僕のヒーローアカデミア:スパイダーウェブ 作:スパイダーキャット
校門を出ると、四月の風が少しだけ冷たかった。
日が傾き始めた通学路を、イトは葉隠と並んで歩いていた。
「いやー、初日からすごかったね! 相澤先生めちゃくちゃ怖かった!」
「……うん。寝袋は予想してなかった」
「ね! あと除籍って言われた時はほんとに心臓止まるかと思った!」
「嘘だったけどね」
「嘘って分かったから言えるんだよそれは!」
葉隠の制服の袖がぶんぶん振られている。表情は見えないが、声のトーンだけで感情が全部伝わってくる。不思議な子だ。
「安良久根ちゃん、4位だったでしょ。すごいよね」
「……たまたまだよ。蜘蛛の個性って、体力テストとは相性がいいだけで」
「たまたまで4位は取れないと思うけどなー」
「葉隠さんこそ、身体能力系の個性じゃないのにすごいよ」
「よせやい!」
話していると、前方に、三人組が歩いているのが見えた。
緑谷と、飯田と、麗日。三人は何か話しながら歩いている。飯田が大きな身振りで喋り、麗日が笑い、緑谷がおどおどしつつも嬉しそうにしている。
「あの三人、もう仲良くなってるね」
「……うん。早いね」
朝教室で会ったばかりなのに、もう友達みたいだ。イトは少しだけ羨ましく思った。自分にはああいう距離の詰め方ができない。
「安良久根ちゃんもさ、もっとみんなと話せばいいのに」
「……努力はしてる、つもり」
「つもりじゃなくて! でもまあ、私がいるから大丈夫だよ!」
葉隠が胸を張った。制服の上半身が少し反り返る。
「私が安良久根ちゃんのコミュニケーション担当になってあげる!」
「……それ、ありがたいけど、ちょっと怖い」
「なにおう!?」
分岐路で葉隠と別れ、一人で家に向かう。
帰宅すると、皐月が夕食の支度をしていた。
「おかえり。初日どうだった?」
「……担任が、寝袋から出てきた」
「え?」
「あと、最下位は除籍って言われた。嘘だったけど」
「ええ……?」
皐月が困惑している。イトは靴を脱ぎながら続けた。
「でも個性把握テストは4位だった」
「4位!? すごいじゃない!」
「……うん。自分でもびっくりした」
工房のドアが薄く開いていた。榕介が中から聞いているのだろう。何も言わないが、聞いている。
「ご飯できるまでに着替えてきなさい。今日はイトの好きなやつ作るから」
「……ありがとう、おばさん」
*
二日目。
教室に入ると、昨日よりも空気が柔らかくなっていた。初日の緊張が少し解けたのだろう。あちこちで雑談が始まっている。
イトは自分の席に着き、緑谷の方をちらりと見た。
──指。
昨日、ソフトボール投げで明らかに折れていた指。緑谷は今、隣の飯田と何か話しながら右手でノートをめくっている。指は包帯もなく、普通に動いている。
(よかった……ちゃんと治ってる)
リカバリーガールに診てもらったのだろう。あの先生の個性は本当にすごい。
午前中は通常授業だった。
英語はプレゼントマイク。授業中もテンションが変わらないのは、ある意味すごい。
「EVERYBODY LISTEN UP!! この文法が分かるリスナ〜?」
イトは静かに手を挙げた。正解した。プレゼントマイクが「YEAH!!」と叫んだ。うるさい。でも悪い気はしなかった。
現代文はセメントス。穏やかな授業で、イトはほっとした。ノートを取りながら、ふと教室を見回す。
みんな、普通に授業を受けている。昨日の個性把握テストが嘘みたいに、普通の学校の風景だ。ヒーロー科だって、授業は授業なのだ。
──ただし。
昼食後の午後は、普通ではなかった。
「わーたーしーがー!!」
教室の扉が勢いよく開いた。
「普通にドアから来た!!」
オールマイト。
本物の、オールマイトが、教室にいる。
クラスが一瞬で沸騰した。イトも例外ではなかった。
(オールマイトが……目の前に……!)
心臓がバクバクと鳴っている。No.1ヒーロー。平和の象徴。テレビの向こうにいた人が、教壇に立っている。
「ヒーロー基礎学! この科目は様々な訓練でヒーローの基礎を叩き込むカリキュラムだ! 早速だが──今日はこれをやるぞ!」
オールマイトがカードを掲げた。
──BATTLE。
「戦闘訓練!!」
教室がどよめく。戦闘。訓練。二日目にして、もう戦う。
「そして戦闘訓練と言えば──」
オールマイトがもう一つのカードを出す。
「コスチュームだ!!」
教室の壁面から、番号が振られたケースがスライドして現れた。入学前に提出したコスチュームデザインに基づいて制作されたもの。
「着替えたらグラウンドβに集合だ!」
*
更衣室で、イトはケースを開けた。
中に入っていたのは──白い、ボディスーツ。
白地に、蜘蛛の巣パターンの黒いライン。手首周りとブーツのソールに薄桃色のアクセント。そしてフルフェイスマスク。白いベースに、大きな黒のゴーグルレンズ。予備のカートリッジを装着できるベルト。
自分がデザインしたものだ。設計図を何度も描き直して、榕介おじさんにも意見をもらって、完成させた理想のコスチューム。
「……できてる」
手に取ると、素材は想像していたよりも薄くて軽かった。個性の特性を考慮して、引っかかりやダボつきのないぴったりしたデザインにした。関節の可動域を最大限に確保するために。
着てみた。
──あ。
「…………え、これ、ちょっと」
鏡を見た。
薄い素材が体のラインをそのまま映し出していた。普段は猫背と制服で隠れていたものが、全部──全部出ている。
「えっ……えっ、こんなに出る……?」
「わー! 安良久根ちゃんスタイルいい!!」
隣で着替えていた葉隠の声が飛んできた。透明なので葉隠自身のコスチュームは手袋とブーツだけだ。ある意味、究極の露出。
「やっ、やめて見ないで……!」
「えーいいじゃん! もっと自信持とうよ!」
「恥ずかしいよ……! なんでこんなに体のラインが……設計図ではもうちょっとこう……」
「ね……私もこんなんなった」
麗日がイトに同意する。彼女のコスチュームもまた、イトに負けず劣らず体のラインがはっきりと出ていた。
「要望ちゃんと書けばよかったよ~」
「機能性重視でしょ? しょうがないしょうがない!」
八百万が優雅に着替えながら、こちらを見て微笑んだ。
「とても良いデザインだと思いますわ。可動域を最優先にした設計でしょう?」
「あ、う、うん……関節の動きを妨げないように……」
「素晴らしいですわ。実戦では動きやすさが命ですもの」
褒められた。褒められたが、恥ずかしさは消えない。
かくいう八百万のコスチュームは……イトや麗日など目ではない露出度だった。
「え、えぇ……それ、えぇ?」
「すっご……」
「八百万さんめっちゃセクシー!」
「個性の性質上肌が出ている必要があるのです。これでもだいぶ露出を減らされましたわ」
(その露出で……?)
体のラインが出るくらいなんでもないのではないかと思えてきた。
首を振り、ウェブシューターの状態を確認する。設計を送り、コスチュームと一体化してもらったものだ。これはかなりしっくりくる。
フルフェイスマスクを被る。視界が少し狭まるが、視覚情報が絞られることで頭の奥の感覚が逆に研ぎ澄まされる気がした。
もう一度鏡を見る。
白と黒と薄桃色の小さなヒーローが、そこにいた。
(……うん。恥ずかしいけど、これが私のコスチューム)
深呼吸を一つ。
グラウンドβに向かう。
中学編、USJ編みたいな章区分あった方がいいですか?
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あった方がいいかも
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なくてもいいかも