魔王が死んだので、一人残された四天王の俺はヒトと和平を結んでラーメンをすすりたい   作:黒棺

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奴隷の首輪

Q. 貴方はなにしに、このアルティームへ?

A. 最近この街で獣人の子が行方不明になってる、って聞いたから調査しに来たの。あと、ついでに巡り人って噂のラインハルトって人に会いに来たわ。つまり貴方ね。

 

Q. 君の魔力反応、検問所の記録にないんだけど?

A. 記録に残りたくないなーって思って泳いで港から……ちょっと! なんで手錠かけるのよ!

 

Q. で、港であのチンピラ共に捕まったと?

A. そうよ。警官……いや、憲兵? 流れ着いたってことで誤魔化そうと思ったら眠らされて、気づいたら捕まってたのよ。治安どうなってんのよ、ここ。

 

「それは、本当に申し訳ない……次の質問だ。巡り人と言ってたが、それだけじゃないだろ」

 

「……なんのことかしら?」

 

 スズカがライルから目を反らした。顔も横に向けようとするが、背後に立っていたアリスに背後から顔を両手で挟まれ、固定された。

 

 ライルとアリスは巡り人を自称したスズカを連れて、港から街の中へ移動していた。現在居るのは、路地裏にある建物の一室、四天王ラインハルトではなく便利屋のライルとして活動するための拠点だ。

 

 ライルは仕事でいつも使っている机を挟んで、スズカと座って向かい合っていた。逃げられないようにアリスを彼女の背後に陣取らせ、質問を繰り返す。現時点で許可を得ていない入場ということが分かった。だが、ライルが考えている問題の前では些末なことだった。

 

「巡り人であることを差し引いてもあの身のこなし……ただの獣人じゃない。服の質からしてもそうだ。そしてその顔立ち、見覚えがある。お前、獣人の……シシオウの娘だな?」

 

 かつて仲間と共に旅をしたとき獣人の国を訪れたことがあった。その国の有力者の一人がムサシ=シシオウだ。いや、ルーツを考えるならシシオウ・ムサシか。その時は一悶着合ったが最終的に獣人と魔族はある程度の協力関係を築くことが出来た。現在までに幾度か顔を合わせる程度には関係を保っている。

 

 初めて会った時からシシオウにはとその奥方には何人か子供が居た。今まで長男にしか会ったことがないが……こいつは間違いなくあいつらの娘だ。

 

「ひはいはふ」

 

「嘘つくな」

 

 スズカの尻尾がうねり、アリスの身体をぺしりと叩いた。アリスは未だスズカの顔を挟んでいた。離してやれという意味を込めて視線を送ると、アリスは頷き手を離した。スズカが手錠をかけられたまま、頬に手を当てている。アリス、どれだけ力をいれていたんだ?

 

 スズカは不満げに口を尖らせ、こちらを睨んだ。

 

「分かってるなら、わざわざ質問する必要ないでしょ」

 

「聞き方を変えよう……お前はどれくらい大事にされている?」

 

「変え方がエグすぎない!?」

 

「死活問題なんだよ」

 

 ライルはため息をついた。視線をスズカの、その首に嵌っている首輪に向けていた。首の動作に影響を与えるような無骨のなものではない。何も知らない人が見ればチョーカーだと思うだろう。

 

「意味わかんないんだけど……」

 

 呑気な顔しやがって──苛立ちを隠しながら彼女の回答を待った。

 

「……別に除け者扱いはされてなかったかな。兄貴や姉貴も優しかったし。でも前世の話題を出さないようには気をつけてたかな。そういう意味では距離感合ったかも。あと、あんまり外に出してもらえなかったな。出かけるときも、兄貴たちとは違って一人は駄目って言われてた」

 

 記憶のページをめくり、シシオウの姿と性格を思い返す。威厳のあるリーダーであり、非情な決断が出来、そして……魔王が、あいつが認めるほどに人徳のある人物だった。

 話すスズカの顔には暗い影は見当たらない。言葉の中に不満は漏れているが、彼女は家族から大事にされていたということだ。

 外に出してもらえなかった……これについてはある程度予想がつく。巡り人が故だ。普段の姿は知らないが、隠しきれるような性格には見えない。

 

「でも私だってせっかく転生したんだし、冒険の一つや二つしたいなーって思ってて……」

 

「それで言いつけを破って、国を飛び出して、ここで捕まったと」

 

「ぐっ……」

 

 スズカの顔が赤らんだ。何かを言おうとするが、その前にライルが言葉をかぶせた。

 

「その首輪が何なのか分かってるのか、お前」

 

「え? 奴隷商人ってことはそのための首輪でしょ。そうだ、これ外すの手伝ってよ?」

 

「出来たら苦労しない」

 

 そう。

 生まれた身分で人を区別はしたくないが、それが必要なときはある。

 一般的な生まれの獣人がその首輪を嵌められたのなら……残酷な話だが、今懸念している程の問題にはならない。

  

「そいつは帝国製の……呪いの込められた首輪だ。無理に外せば命がない」

 

「……えっ?」

 

 スズカの表情が青ざめた。

 

「マジ?」

 

「マジだよ。首と胴体が泣き別れになる」

 

「海賊漫画じゃないんだから……ていうか、子どもたちは!? あの子達もこんなの付けられてるの?」

 

「先に心配するのがそっちか。子どもたちは大丈夫だ。首輪をつけるのは普通、売られた後だ」

 

 つまり、チンピラ共は売らずに自分たちで使()()()としていたわけだ。

 ライルは改めてスズカの服装を見た。瓦礫の下にいたせいで土まみれではあるが、見る人が見れば質がいいことは、はっきりと分かる。

 ボタンのない、白をベースに赤と金色の刺繍の施されたゆったりとした装い。腰には赤い布のようなものが、ベルトのように巻かれている。それが全体を引き締め、少女の華奢な身体を浮かび上がらせている。

 ライルは前世の記憶を掘り起こす。確か、着物。はるか昔、地球の島国で着られていたものだ。前世の仲間も時折、趣味で着ていたことがあった。

 

 まったく、どうして気づかない。こいつの着ている服を見ればただの町娘じゃないことは分かるだろう。バカなのか。

 もしも気づかれていたら帝国は全力でこいつを攫いに来ただろう。その点では気づかれなくてよかったかもしれない。

 だが首輪を付けられた時点で十分最悪だ。

 

「指導者の娘が奴隷の首輪を嵌められた。無理に外せば命に関わり、下手すれば一生外せないような代物を。……さて、この場合獣人たちは犯人に対してどう動くと思う?」

 

「旧時代なら即時の最後通牒……この世界なら即日開戦でしょうね」

 

 アリスが即答する。スズカの顔から血の気が引いている。口をわなわなと震わせながら、声を絞り出した。

 

「冗談……よね」

 

「冗談に見えると思うか? それと状況がまず過ぎる。お前が帝国に侵入して捕まったのなら、ベスティアード連合(獣人の国)が単身で宣戦布告するだけだ」

 

 だがそうじゃない。こいつが首輪を付けられたのは俺が……魔族が支配する領域内でだ。

 

「俺が……四天王のラインハルトが、シシオウの娘を奴隷の首輪を以て人質とした。万が一そう見なされた場合、獣人と魔族の関係が決裂する。最悪、帝国より先にアルティームと連合で戦争だ」

 

「あ……ありえないでしょ。いくら私が娘だからって」

 

「あり得ます」

 

 アリスが即答した。

 

「自覚がないようですが、貴方の立場はそれほどまでに大きい。指導者の家族であれば国の象徴の一つです。他国で被害にあったとなれば、その国の領主は生半可な説明ではなく十分な誠意を見せる必要が出てきます」

 

「魔族と獣人は、帝国の奴隷狩り被害に協力して対策をした……けれど俺がこの街で共存を目指した結果、醜態を晒した。ただで済むわけがない」

 

 ヒトの追放は間違いなく要求されるだろう。ギルの顔が脳裏によぎった。共和国から見捨てられ帝国に苦しめられた彼らが居られる場所はもうここしかない。

 裏切るわけには行かない。たとえ今は異なる種族としても、仲間として受け入れたのだから。なにより。

 

「らぁめんが食えなくなるな」

 

「……ラーメン?」

 

「なんでもない……ああくそ、やるしかないな」

 

 窓から月灯りが差し込んだ。だいぶ傾き沈みかけているようだった。窓から覗く空が白み始めていた。朝が近い。

 

()()()がいる……それも上位の()()とセットだ」

 

「共和国と本格的に交渉する必要がありますね。分かりました、手配いたします」

 

 アリスはそう言うと、振り返り、部屋から出ていった。パタンと軽い音をたててドアが閉まる。

 

「……共振器ってなに?」

 

「僧侶の回復魔法……それを使うための道具だ。呪いを解くにも使えるんだが……現状ヒトにしか扱えない」

 

 だから帝国とは別のヒトの国、まだ関係がマシな共和国に協力を仰ぐしかない。

 ふと、スズカが手をかがけた。

 

「ところでこの手錠なんだけど……さっさと外してくれない?」

 

「街への不法侵入の件がある。それと……お前はいったい、いつの時代から来た巡り人だ?」 

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