さびしきもの 作:ひまんちゅ
朝、私は結論から始めた。
――核は残る。
それはもう、疑いようがない。
どれだけ外側をほどいても。
どれだけ境界を分けても。
中心は、消えない。
ならば。
問題は別だ。
――それを持ったまま、どこまで戻れるか。
居間に出る。
彼女がいる。
距離は近い。
だが、重なりの中で曖昧でもある。
「おはようございます」
「おはよう」
短いやりとり。
そして、すぐに本題。
「核は残します」
「……」
彼女は静かにこちらを見る。
「どういう意味ですか」
「完全な分離はしない」
私は答える。
「中心はそのまま」
「はい」
「外側だけ戻す」
彼女は少し考えた。
「それで」
「はい」
「戻れますか」
私は少しだけ笑った。
「試します」
午前。
私は昨日までの手順を繰り返す。
外側から、順番にほどく。
境界を分ける。
重なりを薄くする。
だが。
今日は違う。
中心に触れない。
核を残したまま。
外側だけを処理する。
すると。
変化は、これまでよりも安定している。
崩れない。
揺れない。
「……」
私は息を吐いた。
これは正しい。
中心を維持することで、構造が保たれる。
午後。
私はさらに進める。
境内の外へ。
石段を下りる。
林道へ。
そして。
町へ。
だが。
今回は違う。
内側の感覚を、意識的に薄くする。
外側を優先する。
すると。
町の感覚が、はっきりする。
音。
匂い。
温度。
すべてが戻る。
「……いけるな」
私は小さく呟いた。
だが。
完全ではない。
胸の奥。
そこに、核がある。
消えない。
残っている。
「……これか」
私はそのまま歩く。
さらに外へ。
距離を取る。
だが。
結び目は、引き延ばされるだけで、切れない。
安定している。
「……なるほど」
私は理解した。
核を残すことで。
――戻れる。
完全に切るのではなく。
接続を維持したまま、位置を変える。
戻る。
石段。
鳥居。
境内。
その瞬間。
変化は小さい。
以前のような強い切り替えはない。
ただ。
内側の感覚が、少し強くなる。
彼女が近づいてくる。
「どうでしたか」
「戻れます」
「……」
彼女は少しだけ目を見開いた。
「完全に」
「いいえ」
私は首を振る。
「核は残る」
彼女は静かにうなずいた。
「それでも」
「はい」
「外にいられる」
私はうなずいた。
夕方。
縁側。
だが。
今日は少し違う。
外の感覚が、強く残っている。
同時に。
内側もある。
「……あの」
彼女が言う。
「何ですか」
「戻りましたか」
私は少し考えた。
そして。
「半分」
そう答えた。
「……」
「外にいるときは、外」
「はい」
「ここにいるときは、ここ」
「でも」
私は続ける。
「どちらにも、完全ではない」
彼女はそれを聞いていた。
「……分かりました」
小さく言う。
夜。
布団に入る。
目を閉じる。
結び目は、はっきりとある。
核。
中心。
消えない。
だが。
それ以外は、動かせる。
外へ。
内へ。
行き来できる。
「……」
私は小さく息を吐いた。
完全に戻ることは、できない。
だが。
戻らないわけでもない。
その中間。
その状態を。
私は手に入れた。
それが何を意味するのか。
まだ、はっきりとは分からない。
だが。
確実に。
次の段階に入っている。
そのことだけは、はっきりしていた。