「メンチさん、俺死ぬかと思いましたよほんと、メンチさん」
「しつこいわねぇ……謝ったでしょうが!」
「つーかちょっと死んでましたよ俺」
「ハイハイ、勝手に死んでなさい」
「ひでぇお方だ」
なんか死にかけた、というより1回死んだ。
いやぁ、フェニックスの尾が無かったら死んでたね。
遺跡潜ってる途中に見つけたやつをローブの内ポケットに入れて隠してたんだ、色々あって忘れてた。
何度か洗濯したからカピカピだったし。
「で、俺は結局使えないんすか、念ってやつ」
あの時、メンチさんは念を使うための精孔とやらを開くために、俺の体にオーラを流し込んだらしい。
……そういうのは先に言ってほしい。
「オーラがある以上アンタにも精孔はあるんだろうけど…やっぱりどこか私たちと違うみたいね」
「まあ、異世界人っすからね俺」
「アンタの使う魔法の、魔力だっけ?も関係してると思う。内臓が破裂したのはその魔力とオーラがぶつかり合って反発したってところね」
「魔力ね……そういえば魔素がすげー薄いんすよねこの世界」
おかけで魔法の力もだだ下がりだ。
魔力の燃費も回復も悪くなってるし。
ただでさえへっぽこな俺の魔法が…ちくしょう。
念とやらが使えればどうにかなったかもしれないのに。
「破裂して死ぬか、生きててもどこかしら壊れてもいいなら精孔を開けるかもしれないけど……試してみる?」
「やめときます…」
もうライフはほとんどゼロよ、洒落にならない。
命あっての物種だし。
「まあ、なんとかなるでしょ。アンタそれなりに戦えるんだし、逃げ足だけは速いしさ」
「でも、メンチさんには手も足も出ませんがな」
「バカね、これでも私は1つ星ハンターよ?比べる相手が違うっての」
「知らんがな」
修行とか言って毎日ボッコボコにしてくるし、猛獣の群れに放り込まれるし、ほんとこえぇよこの人。だいたい白魔道士は後衛なんだから殴り合いとか勘弁してほしいんだけど。
女の人にボコられて自分でケアルする毎日とか悲しすぎるっての。
「ダガー、お風呂入るから沸かしといて」
そう言ってドリャっと地面を殴りまくってクレーターを作るメンチさん。いつ見ても恐ろしい光景だ。この人頭おかしい……
「んじゃっ、よろしく」
「へ? どこへ?」
「お花を摘みに。言わせんなっての」
森の奥へと消えていくメンチさん。大きいほうかな? あの人アホみたいに食うからくさそう。
「ウォータ」
ロッドを振り、ウォータでクレーターに大量の水を注ぎ込むと今度はファイアで加熱する。
するとほれ、即席温泉の出来上がりだ。うむ、湯加減もちょうどいいな。
……なんかこんな事ばかりやってるな、俺。
この世界に落ちて以来、ずっとこの巨大な森…なんたら森林公園だっけか? でひたすらサバイバルをやっている。どデカい猪に追い掛けられたり魚釣ったり谷へ突き落とされたり…etc
せっかく異世界に来たんだからもっと異世界情緒を味わいたいんだけども。
「お、沸いてる沸いてる」
ぼーっとしているとメンチさんが戻ってきた。ご機嫌だなぁ、さてはたくさん出たのかな?
「おかえりなさい、たくさん出ました?」
「死ね」
「ぐふ」
ボゴッと腹を殴られた。レバーはやめて。
「さっさと見張りに行って。覗いたら殺すわよ」
「あいよ」
身を持って知ってますとも。
俺だって男だ、なんだかこう、大自然の中で本能をくすぐられて、ちょっくら入浴姿を覗いたら本当に殺されかけた。躊躇なく殺しにくるよあの女。
この世界の女ってみんなこうなのか?ハード過ぎるっての。
ちなみにメンチさんのメンチさんには毛が生えてなかった。
「ダガー! 熱いから水足して! 後ろ向きでね!」
「いや無理っす」
◇
「それ、何に使うんすか?」
「なにって料理よ」
メンチさんが持ってきたのは節の沢山ある緑の棒、確かバンブーとかいう木だっけか。
「メンチさんは木も食うんすか?」
「食えるもんならなんでも食うわ。これは料理道具だけどね」
そう言うとメンチさんは魚を捌き始めた。
さっき俺が川で釣ったカチョウとかいうグロい魚だ。
こいつが海に出ると荒波に揉まれてブチョウという魚に進化するらしい。どういう仕組みなのかサッパリだ。
メンチさんはカチョウの腹を掻っ捌いてはらわたを抜いていく。
そして腹に香草を詰めて塩と胡椒を振りかけ、俺の頭ほどもある大きい花びら数枚で包むと、中が空洞になっているバンブーの中にカチョウをぐぐっと挿入した。
「まさかそれを食うんすか?」
バンブーごとバリボリと食うのだろうか、メンチさんなら普通に食えそうだけど俺は無理だ。まだ人間やめてない。
「バカ、焼くのよ。火出して」
「いい加減、自分の道具使ってくださいよメンチさん」
「それじゃ火力が足んないでしょ!つべこべ言わずにさっさとファイア!」
「俺はコンロでもバーナーでもないんだけど」
メンチさんが突き出したバンブーを絶妙なファイアで炙る白魔道士の俺。
まさかこんな精密な魔法操作が出来るようになるとは思わなかった。
もしかしてこれがメンチさんの狙いか?…ってあの人に限ってそんな訳ないか。
なんかどんどん人間調理道具と化してる気がするんだけど、俺。
「…美味い」
「ふふん、中々のものでしょ」
こうして完成したカチョウのバンブー蒸し焼きは、最高に美味かった。
バンブーと花びらの芳醇な香りに、身の中に圧縮されたカチョウの旨味。
あのグロテスクなカチョウがまさかこんなに美味くなるなんて思わなかった。
さすがは美食ハンターといったところか。
「バンブーに入れて炙ることでバンブーのエキスと香りが染み付くのよ。それを花びらで包んで香りと味を圧縮させる。ほんと、食にかける先人の知恵は凄いわ」
俺が食ってる横でいつものようにドヤ顔で料理の解説をするメンチさん。
惜しい人だ…料理も上手くて顔もスタイルも良いんだから、後はこのイソギンチャクのような奇抜な髪と子連れの熊並に凶暴な性格をなんとかすれば……
メンチ…病んでさえいなければ……
「ちょっと、聞いてんの?」
「はいはい聞いてますよ」
今度はブチョウも食ってみたい
◇
「おりゃっ」
「ッ…プロテス!」
メンチさんから放たれた右ストレートを後ろに飛んで衝撃を逃がしながら、防御魔法プロテスを展開してダメージを減少させる。
それでも完全に防ぎ切れず、ガンッという衝撃音と痛みがクロスさせた腕に走り、俺の体は跳ね飛ばされる。
「ヘイスト」
転がりながら加速魔法ヘイストを唱え、勢いそのままに飛び起きると、数瞬まで自分がいた場所にメンチさんの踵落としが小さなクレーターを作っていた。
とんでもない馬鹿力だ。
冷や汗が流れる、これで手抜いてるんだから恐ろしい。
「ファイア!」
「おっと」
小さく巻き上がる炎柱はあっさりと避けられる。
最大出力でもこの程度。
やはり魔素が薄いため魔法が弱まってしまう。
詠唱する暇があればもう少し威力を増せるだろうが、彼女との戦闘中にそんな暇は訪れない。
「ヘイスト、フェイス」
ヘイストの二重掛け、そしてフェイスでの筋力強化、連続の強化魔法行使に体が悲鳴をあげ、ごっそり減った魔力に意識が一瞬霞み足がふらつく。
けれどあの馬鹿力でぶん殴られるよりはマシだ。
己が出せる最高速度で後ろを取って、遅れて振り向くメンチさんに強化された筋力で拳撃を放つ。
女性を殴るのは本意ではないが仕方ない、日頃の恨みも込めて鼻っ柱を狙う。
俺の勝利条件は魔法でも拳でも何でもいいから一撃入れること。
(――勝った!)
「って…あれ?」
そこにいる筈のメンチさんが一瞬で消えていた。
当然、拳は空を切る。
「ふごッ!?」
衝撃、刹那に痛みが全身を駆け抜け、俺は空をぐるぐると回っていた。
そしていつものように落ちていく意識と体――
「ダガー、アンタ才能ないわ」
しっとるがな。