取りあえず無職のままなのもあれだし働くか、と透は決めた。
そのことを母に言ったら「いいことだね」と言われたので取りあえず職場がよほどあれでない限り秩序の刃に入ることを決めた。
そして二日後。透は適当に街を歩く。
取りあえず大魔道院に向かう、と思いながら歩くと一瞬で着いた。
「……でっか」
着いた先で目にしたのは巨大な塔だ。
複雑奇怪に塔が伸び、いくつもの塔が生えている。
中には黒かったり白かったり、虹色の塔なんてものもある。
そしてどれもでかい。更には高すぎて東京タワーを超えているのではないかと思えるほどだ。
他には巨大な寺院が見える。大きくて広い。
更には大学らしき建物も見えた。
透は入口らしき門に近づく。
門の前には二人の男が居た。
金髪に黒い肌のチャラそうな男と黒髪黒目の日本人らしい真面目そうな男の二人だ。
「あの……」
取りあえず何も言わずに中に入るのもあれだし、と透は門番に話しかける。
「はい、どうされました?」
黒髪黒目の男の方が優し気な声を出してきた。
「秩序の刃に勧誘された板倉透っていうんですけど、何か連絡着てないですかね?」
「ああ、板倉さんですね。斎藤さんから連絡着てますよ。連絡しますね」
男はこめかみに手を当てる。念話という魔法を行使している。
当然透にはわからないのでなんか変なことしてる……と変な目で見た。
「ようそこの兄ちゃん、ちょっとこっち来な」
黒髪の男が念話をしている最中に金髪の方の男が話しかけてくる。
気にはなったが大人しく横にずれる。
「なんですか?」
「俺たちゃ秩序の刃に所属している者なんだが、平和を守るのに必要な物ってあるよな?」
男は手で金を意味する掌印を作る。
「はぁ……なんです?」
薄々察しながら透は話を続ける。
「古今東西なににしても金がいるんだ。ちょーとカンパしてくんないか?」
「たかりかよ。殺すぞ」
透は思わず本音を言ってしまった。
「あん?! 平和を守る立派な志を持つ俺に対し殺すとはなんだ?! てめぇぶっ殺すぞ!」
「死ねカス」
透は手加減して能力を行使した。
空間を弄り空間で殴打という奇妙なことを成す。
それにより金髪の男は奥に吹っ飛んだ。
「うわ?! なんですか?!」
黒髪の男の方が急に吹っ飛んだ男に対し何があったのかと声を上げた。
「そこのカスがカツアゲしてきたんで正当防衛としてぶっ飛ばしました」
「あぁ、ザフさんまたカツアゲしたんですね……こっちで処理しとくんで、すみません、嫌な思いさせちゃって……」
男は頭を下げて謝った。
「門番にするにはちょっと問題ありません?」
「えぇ。ですけどうちは人手不足なもんで……すみません。あ、斎藤さん来ましたよ」
奥から斎藤が手を振ってやってきた。
「来てくれてありがとうございます! ささ、まずはうちの上司に会いに行きましょ」
斎藤は笑顔でそう言った。
「上司?」
「はい。四賢人の一人、
「四賢人?」
「今の魔法世界を作り上げた神話の時代から生きている人の一人です。他にはアオス・シュテルベン・モルト様やヴィクトリア・フォン・シュタイエル様、シエロ様が居ます」
「へー」
(会社で言う創始者とかいう感じかな……神話の時代からってすごい長生きだな)
透は感心しつつ斎藤に先導され先へと進む。
向かうのは寺院の方だ。
「なんか、街みたいですね」
歩いていると家やアパート、何かの店をよく見かける。
もはや一つの街と呼んでいい風景だ。
「実際街ですしねぇ……秩序の刃や影密隊に所属する人たちはここに暮らしてるのが多いですよ」
「へぇ……魔法使いってそんなに多いんですね」
「いやー、そうはいっても総数一万人に届くかどうかってぐらいなので、マイノリティではありますよ」
「一万人……世界人口から見ると確かに少ないですね」
思ったよりは多いような少ないような……透はどう返答した者かと悩ませる。
「この先に聖様がいます」
連れていかれた先は寺院の中の和室だ。
襖をあけて中に入ると畳の部屋に入る。
「貴方が見学に来た板倉さんですね」
奥の座布団の上には美女が星座で座っていた。
紫色の長髪と紫色の瞳。和服を着ている。
出るとこは出て引っ込むべきところは引っ込んでいる。
腕を見るとそれは逞しく筋肉がついているとわかる。
「初めまして、聖美恵です。秩序の刃に入った時はぜひともよろしくお願いしますね」
「よろしくお願いします」
「それでは私も一緒に見学に行きましょうか……今なら訓練場がいいですね」
そういうと聖は立ち上がった。
そのまま三人で訓練場まで歩いて行く。
「板倉さんはいつ魔法に目覚めたのですか?」
「一ヵ月前です。それまでは何の能力もありませんでした」
「あら。急に目覚めてすぐ使いこなせたのですか?」
「はい。出来ることが漠然とわかったので」
「それはすごい才能を持っていますね。将来が楽しみです」
この年齢で将来もくそもないと思いつつ透は愛想笑いしておいた。
少し歩く事で訓練場についた。
訓練場というか、併設してある大学の運動場だ。
一応案山子なども置いてある。
そこには他の魔法使いが何人かいた。
炎の魔法を案山子に当てている者。空を自由に飛び話待っている者や模擬戦をしている者もいる。
「おぉ……」
あからさまなファンタジーに透は興奮する。
「それじゃあ、まずは板倉さんの戦闘力を図りましょうか」
「はい?」
唐突な宣言に透は混乱する。
「進ー、こちらに来てください!」
聖が空を飛んでいる者に声をかけた。
空の上だというのに声が聞こえたのか地上に降りてくる。
降りてきたのは黒い全身鎧を纏った男だ。
関節部までがっちり固まっているが動きを阻害することはない。魔法の鎧だ。
黒くつやのある鎧だ。頭部は竜を模している。
「聖様。どうかしたのですか?」
「はい。板倉さんと模擬戦をしてほしいのです」
「いやあの。私戦闘なんてしたことないド素人なんですが」
透のその台詞に聖は微笑んだ。
「誰もが最初はそうですよ。臆することなく試してください」
「えぇ……」
透は若干引いたがまぁ超常世界の武装組織に入るならば避けられないかと受け入れた。
ある程度距離をとって進……本間と透は対峙する。
「ルールは殺す以外なんでもあり。回復魔法があるので腕がちぎれたりしても問題ありません……では、はじめ!」
そうして試合が始まる。
本間は地上すれすれを飛行し接近。透に突撃する。
透はだらんと手を伸ばしたまま構えもしない。
そうして目と鼻の先まで本間が接近した途端透は転移した。
転移先は本間の後ろだ。
(信じるからな!)
腕がちぎれても大丈夫という聖の台詞を透は信じた。
使うのは空間消去。本間の腕だけを消すように空間を弄った。
だが、それより早く本間が動いた。透の力は虚空を消すだけに終わった。
(まぁそう来るよな!)
透は戦闘初心者だ。その為に戦闘のセオリーなども知らない。
本間は反転し透に襲い掛かる。今度も透は転移で避ける。
今度は真上に転移し、上空十メートル地点に立つ。
足場の空間を固定することで空に立つことを実現する。
それを感知した本間は空へと飛びあがる。
それに対し透は空間を固定する。
本間とその周囲の空間の固定。拘束だ。
だが、本間はそれを気にも留めず動いた。
(ぱーどぅん?!)
せめてレジストで時間ぐらい稼がせてよ、と透は一瞬動きが止まる。
更に本間が透に迫るも透は今度は地上に転移する。
地上に転移した透は空間の壁を用意する。強固な固定された壁だ。それを己と本間の間に五枚ほど設置する。
本間はそれを感知し遠回りするように飛行し透に迫る。
更に透は己を囲うように空間の壁を形成した。
(うっしこれでタイムアップ狙いはあれだが……隙をついて腕をねじ切るぐらいはしてもいいだろ)
そう安堵しため息を吐いた。
本間はその隙を突いた。
背後に移動した本間は本気の魔力を込めた斬撃で固定された空間を破壊。透の首筋に剣を置いた。
「俺の勝ちだな」
透はそういわれ大人しく手を挙げた。
「……はい。負けです」
(空間破壊するとかマジですかこのやろー)
本間は剣を異空間にしまった。
ぱちぱち、と聖と斎藤が拍手をしながら透に近づく。
「凄いですよ板倉さん! 戦闘したことないのに動けるなんて! 将来有望ですね! ぜひとも三番隊に入ってください!」
「どこに入るかは見学してからという事で……」
一瞬こんな美少女が居るのならば入ってもいいかもしれないと思うが肉体に惑わされるとそれはそれでひどいことになりそうなので断っておいた。
「それじゃあ、次は授業の見学に行きましょうか。大学に行きましょう」
「わかりました」
本間を置いて透と聖、斎藤の三人は大学の方へ進んだ。
歩く中、斎藤が話を切り出す。
「しかし板倉さん。初めての模擬戦だというのに動けてましたね。すごいですよ」
「そうですかね?」
「初めて戦うとなると、体が緊張して動かないって人も多いんです。何せ日本は平和ですからね」
「まぁ日本人にとって戦いはテレビの向こうの事ですからね」
「ですので初めての戦いで動けた板倉さんは才能があります。ぜひとも秩序の刃に入って活躍してくださいね!」
斎藤にそう言われ透は微妙な顔をする。
自分が才能がある方だとは思わない。学校のテストの順位も下から数えた方が早かったからだ。
運動だって苦手で体育の授業なんてそこそこサボっている。
取りあえず愛想笑いだけしておいた。