僕のヒーローアカデミア:スパイダーウェブ 作:スパイダーキャット
お気に入り登録数800件まことにありがとうございます
二回戦第四試合──爆豪勝己 vs 切島鋭児郎。
イトは客席で試合の終盤を見守っていた。
切島は限界に近かった。幾多の爆破を受け、硬化した体に亀裂が走っている。
「死ねェ!!」
爆破が炸裂する。ついに切島が倒れた。
「切島くん、行動不能!! 爆豪くん三回戦進出!!」
『爆豪エゲツない絨毯爆撃で三回戦進出!! これでベスト4が出揃ったあ!!』
(爆豪くん……やっぱり強い)
イトは一つ息を吐いた。次の対戦相手だ。分かっていたことだが、改めて目の前で見ると──その爆破の威力は、恐ろしかった。
だが怖いだけではない。
(……あんなにボロボロでも全力で向かっていく切島くんもすごいな。私も……見習おう)
「イトちゃん、大丈夫? 次、爆豪くんだけど……」
お茶子が心配そうに覗き込んでくる。
「うん。大丈夫」
イトが頷いた。その時──
「あ、デクくん!」
お茶子の声に振り返ると、緑谷がこちらに歩いてきていた。全身包帯まみれで、右腕が固定されている。
「えっと……ただいま」
「わあ、ボロボロだ。動いて大丈夫なん?」
「うん、まあ……ちゃんと、見届けたくて」
緑谷が真剣な顔で答えた。
二回戦第一試合は引き分けとなり、その後は腕相撲などで三回戦進出者を決める予定だった。
だが手術と治癒を施してなお重傷の緑谷に対しリカバリーガールによるドクターストップが入り、三回戦進出者は轟に決まったのだった。
(出久くん……悔しいだろうに)
イトは立ち上がって緑谷に向き直った。
「緑谷くん。おかえり」
「あ、安良久根さん。常闇くんに勝ったんだってね、おめでとう!」
「ありがとう。緑谷くんも……その、お疲れ様」
(本当は「すごかったよ」って言いたいけど、もう控室で言ったし……)
「次、かっちゃんだよね」
「うん」
「その……」
「大丈夫だよ」
イトは真っ直ぐに緑谷の目を見て言った。
「私は大丈夫。爆豪くん相手でも……負けるつもりなんてないから」
*
控室。今は三回戦第一試合、轟と飯田が戦っている頃だ。
(爆豪くんの個性、爆破……すごく強力だけど、それだけじゃない。爆豪くん自身の能力もすごく高い)
イトは少しでもウェブで失った栄養と水分を補給するため、スポーツドリンクをがぶ飲みしながら思考を巡らせていた。
(常闇くん戦でウェブを使っちゃったし、もう爆豪くんの頭にはウェブのことがある。どうせなら……目一杯警戒してほしいよね)
イトのウェブを見た爆豪は、なぜこれまで使っていなかったのか考えるだろう。そして間違いなく、リスクが大きくて多用できないという可能性にも至るはずだ。既に一度見られた以上、試合序盤にウェブの使用を躊躇えば確実にその説を補強してしまうことになる。
(初っ端から無駄撃ち覚悟で一発使う? いやでも、一発分だけでも結構体が重くなっちゃうし……警戒させる目的だけでは使いたくないな)
ウェブは警戒させたい。だが消耗はしたくない。
(何か、良いとこ取りの案はないかな……)
*
『準決勝第二試合!!!』
『一回戦から圧倒的な爆発力で勝ち上がってきた爆豪と、ベスト4唯一の女子、紅一点の安良久根!!!』
『一回戦以来の惨劇が繰り広げられねえか俺はめっちゃ心配だぜええええ!!!』
『相変わらず私情すげえな』
ステージの上、爆豪と向き合う。
あの鋭い目が、真っ直ぐにイトを見ていた。
「覚悟はできたかよ」
爆豪が不敵に笑う。
「なんの?」
イトもまた笑って問う。
『スタァァァァト!!!!』
「俺にぶっ殺される覚悟だよ!!!」
「殺されないからそんな覚悟いらないよ!!!」
開始の合図と同時──イトが右手首を爆豪に向けた。
短い発射音と共に三発の白い弾丸が爆豪に向かって飛ぶ。
(即興必殺──)
「
イトの考え付いた消耗の少ないウェブの利用法がこれだった。
蜘蛛糸の射出圧を強く高め、ごく短い量のウェブをさながら銃弾のように撃ち出す。
自分で出すウェブの射出圧のコントロールなどしたことがないイトだったが、ウェブシューター開発で理論だけは構築していた。
結果、控室での数回の練習でなんとか形にすることができたのだった。
(これで勝てるなんて思ってないけど……見せ札としては十分でしょ!)
爆豪の目が一瞬見開かれる。だが──
「ナメんな!!」
右手を振るい、広範囲の爆破。
「……うそぉ。避けるくらいしてよ」
「ナメんなっつったろ。テメェが来いや」
「どうしよっかな!!」
横向きに走りながらもう一発放つ。
「効くかこんなもん!!」
再び爆破で相殺すると同時、爆豪が動いた。
イトとの距離を一気に詰め、爆破を仕掛ける。
「死ねェ!!」
「あっぶ!?」
イトは大きく後方に跳び、なんとか回避する。
「逃げんな!!」
「んな無茶な!!」
急いで体勢を整え、イトは追撃を警戒する。
だが、爆豪は深追いする気はないようだ。
(燃え上がってるようで冷静なんだからもう……)
イトは走りながら弾を放ち、爆豪の側面に回り込もうとした。だが爆豪は蜘蛛糸弾など眼中にないとばかりに爆破で消し飛ばし、イトの移動先に爆破を置いてくる。
「ひっかかるかよ!」
「ぅわっ……!」
着地を狩られる。咄嗟に横に転がって回避し、立ち上がりざまに
「ちょ──反則じゃない!?」
「うるせえ死ね!!」
再度距離を取り、
(
再度距離を取り、イトは冷静に状況を受け止めた。
(……プランBだな)
爆豪に向き直って構えなおす。
(──覚悟を決めろ)
イトは全速力で駆け出した。フェイントも駆け引きもない、純粋な突撃。
「あぁ?」
爆豪の表情には困惑の色が見える、だが──
「ナメんな!!」
「ぐぁあッ!!」
目の前に迫ったイトに容赦なく爆撃を浴びせた。
『モロに食らったぁーーーーー!!!』
爆破をまともに食らったイトは大きく──
「──ぁあッ!!」
「んぐッ!?」
──吹き飛ばず、爆豪の頬に拳を叩きこむ。
(あの爆発をかいくぐって爆豪くんに攻撃するのは無理だ。だったら……爆破を耐えて殴り返す!!)
爆破を受ける瞬間に足を強く吸着させその場に踏みとどまる。そして大きくのけ反った体を戻す力を利用して爆豪に反撃した。
まともに受けた爆豪は後方に吹き飛び──
「オラァ!!!」
「ぐあッ!?」
──ながらも、再度イトに爆破を叩きこむ。今度こそイトも吹き飛ばされた。
両者何度か地面をバウンドし、膝をついて止まる。
イトがよろめきながら立ち直る。体操服の右袖が半分焼け落ちていた。
して、爆豪が立ち上がった時。その目が変わっていた。
(……気づいた?)
イトの直感が告げていた。見抜かれた、と。
「やっぱりか」
爆豪が首を鳴らしながら言った。
「テメェいつもはサポートアイテムで糸出してンもんなあ。個性で同じことできんなら、わざわざアイテム使う理由がねえ──つまり個性のほうには制限がある」
(……やっぱバレるかあ)
「今もそうだ。糸が自由に使えんなら、やれることは他にもあるだろうにわざわざ突っ込んできやがった。やんねえんじゃなくて出来ねえんだろ、どんなリスクあんのかは知らねえがな」
爆豪の推理は正確だった。
「別にあのパチンコ玉みてえのだけなら怖かねえんだよッ」
爆豪が距離を詰めてくる。今度は爆破で加速しながら。
(来る──!)
イトは横に跳んで回避しようとした。だが──
「遅え!」
爆豪の爆破が炸裂した。その場で体を捻って躱すだけでは、爆破の範囲から逃れられない。
「うあっ!?」
爆風をまともに受ける。大きく跳んで離れれば避けられるが──常闇戦で空中に追いやられた記憶が蘇った。
(大きく跳んだら追撃される……でもその場で避けるには範囲が広すぎる……!)
どちらの択も危険。だったら──
「……っ、だったら!!」
再度イトが前に出た。爆豪に向かって真っ直ぐ。
「来いやァ!!」
爆豪が笑った。
爆破がイトを襲う。足を踏ん張ってその場に踏みとどまり、拳を振るった。
「
だが回避される。パワーはあれど振るいなれていないイトの拳は、不意打ちでさえなければ爆豪には容易く避けられるものだった。
「死ねェ!!」
「がぁッ!?」
イトの体操服がさらに焼けていく。肌に火傷が広がる。
「もう一発──ぅぐッ!?」
「あ゛ぁッ!!」
追加でさらに一撃爆破が繰り出される──と同時、イトの拳が爆豪の腹に突き刺さる。
(反撃じゃ避けられるなら……食らいながら攻撃するだけ!!!)
爆豪が体勢を立て直し、イトを睨む。
「ぐッ……テメェ…ッ」
「良い感じに痛気持ちいねその線香花火! 腰のあたりとかもっとやってくれない?」
「……!」
明らかな虚勢だった。体操服が黒焦げ、一部から覗く肌には確実にダメージが刻まれている。
「……ハッ」
だが爆豪は、そういう誘いには乗るタイプの男だ。
「上等だコラ! 後悔すんじゃねえぞ安良久根ぇ!!!」
「爆豪くんこそ、女の子に泣かされても知らないから!!」
爆豪が爆破する。イトが大きくのけ反る。
イトが殴る。爆豪の体が浮く。
爆破する。
殴る。
炸裂。
反撃──。
『これは……ノーガードだァ!! えっぐい殴り合いしてるぞこの二人!?』
『……根性比べだな』
「テメェ……やるじゃねえかクソが……ッ!」
「これでもけっこう頑丈なんだよ……っ!」
互いの拳が交差する。だが蓄積されたダメージの差は歴然だった。爆破のたびにイトの体力が削られていく。
そして──爆豪の右拳が、イトの腹に爆破と共に叩き込まれた。
「ぁぐッ!!!」
イトの体が宙に浮く。吸着が剥がれ、ステージの外へ吹き飛ばされていく。
『安良久根吹き飛んだァ!!! これは──』
──その瞬間。
イトの両手首から、糸が放たれた。
一本は爆豪の右足に。もう一本は左肩に。
「……ッ!?」
爆豪の目が見開かれた。
(──かかった!!)
イトの目的は、これだった。
ゼロ距離の殴り合いを仕掛けたのは、「もうウェブは使わない」と思わせるため。さらに念を入れて、爆豪の頭から完全にウェブの択が消えるまで、拳だけで耐え続けた。そして満を持して今──わざと吹き飛ばされ、油断を誘う。
「ぐあッ!?」
吹き飛ぶイトとウェブで繋がった爆豪もまた、イトに引っ張られる形で宙に浮く。
イトはくるりと空中で回転し、着地。同時に両手のウェブを更に思い切り引いた。
「いっくぞぉーーーー!!」
爆豪の体が引き寄せられる。同時にイトが地面を蹴って前方にジャンプ。引き寄せられてきた爆豪に向かって──両足でドロップキックを叩き込んだ。
「がはッ!!」
爆豪が大きく吹き飛ぶ。だがイトはウェブを離さない。糸を引いて爆豪の体を上に跳ね上げた。追撃の体勢──
だが。
「ッ…ぐおッおぉぉあアア!!!!」
空中の爆豪が、右手で爆破を放った。吹き飛ばされた勢いを殺すのではなく──その軌道を無理やり変え、イトに向かって突っ込んでくる。
「マジか……ッ!!」
イトは咄嗟に手首を爆豪の顔面に向け、短く糸を発射した。ウェブが爆豪の目を覆う。
「ぐ……!」
だが爆豪は止まらなかった。右腕を大きく振りかぶり──
「関係ねえんだよォ!!!!」
最大威力の広範囲爆破。視界にイトを捉える必要のない、全方位への一撃。
──凄まじい爆発がステージを呑み込んだ。
「きゃあ!?」
「うわっ!?」
客席まで熱風が吹き荒れる。
「うぎッ!」
イトは爆風で場外まで吹き飛ばされたが──最後の力でウェブを放ち、ステージの端に張りついて復帰した。
だが──体が、重い。
(……まずい。ウェブ使いすぎた……体が言うこと聞かない……)
ブラフではない、真のガス欠だった。これ以上ウェブはもう本当に撃てない。
ステージに戻ったイトがよろめきながら立つ。
──爆豪も、顔のウェブを剥がしながら立ち上がっていた。右腕が震えている。
「テメェ……」
許容を超えた最大威力。その代償は爆豪の右腕にも来ていた。
「……お互い元気いっぱいだね」
互いにボロボロ。だが──どちらも退かない。
イトが拳を構え直す。爆豪も構えた。
そして──再び、ゼロ距離。
「ォアアッ!!」
「あぁあ!!!」
殴る。爆破。殴り返す。もう戦術も駆け引きもない。ただ拳を叩きつけ合う。
「グッ……!」
「ぐ……ッ!」
イトの拳が爆豪の顔面を捉える。爆豪の爆破がイトの脇腹に突き刺さる。
よろめくイト。ふらつく爆豪。
──その時。
爆豪の左腕が、振りかぶられた。
(……左!?)
「終わりだァ!!!!」
爆豪の左手から、再度最大威力の爆破が放たれる。
轟音。
もう最大火力は出せないと思っていた。実際その通りだ。だが爆豪勝己には、もう一本腕がある。
「あ──」
回避も防御も間に合わない。イトの体が、凄まじい爆風と共にステージの外へ吹き飛んだ。
地面に叩きつけられる。ごろごろと転がり──止まった。
(動け……ない……)
「安良久根さん場外!! 爆豪くん決勝進出!!!!」
ミッドナイトの声が、どこか遠くで聞こえた。
『す、すげェ試合だった……! でも安良久根どこだ!? 煙で全然見えねえ!!』
イトは場外の地面に仰向けに倒れていた。
体が動かない。指一本動かすのがやっとだった。
(……負けた。負けちゃったな)
爆破で巻き上げられた土煙が、まだあたりを覆っている。
──ふいに、布が被せられた。
軽くて、少し焦げた匂いがする。
(これ……)
必死で首だけを動かし、自分の体を見下ろす。
今の爆破で、既にボロボロだった体操服が完全に焼け崩れており、イトは上半身裸同然の格好になっていた。
(服……ボロボロ……あ)
被せられた布は──爆豪の体操服の上着だった。
煙の向こうに、黒のタンクトップ姿の背中が見える。上着を脱いだ爆豪が、明後日の方向を向いて立っていた。
「ばく……ごう、くん。……ありがと」
「フン」
掠れた声で呼びかける。
爆豪は振り返らず、短く鼻を鳴らした。
「……ふふ」
「あぁ?」
「爆豪くん、よくそれやるよね。けっこうわかってきたよ」
「んだと」
「……ところで、見てないよね?」
「何を」
「いや、わかるでしょ」
「知るか」
「あっちょっとごまかさないでよ。女の子的にすごい大事なことなんだから……!」
「うっぜェ」
担架を持ったロボットが近づいてくる。医務室に運ばれるまでの間、イトは爆豪と言い争っていた。
ヒーロー科、安良久根イト。
雄英体育祭最終種目、準決勝敗退。
今週日曜日は更新お休みです
中学編、USJ編みたいな章区分あった方がいいですか?
-
あった方がいいかも
-
なくてもいいかも