RE:対魔忍世界転移憑依物語 ─綴木みこと─   作:楠崎 龍照

2 / 8
─必ずお読みください─

この物語はフィクションです。実際の人物や考えとは何ら関係ありません。


0話 壊れかけの命

 

 

 

 

「面倒なもんだな……生きるっていうのは……」

 

自転車を漕ぎながら、私はぽつりと呟いた。

最近……独り言が目に見えて多くなっている。

 

「どうしたんだい急に」

 

隣を走る友人が声を掛けてくる。

 

「いや……なんでもないよ」

「そっか……」

 

土曜日。雲一つない快晴の空。

時刻は午前10時。

私は中学からの友人、藤原梓とサイクリングをしていた。

 

「いつもすまんな」

「や、いいさ。僕も暇だったしね」

 

田舎と都会の中間に位置するような住宅の道を自転車で漕いでいる。

行く宛てのないぶらり旅だ。

仕事が休みの土曜日は、いつも友人の藤原(以降、あだ名として藤さんと呼ぶことにする)を連れてサイクリングをしている。

 

「で、さっきのセリフどうしたの?」

 

藤さんはズバッと話を切り込んでくる。

私は一瞬だけ顔を横に並走している藤さんに向けて言った。

 

「さっきの?」

「生きるのは面倒とかさ。君らしくないセリフだな。ってさ。いつもはエロ魔神みたいな事ばかり言ってるのにね」

「ああ……」

 

私の目線が影を落とす。

胸の奥から自殺という衝動が込み上げてくるのを感じる。

しかし、それを言葉で沈めた。

 

「ただの愚痴や、気にすることでもないよ」

 

そう私は零した。

喉に異物がつっかえた感覚に襲われ、息苦しい。

何かを察したのだろう。

藤さんは神妙な顔をして「また例のやつ?」と言った。

 

「まぁ……そんなところ……やな……」

 

私は声を震わせて呟く。

今度は人を殺したい衝動が湧き上がってくる。

藤さんは少しだけ呆れたような顔をした。

 

「そんなにショックだったの?」

「………………………………………まぁな」

 

私は視線を道路の先に向けたまま答える。

依然として、衝動は沸騰する素麺の水のように徐々に湧き上がる。

 

「推しキャラが……酷い目に遭うのは、正直……きついよ……対魔忍と思っていてもな……興奮は出来ない……」

 

声を絞り出す。

喉にある異物はあり続ける。

それを聞いた藤さんは空笑いと共に「まだ引きずってるんだ」と言った。

 

「当たり前やろ」

 

私は即答しながら小さくため息を吐いた。

 

「綴木みことやぞ?」

「そんなに好きなの?」

「好きだよ。本当に好きなんだよ……!!」

 

喉の異物や溢れる衝動の中、私は藤さんの方を見て必死に語る。

よそ見運転も甚だしい。

 

豚の肥溜めのようなクソみたいな回想と想像していようと……私は綴木みことが好きなんだ。

だから、何があっても引く……!

精神が壊れて半無敵の人になろうと…!!

私は本当に綴木みことが好きなんだよ!!!!!!

全世界のキャラクターの中で1番!!!!

綴木みことが好きなんだよ!!!!

幸せになってほしいキャラなんだよ!!!!

 

「(だのに、あのクソ回想共は……!!!!!!)」

 

風を切る音や木々のさざめきすらも吹き飛ばす大声。

気がつけば、目尻の奥に水の塊が溜まっているのを感じ、サッと藤さんから顔を逸らす。

その様子を見た藤さんは真剣な表情を壊さずに。

 

「ゲームキャラにそこまで感情移入する人、なかなかいないと思うけどね」

 

藤さんは真面目な表情で続ける。

 

「……あんまり無理はしないことだよ」

「………………………………………どうすりゃいいんだよ

 

地底から響くような静かな声は藤さんの耳に届くことはなく、地面に一雫の水滴が落ちたことにも気が付かない。

一瞬の沈黙の中、私は心にもない事を発言する。

 

「今日は忘れるよ」─私が綴木みことの回想を忘れるわけが無い─

「そうするといいね」

 

そんな口から出た言葉に藤さんは小さく諭すように頷いた。

私が言った言葉を否定する心の声を無視……いや、掻き消そうと、再び言葉を外に出す。

 

「……帰ったらVRでもやって気分転換でもするよ……」─忘れられるわけが無い─

 

藤さんはフフッと微笑む。

 

「忘れられるといいね」

 

そう一言だけ添えた。

また訪れる刹那の沈黙。

それを割くように藤さんの小説の話題になり、私はその話題に色々と自身の感想を述べたりしていた。

 

 

どれくらい走っただろうか。

気がつけば、住宅街は途切れ、少し開けた通りに出ていた。

通りの角に、小さなカフェが見える。

木目調の外壁に、大きなガラス窓。

店の前には「ココトカフェ」と書かれた黒板が立てられていた。

藤さんがその店を指差す。

 

「ちょっと休む?」

「っ……ぁ……!」

 

その看板を見た時、一瞬だが胸がざわついた。

心臓の鼓動は早くなり、喉に異物がつっかえる奇妙な感覚に襲われる。

 

─死ぬか? 殺すか?─

 

胸の奥から、黒い衝動が込み上げてくる。

全部、壊してしまえば楽になるのか。

そんな危ない考えが、一瞬だけ頭をよぎった。

 

「おーい……おーい!」

「え?」

「大丈夫かい?」

「あ、あぁ……大丈夫」

 

藤さんの声で、ノイズとなっていく意識が現実に引き戻された。

 

「ちょっと休む?」

「そ、ぅやな」

 

正直、助かった。

ここまで走ってきて、身体よりも頭の方が疲れていた。

 

「……入ろうか」

 

私たちは自転車を店の前に止めた。

再び店名を見る。

名前はやはり「ココトカフェ」と書かれていた。

店の扉を開けると、客の来訪を告げるベルと共にコーヒーの香ばしい匂いが鼻をくすぐった。

 

「(……今、ミコトカフェって見えなかったか?)」

 

額の脂汗を腕で拭いながら、案内された席に着く。

柔らかな照明と静かなジャズがこのカフェを包み込んでいる。

店内を少し見渡す。

昼前だからだろうか、客は私たち以外誰もいない。

ゆったりとした空気が流れていた。

 

「なかなか落ち着いた店やな」

 

私はまだ胸の奥に残っているざわつきを誤魔化すように言いながら、メニューを手に取った。

ページをめくると、コーヒーやカフェラテ、軽食が並んでいる。

 

「さて……何にするかなぁ……」

「アイスコーヒーじゃない? 君猫舌だし」

 

藤さんがメニューを覗き込みながら言う。

私は苦笑しながら「まぁ、そうやな」と答えた。

 

「ブラックでしょ?」

 

藤さんがメニューから顔を上げて言う。

私は即答する。

 

「もちろん」

「ふふっ、好きだねぇ」

「あぁ、飲まんとやってられん……」

 

私はメニューを藤さんに渡し、椅子に深く腰掛けながら答えた。

 

「見事なまでのカフェイン中毒だね」

 

藤さんがメニューを見ながら苦笑する。

 

「いや……綴木みこと中毒だと思うよ」

「そっか」

 

藤さんはそれだけを言ってから、呼び鈴のボタンに手を添えて、こちらを見た。

私は何も言わずにコクリと頷く。

 

静かな空間にベルの音が大きく響いた。

 

「はーい」

 

奥から店員さんが早足でこちらに近づいてきた。

 

「ご注文はお決まりでしょうか?」

 

私は軽く手を挙げる。

 

「アイスコーヒー、ブラックでお願い致します」

「かしこまりました」

 

藤さんもメニューから顔を上げる。

 

「僕はカフェラテでお願いします」

 

店員は軽く頭を下げ、カウンターへ戻っていった。

再び店内に静かなジャズが流れる。

コーヒーの香ばしい匂いが鼻に届いた。

私は椅子の背もたれに体を預けて、小さく息を吐く。

 

「……落ち着くな」

「コーヒーの匂いかい?」

 

藤さんが聞く。

 

「それもあるけど……」

 

私は窓の外をぼんやり眺めながら答える。

 

「現実から……少し離れられる感じがする」

 

藤さんは小さく笑った。

 

「帰ったらVRをして現実からもっと離れないとね」

 

その言葉に、私は少しだけ目を瞑った。

少しして、私たちの前にコーヒーが運ばれてきた。

 

運ばれてきたブラックコーヒーを一口飲む。

苦味が舌に伝わり、口全体に広がる。

……だが、その苦さが妙に心地よかった。

再びグラスに口をつけようとした時、頭の中にあの光景がフラッシュバックしてしまい、飲もうとしていたコーヒーをテーブルに置いた。

 

「……」

 

ふと藤さんの方を見ると、カフェラテをチビチビと飲み進めている姿が視界に写った。

 

「それで? どんなVRをするんだい?」

 

藤さんはカップを置きながら、そんな事を質問してくる。

 

「……オンラインゲーム。最近VRもされててさ。昔からやってるゲームだけど、凄い楽しくなってるよ」

「ふふっ、面白そうだね。どんなボスがいるのかな?」

「……最近はソウラス、ダリオン、ヴァエルってボスが増えたな。戦って楽しいよ。それに……」

 

一瞬、とある考えが脳裏を貫いた。

 

みことがソウラスとかダリオン、ヴァエルの力を持ってたら、ふうまとのいちゃラブ回想になっただろうな……。

 

「それに?」

「あ、いや、ごめん。なんでもない。」

 

ほんの少しだけ首を傾げる藤さん。

私は首を横に小さく振った。

その後も、他愛の無い話で盛り上がり、カフェを後にした。

時刻は2時を回っていた。

 

「ここからどこにいく?」

 

─現実から逃げるか? 人を殺すか?─

「そうやな。……ここを真っ直ぐ行ったらララポートに着くから、そこを経由して帰ろうか」

「ララポートには寄る? 佐近に行くかい?」

「この時間だと到着する頃にはディナーバイキングになりそうだな。土日は高いぞ。ええんか?」

「僕は構わないよ。家にいても暇だからね。それに、君といると退屈をしない」

「そっか」─何処に行こうと私はみことのことを忘れられない。人を殺したい感情も─

 

私と藤さんはハンドルを持ち、ペダルを力いっぱい踏み込んだ。

 

 

自分の家に着いた時、時刻は8時を回っていた。

私は靴を脱ぎ、脱衣所の洗面台で手を洗い始める。

 

─自分を殺すか? もうこの現実に居る意味は無いだろう?─

「……そら、私だって殺したいよ……。殺せたらどれだけ気が楽になれることか……」

 

手洗いを終えた私は近くにあったタオルで手に着いた水を拭い、階段を登る。

 

─自殺しろよ。綴木みことの回想でこれ以上苦しむこともなくなる─

 

3階まで上がり、クローゼットから適当な部屋着を取る。

1階まで降りて入浴を始める。

湯船に浸かり、今日の疲れを剥がした。

 

「……」

 

天井を眺める。

ふと涙がこぼれてくる。

 

「そら、死ねるなら死にたいよ。でも……」

 

私にはそれが出来ない。

私には夢がある。

……くだらない夢だが、絶対に叶えたい夢だ。

誰にも言ったことはない。

言えば確実に、頭がおかしいと思われる。

天国に行くことだ。

そして……。

対魔忍の世界に転生すること。

違うな、綴木みことがいる対魔忍の世界に転生をして……綴木みことの近くにいたい。

それが、私の夢だ。

 

その為には……絶対に天国に行かなければならない。

自殺や殺人をすれば間違いなく、確実に地獄に行くだろう。

だから……。

私は自分や人を殺すことが出来ない。

踏み留まらないといけない。

家族や友人にも迷惑をかけてしまう。

絶対に踏み留まらないといけない。

何がなんでも……犯罪に手を染めてはならない。

 

 

「……」

 

私は何も考えずに風呂から出た。

頬に伝うのは涙か水か、私にも分からない。

 

「……身体が溶け落ちる……幾星霜の……」

 

バスタオルで身体についた水滴を拭う。

独り言を言っていることにも気が付かない。

鏡に映る自分の顔は、どこか生気が抜けていた。

 

「……はぁ」

 

短く息を吐き、視線を逸らす。

考えるな。

考えれば、またあの回想が頭をよぎる。

部屋着に着替えた私は3階まで上がり、自室の部屋に入る。

 

「身体が溶け落ちる……」

 

独り言に気づかないまま、机の上に置かれた機器に手を伸ばした。

フルダイブ型のVRデバイス。

最近になって普及し始めたそれは、現実から“完全に離れられる”数少ない手段だった。

 

「……現実よりはマシや」

 

小さく呟き、装置を頭部にガッチリと固定する。

視界がゆっくりと暗転した。

 

─接続開始─

 

機械音声が脳に直接響く。

暗闇の中、光の粒が浮かび上がる。

それらは徐々に集まり、世界の輪郭が形成されていく。

見慣れたログイン空間。

無機質で、どこか現実味のない白い空間。

 

「……っ!」

 

綴木みことのビジュアルチェンジイラストが頭をチラつきながらも、私はログインをして、ゲームの世界へと入る。

いつも通りだ。

何も変わらない。

何もおかしくない。

 

「ソウラス、ダリオン、ヴァエルの大連戦クエスト行くか」

 

私はクエストカウンターへと向かい、そのクエストを受注した。

 

「……」─この程度忘れるなら、とうに忘れているよ─

 

チラついている。

3人の綴木みことの回想が。

特にハロウィンみことの回想が……!!

 

「……っ!」

 

場面がロード画面へと変化する。

そこで私は違和感に気づく。

異様な程、ロードが長かった。

 

「あー、これは回線落ちするなぁ」

 

予想通り、私の視界には回線が切れた旨の表示がされた。

 

「もぉお……あぁぁぁ……」

 

私はため息をついて、表示されたウィンドウを閉じようとする。

しかし、今回は違った。

何故か視界にノイズが走っていく。

 

「ん……?」

 

わずかな違和感。

 

「バグ……?」

 

普段ならあり得ない。

このゲームで、こんな表示は見たことがない。

ノイズは、ゆっくりと激しくなっていく。

まるで空間そのものが腐食しているかのように。

更に、エラーコードを表示するウィンドウも何故か黒く塗りつぶされていく。

 

「……なんや、これ」

 

思わず、そのウィンドウに手を伸ばす。

次の瞬間だった。

──ノイズが弾けた。

視界が一瞬で塗り潰される。

白が黒に反転し、世界が崩壊する。

崩壊した先に見えるのは青々とした電脳空間。

私はその空間に落下する感覚に襲われた。

 

「っ──!?」

 

音が消える。

感覚が消える。

身体の輪郭が、自分のキャラクターが溶ける。

──いや、違う。

引き剥がされている。

 

「……は?」

 

理解が追いつかない。

自分がどこにいるのかも、分からない。

ただ一つ、確かなことがある。

 

─戻れない─

 

その確信だけが、異様に鮮明だった。

 

「ちょっ……待って……!」

 

声を出したつもりだった。

だが、それすら音にならない。

私はVRの装置を外そうと頭に触れる。

しかし、そこに装置は無かった。

 

「……ッぅそやろ!?」

 

自分が受け止めきれる許容範囲を優に超えている。

 

「何が……何が起きてる!?」

 

そう叫ぶことしか出来ない。

だが、唯一脳が理解している事がある。

それは、この無限に広がる蒼い情報の海を私は想像を絶する速度で落下しているということだけだ。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

どれだけ落ちただろうか。

青い情報の奔流が、全身を掠めて通り過ぎていく。

 

「っ……!」

 

息が出来ない。

いや、出来ているのか?

肺があるのかすら分からない。

ただ、全身を引き剥がされるような気色の悪い感覚だけがあった。

 

「……どこまで落ちるんだよマジでぇ!!!」

 

あまりの理不尽さに叫ぶ。

だが、声は出ない。

意識だけが、この青い情報の海に放り出されているようだった。

その時だ。

青い奔流の先に何かが見えた。

 

「……っ!?」

 

人影。

小柄なシルエット。

何となく女の子だと感じた。

こちらへ向かって何かを叫んでいる。

だが、聞こえない。

声はノイズに掻き消され、何一つ判別できなかった。

それでも分かることがある。

止めようとしている。

 

「待っ……!」

 

私も止まりたかった。

止まれるものなら、今すぐにでも止まりたかった。

私は必死に手を伸ばす。

何かに掴まろうとする。

だが、指先は何にも触れない。

身体は落ち続ける。

いや、違う。

流し込まれている。

 

「やめろ!!」

 

私は腕を振り、身体を捻る。

軌道を逸らそうと、ただ本能だけで暴れた。

止まれ。

避けろ。

離れろ。

避けてくれ!!

来るな!!

 

そう思っているのに、身体は言うことを聞かない。

人影が大きくなる。

その瞬間、人影の顔が、ほんの一瞬だけこちらを向き、ノイズが薄まった。

 

緑がかった金色の瞳。

見覚えのある顔立ち。

 

「……っ!」

 

─綴木みこと─

 

「ッッッ!!?」

 

本能的に私はそう理解した。

だが次の瞬間にはノイズがその輪郭を塗り潰していた。

 

「なんで……!!」

 

全身の血が凍りつく。

心臓が早鐘を打つように鼓動する。

目が回る感覚に襲われる。

なんでここにいる!?

なんで綴木みことがいる!!?

そんなはずない!!

だって彼女は架空の────

 

「やめろ!!! 待て!!! 待ってくれ!!!」

 

本能よりも理性よりも先に身体が抵抗していた。

腕を振る。

身体を捻る。

どうにかして軌道を変えようと必死にもがく。

 

「くそ!!」

「待て!!」

「嫌だ!!」

「やめろ!!やめろ!!!」

 

見えない力が、私の意識ごと前へ引きずっていく。

 

「逃げろ!! 逃げてくれ!! 頼む!!!」

 

止まらない。

何一つ止まらない。

それでも私は抗った。

行きたくない、入りたくない、あそこへ落ちたくない。

何よりも彼女を巻き込みたくない。

みことを巻き込みたくない!!

 

「止まれ!! 止まってくれええええええええええええ!!!」

 

伸ばした手は虚しく空を切る。

身体は濁流のような情報に掴まれたまま、一切の抵抗を許さず前へ前へと引きずられていく。

 

「ぃやめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

涙で顔をグチャグチャにしながら大絶叫する。

私は抵抗した。

最後の最後まで、必死に。

 

そして……。

 

 

 

 

 

青白い光で満たされた電脳空間を、綴木みことは軽やかな足取りで進んでいた。

現実の身体は安全な場所に置いたまま、意識だけをネットワークの海へ潜らせる。

それは彼女にとって半ば日課であり、趣味でもある。

巡回に異常検知に情報確認。

ついでに、ちょっとした寄り道。

趣味と実益を兼ねた、いつもの散策だ。

 

「今日も異常なし、っと」

 

指先を軽く振ると、視界に浮かんでいたウィンドウが閉じる。

ログの流れも正常、侵入痕跡も無し、回線も安定している。

 

「平和なのは良いことですけど、ちょっと退屈ですねぇ」

 

にしし、と一人で笑った、その時だった。

空間の奥で、微かなノイズが走る。

 

「……っ?」

 

みことの表情が変わった。

今のはただのラグではない。

電脳空間に慣れた彼女だからこそ分かる。

あれは“外部からの異常干渉”だ。

彼女は即座に複数の解析ウィンドウを展開した。

 

「発生源は……? え、うそ……?」

 

表示された反応に、みことは怪訝な表情をする。

そこにあったのは、ウイルス反応でも侵入コードでもない。

形容し難い生々しい何かだ。

 

『未確認意識反応』

『深層リンク層異常』

『相対接続先:不明な電脳層』

 

「……は?」

 

最後の一行を見た瞬間、みことは完全に真顔になった。

 

「不明な電脳層……?」

 

あり得ない。

だが、それで済ませる前にその異常反応はみことの巡回領域へ向けて急速に接近していた。

青い海を裂きながら、黒いノイズを纏った意識体が一直線に落ちてくる。

 

「止まって!!」

 

綴木みことは叫びながら、隔離と保護を同時に展開した。

青白いリングが幾重にも広がり、異常意識を包み込もうとする。

 

だが、それは止まらない。

一枚目の隔離リングを突き破る。

二枚目、三枚目と、まるで自分が何を壊しているのかすら認識できていないかのように、一直線にこちらへ落ちてくる。

 

「そんな……!」

 

みことは即座に解析ウィンドウを重ねた。

 

『未確認意識反応』

『人格波形:人間』

『深層リンク異常』

『制御状態:崩壊』

『表層侵食率:上昇中』

 

「人間……!?」

 

ウイルスでも侵入コードでもない。

そこにあるのは、生きた人間の意識そのものだった。

しかも、その波形は異常なほど乱れている。

攻撃の意志でも、敵意でも、侵略性でもない。

それは正に混乱や拒絶、必死の抵抗だった。

みことは、その中心にいる人を見た。

黒いノイズの中で、必死に手を伸ばしている。

何かを掴もうとしているのではない。

止まろうとしている。

流れ込むことそのものを、全力で拒んでいる。

 

「……っ」

 

みことの瞳が揺れる。

確信した。

この人は、わざとじゃない。

ここへ来ようとして来た意識じゃない。

事故だ。

しかも、かなり最悪な形の接続事故だ。

 

「待って! 今、助けるから!」

 

みことは防壁を弾くものから、受け止めるものへ切り替える。

侵入者として処理するのではなく、遭難者として保護するためだ。

だが、その時だった。

空間全体に赤い警告が走る。

 

『人格領域接触』

『異常侵入』

『表層制御権、再割当』

『深層保護領域、強制展開』

 

「っ……!?」

 

みことの顔から血の気が引く。

 

「だめ……! そっちはだめ……!!」

 

処理の対象になったのは、彼の意識ではない。

自分自身だった。

身体の表層制御権が、最も近くにある不安定な意識へと引き寄せられていく。

逆に本来の持ち主である、自分の意識は深層の領域へ押し込められようとしていた。

 

「いや……!」

 

みことは咄嗟に彼の意識を押し返そうと手を伸ばした。

だが、その瞬間、黒いノイズがさらに弾ける。

彼の意識もなお、必死に抗っていた。

手を伸ばしている。

止まろうとしている。

入るなと、自分自身に言い聞かせているようだ。

その抵抗は、みことにもはっきり伝わった。

ここへ来たくて来たわけではない。

私を奪いたくて落ちてきたわけではない。

この人は、本当に事故で巻き込まれただけだ。

 

「……っ」

 

そこまでは、みことにはもうほとんど確信できていた。

だけど。

 

「返して……!」

 

叫び声が漏れる。

理解できることと、受け入れられることは別だった。

この人が悪意を持っていないと分かっても、今まさに自分の身体を失いかけている恐怖は消えない。

 

「お願い……返してよ……!」

 

彼の意識はなおも抵抗している。

だが、事故処理の流れは止まらない。

彼の意識は、止まりたくても止まれないまま表層へ滑り込み、みことの意識は逆に深く、深く沈められていく。

 

「……あなた……」

 

沈みながら、みことは彼の意識を見つめた。

悪意はない。

少なくとも、今この瞬間だけは断言できる。

でも、それでも。

これが苦しくないわけがない。

 

「……ごめん」

 

その言葉は、自分の身体を守れなかった自分へのものなのか、事故に巻き込まれた彼へのものなのか、彼女自身にも分からなかった。

次の瞬間、彼女の意識は深層保護領域へと完全に沈められた。

最後に見えたのは、自分の身体へと接続されていく彼の意識と、その意識がなおも必死に抗っている姿だった。

 

 

 

 

 

誰かに呼ばれている気がする。

意識がフワッと浮かび上がる。

瞼が重く、まともに上がらない。

 

「……みことちゃん、起きて」

 

女の子の声がした。

聞き覚えがある。

そんなはずがないのに聞き覚えがある。

 

「……ん……」

 

漏れた声に、私は固まった。

私のものじゃない声。

ゆっくりと目を開ける。

見慣れない天井、白く、清潔で、どこか無機質な天井だった。

 

「……ここ……」

 

身体を起こそうとする。

その瞬間、全身に奇妙な違和感が走った。

自身の身体を一拍遅れて操作しているみたいに、動きと感覚が噛み合わない。

いや、それだけじゃない。

全身に妙な圧迫感を感じる。

 

「……っ」

 

嫌な汗が額から噴き出す。

震える手を持ち上げる。

白い硬質な装備が目に映り、その上、指先には手袋のような感触がある。

 

「……は?」

 

喉が鳴る。

息が浅くなる。

私は反射的に自分の頬に触れた。

ぷにぷにとした弾力ある柔らかな肌。

自分じゃないみたいだ。

 

「……ぅそ、やろ……」

 

恐る恐る視線を落とす。

橙を基調とした、ぴっちりとした対魔忍スーツ。

混乱が酷くなる。

その時だった。

 

「みことちゃん? どうしたの?」

 

目の前にいた少女の顔を見て、私は完全に思考がフリーズする。

望月卯奈。

見間違えるはずがない。

 

「……は?」

 

ここに来て、私はようやく理解した。

ここが対魔忍の世界である事に。

そして私は、綴木みことになっていると……。

 

 

 

この壊れた精神で続くと思うか……?

期待するな……。

どうせ続かん……。




豚の肥溜めのようなクソみたいな回想と想像していようと……私は綴木みことが好きなんだ。
だから、何があっても引く……!
精神が壊れて半無敵の人になろうと…!!
私は本当に綴木みことが好きなんだよ!!!!!!
全世界のキャラクターの中で1番!!!!
綴木みことが好きなんだよ!!!!
幸せになってほしいキャラなんだよ!!!!

RE:対魔忍世界転移憑依物語X ─綴木みこと─を作った方がいい?

  • 是非見たい。
  • 旧みことでいい。
  • 旧みことを残したまま、新みことX見たい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。