森亜るるか、そしてアイスの人   作:ヒラメもち

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本小説は独自要素や独自解釈を含みます。
キュアアルカナ・シャドウちゃんのファンの皆様はアニメを見ながらアイスを数えていると思いますが、アイスカウンター以上に食べてもらうこともあるのでご了承くださいませ。




アニメ11話 新作アイスなのに売れないの?

 

 昨日はこの公園付近で戦いが起きていた。

 でもいつも戦場には結界のようなものが張られているから、その現場の惨状がニュースになることもない。正義のヒロインたちが解決してくれたらしい。

 

 役者男も完全な悪人には思えなかったように、悪の組織っぽい破壊活動までするわけじゃないようだ。いや、中学生女子2人を追いかけていたのは問題だけどさ。

 でも戦いの規模は、一般人が入り込めないほど。いつでも避難できるようにしながら、俺はいつも通りアイス屋の出店をしていた。

 

 4月も晴れの日がどんどん増えている。半袖で過ごす人たちも増えていて、夏にはもっと暑くなるだろう。

 公園の近くはいつもより賑わっていた。外で元気に遊ぶ子どもたち、家族連れ、散歩の人たち、次々と俺の店に来てくれる。

 しかし、普段の数倍は公園が賑わっている。

 

 ソフトクリームを買ってくれた中学生女子組が、その理由を教えてくれた。

 『宝生美術館に予告状が届いたんだって』『犯人は怪盗団ファントムと名乗ってまして』『夜8時、星明かりのプリンセスを盗むって!』と。

 

 それを聞いて最初は、ピーチ姫みたいな人が狙われてるのかと思ったが、どうやら宝石の首飾りを盗むという予告状のようだ。

 この1999年の現実で、ルパン三世だとか、アニメで話題になった怪盗キッドみたいなことをするんだなと思った。俺もカッコいい義賊としてちょっと憧れるけども。

 

 しかし思い返せば、怪物の付近にいた男だったり、役者男だったり、どこか悪い怪盗の服装だった。だから今回も、いたずらでは済まない気がする。

 

 まあ噂好きの少女たちも、気になって美術館に向かう見物客も、押し寄せている報道陣も、特に何もできないだろう。

 警備員や警察、もしこの町にいるとすれば名探偵にでも任せるしかない。

 

「ダーリン、どれも美味しそうね?」

「ハニーが選んでいいよ。僕はキミの甘さにメロメロさ」

 

 このように、美術館の見物ついでに立ち寄ってくれる新規客も多い。アイス屋としては、事件調査よりも休日昼間の商売で忙しい。

 お客さん2人は典型的なカップルで、少し古い言葉ならアベックか。最近も祖母が『こんのあべっく、らぁぶろまんすがわかっとらん』と、ドラマを見ながら語ってる時があった。話が長くなりそうなので詳しく聞かなかった。

 

「注文が決まったらどうぞ」

 

 俺は形式的に言ってみた。

 目の前のカップルは、メニューを見ながら会話を楽しんでいる。ピンクのハート柄シャツ、そんなペアルックも最近は少し減ったように思う。

 

「じゃあ、チョコとバニラの2段、カップで1つ」

「わかりました」

 

 台に置いてくれた代金はちょうどだった。

 確かに2段アイスにすると少し安くしているが、食べさせ合いっこというやつか。青春してるねぇ。

 

「美術館が楽しみだね」

「ね~ たのしみ~」

 

 ペアルックカップルたちも、美術館の見物らしいけど。

 

「予告状があったのに? 入れるんですか?」

 

 アイスの準備をしながら、つい気になって尋ねた。

 夜8時とはいえ、一般客が盗まれようとしている物に近づけるんだろうか。話題性もあって来場者は数倍になりそうだが、リスクは大きいはず。

 

「そう! 元々デートに行く予定でね!」

「怪盗団ファントムが狙う首飾り、きっとステキでしょうね!」

 

 女子は目を輝かせて、お祭りを楽しみにするかのよう。

 

「もし怪盗団にあっても、ハニーのことは僕が守るさ」

「キャー! さすがダーリン!」

 

 男子はそんな彼女に笑みを浮かべて、勇ましく胸を張った。

 

 俺は2段アイスと2本のスプーンを渡した。

 受け取ったカップルは、肩を寄せ合いながら歩いていった。あれだけイチャイチャしてたら、どんな事件もデートイベントになりそうだ。

 そういうのもラブロマンスなんだろうか。

 

 

***

 

 

 次に来てくれたのは、パティシエの服を着た青髪の女性だった。長い髪は美しく、気品のあるお嬢様のようだ。見た目はまだ高校生くらいに幼く見える。

 

 レジ袋を持っていて買い物帰りらしいけど、俺は少し緊張してしまっていた。パティシエだし、同年代かもだし、綺麗な女性だし。

 

「美術館は、みなさん集まってて大騒ぎですね」

 

 とても落ち着いた声だ。事件を穏やかに受け止めているようにも感じた。

 

「えっと、夜には閉めると思う。警備員も増やして、なんとかするはずで」

 

 俺は安心させようといろいろ言ってみると、パティシエさんは小さく頷いた。

 

「そうですね。名探偵の子たちも手助けしてくれると思いますから」

 

 どうやらその子たちに信頼を向けているようだ。

 アイス少女もだけど、名探偵コナンの漫画みたいだよな。事件が起きれば、どこからともなく探偵役が現れて、ややこしい事件を解決する。

 というか敵側が怪盗団とすれば、正義側が探偵チームだろうか。昨日の中学生女子2人の片方も探偵服だったような気もする。

 

「怪盗団ファントム、やはり本当にいるのか?」

 

「ええ、パティスリーにも現れましたから」

 

 返ってきた答えは、あっさりしていた。

 パティスリーはこの辺りで有名な洋菓子店のはずで、そこの何を盗むつもりだったんだろう。怪盗ならもっと美術館を狙ってもいいのに。

 

「何か盗まれたのか?」

 

 俺が尋ねると、パティシエ女性は小さく頷いた。でも表情は暗くなくて、むしろ笑顔を浮かべていた。

 

「その時も名探偵の子たちが、お客様の大切な物を取り返してくれたんです」

 

 なるほど、そういうことか。だから『名探偵の子たち』を信頼しているんだな。

 怪盗が盗んでも、探偵が取り返してくれる。

 嘘か本当か疑う話だが、この町でそれが実際に起きているのかもしれない。だからアイス少女は、そんな『名探偵の子たち』の先輩枠ということだな。

 

「それにしても、良いお店ですね」

 

 パティシエ女性に褒められて嬉しくなった。昨日の役者男に言われた時とは、数倍の破壊力を感じる。

 

「手探りだけどな」

「だからこそステキだと思いますよ」

 

 純粋な笑顔に、照れてしまう。

 だって、ガチでパティシエやってるお店の人だぞ。しかも綺麗な女性だ。

 

「そちらもパティスリーというと、この辺りじゃ有名な洋菓子店だろ?」

「すごいのは店長ですけどね」

 

 ニコッとほほえんで、そう言った。

 絶対あなたを目的に店に通う男子いるだろ。

 

 パティシエ女性は、青くて長い髪を片耳にかけて、アイスケースの中を覗き込み始めた。仕草がとにかく綺麗すぎる。

 

「あまり見かけないアイスもあって、どれにするか悩んでしまいます」

 

 アイス愛好家になってくれそうで、絶対いい人だ。

 

「レシピがピキーンと思いつく日があってな。まあ、まだあまり売れないけど……」

 

 今日も多く売れているのは、安めの市販アイスか、ソフトクリームだ。珍しいアイスを買っていってくれるのは常連客たちだ。

 今日はまだ来ていないアイス少女が、まさにその枠に当てはまる。いつも興味津々にアイスケースの中身の変化を吟味しているから。

 

「新作ということですね。私もマカロンを作ってみてるんですよ」

 

「マカロンって?」

 

 名前も知らない洋菓子だった。思わず聞き返すと、パティシエ女性は嬉しそうな笑顔を見せてくれる。

 

「アーモンド風味のメレンゲクッキーで、フランスのお菓子なんですよ。カラフルにして見た目でも楽しんでくれたらなって」

 

 俺はその言葉に頷いた。専門学校で教えられても、あまり本気では意識してこなかったことだ。

 味だけじゃなくて、見た目の楽しさも大事ということ。

 最近になってようやくわかってきた。アイス少女の注文で、『アイスツリー』を9段まで重ねたものは、我ながらちょっとした芸術作品だと思う。

 

「アイスの見た目も大事なこと、最近ようやく気づいてきたよ、俺も」

 

「お互いがんばりましょうね」

 

 パティシエ女性がほほえんで、また照れさせてくる。

 俺はほぼアイス専門で、パティシエ女性は洋菓子だけど、ほぼ同業者といっていいはず。

 

 それからちょうどの代金を台に置いて、バニラとクリームソーダの2段アイスをカップで1つ注文してくれた。クリームソーダは最近開発したやつだから、少し緊張する。

 

「まいど」

「白色と水色が、とても綺麗ですね」

 

 完成したアイスを手渡すと、片手で受け取ってくれた。

 

「ありがとうございます、また来ます」

「はい、ぜひ!」

 

 ぺこりと頭を下げて、パティシエ女性は背を向けて歩いていく。

 青い髪はふわふわと揺れてる。パティシエ姿の美人さんが、片手にレジ袋、片手に2段アイスだ。

 

 そんな集客効果はすさまじいらしく、お客さんが次々とやってくる。

 余韻とかそういうのを味わう余裕もなく、アイス屋の商売を続けた。

 

 

***

 

 

 俺は、ひたすらお客さんの相手をしていた。公園の周りはどんどん人が増えていて、昼過ぎも次々とアイスが売れていく。

 バニラしかやってないのもあるけど、ソフトクリームが完売してしまったほどだ。

 

 怪盗団ファントムの予告状の話はニュースで広まっているらしく、警備員たちがわざわざ外に出てきて『もう入場はできません』と何度も声をかけているほどだった。

 

 そして夕方になって、ようやく1番の常連客が現れた。

 いつも通りのアイス少女である。

 

 でもオトモ妖精はぴくりとも動かず、ぬいぐるみみたいに両手でしっかり抱っこされている。狐のようだが明らかに妖精の姿をしていて、目立つのを避けたいからだろう。

 

「いらっしゃい。今日は何にする?」

 

 俺がそう声をかけると、アイス少女はアイスケースの中を吟味を開始する。この子は本当にアイスが好きなんだと思う瞬間だ。

 

「アイスの人も、美術館に行くの?」

 

 アイス少女からの珍しい質問だったが、事件を考えれば不思議でもないか。

 

「怪盗団に狙われるほどのお宝だろ。1度は見てみたいが、それだけだな」

 

 昔は親に連れていってもらっても、骨とう品とか絵とか、そういうものに全く興味がなかった。公園で遊んでいたほうがずっと楽しかった記憶がある。

 

「それが賢明。戦うことになるかもしれないから」

 

「なるほど、正義のヒロインも大変だな」

 

 ますます夜8時前には、美術館周辺から離れようと思った。最悪の事態だとパニックが起きて、渋滞すら起きるかもしれない。

 

 俺はふと、さっきから頭の片隅に引っかかっていたことを聞いてみたくなった。

 

「それにしても怪盗団ファントムってなんなんだ? 予告状を出すとむしろ警備が厳しくならないか?」

 

「オシャレでしょ?」

 

 腕の中で抱っこされているオトモ妖精が、そう声を発した。

 オトモ妖精も、ルパン三世や怪盗キッドに憧れているんだろうか。

 

「予告状、なぜだと思う?」

 

 アイス少女にも質問を返されて、俺は少し考える。

 脳裏に浮かんだのは、子どもの頃に再放送で見ていた『ルパン三世』だ。わざと騒ぎを大きくして、その隙に入り込む。銭形警部が『そいつがルパンだ!』とよく騙されている。

 

「人が増えると、変装して紛れ込みやすいからか?」

 

 見物客が増えすぎて、警備の人たちが入場制限のために動かされるほどだ。

 しかしすぐに別の疑問が浮かぶ。

 

「でも結局、夜8時にはお客さんがいなくなるはずだ。ならガラスケースの前に警備員たちが大量に集まって、動きづらいだけじゃないか?」

 

 俺はなかなか質問の答えが思いつかなかった。

 でも賢いアイス少女なら、その答えを推理できていそうだ。

 

「さあ? ファントムはどうするのでしょうね?」

 

 アイスケースに視線を向けているけど、アイス少女が少しだけほほえんでいる気がする。

 それからアイス少女は、台の上に恐らくぴったりの小銭を先に置いた。

 

「マシュマロを5つと、アイスで」

 

 いつも通りアイスケースの中を、指差して注文していった。

 クリームソーダ、パチパチホワイトチョコアイスなど、用意してきた4種類の新作アイスを選んでくれた。

 

 珍しいから食べてくれてそうだけど。目立って売れ残っていることを、気づかってくれているのかもしれない。

 今日も家に帰ったらもっとレシピ研究だな。

 

「お待たせ」

 

 まずは、個包装のマシュマロを手渡した。

 そして手早く4段を積み上げ始めて、まっすぐの『アイスタワー』を完成させる。以前の9段アイスよりは何倍も軽かった。

 

 アイス少女は、オトモ妖精を片手で抱え直して、もう片方の手でそれを受け取ってくれる。相変わらず器用な子だ。

 

 俺は、ふと思ったことをそのまま口にした。

 

「しかしなんで首飾りだけを盗むんだろう? 貴重なものだから金目的か?」

 

 アイス少女は、ゆっくりと背中を向けながら言う。

 

「どうかしらね。でも、決めつけちゃダメ」

 

 その言葉は柔らかく、少し厳しかった。

 

 確かにパティシエ女性は『名探偵の子たちが、お客様の大切な物を取り返してくれたんです』と言っていた。今回の美術館の事件以外にも、確実に怪盗団ファントムはこの町の日常に関わってきている。

 俺が大事な物も、狙われる可能性があるんだろうか。例えば、だんだんと愛着がわいてきているアイス屋だろうか。

 

「また明日」

「ああ、気をつけろよ。怪盗団って複数犯だろうし」

 

 アイス少女もこれから美術館に向かうんだろう。

 

 ピンクと紫の子たちも、たぶん来ている。あの子たちも、アイス少女も、怪盗団ファントムと戦っていると思った。怪盗団がどれくらいの規模なのか、ということすら俺は知らない。

 そして俺は、まだ子どもたちの探偵団を応援することしかできない。

 

 

 これから宝生美術館で何が起きるのかは分からない。

 でもアイス少女が協力するなら、きっと良い結果になるはず。それを信じてる。

 

 

 

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