RE:対魔忍世界転移憑依物語 ─綴木みこと─   作:楠崎 龍照

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ビジュアルチェンジ版のセリフを聴いて、私の脳は完全に焼かれ、破壊され、焼かれた。
うがーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!
これを回想で聞きたかったよ!!!!
これを!!!
回想で!!!
聞きたかったんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!


1話 綴られてしまった命語(ものがたり)

 

 

 

 

 

 

意識が浮かび上がっているのを感じられた。

目を開けているのか、閉じているのかすら判断できない。

あの後、どうなった?

 

「……」

 

あれはみことだったのか?

あのノイズの子は無事なのか?

いや、そもそもあれは現実で起きたことなのか?

 

─……て……─

 

「……?」

 

─……ちゃ……て……─

 

あの時の疑問を浮かべる中で、女の子の声が聞こえる。

……ノイズの子だろうか?

 

─……み……とちゃ……おき……─

 

女の子が誰かの名を呼んでいる。

上手く聞き取れない。

 

─み…とちゃん……起き……─

 

……あれ?

なんかこの女の子の声、どこかで聴いたことが……。

浮かび上がっていく意識が、どこかで聴いたことのある声の正体を知るため、覚醒へと辿った。

 

「……んぁ……」

 

自分から発した声を聞いた時、その違和感に気がつく。

明らかに自分の声ではなかった。

だが、私はその声を知っていた。

悪寒が全身を走り、再び早鐘を打つ心臓。

喉奥に引っかかる異物の幻影。

咄嗟に身体を起き上がらせようとする。

 

「……っ!?」

 

動きがわずかに遅れる。

まるで、自分の身体ではないものを無理やり動かしているような気色の悪いズレがあった。

それだけじゃない、私の全身には妙な密着感があった。

肌にぴたりと張り付く衣装。

胸元や脇腹に独特の締め付けが走る。

私は反射的に自身の身体を見て絶句した。

だが、絶句する余裕もなく女の子は矢継ぎ早に話しかけてくる。

 

「みことちゃん起きて! 寝坊だよ!」

「えっ……え……?」

 

視界が晴れ、目の前にいる女の子を見て、再び思考が固まる。

許容範囲を超えた情報を受けたらフリーズしてしまうのは私の悪い癖である。

視界に映るその子は、雪のように真っ白なショートヘアーに、大きな兎耳をしていた。

 

「みことちゃん、みことちゃん! どうしたの? 2時間目の授業に遅れるよ!」

 

見間違えるはずがない。

望月卯奈さん。

人懐こい笑みを浮かべたその顔は、まさに私の知っている対魔忍の世界の人物そのものだった。

そして、彼女が先程から口にしている名前。

それは私の思考を再稼働させるのに十分すぎた。

 

─みことちゃん─

 

この五年間、一度だって忘れたことはない。

声も、姿も、名前も。

彼女がその名を言ってくれた事で、私は確信した。

声、対魔忍スーツのデザイン、そして望月卯奈から発された名前。

最早疑いようがなかった。

私が綴木みことになったという事実に。

 

 

その瞬間、胸の奥で微かな痛みが走った。

怒りでも恐怖でもない。

もっと静かな感情。

 

─ごめん─

 

そんな声が、聞こえた気がした。

 

「……ッッッ!!」

 

紛れもない……綴木みことの声。

全身が──軋む。

心が……嫌な音を立てている。

全身の血液が暴発したような全身を叩くような感覚がする。

口を力強く噛み、目から溢れる涙を出さないように必死に堪える。

 

「みことちゃん行こ! さくら先生カンカンだよ!」

「あっ……」

 

私は最悪な程にハッキリとした事実を抱いたまま、彼女の手に引かれてこの場を出ようとした。

だが、私は望月卯奈さんに震える声で「ご、ごめん……体調悪くて……保健室で休むね……」と必死に伝えた。

 

「え、大丈夫!? 一緒に保健室行こう!」

 

心配そうな表情を浮かべた望月は、私の手を握り直した。

触れられているだけなのに、違和感が酷かった。

 

「みことちゃん、大丈夫? 歩ける? しんどかったらおんぶするよ!」

「あ、いや、大丈夫だよ」

 

そう答えて立ち上がった。

感覚が私のソレではなく、違和感しか感じられなかった。

そもそも重心が違い、少しふらついてしまう。

脚の長さ、腰の位置、普段の私の感覚と微妙に噛み合わない。

ただ歩くだけだというのに、得体の知れないもの気持ち悪さがある。

 

「……っ」

 

それだけじゃない、全身にピッチリと張り付いた対魔忍スーツの感触が嫌でも意識させてくる。

自分のものでは無い身体に、対魔忍スーツの締め付けが執拗に教えてくる。

 

「みことちゃん、大丈夫? しんどい?」

 

歩きながら、望月さんは私の方を振り返りながら訊いた。

 

「あ、いや、ちょっと……ボーッとしてて……」

「無理しないでね? さっきから少し変だよ」

「そ、そんなに……変かな?」

 

望月さんにそう言われてしまい、私は思わず聞き返してしまった。

 

「うん。なんか上の空っていうか、返事も少し遅かったし。寝不足?」

「ま、まぁ……そんな感じ……」

 

寝不足かと言われたら、全然寝不足だ。

あれ以降、綴木みことのビジュアルチェンジイラストが脳裏にチラつきまくり、ろくな睡眠がとれない状況にいる。

だが、今はそんな寝不足どころの騒ぎではない自体に遭遇しているのだ。

 

廊下の窓から差し込む鮮明な光、壁、床、掲示物。

そして、望月卯奈さん。

全部が現実の質量を持って、私の感覚を殴ってくる。

夢だと思いたい、VRだと思いたい。

だが、その全てをこの世界が全力で否定してくる。

 

「……っ」

 

喉奥にまたあの異物感が込み上げてくる。

……涙が出そうだ……。

頼む望月さん……私の方を見ないでほしい……。

 

「みことちゃん、ホントに大丈夫?」

「う、うん、大丈夫だよ」

 

今にも泣き出しそうな私は、必死に笑顔で取り繕う。

 

「もうすぐ保健室につくよ」

 

彼女はそう言って、私の手を引く力を少しだけ強めた。

私はふと、窓の方に顔を向ける。

窓の反射で私の顔が映し出された時、分かっていたとしても絶望感に押しつぶされそうになった。

私が綴木みことになってしまった現実を否応なく突きつけられた。

 

「……うっ……」

「え!? ホントにヤバい!? ごめんみことちゃん、ちょっと急ぐね!!」

 

望月さんは焦った様子で早足になる。

私はその背中に引かれながら、周囲の光景を見た。

制服や校舎、それらが全て私に見覚えのあるものだった。

私はこの世界を知っている。

知らないはずなのに、知っている。

 

「(……五車……学園……)」

 

疑いようがない。

対魔忍たちを養成する学園。

 

─私が死した後に来なければならない場所─

─私が死した後に綴木みことがいる世界に転生する世界─

 

「ぁぁ……そうやな……」

 

この一言は、望月さんには聞こえていなかった。

 

「みことちゃん、もう少ししたら保健室だよ! それまで頑張って!」

「あ、ありがとう……」

 

やがて、保健室のプレートが視界に入る。

 

「着いたよ!」

 

望月さんはほっとしたように笑い、保健室の扉を開けた。

 

「失礼しまーす! 先生いますかー?」

 

望月は元気よく保健室に入っていく。

中にいた保健の女性教師が眺めていた書類から目を離してこちらを見た。

 

「望月さん? どうしました?」

「あの、みことちゃんが体調悪いみたいで! すごいフラフラしてて!」

 

望月がそう言い終わると、保健の先生の視線が私へと向く。

一瞬で、こちらの異変を見抜いたような顔になった。

 

「綴木さん、顔色が悪いですね。歩けますか?」

「……だ、大丈夫です……」

 

そう答えたものの、自分でも声に力が入っていないのが分かった。

先生はすぐに立ち上がり、奥のベッドを手で示す。

 

「無理しなくていいです。一先ず横になりましょう」

「はい……」

 

望月さんに手を引かれたまま、私は保健室の奥へと向かう。

白いカーテン、整えられたスベスベとしたシーツ。

現実感がありすぎて、それが尚更私の精神を追い詰める。

 

「みことちゃん、大丈夫? お水いる?」

「……ううん……ごめん……ホントにごめんね……」

「謝らなくていいよぉ」

 

望月さんは眉を下げながら、心配そうに私の顔を覗き込む。

その顔があまりにも優しくて、余計に胸が痛くなった。

精神が疲弊している時にその優しさは……残酷すぎた……。

私は涙を流さないように必死だった。

 

「綴木さん、熱は……?」

 

保健の先生が額に手を当てようとして、私は反射的に肩を揺らした。

 

「ぃっ……!」

「……あ、ごめんなさい。びっくりさせましたね」

 

保健の先生はすぐに手を引っ込めた。

その一瞬の接触ですら、何度目かも分からない、この世界が現実であると突きつける。

 

「……少し横になって休みましょう。授業の方は、こちらから担任に伝えておきます」

「……すみません……ありがとう……ござい、ます……」

「気にしなくて大丈夫ですよ。望月さん、もう教室に戻って平気ですよ」

「えっ、でも……!」

 

望月さんは露骨に不安そうな顔をした。

その気持ちはありがたい限りだが、今の私は誰かに見られているだけで壊れそうだった。

 

「みことちゃん、本当に一人で大丈夫?」

「……うん……少し寝たら、大丈夫だと思う……卯奈、ありがとう」

 

私は涙が流れるのを覚悟の上で、望月さんの方を見てから笑顔で感謝を伝えた。

私の笑顔を見た望月さんは少し安心したのか頷いた。

 

「分かった。でも、無理しないでね?」

「……ぅん……ぁりがとぅ……」

 

望月さんは、保健の先生にペコリと一礼してから保健室を出ていく。

先生も「何かあったらすぐ呼んでくださいね」と言い残し、机の方へ戻っていった。

 

「……」

 

カーテンで仕切られたベッド。

私の涙腺は決壊した。

ボロボロと涙が流れ出す。

鼻水も流れ、それはそれはマヌケで無様な面になっているだろう。

 

「……っ……っ……っ……!」

 

先程の望月さんの優しさを思い起こして、溜め込んでいた涙をボロボロと零した。

カーテンの外には保健の先生がいる。

泣いていると思われたくない私は、静かに泣き続けた。

 

「っ……っ……!」

 

胸の奥が痛い。

あの時聞こえた、みことの「ごめん」が何度も脳裏を掠める。

違う。

謝るべきなのは、貴女じゃない。

悪いのは────。

 

その時だった。

カーテンの外からガラガラと扉が開く音が聞こえてくる。

 

「失礼します。先生、今よろしいですか?」

 

聞いた事のない女性の声だ。

 

「どうしました?」

「明日の任務について……」

「……分かりました」

 

先生は少しだけ間を置いてから返事をした。

カーテンの外から私に声を掛ける。

 

「……綴木さん、少しここで休んでいてくださいね。すぐ戻りますから」

「……は、い……」

 

その言葉に私は掠れた声で返事した。

保健室の扉が閉まる音がして、足音が遠ざかる。

保健室は静寂に支配され、本当に私一人になった。

 

「……っ」

 

その瞬間、私の涙腺は完全に壊れた。

私は枕に顔を押しつけ、シーツを握り締める。

 

「うぅ……ぁぁっ……!」

 

涙が止まらない。

嗚咽が漏れる。

私は子供みたいに泣きじゃくった。

 

「ぁぁぁあ……! うぅぁ……!」

 

ダメだ。

涙が止まらない……本当に涙が収まらない。

 

「……みこと……っ……!」

 

不意に名前を呼んだ瞬間、また胸の奥が痛んだ。

 

「ごめん……じゃ、ない……っ……!」

 

違う。

違うんだ。

謝るべきなのは、貴女じゃない。

 

「悪いのは、私だ……っ!」

 

私が……貴女を……!!

私のせいなんだ……!!

枕に顔を埋めたまま、私は何度も首を振る。

 

「私が……返さないと……っ……!」

 

綴木みことを……彼女の、この身体を。

例え、私の人格が消えてでも……。

 

「……絶対に……返す……っ……!」

 

それは涙と鼻水にまみれた、あまりにも情けない誓いだった。

 

 

 

2時間目の終わりを告げるチャイムが聞こえる。

 

 

大量の涙を流し、ほんの少しだけ気持ちの整理が出来た私。

どれだけみことに謝っても、この体を彼女に返さない限り、私の謝罪は毛ほどの価値も無ければ、一切の意味もない。

私の人格が彼女の身体に入った以上、それを戻す事も可能なはずだ。

ならば、やることは1つしかない。

 

─自殺は保留か?─

「当たり前やろ。私の身体ならともかく、この身体はみことの身体や。一刻も早く、1秒でも早く返さないと」

 

とは言ったものの……。

井河アサギ先生に相談するか?

いや……信じてくれるか?

信じてくれたとして、その後は?

他に相談できそうな相手は……。

 

「……いや、待てよ」

 

ふと思い出す。

仮にこの世界が対魔忍RPG準拠の世界線であるならば、いるじゃん相談できそうな奴が。

 

ふうま小太郎。

決戦アリーナと対魔忍RPG、アクション対魔忍の主人公。

私は、彼に相談しようと考え、とりあえず保健室を出ようとベッドから立ち上がった。

しかし、別の考えが脳裏をよぎり身体を停止させる。

 

「(相談してどうする? 今の私は綴木みことになっている。そんな私が事情を打ち明けたとして、信じてもらえるのか? いや、それ以前に……打ち明けるべきなのか?)」

 

仮に……信じてもらえたとして、その先にあるのは助けか、保護か、それとも拘束か?

私自身の問題だけなら、いくらでもどうにでもなった。

だが、今は違う。

この身体は、彼女のものだ。

軽率に誰かに明かし、彼女に不利益が出るようなことだけは、何があってもに避けなければならない。

 

「……考えれば考えるほど、悪い想像ばかり浮かんでくる……」

 

私は頭を抱える。

前に進む為の道が出てこない。

 

「(とりあえず……出るか……?)」

 

逆にここで長考をしていても何も始まらない。

私はベッドから降りた。

対魔忍スーツが肌に張り付く感触が、また嫌でも現実を教えてくる。

特に胸と下の部分。

……なんで対魔忍たちはこんな服を平然と着ているんだよ……。

 

「ふぅぅぅぅぅ……」

 

私は乱れた呼吸を整えた。

 

「(……まずは、状況を知らないと……)」

 

ここが、決戦アリーナ準拠の世界か、対魔忍RPG準拠の世界か、アクション対魔忍の世界か。

はたまたそれ以外の世界か。

それらを知らなければ、何も始まらない。

 

「(それと……仮に誰にも明かさないとして、私がどこまで綴木みこととして振る舞えるのか)」

 

私は白い布団で目元を乱暴に擦った。

もう泣いてばかりもいられない。

 

その時だ。

カーテンの向こうで、扉が開く音がし、静かな足音が近づいてくる。

 

「綴木さん? 少し落ち着きましたか?」

 

カーテンを捲り、保健の先生が私に声をかけてきた。

私は平静を装いつつ、「もう大丈夫です。……すみません、ありがとうございます」と頭を深く下げた。

 

「顔色はまだ良くないですけど……少し休めたなら何よりです。今日はこのまま早退しますか?」

「いえ……もうだいぶ良くなったので……これで失礼します」

「無理はしないでくださいね。しんどくなったら、またすぐ来ること」

「……はい」

 

私は慣れない身体を必死に違和感のないように動かして保健室の扉の前まで向かった。

 

「失礼しました……本当に、ありがとうございます」

 

保健の先生へ小さく頭を下げ、扉に手をかける。

その瞬間、胸の奥がほんの僅かに痛んだ。

けれど、もう立ち止まらない。

立ち止まれない。

私は静かに保健室の扉を開けた。

必ず返す。

私の人格を犠牲にしてでも……!!

私が消えようとも……貴女だけは……!!!

 

 

 

 

 

続くとは……続くとは……思えない……!!

RE:対魔忍世界転移憑依物語X ─綴木みこと─を作った方がいい?

  • 是非見たい。
  • 旧みことでいい。
  • 旧みことを残したまま、新みことX見たい。
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