さびしきもの   作:ひまんちゅ

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第二十八話 ほどけない核

 朝、私は昨日の続きを始めるつもりでいた。

 

 外側から、順番にほどく。

 

 段階的に。

 

 安定を保ったまま。

 

 それが、今の最適解だ。

 

 居間に出る。

 

 彼女がいる。

 

「おはようございます」

「おはよう」

 

 いつものやりとり。

 

 だが。

 

 そのあと、少しだけ沈黙がある。

 

「……続けますか」

 

 彼女が言う。

 

「はい」

 

 私は答えた。

 

「今日は、もう一段階」

 

 彼女は静かにうなずいた。

 

 午前。

 

 私は境内の端に立つ。

 

 昨日、ほどいた場所。

 

 そこから、さらに内側へ。

 

 意識を向ける。

 

 外。

 内。

 

 その境界を、少しずつ分ける。

 

 すると。

 

 外側の重なりが、さらに薄くなる。

 

 景色が、はっきりと分かれる。

 

 内側の密度。

 外側の軽さ。

 

「……」

 

 私は息を止める。

 

 維持する。

 

 崩れない。

 

 順番は、正しい。

 

 私は一歩、内側へ進む。

 

 さらにほどく。

 

 すると。

 

 変化が、はっきりと現れる。

 

 境内の一部が。

 

 ――外になる。

 

 同じ場所に立っているのに。

 

 感覚が、外側に寄る。

 

「……なるほど」

 

 私は小さく呟いた。

 

 位置ではない。

 

 状態だ。

 

 場所が変わるのではなく。

 

 その場所の性質が変わる。

 

「どうですか」

 

 彼女が言う。

 

 距離は保たれている。

 

「進んでます」

「……」

 

 彼女はそれを聞いて、少しだけ目を伏せた。

 

「どこまで」

「中心の手前まで」

 

 私は答える。

 

「核の外側」

 

 午後。

 

 私はさらに進めた。

 

 段階的に。

 

 外側。

 その内側。

 

 順番に。

 

 ほどく。

 

 そして。

 

 ついに。

 

 中心に近づく。

 

 結び目。

 

 そこに意識を向ける。

 

 すると。

 

 初めて。

 

 抵抗を感じた。

 

「……」

 

 私は動きを止めた。

 

 これまでとは違う。

 

 ほどけない。

 

 分けられない。

 

 強く、固定されている。

 

「……ここか」

 

 私は小さく言った。

 

 彼女が近づく。

 

 だが。

 

 完全には寄らない。

 

「どうですか」

「核です」

 

 私は答えた。

 

「ここは、ほどけない」

 

 彼女は静かに聞いている。

 

「無理にやると」

「はい」

「崩れる」

 

 私は息を吐いた。

 

「全部が」

 

 彼女は何も言わなかった。

 

 ただ。

 

 ほんのわずかに、距離を詰めた。

 

 夕方。

 

 縁側。

 

 今日は、距離が近い。

 

 自然に。

 

 意図せず。

 

「……あの」

 

 彼女が言う。

 

「何ですか」

「核は」

 

 少し迷う。

 

「何ですか」

 

 私は少し考えた。

 

 そして。

 

「結び目です」

 

 そう答えた。

 

「中心」

「はい」

 

「それは」

 彼女は続ける。

「消えますか」

 

 私は少しだけ笑った。

 

「消えません」

 

 即答だった。

 

「どうして」

「構造の基点だからです」

 

 彼女はそれを聞いていた。

 

「では」

「はい」

「そこが残る限り」

 

「完全には戻らない」

 

 私は言った。

 

 彼女は何も言わなかった。

 

 ただ。

 

 静かにうなずいた。

 

 夜。

 

 布団に入る。

 

 目を閉じる。

 

 結び目は、はっきりとある。

 

 広がっている。

 

 だが。

 

 中心だけは、変わらない。

 

 ほどけない。

 

 動かない。

 

「……」

 

 私はその存在を、ゆっくりと確かめた。

 

 ここが核だ。

 

 すべての基点。

 

 そして。

 

 ここを残したまま、どこまで戻れるか。

 

 それが、次の問題だ。

 

 私はそのことを考えながら。

 

 ゆっくりと眠りに落ちた。

 

 結び目は、静かにそこにあった。

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