僕のヒーローアカデミア:スパイダーウェブ   作:スパイダーキャット

34 / 35

今日は休みだと言ったな。あれは嘘だ。

なんとか間に合ったので出します。ただし明日以降は本当にお休みになります。詳しくはあとがきの方で。


第32話 私の現在地

 

 医務室のベッドの上で、イトは天井を見つめていた。

 

 リカバリーガールの治癒を受け、火傷や打撲は治まった。だが体の芯にはまだ重い疲労感が残っている。ウェブの使いすぎで著しく消耗した栄養と水分は取り戻せない。

 

「はい、これでおしまい。しっかり食べて寝なさいよ」

「ありがとうございます」

 

 ベッドから降りる。体は動くが、どこかふわふわした感覚がある。

 

(……負けちゃった)

 

 悔しさは、ある。

 だが、それ以上に──胸の中が、清々しかった。

 

 出し切った。全部出した。持っているもの全てをぶつけて、それでも勝てなかった。

 

(勝己くん強かったなあ。まあ、ここが私の現在地……ってことだよね)

 

 

 

    *

 

 

 

 観客席に戻ると、お茶子と透が飛びついてきた。

 

「イトちゃん! 大丈夫!?」

「もう信じらんない! あんな試合!」

 

「あはは……他に方法思いつかなくて」

「にしたって無茶だよお!」

「……お茶子ちゃんだって似たようなことしてたくせに」

「う……それは、まあ」

「でもやりすぎはやりすぎだよ! 最後の方服ほとんどなくなっちゃってたよ!」

「えっいやそれは……」

「めっちゃ見応えあった」

 

 横から繰り出された峰田の台詞に、イトの顔が赤くなる。自分の体操服は予備も含めて使ってしまっていたため、今は医務室で借りたシャツの上から爆豪の体操服をそのまま着ている。

 

「そ、それより! まだ決勝始まってない?」

「あ、話逸らした」

「これから始まるとこだよ」

 

 ふと見ると、ステージ上には既に轟と爆豪がいた。

 

「わわ、危なかったあ」

「ほら、座って! ちゃんと休まなきゃ」

 

 

 

    *

 

 

 

『轟いきなりかましたぁ!!!』

 

 

 決勝戦は、轟の大規模凍結から始まった。

 

 ステージ全体を覆う氷の壁が爆豪を呑み込む。爆豪の姿が完全に氷の中に消えた。

 

(勝己くん……!)

 

 だが次の瞬間──氷の内部で爆発が起きた。爆豪は氷の中に爆破で空間を作り、凍結を防いでいた。さらに連続爆破で氷を内側から掘り進み──

 

「オラァ!!!」

 

 氷を突き破って飛び出した。

 

 轟が即座に氷を放つが、爆豪は爆破で加速しながら回避し、轟の左側に回り込む。

 

「ナメ……ってんのかバアアカ!!!」

 

 爆豪は熱の側──左半身の髪と肩の服を掴み、爆破と共に投げ飛ばした。

 

「くっ……!」

 

 轟は咄嗟に曲線状の氷壁を生成し、場外を防ぐ。壁面を滑るようにUターンし、体勢を立て直して反撃の構えを取った。

 

 

『楽しそう!!』

 

 

 攻防が続く。爆破を氷で防ぎながら、轟が左腕で爆豪の右腕を掴んだ。

 

(──炎が来る)

 

 イトは直感した。左腕で相手を掴む。あの体勢なら、左半身の炎で──

 

 だが。

 

 轟の動きが、一瞬止まった。

 

 その隙を逃さず、爆豪が腕を振り払う。距離が開く。

 

「…………」

 

「轟くん……まだ」

 

 イトは思わず呟いた。炎を、使わなかった。

 

「……俺じゃあ力不足かよ。……てめェッ」

 

 爆豪の表情が、怒りに歪んだ。イトを相手にした時とも、切島を相手にした時とも違う──純粋で、剥き出しの怒り。

 

虚仮(コケ)にすんのも大概にしろよッ! ブッ殺すぞ!!」

 

 爆豪の声がステージに響く。イトは胸が締めつけられるようだった。

 

(勝己くんは……自分と同じ全力を求めてる。お茶子ちゃんや切島くん…私との試合がそうだったから。それがどれだけの意味を持つか知ってるから──)

 

「俺が取んのは完膚なきまでの一位なんだよ……舐めプのクソカスに勝っても取れねえんだよ!! 勝つつもりもねえなら俺の前に立つな!!」

 

 観客が静まっていた。爆豪の叫びは暴言だが──その中に、本気の悲痛さがあった。

 

「なんでここに立っとんだクソが!!!」

 

 爆豪が轟に突撃する。もう戦術もなにもない。ただ、全力を出させるためだけに殴りかかっていく。

 

(……勝己くん。その気持ち、痛いほど分かるよ)

 

「負けるな頑張れ!!」

 

 客席から、緑谷の声が響いた。轟に向けた叫び。あの試合で自分の体を壊してまで伝えた想いが、もう一度──

 

「……ッ」

 

 轟の左半身に、炎が灯りかけた。ほんの一瞬、火花が散る。

 

 だが──爆豪の爆破が迫る直前に、炎は消えた。自ら引っ込めたのだ。

 

(轟くん……!)

 

 爆豪は全力だった。

 全身の捻りを加えた、渾身の爆破。決勝に取っておいた最大火力。

 

 

 そして──轟が吹き飛ばされ、場外に落ちた。

 

 

 爆豪はステージの中央で立ち尽くしていた。放心したように。

 

「…………は?」

 

 勝った。勝ったはずだ。だが爆豪の顔に、喜びは微塵もなかった。

 

「オイっ……ふッふざけんなよ!! こんなの……こ……」

 

 爆豪が場外に倒れた轟に掴みかかろうとした。その背後から、ミッドナイトの腕が振るわれる。眠りの香りが爆豪を包み──爆豪の体が崩れ落ちた。

 

 

「轟くん場外! 爆豪くんの勝ち!!」

 

 

 

 

    *

 

 

 

 

 表彰式。

 

 表彰台の上には三つの場所がある。優勝、爆豪。準優勝、轟。三位、安良久根イト。

 

 飯田は不在のため、三位はイトのみだった。

 

 だが一位の表彰台には──鎖で拘束され、口枷まで嵌められた爆豪がいた。

 

「ぐごごごおぉ!!!」

 

 暴れている。全力で暴れている。拘束具がギシギシと軋む。

 

「爆豪くん、もう表彰式始まるから……」

「ぐぉぉ!?」

「気持ちは分かるけど……轟くんにだっていろいろあるんだよ。(…爆豪くんも知ってるでしょ?)」

「ぐふもごまぐごぐ!!」

「そんなこと言われても……私とは思いっきりやって勝ったんだからそれで納得してよ」

「ぐもも! ぐぐもがも!!」

「何も思ってないわけじゃないよ。でも……今何か言う気はないかな」

「ぐがあ! ががぐもが!!」

 

(……なんで会話成立してるのかしらこの子ら)

 

 平然と会話するイトと爆豪を見て、ミッドナイトは唖然としている。

 

「……えー、気を取り直して! これより表彰式を行います!」

 

 観客に向き直り、ミッドナイトが宣言する。

 

「メダル授与よ! 今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!!」

 

 ミッドナイトが会場の屋根を指差した。見上げると、巨大な人影がそこに立っている。

 

 人影が跳躍し──轟音と共に表彰台の前に着地した。

 

 

「私が──メダルを持って来「我らがヒーロー、オールマイト!!!」

 

 

 着地姿勢のまま、オールマイトがプルプルと震えた。悲しそうな目でミッドナイトを見る。ミッドナイトは手を合わせて「ごめんなさい」のポーズ。

 

「……んん!」

 

 オールマイトが気を取り直し、まずイトの前に立った。首にメダルをかけてくれる。

 

「安良久根少女おめでとう! 普段の君からは想像できないアグレッシブな攻めだったな!」

「えっと……ありがとうございます。私のやれる限りで、全力でやろうって決めてたので」

「なるほどな! 君はこれからももっと成長できる、期待してるよ!」

「……はい!」

 

 オールマイトが大きな腕でイトを抱きしめた。温かくて、分厚くて、安心する腕だった。

 

 次に、オールマイトは轟の前に進んだ。メダルをかけながら、何か言葉を交わしている。歓声で細かくは聞こえないが──轟が小さく頷くのが見えた。

 

(轟くん……なんだか、少し表情が柔らかくなった?)

 

 体育祭の前、通路で見た氷のような目とは違う。何か憑き物が落ちたような、静かな顔をしていた。

 

 そして──オールマイトが爆豪の前に立つ。

 

「さて爆豪少年! ……っとこりゃあんまりだ」

 

 鎖と口枷を見て、オールマイトが苦笑した。手を伸ばし、爆豪の口枷を外す。

 

「伏線回収見事だったな」

「こんな一番なんの価値もねぇんだよ…ッ! 世間が認めても俺が認めてなきゃゴミなんだよ!!」

 

 爆豪の目が、顔の外にまで吊り上がっているかのような鬼の形相だった。

 

(勝己くん……自分に厳しいんだから)

 

「うむ! 相対評価に晒され続けるこの世界で、不変の絶対評価を持ち続けられる人間はそう多くない。受け取っとけよ、傷として!」

「要らねっつってんだろが!!!」

 

 オールマイトがメダルを首にかけようとするが、爆豪は全力で首を振って抵抗する。オールマイトは困った顔で何度か試み──最終的に、噛みつこうとした爆豪の口にメダルを引っかけた。

 

(……やっぱり勝己くん結構かわいいな?)

 

「さァ皆さん! 今回は彼らだった……しかし、この場の誰にもここに立つ可能性はあった!!」

 

 オールマイトの声がスタジアム全体に響き渡る。観客が静まり、No.1ヒーローの言葉に耳を傾けた。

 

「競い、高め合い、さらに先へと昇っていく姿! ご覧いただいた通り、次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!」

 

 イトは表彰台の上で、その言葉を噛み締めていた。次代のヒーロー。自分も、その一人なのだと。

 

「てな感じで最後に一言! 皆さんご唱和ください、せーの!!」

 

 

「「「プルスウルト「おつかれさまでした!!!」

 

 

「「「…………」」」

「…………」

 

 

「BOOOO!!!」

「そこはプルスウルトラでしょオールマイト!!」

 

「いや……疲れたろうなと思って……」

 

 盛大なブーイング。No.1ヒーローは照れくさそうに頭を掻いている。締まらない。でも──それがなんだか、オールマイトらしかった。

 

 

 

    *

 

 

 

 体育祭が終わり、夕暮れの帰り道。

 

「いやーお疲れお疲れ!」

 

 透が伸びをしながら歩いている。イトもその隣をゆっくり歩いていた。

 

「透ちゃん、応援ありがとね」

「負けちゃって暇だったんだもん! イトちゃんの試合、全部叫んでたよ!」

「声ガラガラじゃん」

「がんばりました!」

 

 透が両手を広げる。透明だから表情は見えないが、声が弾んでいる。

 

「三奈ちゃんとの試合もカッコよかったし、常闇くんの時はもうハラハラしたし……爆豪くんとの試合なんて、泣いちゃうかと思ったよ!」

「えぇ?」

「だってイトちゃんボロボロになりながら殴り合ってるんだもん……女の子だよ私たち!?」

「あはは……まあ、うん……」

 

 イトは苦笑した。確かに、あまり自分らしくない戦い方だったとは思う。

 

「でも……爆豪くんの本気に応えたかったんだよ。私も」

「そりゃあ見てたら分かったよ。でも心配するのは別の話!」

「……ごめん」

「やめる気ないくせに謝るの良くないよ!」

「うっ……」

 

 返す言葉がなく、イトは気まずそうに目を逸らした。

 

「まあでも今回は仕方ないよ。雄英体育祭だもん」

「そうだね……皆すごかった」

「イトちゃんもね! 私ももっと頑張る!!」

「うん、私も。これからもっとがんばろう」

 

 透が手を差し出した。イトはその透明な手を、迷わず叩いた。

 パンッ、と小気味よい音が夕暮れの空に響く。

 

 安良久根イトの雄英体育祭は、こうして終わりを迎えた。

 

 





体育祭編無事終了です。
次回以降の更新なんですが、一旦今週の平日はお休みします。
実は今ゾンビランドサガのライブに参加しに神奈川に来ていまして、久々の日を跨いでの遠出に肉体が悲鳴をあげておりまして。
こっちでも書いていくつもりだったんですが想定が甘く、書き溜めるどころかストックが尽きてしまいました。

というわけで今週は疲労回復+ 書き溜め直し期間とします。週末あたりにはまた定期更新再開できるように頑張るのでどうぞよろしく。

中学編、USJ編みたいな章区分あった方がいいですか?

  • あった方がいいかも
  • なくてもいいかも
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。