森亜るるか、そしてアイスの人   作:ヒラメもち

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アニメ4話 ソフトクリームもアイス?

 

 あのできことは、夢じゃなかったはず。

 

 自宅の台所やトラックの中で仕込みをしている時も、何度か思い出す。

 昨日は、日常の中の、非現実的な戦いを見た。

 

 黒い影に、でかい黄色い花みたいな怪物だった。そのあと空間が切り替わるような感覚があって、人の気配が消えて妙な静けさがあった。

 

 そして何よりあの少女と、そのオトモ。

 淡いベージュの髪に黒いリボン、無表情でかわいらしく、アイスをたくさん買っていってくれる子だ。そしてぬいぐるみのような、オトモは妖精だと思う。

 

 だから、あの子も街を守ってくれるヒロインの1人なんだろう。でもピンクと紫の子たちに参戦しなかったわけで、つまり先輩枠だな。ピンチになったら駆け付ける気で、落ち着いたまま戦場にいる。

 

 セーラームーンにそこまで詳しいわけじゃないけど、ちょっと年上の追加戦士がいたような気がする。アニメや漫画じゃないけど、たぶんあの枠だな。

 

「まあ、考えても仕方ないことか」

 

 あくまで俺は一般人だ。少女たちの戦いの規模では、足手纏いになるだけ。もし助けを求められれば、避難誘導か、移動手段か、それくらい。

 

 とりあえず今は、目の前の問題の方が大事だ。

 

 もはや祖父母が趣味で続けている駄菓子屋がそうだったように、袋入りの市販品アイスを仕入れて売るだけだと、どうしても利益が薄い。最近どんどん増えているコンビニに勝てるはずもない。夏場なんて、冷房でひと休みする場所でもあるからな。

 

 また、コーンに乗せるアイスはそこそこ高値のわりには、どうしても在庫が残る。

 

 だからアイスと言えば王道路線、ソフトクリームに挑戦しようと準備を整えていた。昨日は早めに帰ったこともあって、準備は一気に進んだ。

 

 大きな機械なんて積めないから簡易型だ。中古で手に入れた小型のソフトクリームメーカーを、発電機で無理やり回す。正直に余裕はない。電力的にも、大きさ的にもギリギリだ。

 

 それでも、やる価値はある。

 

 専門学校で習っていたことの基礎に入るようなものだ。牛乳、砂糖、生クリーム。そこにバニラの香りを足す。いわば原液をタンクに流し込んで、機械を回す。

 

 そうしていれば、少しずつ冷えて適度に固まっていくはず。

 

 準備を終えて、いつものようにトラックを走らせた。午前中は、昨日と同じく住宅街の公園付近で子ども連れを狙う。

 

 少々手こずったことは、ソフトクリームを上手に巻くことだった。

 練習で作っていたが、朝ごはんにしてはそこそこ多い量のバニラソフトが胃袋に詰まった。

 

 いつもの流れのように、親子連れの子どもたちは集まってきてくれて、市販のアイスが売れていく。そして、タイミングを見て親御様に声をかけて、ソフトクリームをセールスする。

 

 買ってもらえた子どもはソフトクリームを食べて、素直に目を輝かせてくれる。

 これは、いけるかもしれない。様々な日本全国の観光地でも、ソフトクリームならちょっと高くても購入されるイメージもある。アイス屋の本番の夏を前に、強力な武器を手に入れた。

 

 そんな手応えを感じ始めた頃だった。

 ふと気配が変わる。

 

「来たのか」

 

 これで会うのは2度目、いや3度目になるが、やはりどこかのお嬢様のような見た目だ。

 

「いらっしゃい」

 

 他の子どもたちが去ったタイミングを狙ってきたのか、いや、偶然だったらしい。なぜなら隣のオトモ妖精が、『今日は早く決めなさいよ』と少々焦らせている。

 

 少女は観察するように見てきて、昨日からの変化に気づいてくれる。

 

「それ」

 

 少女の決断は早かった。短い言葉で機械を指差してくる。

 

「ソフトクリームの注文でいいんだな」

 

 そう言うと、少女は小さく頷いた。

 

「ん……バニラだけ?」

 

「今はな。簡単な機械だし」

 

 俺は正直に答える。変に誤魔化しても仕方ない。

 

 少女は一瞬だけ悩むように、他のアイスに視線を動かした。もしかして、シンプルな味より、ミックス系が好きなんだろうか。そういえば昨日も2段アイスだった。

 

「これで。ソフトクリーム」

 

 ぴったりの硬貨が台に置かれた。メニュー表の値段、秘密のサービスである子ども割引、もう完全に目の前の名探偵少女には把握されているらしい。

 

「まいど」

 

 俺はいつものコーンを構えて、レバーを引く。

 白いクリームがゆっくりと流れ出る。さっきよりも意識して手を動かした。崩れないように、丁寧に。

 

「ほら」

 

 差し出すと、少女は指で静かに受け取った。

 

「なんかすぐ溶けちゃいそうね」

「ん、早く行く」

 

 少女とオトモ妖精は、くるりと背を向けた。

 

「またな」

 

 俺は軽く返事をしたけど。

 本音は、味の感想が聞きたいところだ。他にも、昨日のことも聞く余裕すらなかった。

 

 1日の始まりのアイスは、どこか別の場所で食べるのだろうか。いわばコーヒーなどドリンク感覚で、会議などに持ち込んでいるのかもしれない。

 街を守ってくれる少女たちにも、会議があるんだろうか。

 

 まあ俺はアイス屋で、あの子は常連客で、これくらいの距離感でいいんだろう。

 

「……今日は2回目、来るんだろうか」

 

 思わずそんな言葉を呟いてしまっていた。

 

 

***

 

 

 あの少女たちが去ったあとも、午前中の営業は順調だった。

 

 新しく導入したソフトクリームは、思っていた以上に反応がいい。子どもたちは見た目に食いつくし、親御さんもせっかくだからと買っていってくれる。値段は市販アイスより少し高めにしているけど、材料はそれほど高くない。

 

 ただ問題点もある。

 技術的に巻きはまだ安定しないし、スピードも遅い。注文が重なると、一気に手が足りなくなる。しかも機械の容量も限界があるから、出し続けると冷却が追いつかなくなる。

 

「……これは、ちょっと考えないとな」

 

 俺は小さく呟いた。

 設備もギリギリで、1人でやっているからこその限界もある。

 

 そんなことを考えていると、再び少女とオトモ妖精が歩いてくる。なんと今日は、昨日よりも早かった。

 まるで会議が終わって、パトロールとかの前に『アイス食べたいな』と思って来てくれたような、感じだ。

 

「いらっしゃい」

 

 少女は早速、アイスケースの中を見て吟味していた。さすがに連続でソフトクリームじゃなくて、やっぱりいろいろな味を楽しみたい子なんだろう。

 

「それと、それ」

 

 指差したのは、ストロベリーミックスと、フルーツミックス。

 昨日の午後に食べていた組み合わせと同じだ。

 

「これで」

 

 お値段ぴったりの硬貨も、すでに台に置かれた。まだ数回なのに、すっかり常連客のように思えるほど、この子はアイス購入に慣れている。

 こちらとしては無表情な少女の、いわゆるアイス気分を、まだまだ読み取れそうにない。

 

「ありがとな」

「……?」

 

 ディッシャーで冷凍ケースからアイスをすくい上げて、コーンに乗せる。一段、そしてもう一段と、バランスを見て、崩れないように整える。

 

 これは慣れている。さっきのソフトクリームより、よっぽど安定している。

 

「ほら」

 

 差し出すと、少女は綺麗な指で受け取ってくれる。

 すぐに食べるわけではなく、やっぱり食べ歩きスタイルらしい。

 

 隣のオトモ妖精が、少し呆れたようにこちらを見る。

 

「ほんと、よく食べるわよね」

「ほしいの?」

 

 オトモ妖精は『遠慮しておくわ』と言っているけど、そういえば何を食べるんだろう。少女が尋ねているから、普通に人間の食べ物を食べるのだろうか。

 

 疑問は増えるけど、まあさすがにあの少女も、1日にアイス3回目はないだろう。

 少し休憩がてら作業を始める。

 

 バニラのソフトクリームは、確かに人気だった。

 でも1種類だけだと、飽きるし、選択肢がない。

 

 少女も『……バニラだけ?』と、まるで先見の明があるかのように、尋ねてくれた。あの言葉にそういう意図はなかったのかもしれないけど、アイス愛好家の発言は大事にすべきだ。

 

「しかし、どう増やしたものか」

 

 ソフトクリームの種類を複数使い分けるような、そんな本格的な機械の導入は不可能だ。

 

 なら、やり方を工夫するしかない。

 トッピングに使えないかと購入していたストロベリーソースとチョコソースだ。これは既製品だけど、使い道はある。

 

 問題は混ぜ方だろう。バニラをそのまま出して、あとからトッピングするだけじゃ面白くない。

 

 見た目も、味も、もう1歩欲しい。

 理想は、バニラ・チョコ・ストロベリーの、いわゆる3層構造だが。

 

「途中で入れて、なんとかなるだろうか」

 

 巻いている途中で、2種類のソースを挟む。それで重ねるように見せる。

 

 悩んだが、トッピングソースを爪楊枝でバニラと混ぜ合わせてみる。

 そんな見た目は、どこか濁ってしまっている。

 

「……厳しいか」

 

 当然、売り物にできるレベルではない。

 3種類のソフトクリームの綺麗さではない。

 

 バニラの甘さに、ストロベリーの酸味とチョコのコクが混ざる。トッピングを使ったから、味は悪くないな。

 

 そんな試食が、今日の俺の昼食になった。

 

 それからはいつも通り商売しながら、軽く片付けながら、どうミックスソフトを作るか考えながら。

 そろそろ今日も街側に移動しようとしていた時だ。

 

「まだ買える?」

 

 すっと耳に入ってくるような声がしたから、振り返ればまたアイス少女とオトモ妖精だった。

 オトモ妖精がやれやれと呆れているけど、俺もまさか1日で3回目のアイスとは予想外だった。

 

「いらっしゃい。次は、何にする?」

 

 とはいえ、ディッシャーなどは軽く片付けているから、ゆっくりとそれを用意し始める。

 

 でも、少女はすでに市販のケースの方に視線を移してしまっていた。

 タイミングが悪かったか。

 

「じゃあ、これ」

 

 少女が指差したのは、猫型アイスキャンディのグレープ味だ。自分で取ってもいいのに、少女は律儀に注文して待ってくれるようだ。

 

「本当に、これでいいのか?」

「ん、いい」

 

 子ども割引も自分で計算して、ぴったりの代金が台の上に置いてくれる。俺は注文の市販アイスを袋に入ったまま、その綺麗な指に渡した。

 

「この子はこういうアイスも食べるのよ」

「また来る」

 

 俺の反応を見て察してくれたのか、オトモ妖精からフォローされてしまった。

 アイス少女も気にせず、背を向けて歩いていく。

 

 そして俺は、ソフトクリームメーカーに目を向けた。

 やっぱり王道のバニラだけでは、数日は好評だろうと、そのうち飽きられるかもしれない。

 

「……明日には、間に合わせるか」

 

 ミックスソフトについて試行錯誤だな。

 

 

***

 

 

 さすがに今日はアイス少女も来ないだろう。

 そう思った俺の感性は、たぶん間違いではないはずだ。きっと。

 

 午前から昼にかけて、アイスを3回食べている。

 女の子とはいえだ。育ち盛りの子が、さすがに朝食も昼食もおやつも夕食もアイスではないだろう。たぶん。

 

 俺はいつも通り場所を変えていた。

 街中の若者をターゲット層として、そこそこ売っていく。コンビニが近くにあるため市販アイスはあまり売れない。コーンに乗せて売るという、もの珍しさに、買いに来てくれる。

 

 バニラのソフトクリームも確かに好評だった。でもバニラだけという現状は変わらない。初日にしてそれを気づかせてくれた少女には、感謝すべきだな。

 

「……どう作るか、だな」

 

 完全に均一なミックスはまず無理だ。

 今の機材でできるのは、バニラソフトを巻いてから、爪楊枝で混ぜて誤魔化すという手段しか思いつかない。

 

 改善されていくのは、そんな小手先の技術だけだ。

 

「……ダメか」

 

 見た目は3色で、外側だけの見た目を整えたような感じだ。

 しかも1回にしてはトッピングも使いすぎている。これでは味のバランスすら崩れているはずだ。

 

 それに、今回はチョコ部分の割合が多い。味もチョコレートソースが強すぎて、呑み込んでいるのかもしれない。

 もし追加戦士が強かったら、2人がほとんど目立たなくなる感じだな。あのアイス少女もそこまで考えて、今は戦わないのかも。

 

「……アイスの人」

 

「えっ、あー、いらっしゃい?」

 

 俺が焦って顔を上げると、なんとアイス少女が立っていた。

 しかも昨日とは違う場所なのにだ。その名探偵のように賢そうな瞳で、推理でもされたかのようだ。

 

「ねぇ、今日4回目よ?」

 

「それミックスソフト?」

 

 オトモ妖精に呆れられつつも、気にせず少女はこちらの手元を見てきている。

 

 俺が持っているソフトクリームについて、まるで珍しいものを観察するかのようで、少女の好奇心を感じた。

 

「それがいい」

 

「いや、試作だからな。まだちゃんとした商品じゃないし……どうしてもというなら、タダでいい」

 

 このまま持っていても、溶けるだけだ。俺はコーン部分を、綺麗な指に持たせた。

 でもアイス少女は、ポケットから小銭を取り出す。

 

「だからタダで……」

「割引のバニラと同じ」

 

 もしかすると、元々ソフトクリーム2回目を食べたくなって、来てくれたのかもしれない。

 俺が呼び止める暇もなく、少女はそのまま背を向ける。

 

 今度は歩きながら、アイスを食べているようだ。

 もしその顔が見えていても、いつもの無表情だと思うけど。味のバランスに不満があるんじゃないかと、不安になる。

 

 少女の背中が見えなくなってから、俺は小さく息を吐いた。

 

「……失敗、だな」

 

 手元を見れば、受け取った小銭がある。

 試作のつもりだったのに、商品として出してしまった。料理人の端くれみたいな者としては、悔しさが残る結果となった。

 

 ソフトクリームは王道のバニラで、いろいろ味を出すのはアイスで、そうやって地道に続けていこう。

 

 また明日にでも来てくれたら、その時は謝るつもりだ。

 あれだけのアイス愛好家には、できるだけ長く常連客でいてほしいから。

 

 その時、ふっと、空気が変わった気がする。

 ざわついていた通りの音が、急に遠くなる。

 

「って、またかよ!?」

 

 周囲を見れば、さっきまでいたはずの人の姿が、完全に消え去っている。

 

 俺は2日連続で、戦場に巻き込まれたらしい。

 ピンクと紫の子たちがまたどこか近くで戦っているからか、それなりの音が聞こえる。

 

 どうやら、ビルを挟んだ反対側で戦っているようだ。

 

 あのアイス少女は、まだ実力が未知数だ。たぶん先輩枠なんだろうけど、それでも戦いの規模感が大きい。

 変身したところを見たわけでもないし、生身の状態だと危険なんじゃないだろうか。

 

 なんて心配していたら。

 アイス少女とオトモ妖精は、マイペースにこちらまで戻ってきていた。特に変身しているわけでもないし。

 

「あなたも不運ね。また巻き込まれるなんて」

「離れて。アイスの人」

 

「……キミたちがそういうなら」

 

 たぶん変身できる少女たちと違って、俺は一般人だ。このままいても足手纏いになるだけだろう。

 

 そうだ、伝えておくべきことがあったんだ。

 

「さっきのソフトクリームは、やっぱり試作だった。だから今度買ってくれるアイスは、タダでいい」

 

「ん、じゃあ、これとこれ」

 

 アイス少女は遠慮なく、アイスケースを指差した。

 とても予想外だったけど、どうやら今その追加分を食べたいらしい。

 

「えっ、この状況で?」

「ん、さっぱりしてるのがいい」

「まったく、この子は……」

 

 本当にマイペースな少女だ。

 

 俺はコーンを手に取って。チョコミント・キャラメルの2段アイスを手早く、ただし丁寧に作った。

 

「ほら。気をつけてな」

 

 渡してから思う。

 さすがにアイス食べながら、変身して戦わないよなって。

 

「また来る」

「さっ、早く逃げちゃいなさい。あたしの占いだと、また巻き込まれそうだけど」

 

 どうやらオトモ妖精によると、これからも俺の不運は続くらしい。

 

 まあ不安はあるけど。

 あのアイス少女との関わりが続きそうと思うのは、さすがに軽率な考えだろうか。

 

 とりあえずすぐに、戦いの邪魔にならないよう離れることにする。このトラックが戦いの余波に巻き込まれるわけにもいかない。

 

「………さすがにアイス食べながら戦わないよな?」

 

 アイス少女たちの安全もだけど、それがどうしても気になった日だった。

 

 

 

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