

 

「あぐッ!!!」

 

 凄まじい衝撃。イトの体はステージの外に向かって吹き飛ばされた。

 

 

『ついに常闇の攻撃がヒットーーーー! これは決まったかァ!?』

 

 

 イトの視界がぐるぐる回る。既にイトの体は場外の位置にあった。このまま地面に落ちれば──負ける。

 

(──ッ!)

 

 イトは反射的に右手首を常闇の足元に向ける。

 

 手首から──細い糸が射出された。

 糸がステージの表面に張り付く。

 

「んぎッ!!」

 

 イトはそれを強く引いた。

 体が勢いよく軌道を変える。場外に落ちかけていたイトは、放たれた弾丸のようにステージ上に戻り、常闇の足元に着地した。

 

 

『安良久根新技で復帰ーーーー!!! 九死に一生ってやつだな!』

『今まで一度も使ったことがないからな。クラスメイトでも知らなかっただろう』

 

「なっ……!?」

 

 常闇が目を見開いた。場外に飛んだはずのイトが、糸一本でステージに帰還した。

 

(──今しかない!!)

 

 着地と同時にイトが駆ける。常闇の動揺が、一瞬だけ黒影(ダークシャドウ)の動きを鈍らせていた。

 

「……ッ、黒影(ダークシャドウ)!」

 

 常闇が咄嗟に黒影(ダークシャドウ)を繰り出す。だが慌てた迎撃は精彩を欠いていた。

 

 黒影(ダークシャドウ)の腕が振るわれる──イトは体をぬるりと逸らした。攻撃に合わせて変形しているような、柔らかい体捌き。影の爪が頬を掠める。

 そして──すり抜けるように常闇の背後に回った。

 

「しまっ──」

 

 常闇が振り返ろうとした時には、もうイトの腕が首に巻きついていた。

 

 裸絞め。

 

 イトは常闇の首に両腕を回し、そのまま後ろに倒れ込んだ。常闇の体ごと仰向けに倒れ、脚を常闇の胴に絡めて固定する。

 

「ぐぎぎぎ……!!」

「ぐッ……!」

 

 常闇がもがく。黒影(ダークシャドウ)が主人を助けようと動くが、イトは常闇の体を盾にするように密着していた。

 

「く……黒影(ダークシャドウ)……!」

 

 常闇の声が掠れていく。イトの細い腕が、万力のように首を締め上げている。

 

(ここを逃したら終わりだ! 絶対離さない......!)

 

 数秒の攻防。常闇の抵抗が弱まり──

 

 ぽん、ぽん。

 

 常闇の手が、イトの腕を叩いた。

 

 

「常闇くん降参!! 安良久根さん三回戦進出!!」

 

 

『決まったァ!!! まさかの関節技!! いや絞め技か!? 決着は唐突だったな!!!』

 

 

 イトは常闇の首からゆっくり腕を緩めた。

 

「はぁ……はぁ……ごめんね常闇くん、平気?」

「……いや、見事だ。あの復帰は完全に想定外だった」

 

 常闇が素直に賞賛を送る。

 

「いや咄嗟に……あそこまでは完全に常闇くんの術中だったよ」

「それでも勝利は勝利だろう。……ところで」

 

 常闇が、珍しく気まずそうな様子で言い出しにくそうに続けた。

 

「すまないが……そろそろ離してくれないか」

「あっごめん! 力もう抜いてたつもりだったんだけど……苦しかった?」

「いやなんだ……その、そちらではなく」

 

 常闇はしばらく目を泳がせると、やがて覚悟したように言った。

 

 

「……胸が」

「……えっ」

 

 

 イトは常闇を絞め技で仕留めた。つまり体を強く密着させていた。

 その結果……耳郎が『ヤオモモ級』と称した果実が、常闇の背中に押し付けられて平らに変形していた。

 

 

「えっあっあぁ!? ごごごごごごめんなさい!?」

「いや、こちらこそ……」

 

 イトの顔が爆発したように赤くなり、爆速で常闇から離れた。

 

 

「くっそ常闇くっそ!!」

「安良久根あざといぞー!!」

「なあオイラあいつ許せねえよ、今からでも途中参加できねえかなあ!?」

 

 

 A組の観客席からヤジが飛んでくる。

 

(死にたい死にたい死にたい……!!)

 

 イトは顔を両手で覆いながら、足早にステージを降りた。

 

中学編、USJ編みたいな章区分あった方がいいですか?

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