ゴミ置き場   作:ポイテーロ

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【Fate/Zero】猫まっしぐら! 2

 

 

 夜闇が地平へと沈み、明けの光とせめぎ合いながら三色の境界線を作り出す。

 

 冬木市新都

 

 近年の都市開発によって凸凹と並び建つ高層ビル群の合間を白い閃光が音も無く縫い走る。 

 

 僕は猫である。

 

 少し前まで人間をやっていた猫である。

 

 なにがどうなれば人が猫へと変ずるのか知らないが、現にこうして猫であるのだから仕方がない。

 僕は大の猫好きではあるが、だからと言って猫になろうとは思いもしなかった。

 そりゃあ気楽気のままに振る舞う猫の様になりたいなどと願った事はある。 

 けれどそんなものは誰にでもある微笑ましい妄想だ。そう簡単に猫になれれば誰も彼も苦労はしない、みんな路上でのんのん日和に洒落込むだろう。

 人間の頃の僕と言えばどこにでもいるような普通の人間であった。いや、親無し金無し学無しと若干普通以下の若干悲惨な人生を送る若干容量の悪い人間だった。

 超能力者でも宇宙人でも、はたまた妖怪変化の血を引いていたわけでもないただの一学生であった僕。

 そんな僕が何故現在猫であるのか、思い当たる節と言えばあるにはある。

 相変わらずの容量の悪さと凶運でもって就職活動に失敗し、自暴自棄になっていた僕。

 そんな僕は唐突に出会った二足歩行する猫型妖精の幻を助けて轢死したのだ。にゃにゃーん。

 

 なにを言ってるかは僕にも分からない。

 

 少なくとも僕が他人からこの様な戯言を聞いたならば直ぐ様物理的心理的に距離を計り、お頭のお病院をお紹介しているに違いない。

 そんな奇想天外摩訶不思議な人生を歩む僕といえば、今現在ビュンビュンと風のように冬木の暁を駆けている。比喩ではない、今の僕はまさしく風なのだ。

 

 北風小僧のにゃん太郎とでも呼んでくれ。にゃにゃーん。

 

 ……ところで今まで僕は僕自身を猫だ猫だとしつこく言ってきたのだが…果たして自分が猫であるのか確たる自信はない。

 なにせにゃんっと一声鳴いたかと思えば高層ビルを一瞬で駆け上がり。

 にゃにゃんっと虚空を踏み抜けば音の速さで宙を舞う。

 なんとも猫とは形容し難き有り様と化している。

 ふざけるな。こんな猫がいるものか。

 これではただの化け猫ではないか。

 なんか目からビームとか出るし。

 爪を研いだら木や鉄筋がピョロピョロ裂けるし。

 

 なんぞこれ

 

 そんなわけで人類をやめてNEKOと変じたBOKUはひょんなことから幼女に拾われてホモサピエンスであった頃よりも優雅な生活を送っている。

 僕を拾ってくれたリンちゃんとサクラちゃんはかなりいいとこのお嬢様だったようで、目の前に広がる西洋風のお屋敷を見た僕は猫であることも忘れてわんわんと吠えるほど驚愕したものだ。

 なにせ庭には噴水まであるのだ、お金持ちってレベルじゃねぇ。僕の住んでいたボロアパートの部屋には便所すらなかったのに…人生とはなんとも不条理である。

 

 だからと言って毎日ぐーたら寝転がり肥満猫とこまねいてるわけでもない。なにせ僕はNASAもCERNもビックリな超常的な力を持った宇宙猫なのだ。この力を無駄にするのもなんだか勿体無い。

 というわけで僕は夜になると冬木の街を光速で駆け巡り、人々猫々の平和のために粉骨砕身してパトロールしている。

 東に窃盗強盗放火強姦……etcと不埒な輩あれば猫ビームで薙ぎ払い、西に近所迷惑な喧嘩猫あれば仲裁に入ったりもする。

 僕の精力的な積極的平和活動により冬木における犯罪率は大幅に下がったことは間違いない。

 いずれは冬木の街から日本全国、はたまた世界へと羽ばたくことも計画しているのだが、如何せんリンちゃんとサクラちゃんはまだ幼い。彼女達が成長してアダルトなレディへと成長するまでは冬木で黙々と爪を砥ぐことになるだろう。

 

 

 虚空から音も無くシュパッと路地裏へと降り立つと、僕は眼前にそびえ立つ冬木ハイアットホテル厨房裏口のドアを見上げニャーと鳴いた。いつもの合図である。

 数分も経たずにドアが開き、ムワッとした香しい熱気と共に年季の入ったコック服を着用した中年の男が姿を現した。

 

「おっと、待たせたかな?シロ」

 

「にゃー(なに、今来たところさ)」

 

 このいかにも人の良さそうな人相のハゲ上がった中年男性の名はゴトーさん。冬木ハイアットホテルでコック長を勤めている名うての料理人である。

 

「ほら、いつものだよ。しっかりお食べ」

 

「にゃー(へっ、いつもすまねぇな)」

 

 にゃおんと一鳴きして眼前に差し出された甘美な香りの紙袋を受け取ると、彼はいつものように柔和な笑みを浮かべ僕の頭をゆっくりと撫でた。

 ゴトーさんは毎日のように僕に食料をくれる。ただの残飯だよとは言っているが中身はシッカリと猫用に味付けされた料理であり、猫に有害なネギや貝の類も入っていない。全く猫相手に人の良い男だ。

 

 そんな彼との付き合いは一年前に遡る。

 

 長々語るのは面倒くさいので簡潔に言えば、強盗にあっていたゴトーさんをたまたま見ていた僕が颯爽と助けたという顛末である。それ以来僕とゴトーさんは交友を築き、こうしてタダ飯を頂いてるわけだ。

 いや、僕のパトロールによってゴトーさんのように平和ボケしたカモネギみたいな男が安全に暮らせているわけなのだから当然の報酬といえるのかもしれない。

 Win-WinならぬNyan-Nyanというやつだ。

 

「最近は新都にも益々人が増えて、厄介な事も増えてねぇ…」

 

「にゃ(せやな)」

 

 ゴトーさんはゴミ箱に腰掛けると煙草を吹かしながら面倒な客やオーナーの愚痴や仕事話をポツポツと零す。こうして彼のストレスの捌け口となるのも今では慣れたものだ。

 

「ごとーさーん?」

 

 ドアの向こうからゴトーさんを呼ぶ声が響く、あれは先月入ったアルバイトのサトーちゃんだろう。

 

「やれやれ、どうやら時間切れのようだね」

 

「にゃ(あばよ)」

 

 よっこいしょと億劫そうに腰を上げドア向こうの現実に立ち向かわんとするゴトーさんを尻目に別れを告げ、僕は薄汚れた大地を踏み抜いて暁の空へと跳躍した。にゃにゃーん。

 

 

「いやぁ、相変わらずシロは飛ぶねぇ」

 

 

 

 

 

 音を置き去りにして一筋の閃光となった僕は、ビル街の新都から住宅の並ぶ深山町へと一分と掛からず到着した。

 

「にゃーん(おーい)」

 

 人の気配がしない和風建築屋敷の瓦屋根に降り立った僕は雑草の生い茂った広い庭先に呼び掛ける。少しすると軒下や蔵から這い出てきた無数の猫たちがにゃーんにゃーんと僕を見上げて応答した。

 

「にゃ(おうおまえら、飯ィ持ってきたぞ)」

 

 僕の登場に歓喜の鳴き声をあげる猫達を睥睨し、ゴトーさんから貰った紙袋の中身を庭先へとぶち撒けた。

 

「にゃー(待ってやしたぜアニキ!)」

 

「にゃ、にゃ(へへ、ありがてぇ)」

 

「にゃん(ヒャッハー!今日もスゲぇ馳走だぁ!)」

 

 ぽてぽてと地面に転がる高級ディナーに猫達は挙って目を輝かせて一斉に飛びついた。

 やれやれ、これだから野良は嫌なんだ。野生根性丸出しで品がないよね全く。

 

「にゃ…(アニキ…ご無沙汰してやす)」

 

「にゃん…(サブか、久しぶりだな…最近見なかったがどうしてたんだ?)」

 

 音を殺して忍び寄り僕の傍らへと跪く一匹の大きな三毛猫。

 彼こそが深山町一体を占める最強のボス猫、独眼猫のサブである。

 とはいっても僕が現れるまでの話だが。

 そこいらの野良とは一線を画す筋肉質なデカい図体に熊の如く鋭く分厚い長爪。

 縦に奔る大きな傷によって潰れた片目が、この猫の強者としての気配を裏付けている。

 コイツと僕はかつて深山町の覇権を争い死闘を繰り広げた仲である。

 まあ猫を超えた猫を更に超えた猫を更に超えて天元突破している僕が負けるわけが無い訳で、しかしサブの強さは猫としては破格であった。

 ブチ切れたグリズリーに迫る剛力に、人語を理解する程の優れた知能、何度倒されても立ち上がる不屈の闘志。殺さずに仕留めるのにはそれなりに苦労したものだ。

 というかサブこそ正当な化け猫ではなかろうか? 

 世が世なら名のある妖怪として書に記されていたであろうことは間違いない。

 

「にゃ…(アニキが言っていた、最近冬木に漂う不穏な気配について、少しばかり調査を行っていた次第で…)」

 

「にゃ?にゃん?(ほお?相変わらず仕事が早いなお前は…で?)」

 

「にゃにゃ…(へい、最近になって目に付くヤバい雰囲気の異国人連中…新都や深山の不自然な人間の流れ…やはり何か大事が動いている事は間違いないかと)」

 

「にゃ…(ふむ、ここ最近やたらと犯罪に絡む不埒者が多いしな…街全体の空気もどこか澱んでいて毛艶が悪い)」

 

「にゃん…(藤村組の連中もピリピリと殺気立っていてどうにも…)」

 

「にゃ?(藤村組が?こりゃますます臭いな…やれやれ)」

 

 説明しよう、藤村組とは冬木一体を裏から取り仕切るその筋のアレである。とはいっても今流行りのインテリYAKUZAやドラゴンの如くみたいな暴力的な連中ではなく、道理を弁えた任侠でヘルパーな古風な連中だ。

 しかしアレである事に変わりはないので僕は全体的に苦手である。でも一人娘のタイガーちゃんは天真爛漫でかわいいんだなぁこれが。

 会う度に胸やスカートに飛び込んでくんかくんかしてます。猫だから犯罪じゃない。へっ、ざまーみろ人類。

 

「にゃ…(アニキ…?なにか考えがあるんで?)」

 

 相変わらず猫離れした鋭い眼光でもってサブが怪訝に僕を見上げる。少しばかり浸りすぎたようだ。せっかく今まで野良猫共相手に作り上げた僕のカリスマ性が崩れてしまうところだった。

 

「にゃにゃ…(いや、特にないな……まあ後手に回ろうが上手くやるさ…この街は僕のモンだしな)」

 

「にゃ…(然り…俺たちはどこまでもアニキと共に…)」

 

 オレンジ色の朝焼けが空を覆い、肌寒いそよ風が僕の白毛をフワフワと持ち上げる。

 いやしかし、猫になっても空は変わらず美しい。

 

 

 

 そういえば、猫って色盲なんだよなぁ……

 

 

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