宇宙の帝王がウマ娘のいる次元に来る話   作:灯火011

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 まずは力比べの第一幕、トレーニングルームの巨大な特注バーベルの前に二人は立っていた。

 

「……ふんっ!」

 

 ジェンティルドンナが気合いと共に両腕に力を込めると、数トンもの鉄の円盤が連なる巨大なバーベルが、地鳴りのような音を立てて持ち上がった。常識外れのウマ娘のパワー。太い鉄のシャフトが、その重みに耐えかねてギシギシと悲鳴を上げてしなっている。

 

「どうかしら? これが私、ジェンティルドンナの力よ」

 

ドスゥンッ!!

 

 と床を揺らしてバーベルを下ろした彼女は、息を一つ吐いて不敵に笑う。たづなが「ひぃっ、また床の補修工事が……」と頭を抱える中、フリーザは「ふむ」とだけ呟き、その巨大なバーベルの前に歩み寄った。

 

 そして、スッと右手を伸ばし、人差し指の先だけをシャフトの下に添えた。

 

「……え?」

 

 ジェンティルドンナが怪訝な顔をした次の瞬間。

 

――ヒョイッ、ヒョイッ。

 

 フリーザの指先に乗った数トンのバーベルが、まるで発泡スチロールの玩具か何かのように、軽快なリズムで上下に踊り始めたのだ。

 

「これでは、準備運動にもなりませんねぇ」

 

 涼しい顔で人差し指を動かすフリーザ。ジェンティルドンナの目が驚愕に見開かれ、たづなは完全に言葉を失って固まった。

 

 そして、そこへ偶然トレーニング室に足を踏み入れたヴィルシーナも、目の前の光景に持っていたスポーツドリンクを取り落とし、ジェンティルドンナの遥か上を行く謎の生物の力に、信じられないというように目を見開いていた。

 

「……えっ? うそ、ジェンティルさんでも苦労する重量を……指一本で……!?」

 

 

 自身の圧倒的な腕力を、文字通り「指先一つ」で凌駕されたジェンティルドンナ。しかし、彼女の瞳から闘志が消えることはなかった。むしろ、見たこともない高みを見つけた歓喜に震えながら、彼女は新たな勝負を提案する。

 

「……素晴らしいわ。なら次は、私と直接『押し合い』をしてみない?」

 

「ホッホッホ。よろしいですよ。お相手しましょう」

 

 フリーザは快諾したが、周囲を見渡し、ジェンティルドンナの内に秘められた尋常ではない実力、――あくまで地球人やウマ娘の基準においてだが――、を正確に見抜いて告げた。

 

「ですが、ここはいささか手狭ですね。あなたが本気を出せば、この建物の壁など吹き飛んでしまうでしょう? 外へ出ましょうか」

 

 かくして、舞台は屋外のグラウンドへと移された。

 

 異次元の来訪者と、最強のウマ娘が力比べをする。その噂は瞬く間にトレセン学園中を駆け巡り、グラウンドへ移動する頃には、周囲はあっという間に野次馬のウマ娘たちで埋め尽くされていた。

 

「おいおい、なんだあれ? 宇宙人か!?」

「面白そうなことやってんじゃーん! アタシも混ぜろよ!」

 

 焼きそばパンをかじりながら目を輝かせるゴールドシップや、腕を組みながら真剣な眼差しでフリーザの気配を推し量る生徒会長・シンボリルドルフなど、お馴染みの顔ぶれもズラリと並んでいる。

 

 野次馬たちが固唾を呑んで見守る中、広いグラウンドの中央で、ジェンティルドンナとフリーザは数十メートルの距離を取って対峙した。

 

 フリーザは両手を後ろに組み、全く構えすら取らない。

 

「いきますわよ……!!」

 

「ええ、どうぞ。お好きな時に、お好きなように」

 

 ジェンティルドンナの脚の筋肉が爆発的に膨張し、ターフを深く抉った。

 

「ま、待ってください! ジェンティルさん、お客様相手に全力での突進は危険すぎ――!!」

 

 たづなの悲痛な制止の声は、遅かった。

 

ドゴォォォォォォォォッッ!!!

 

 まるで大型ダンプカーが激突したかのような、凄まじい衝撃音と土煙がグラウンドに弾け飛んだ。ジェンティルドンナの全力のタックルが、寸分の狂いもなくフリーザに直撃したのだ。

 

 周囲のウマ娘たちが爆風に思わず腕で顔を覆い、たづなが「ああああっ!」と絶望の声を上げる。誰もが、その見知らぬ宇宙人がグラウンドの果てまで吹き飛ばされた、あるいは原型を留めていないのではないかと想像した。

 

 やがて、土煙が晴れる。

 

 そこに現れた光景に、ジェンティルドンナ本人も、野次馬たちも、たづなも……全員が息を呑み、静まり返った。

 

 

 ジェンティルドンナの全力の突進。彼女の肩は、確かにフリーザの胸元に直撃していた。彼女の足元の地面は、強烈な踏み込みによって巨大なクレーターのように陥没している。

 

 しかし――、フリーザは一ミリたりとも動いていなかった。後ろに下がるどころか、姿勢すら全く崩れていない。両手を後ろに組んだまま、涼しい顔をして首を傾げている。

 

「うそ……でしょう……っ!?」

 

 己の全力が、まるで巨大な岩山……いや、それ以上の『絶対的な壁』に阻まれたことを理解し、ジェンティルドンナの顔に初めて明確な驚愕の色が浮かぶ。

 

「ホッホッホッ……。そんなに驚かれて、どうかなさいましたか?――ジェンティルドンナさん」

 

 朗らかに、そして極めて紳士的に微笑む宇宙の帝王の声だけが、静寂に包まれたグラウンドに響き渡った。

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