超かぐや姫! ~ヤチヨの最古の親友~   作:モンブラン田中

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これ、芹奈視点バージョンの没になったやつがあるんだけど、どうしよう。


2話 名をば、酒寄彩葉となむいいける

 私には推しがいる。

 ひとりはAIライバー、ヤチヨ。

 そしてもうひとりは、ヤチヨ公認の親友であり古参ファン、セレナ。

 

 正体不明の自称AIであるヤチヨの親友。

 はじめは誰もが話題作りのための嘘だろうと思っていた。

 実際、私も最初はそう思っていた。

 

 しかしセレナは、そんな批判なんてへし折って、彼女の魅力である底なしの元気さを全面に出した配信でアンチの心をも掴み取った。

 その結果、廃れていくだろうと思われていたセレナは、ライバー活動だけで食べていけるくらいには成長した。

 

 その後、その人気にプラスして、ヤチヨからリアル親友だと断言されたことでさらに人気になった。

 そして最終的には、ヤチヨに並ぶツクヨミを代表するライバーとなる。

 

 しかし、そんな大人気ライバーであるセレナにはヤチヨ同様、謎が多い。

 セレナ自身のリアルの情報がほとんど出ていないのだ。

 

 ヤチヨ同様AIという説が一番有力だが、確定はしていない。

 

 私としては、どのような意図でヤチヨとセレナが産み出されたとしても、同じ時代に産んでくれたことに感謝するのみだ。

 ヤチヨとセレナは、底なし沼にハマって動けなくなっていた私を引きずり上げてくれた。

 ヤチヨは優しく私を支えてくれ、セレナは私に元気をくれる。

 

 どんなに辛いときでも、二人の配信を見れば頑張ろうと思うことができた。

 

 *

 

『……年齢差があるとさ、周りにあれこれ言われたり、つい気を遣っちゃったりするよね~。でもヤチヨ的には、映画とかでよく出てくる年の離れた友達とか恋人の関係が大好物なんだ~☆』

 

 タブレットから流れるヤチヨの声。

 この配信を見ていると、普通の生活が戻ってきた感覚になる。

 

『確かに、そうですわね!』

 

 セレナの明るい声が流れた。

 この声を聞くとこちらまで元気になる。

 

 最近は少し、非日常が過ぎた。

 例えば、

 

 

「うまっ、うまっ、うまー」

 

 

 目の前にいる謎の少女とか。

 すごくおいしそうに食べているが、油断はダメだ。

 こいつは、電柱で産まれ、3日で大きくなった。

 

 時は、3日ほど遡る。

 疲れ切った私の前に現れたゲーミング電柱。

 その中には、謎の赤子がいた。

 

 私としては、関わりたくなかったがしょうがなく、ほんとにしょうがなく家に連れて帰ってお世話をした。

 そしたら、3日で喋れるまで大きくなった。

 

 ほんとに謎生態すぎる。

 なんで3日で大きくなるんだ。竹かよ。

 そして、なぜ喋れるんだ。AIかよ。

 あと、

 

 

「あなた、どこから来たの?」

 

 

 どこから来たんだ。

 ほんとにこいつは何なんだ。

 

 

「ん~んっ」

 

 

 いはずもがな。といった表情で謎の少女は月を指さす。

 

 月……月ですか、なるほど。宇宙人かよ。

 

 謎は1つ解けた。が、驚きが1つ増えた。

 

 さっきから驚いてばかりだ。

 全ての元凶はこいつなのだが。

 

 早く寝たい。

 

 *

 

 朝の静まった空間にキジバトの鳴く声が響く。

 それとデュエットするかのように新聞配達のバイク音も混じる。

 カーテンの隙間からは一筋の光。

 

 

「ん?あれ?」

 

 

 辺りを見渡す。いない。

 昨日のあのうるさい空気は綺麗さっぱり消えていた。

 出ていった?いや、過労がつくりだした夢だったのかもしれん。

 

 

「ヨッシャ!」

 

 

 渾身のガッツポーズを決めた。

 しかし、私がガッツポーズしたタイミングに合わせて流しの下の引き出しが開く。

 

 

「ココダヨー」

 

 

 ですよねー。そこには、三角座りした少女がいた。

 昨日よりも大きくなったのか、セクシーな肩出しはなくなっている。

 

 *

 

「ねーねー、このタブレットに映ってる人は誰?好きなの?」

 

 

 いつもより早く学校に行けるように準備を終え、授業の予習をしていると、当の本人から質問が来た。

 相手が宇宙人でも推しについて質問されるのは嬉しい。

 一瞬だけ映像を見て、すぐに顔を机に戻す。

 思考だけを切り離して、身体は机に向いたまま。

 実際は何十分も話せるけど、なんか負けた気がするから、興味ないですよ風に喋る。

 

 

「こっちは月見(ルナミ)ヤチヨっていうAIライバー、私の推し。分身できて歌って踊れて八千歳――って設定」

 

「えー、AI。それに分身もできるんだ。ヴェー、おもろー!」

 

「そんで、もう一人は宵月(よいづき)セレナ。こっちもおそらくAIライバーで、ヤチヨの親友兼古参ファン。こっちも推し」

 

「おー、二人は友達なんだ?おもろー!」

 

 

 右後ろからギシギシと音がする。

 ちらりと見ると、興奮した様子の少女がちゃぶ台に座ってギシつかせていた。

 テーブルに座るなよ。

 

 ったく、最近の宇宙人はマナーがなってないな。

 

 まあ、いいか。

 あまり頭に入ってこなかった予習を終える。

 そして、通学鞄を肩にかけ、靴を履く。

 

「じゃあ、行ってきます」

 

「えー、やだやだ!」

 

 その後、たくさん駄々をこねてきたが全てを跳ね除けて私は学校に向かった。

 

 

 * * *

 

 

 放課後。

 私は進路のことで呼び出された帰りだった。

 校舎には生徒がほとんどいなくなり、静かな雰囲気。

 少し重みを感じる空間を突っ切り、靴箱へ歩を進める。

 

 

「あ、彩葉来たー」

 

「やっと終わった?」

 

「また呼び出しー?」

 

 少し感じていた寂しさが吹き飛んだ。

 

「え、芦花?真実?というか呼び出しは呼び出しでも進路のことだからね、芹奈」

 

 

 先に帰ったかと思っていたけれど、3人は靴箱で私のことを待ってくれていた。

 その優しさが、3連休の疲れに染み渡る。

 

 あぁ、私はなんていい友達を持ったんだ。

 

 でも芹奈、こいつはだめだ。

 宇宙人と話してたとき、誰かに似てるな~って思ってたけど、あんたか。

 いつもなら芹奈のノリが元気をくれるけど、今は宇宙人を思い出してしまうから逆に疲れる。

 はぁ、あいつさえいなければ。

 

 

 「まあまあ、とりあえず帰りましょ~?」

 

 「かーえろー」

 

 

 二人が私を太陽の元へ引っ張る。

 最近は暑い日が続き、とろけそうな毎日だ。

 

 暑さをこらえて、私達は帰路につく。

 芹奈だけは自転車なので、私達に合わせて押して歩いている。

 

 そして、しばらく歩くと、木陰が続く道に入った。

 肌に当たる光が少なくなり、涼しい風が吹く。

 

 

「彩葉って進路どうするの?音楽系?」

 

「それかeスポーツとかー?」

 

「eスポーツ!?わたしもチームに入りたい!」

 

 

 私を真ん中に両サイドから質問が飛び交う。

 まだ進路が確定していないからか、たくさんの候補がでてきた。

 でも、

 

 

「そんな才能ないよ~、ゲームは芹奈のほうが上手いし。それに最低限東大にはいかいないと親が認めてくれなそうなんだよね」

 

 

 音楽は無理だし、ゲームはもっと芹奈みたいな上手い人がやるべき。

 だけど、勉強なら多分頑張れる。母は私よりも苦しい境遇でいい大学に行った。

 母への対抗意識からか、私は母よりも進まなきゃいけないという使命感がある。

 だから、東大で最低限。目標はもっと上だから、東大医学部とか?

 

 そんな地獄みたいな未来を考えていると、

 

 

「最低で東大って、それ他の受験生に聞かれたら恨まれちゃうぞ!」

 

 

 芹奈がいい感じに空気を和ませてくれた。

 そこが彼女――月守芹奈(つきもりせりな)のいいところ。

 

 場の空気が少し重くなったときや、誰かが元気なさそうにしているとき。

 芹奈は、誰よりも早くそれを察する。

 そして、何でもない顔で冗談を言ったり、軽くからかったりして、気づけばその場を明るくしてしまう。

 

 普段は人をからかって笑っているくせに、本当にからかっちゃいけないときだけは、絶対に踏み込まない。

 相手が嫌がることをちゃんとわかっているから。

 

 芹奈はたぶん、そういうことをわざわざ考えてやってるわけじゃない。

 ただ自然にそうしているだけなんだと思う。

 でも、そういうところが、芹奈の優しさを感じる良いところだ。

 

 

「厳しー」

 

「私なんかでろでろのあまあまだなー」

 

 

 芦花と真実も芹奈に続く。

 みんないつもと同じノリで喋ってくれた。

 

 いつもと変わらない会話に、いつもと変わらない笑顔。

 いつもとおんなじだけどこの空気が心地良い。

 

 

「いやいや、なんの不自由もなく生活できてることに感謝しなきゃ。いつもありがとうございます」

 

「さすが自力で学費と生活費を稼ぎ出す超人」

 

「そして、学年トップでゲームも上手い!」

 

 

 あはは。

 

 

「でも彩葉ムリしすぎだよ。もっと休め休め!正論パンチシュッ!シュッ!シュッ!」

 

「おっ!いいね~!わたしもわたしも!シュッシュッ!」

 

 

 芦花と芹奈が二人して私に正拳突きを繰り出す。

 芹奈は芦花のノリに乗っただけだろうが。

 

 しかしその結果、二人でひとりを殴ろうとする不思議な空間が出来上がった。

 

 

「はっはっは」

 

 

 その光景をみて、真実が笑う。

 

 

「あ~、休みます、休みますから~」

 

 

 そして私も笑いながら、休むことを約束する。

 正直これ以上休むことなどできないが、二人の優しさは受け取らずにはいられない。

 3連休の分も取り返さなきゃいけないし。

 

 あ、そういえばあいつ大丈夫かな?

 

 不意に宇宙人のことを思い出してしまった。

 しっかり言い聞かせたし、大丈夫よね?

 

 

「こっちだっけ?」

 

「うん、そこ上ったとこ」

 

 

 あれ?いつもと違う帰り道だ。

 そっちの方になにか用事あったっけ?

 

 自転車を引いたまま階段は登れないので、芹奈は少し先の駐輪スペースに停めて戻ってきた。

 

 

「彩葉行くぞー!」

 

 芹奈が見慣れぬビルに私を引っ張る。

 

「え、待って。今日何か用事あったっけ?」

 

「新しいカフェ~。行くって約束したじゃん」

 

「へっ。いや、今日は」

 

 

 ま、まずい。3連休でとんでもないくらい散財しちゃったのに。

 こんなオシャンティーでラグジュアリーなエリアなんて行ったらもう生活が……。

 

 真実を見る。が、その目には確固たる決意があった。

 真実はグルメに関することについては容赦がない。

 これは、無理だ……。

 

 

「はい、れっちごー!」

 

「行こー!彩葉!」

 

「ハハッ、後生ですから~」

 

 

 ビル群を少し進んで私が連行されたのは『空と大地と人がつながる』がコンセプトの複合施設内。

 眩しく感じるほど光たっぷりのハイクラスカフェの一角。

 

 

 席につき、各々がメニューを見るなか、私だけは選べないでいた。

 

 た、高っ!

 こ、これは……これも高っ!

 じゃ、じゃあこのシンプルな1段のやつなら…いや高っ!

 

 お金がないのよ、貧乏なのよ。

 この状況、どうすればいいのよぉ。

 

 メニュー表を見て固まっていた私。

 しかし、正面に座る芹奈から救いの手が差し伸べられた。

 

 

「彩葉、今日の代金わたし達の奢りだから。好きなの頼んでいいよ♪」

 

 

 神はここにいた!神様、仏様、ヤチヨ様!

 遠慮してても仕方ない、ここは三人の優しさに甘えることとしよう。

 

 いつも思うけど、芹奈って結構お金持ってるよね。

 正直言うと、羨ましい。

 どこからそんなお金が出てくるんだ。

 バイトも同じところなのに。

 

 まあ、たくさん奢ってくれるからいいんだけど。

 

 

 少し待つと、パンケーキが運ばれ、机を彩り始めた。

 

 

「彩葉ノートで赤点回避記念」

 

「お礼の品で~す」

 

「ご査収くださ~い!」

 

 上から芦花、真実、そして芹奈。

 

「ありがとう」

 

 

 私の前に運ばれてきたのは3階建てのふわふわパンケーキ。

 てっぺんにはもっこりとクリームが乗っかり、その上に大きないちごがひとつ。

 そして、パンケーキを取り囲むようにハーフいちごが並んでいる。

 

 こんな美味しい食べ物にありつけるのは何日ぶりだろうか。

 すごく嬉しい。

 

 

「いただきま…えっあ…」

 

 

 しかし、フォークを刺そうとした瞬間、芹奈の後ろから伸びた手が私のパンケーキを一段奪った。

 一瞬芹奈かと思ったが、芹奈はこんなことしない。

 

 誰だ!私のふわふわパンケーキを奪ったやつは!

 

 芹奈の後ろ。

 盗み食いをした元凶の美少女は美味しそうにパンケーキ頬張った。

 

 

「うんんまあああ~!」

 

 

 こ、こいつぅう!なぜここにいる!あと私のパンケーキ!

 

 パンケーキの2段目をダルマ落としの要領で盗んだ犯人は、どんな有名女優よりも眩しいとびきりの笑顔を光らせると、

 

 

「よっ彩葉!」

 

 

 完璧なウインクで星を降らせた。

 

 

「え~かわいい、誰この子」

 

「彩葉の服着てる~。彩葉の友達?」

 

「彩葉、この子は?」

 

 怒涛の3連続質問。

 

 ななななんて説明したら……。

 

 

「あああああああ、そう!そうなの!いや、友達っていうか、その……」

 

「パンケーキ好きなの?はいこれもどうぞ」

 

 ろ、芦花!甘やかさないで!

 

「わたしのも食べる?これすごく美味しいんだよ!」

 

 芹奈も!餌付けじゃないんだから!

 

 謎の美少女は芦花と芹奈のパンケーキをどちらも1口で食べた。

 そして満面の笑み。

 

 

「パンケーキ?これが?彩葉のと全然違~う!」

 

「彩葉こんなに可愛い友達独り占めだなんて」

 

「そうそう。独り占めはズルいって」

 

 

 くそう!こいつめ、はよ帰れ!

 口籠ったフリで時間を稼ぎ、帰れという圧をかける。

 が、この謎少女には意味がなく、

 

 

「月から来たの!」

 

 

 一番言ってはいけないことを言いやがった。

 人差し指を空に向けて。

 

 

「月……?」

 

 

 ほらぁ!芹奈はこういうのすぐ信じちゃうから説得するの大変なのに!

 ど、どうしたら……。

 

 

「ジー!築地だよね!築地から来たの、私のイトコ!」

 

 

 いや、苦しい。苦しすぎる。

 咄嗟に考えた案にしてはいいほうだが、さすがに厳しいか。

 

 

「わー、美味しいお鮨屋さん教えて~~?」

 

「可愛いね、お名前は?」

 

 

 よ、よし!二人がグルメインフルエンサーと美容系インフルエンサーで助かった。

 でも、問題は芹奈なんだけど……。

 

 恐る恐る芹奈に目を向ける。

 少しの間ぼうっとしていたが、何やら納得したかのような顔になっていた。

 

 助かった!

 

 

「名前?名前は、え――っと……かぐや!」

 

 

 と思いきや、またまた芹奈が考え込んでしまった。

 

 芹奈さん、少し考えすぎでは?もう少し柔らかい思考を持ったほうがよろしいかと。

 

 

「かぐや~~、かわよー!」

 

「ぴったり、いい名前だね」

 

「かぐや?かぐや……かぐや……そっかぁ。かぐやか~!」

 

 

 『名前は人生最初のプレゼント』。

 かぐやは両手をほっぺに当て、喜びを噛み締めるかのように目を閉じてくるくると回った。

 

 そんなかぐやの様子を見た芹奈はまた納得した顔になっていた。

 

 なんとか、切り抜けたか?

 でも、

 

 

「ごめん、帰る!ありがとね、ごちそうさま!後で埋め合わせするから」

 

 もう無理。限界。

 私は崩されて2階建てになってしまったパンケーキを二口で詰め込むと、えへえへ言っているかぐやを引っ摑んでカフェから脱出するのだった。




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