森亜るるか、そしてアイスの人   作:ヒラメもち

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アニメ6話(後編) アイスちょっと食べすぎたかも

 

 きっとアイス少女は、今日から裏メニューとなる『アイスツリー』を完食できたからには、さすがに1日のアイス摂取量も満足のはず。

 

「……まあ、あの子だけなんだよな」

 

 俺はぽつりと呟いて、俺は荷台の冷凍ケースに手を置いた。

 

 結局、その後は誰も来なかった。しかも公園を散歩する人も今日はいない。

 4月とはいえ、雨が少し降っただけで寒く感じる。よほどのアイス愛好家でもなければ、野外でアイスを食べるような人はいないだろう。

 

 片付けながら公園の時計を見れば、もう昼過ぎだ。

 この時間帯でこれなら、ここで夕方まで待ったところで劇的に変わるとも思えない。たぶん学校帰りを狙っても似たようなものだ。

 まだこれから雨も降りそうな曇り空だ。

 

 俺は軽く息を吐いて、運転席に乗り込む。

 エンジンをかけて軽トラックをゆっくりと発進させる。

 

 向かう先は海側にした。このまま家に帰る気分ではなかった。

 

 野外でアイス屋をしていく者として、やはり夏が本番だと思う。

 海水浴の客が増える。人が集まる場所には、必ず需要がある。だったら今のうちに、どこで売るのが一番いいか、目で見て確かめておくべきだ。

 

 まことみらい市の町を眺めていた。見慣れたはずの景色も、こうして目的を持って見ると、少し違って見えるから不思議だ。

 

 フェンスで囲われた空き地があって、その手前に大きな看板が立っていることに気づく。

 

「……タワーマンション?」

 

 少しスピードを落として、横目でその看板を見る。

 完成予想図には、ガラス張りの高層ビルが描かれていた。周囲には整備された歩道や、小さな公園みたいなスペースもある。

 

 今はただの空き地だけど、この町も数年後にはもっと都会になっていくのだろうか。東京の高層ビルってすごいらしいし。

 

「早く完成してほしいな」

 

 町に人が増えれば、公園ももっと賑わう。また学校もできる。だから、アイスを買ってくれる人も増えてくれるはず。

 

 再びアクセルを踏んで車を走らせていると、やがて空気が変わった。

 

 窓を開けると、潮の匂いが入り込んでくる。ほんのり湿った風に、潮の香りがした。

 

 砂浜はそこそこ広かった。綺麗に掃除されていて、ゴミなんてほとんど見当たらない。世間じゃ汚い砂浜は多いイメージがあったが、この町は誰かが定期的に掃除してるらしい。

 

 俺は広めのところで、車を停車させたが、道路の周りに雑木林が多すぎる。

 

 防波堤がひたすら伸びているだけで、ただ道路と砂浜と海があるだけ。周囲に店もないし、建物も見当たらない。

 昼間に雨が降ってたせいか、人影もほとんどなかった。

 

 想像していたよりは、海水浴場として整備されていない。これだけ良い砂浜なのだから、海の家だってできてもいいほどなのに。

 

 いや、海だとアイスより、かき氷だろうか。

 ところで、アイス少女はかき氷も好きなんだろうか。

 

 そんなことをゆっくり考えながら、運転席に座ったまま、背もたれに体を預けていた。

 

「アイスの人」

 

 聞き慣れた声がする。

 俺は、窓の外を見た。

 

 そこに立っていたのは、アイス少女と、その隣に浮かぶ小さな妖精だった。

 俺も追いかけていないし、この子たちも追いかけてきてないだろうから、きっと偶然だな。

 

「また会ったな」

 

 自然と、そんな言葉が口から出た。

 もう、この1人と1匹と会う日常は、ありふれたものとして受け入れ始めている。アイス少女は相変わらず無表情のまま、俺を見ている。

 

「人探しは終わったのか?」

 

 俺がそう言うと、アイス少女は小さく頷いた。

 

「そんなとこ。アイス食べたい」

「えぇ!? まだ食べるの!?」

 

 間髪入れずに妖精は叫んだ。俺も内心で同意した。

 

「まあ、時間的にはおやつ、か?」

 

 たぶん間食の時間帯ではある。

 アイス少女は、アイスとコーンしか食べてるイメージしかない。身体がアイスでできているのではないだろうか。

 

 1人と1匹に少し下がってもらって、俺は車から降りた。

 

「どうせ今日はもう店仕舞いのつもりだったしな」

 

 そう言いながら、荷台で軽めの準備をしていく。アイス少女は、見つめてくるだけだ。でも脳内では、どのアイスにするか考え始めていると思う。

 

「好きなの奢るよ」

 

 そう言ったら、アイス少女は小さく頷いた。無表情なままだ。

 

「遠慮しないでいいからな」

 

 本当に遠慮しなかった。

 アイス少女は、ケースの中を次々と指差していくので、注文を記憶していく。

 

 ソーダ、カフェオレ、抹茶、チョコ、コーヒー、オレンジシャーベット、ケーキ、ストロベリーミックス、フルーツミックス、か。

 合計9種の『アイスツリー』の注文だ。

 

「9種か?」

「ん」

「まだそんなに!?」

 

 アイス少女の胃は、きっと問題ない。奢ると言ったから、個数も問題ない。たぶん味の組み合わせも、計算されている。

 あとは、俺が『アイスツリー』に更にもう1段乗せられるかどうかである。

 

 もう試されてるんじゃないか。

 本音は、5段アイスを2つでいいんじゃないか、と言いたかった。

 

「……やってやる」

 

 最初の土台は、前回と同じでしっかり広くした。そこに少し角度をつけて、次を乗せる。高さが出てくると、ただ積むだけじゃすぐに崩れる。重心をずらしながら、少しずつ斜めに置いていく。

 

 片手に感じる重量はどんどん増す。1つのアイスのズレで、積み木は崩壊してしまう。

 

 おっっっっも。

 最後の9段目も乗せることはできたけど。

 

 半日で『アイスツリー』を文字通り1段階進化させてしまった。花束みたいでもあるし、塔みたいでもあるし、美しい芸術作品だろ。

 

 俺は両手で慎重に持ち直して、前に差し出す。

 

「お待たせ」

「ん」

「お見事ね」

 

 アイス少女は、いつも通り片手でアイスを持った。オトモ妖精は呆れたように褒めてくれる。

 そしてアイス少女は背を向けて、砂浜を向いた。

 

「危なくなるから。離れて」

「やっぱり、あなたはよく巻き込まれるわね」

「え?」

 

 その声で、俺はようやく気づいた。

 また戦うための空間に巻き込まれていたらしい。

 

 アイス少女は、いつの間にか防波堤に座っていて、アイスを食べながら戦いを見ている。背中しか見えないけど、アイスを食べているタイミングを初めて見たかもしれない。

 

 どれくらいの食べっぷりか、気になるけど。

 

「始まってるわね」

 

 オトモ妖精の言う通りだ。ぬいぐるみのように、ちょこんと隣に座っていた。

 

 俺は急いで片付けて、いつでも逃げれる準備をした。

 それが終わって砂浜を見れば、戦いの状況がようやく見れる。

 

「また、あの少女たちが戦ってくれているのか」

 

 ピンクと紫の少女たちが、海上に浮かぶ魔法っぽい足場の上を移動していた。

 敵は、ペンギンみたいな怪物が2体だ。しかもペンギンなのに飛んでいる。

 

「やるじゃない」

 

 アイス少女は、褒めるように呟いた。やはり少女たちの先輩なんだろう。

 

 少女たちの動きはとても速い。俺が見ていても、何が起きてるのか追うことすらできない。足場を飛び移ってるようにしか見えない。

 

 でも、相手は敵幹部らしき人が、怪物に指示を出しているようだ。

 2体の連携攻撃によって、じわじわと2人を追い込んでいる。

 

「早い!?」

 

 いや、少女たちの戦いもなんだけどさ。

 すでに9個分のアイスを完食し、ぱりぱりとコーンをかじる音が聞こえてくることだ。

 

 俺が少し目を離していた時だった。

 空を飛んでいた怪物は、強そうな1体となっていた。

 

「合体した!?」

 

 もはや融合モンスターと言うべきかもしれない。遊戯王というカードゲームが、少年たちで人気らしいが。

 

 数は減っても、実際の戦況はかなりマズいようだ。

 空中戦において、少女たちは足場を生成しながら戦っている。だから、その足場を狙って遠隔攻撃を受けている。

 

 次の瞬間には、2人とも砂浜に落ちるようにして、仰向けに倒れ込んでしまった。

 

「っ……!」

 

 俺は思わず身を乗り出す。

 

 助けに行かなきゃと思った。でも俺は無力で、足手まといになるだけだ。

 

 アイス少女の様子を見れば、いつの間にか立ち上がっているが、まだ助けに行く様子はない。追加戦士の先輩として、後輩への試練なんだと思う。

 

 砂浜の端から、別の影が見えていた。

 

 金髪の少年だった。

 見た感じ一般人に見える。けれど、その隣には小さなオトモ妖精がいた。2人のヒロインたちを助けに向かっている様子があって、オトモ妖精が変身には必須なのかもしれない。

 

 金髪少年は、何かをその妖精に託そうとしているように見える。だが、そんな悠長なことをしている間にも、怪物の分身みたいな小さいやつが飛んできている。

 

「来るなら、来てみやがれ!」

 

 金髪少年は、砂浜に向かって勇敢に叫ぶ。

 オトモ妖精は、勇敢にヒロインたちのところに飛ぶ。

 

 戦いにおいて、怖くないわけがないと思う。なのに、少年も、少女たちも、オトモ妖精も、引くことはない。

 

 俺は、防波堤から飛び降りた。

 砂浜で転びそうになるが、なんとか救出に向かおうとする。

 

 しかしまだまだ距離は遠く、間に合いそうにない。

 

 背後から、紫の閃光がいくつも空を貫いた。

 全ての分身を、真正面から貫いて消し飛ばした。

 

「すっげぇ……」

 

 俺は、反射的に振り返る。

 そこにいるのは、変身したアイス少女だった。

 

 髪は、優しい金色に変化している。そして、全体的に黒色で、宝石みたいな装飾のある衣装だった。大きなロッドを片手で構えていて、魔女や占い師という雰囲気だ。

 

 最近女の子で人気の、なんだっけ、『おジャ魔女どれみ』だ。あのアニメに出てくるキャラよりも大人っぽくて、美しさを感じさせられた。

 

「さすが、追加戦士」

 

 ピンクと紫の子たちを助けるべく、ここで先輩が参戦というわけか。

 とても心強い味方だと思う。

 俺としては、変身後にアイス要素がないのは、かなり意外だったけど。

 

「……離れて、アイスの人」

 

 アイス少女は、静かにこちらを見た。

 いつもより少し低い声で、どこか寂しそうな声だった。

 

 俺は、頷くことしかできなかった。追加戦士のことで興奮してたけど、やはり俺がいても足手まといか。

 

 正直、助けに行きたい気持ちはまだある。

 目の前で子どもたちがやられそうになってるのを見て、何もしないってのは、大人としてどうかと思う。

 

 でも、凄まじいスピードの戦いと、さっきの殲滅攻撃を見せられた後だ。俺が戦場に立っていても、俺がどうこうできる領域じゃない。

 

「わかった! 気をつけて、勝てよ!」

 

 少し変な応援になってしまったが、俺はその場から急いで離れる。

 

 砂を踏みしめながら、トラックまで戻っていく。背中に視線を感じる気がするけど、振り返るのはやめた。たぶんアイス少女たちは戦いに集中してる。

 

 俺が運転席に乗り込む頃には、紫とピンクの少女たちは再び立ち上がっている。

 アイス少女の姿は見当たらないが、援護してからまた後輩に任せたらしい。

 

 戦いは激化していきそうだ。

 俺はアクセルを踏んで、トラックをできるだけ速めに走らせた。

 

 ヒロインとか、妖精とか、怪物とか。

 正直、全く理解してなくて、漫画やアニメであるようなことだ。でも実際に目の前で起きてる以上は、否定できない。

 

 あのアイス少女も戦っていることは、本当だ。

 きっと数々の戦いを経験してきているはず。

 

 でもアイスを食べることは、あの子にとって大切な日常なんだと思っている。

 

 そして、俺の売るアイスを気に入ってくれていると思う。常連でいてくれる。

 

 だからこれからも、アイスを安く売ろう。それがあの子の1番の応援に繋がるはずだ。

 

 それでいい。たぶん。

 

 

 

 でも、次の日も、その次の日もだ。

 アイス少女とオトモ妖精は、俺の店に来なくなっていた。

 

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