運命の錬金   作:天野河

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第10話 夏油一派の新入り

最悪の呪詛師、夏油傑との邂逅を経て夏油一派に勧誘された金城譲(かねしろゆずる)鈴原美音(すずはらみおと)は1週間という期限付きで夏油一派に加入するか否かという決断を迫られる。目まぐるしくもあっという間に1週間は経過した。その最中、譲の目には何処へ行くにしても上の空の美音の姿が何度も映っていた。きっと彼女は———

 

 

「彼女は夏油の元へ行きました」

 

 

『………マジで言ってんのか?』

 

 

「置き手紙がありました。俺は端から行くつもりはなかったですよ」

 

 

電話越しの声が信じられないとでも言いたげな低い問いかけだった。ビジネスパートナー兼相棒の孔時雨(こんしう)は深い溜め息を吐いて唸っていた。美音との直接的な関わり合いは譲よりも少なかったが、それでも彼女のある程度の性格は知っていたつもりだった。譲曰く、何のアクションもないので美音の所在を宿泊していたホテルスタッフに聞いたところがらりと空いた部屋には一通の置き手紙があり、『ごめん、夏油の所へ行くことにしたから。今までありがとう、楽しかった』と綺麗な字で綴られていたとのこと。

 

 

『お前は…どうするんだ、譲』

 

 

「時雨さんは案外気に入ってましたよね、美音ちゃんのこと。これは彼女の選択、俺たちが引き戻す道理も権利もない」

 

 

『それでも…知りたくないのか?鈴原美音が何を考えて夏油へついて行ったのか、何か理由があるはずだろう』

 

 

「たとえそうだとしても知る必要はない。彼女が考え抜いて選択した決意を無駄にするのは言語道断だ。その上で仮に敵として立ち塞がるのであれば、再起不能にする」

 

 

呪詛師である夏油とその一派の勢力に加わるということはいずれ敵対することも有り得る存在になった。容赦なく切り捨てた譲の優しさを孔時雨は大人ながら見抜いていたが、それでも敵対関係になった場合の対応が真実であることは日本で譲と関係を構築した者の中で一番真意であると『証明』できる人間だ。

 

 

「今のは呪術師ジョジョとしての気持ちです。金城譲としては……彼女との旅の思い出は暗闇を晴らすような悪くない気分だった」

 

 

『…そうか。それが聞けて少し安心だ、おじさんは』

 

 

「振り出しに戻ったわけじゃあない。俺たちは互いに『選択』して答えを探し出すための旅を続けているだけだ。そこにゴールがなくとも自分なりのゴールを常に見据えることこそが旅だ」

 

 

呪術師としてすべきことは全うするが、それはそれとして金城譲個人としては鈴原美音が無事に答えを出せることを祈り、その『選択』に敬意を表した。そして年相応ながら二人は気が合い、単独で夢の呪術師として人々を助けるよりも彩りがあった。

 

 

『別の話をしよう。パッショーネからお前を追うスタンド使いの情報を得た』

 

 

「ということは拷問は成功したんですね」

 

 

『一応はな。アルティ・リオーネはただ一人のスタンド使いの名前と特徴、能力を吐いた後に自害した。自らのスタンドで』

 

 

「……拷問の加減を間違えたようで。彼には拷問を耐える度胸や気概が感じられなかったが、そんな彼を自害させるほどの拷問か」

 

 

アルティ・リオーネとの交戦の最中で感じた彼の性根を知る譲は気の毒そうにしながらも一度パッショーネに明け渡した以上、そのやり方に文句の付けようはない。自害を『選択』したのもまた彼の判断だ。

 

 

『アルティが吐いたスタンド使いの名はチェルカ・ヴィッラ、黒い手袋を身に付けた赤髪でボブヘアの女、そして狙撃手(スナイパー)

 

 

「スナイパー?狙撃銃のスタンドを?」

 

 

『いいや……スタンド能力は索敵を主とする。自身のスタンドに特定の人物の特徴を入力し、入力項目が多いほどに索敵精度が上昇する。もう一つ条件があり、相手の足跡を辿るという面倒な手間が必要になる』

 

 

「…つまりチェルカ本人はただのスナイパー、スタンド自体に殺傷性がない遠隔操作型か遠隔自動操縦型のタイプか」

 

 

『抜かるなよ、譲。そいつはどうやら暗殺者出身、そのスタンドとは相性がいいと見た。索敵精度を上げながらお前に刺客を二人も送り込んできたということは既に場所は割れて常に監視下にあってもおかしくはない。足跡を辿ることが条件であるなら、距離は確実に縮まっているか維持されている』

 

 

「鬼に金棒…ってやつですね」

 

 

自らを付け狙うパッショーネの裏切り者、チェルカ・ヴィッラという女のスタンド使いの情報を得た譲は敵の追跡をどこまで振り切り、どこで迎撃するかを作戦として練らなけらばならない。対人戦に持ち込むまでの戦闘長期化、譲のスタンド能力と本人の武器に超遠距離攻撃を得意とする武装は無に等しい。それでも譲は次の依頼に備え、愛車のバイクで国道を駆け抜ける。

 

 

******

 

 

孔時雨と金城譲が通話するよりも前の時系列に遡る。それは昨夜、東京都八王子市高尾山山頂に待ち人として夏油傑が晴れ渡る夜空を眺めていた頃だった。深夜0時手前、星を数えていた時に背後から跫音が夏油の耳に届く。

 

 

「そろそろ帰ろうと思っていた頃だったよ」

 

 

「律儀に待つなんて本気だったんだ」

 

 

「本気も本気さ、待つと決めたなら待つ。縛りなんて無くとも私は約束を守る大人だよ」

 

 

鈴原美音は険しい道を抜けたのか泥に塗れた服のまま夏油に軽口を叩く。夏油がハンカチを取り出して顔を拭ってやろうとしたが、その手を冷たく払う美音は夏油の口から吐き出された「約束」という言霊に拳を軽く握り締めた。

 

 

「…君こそ良かったのかい?(金城譲)と決別して。期限ギリギリまで粘ったということは葛藤もあったろう」

 

 

「わかった気にならないでよ。これは自分の『選択』だから。夏油傑、あなたについていって自分の考えや在り方を見直したい」

 

 

「そうかい。私の崇高な目的もいずれ話すよ、まずは我々の拠点へ案内しよう」

 

 

夏油にとって金城譲という男が味方に付かなかったのは手痛い結末となったが、美音だけでも引き入れられたのは待った甲斐があった。今は高専側に一人でも戦力を足されたり、或いはコネクションを持つ呪詛師を譲と美音のタッグで撃破されることの方が避けるべき事態だった。

 

 

「この呪霊の口に入ってもらいたい。嫌かもしれないがここは我慢して欲しいね」

 

 

「……いいわ。案内して、街並みならここへ来るまでちゃんと見てきたから未練もない」

 

 

さようなら、譲———巨大ペリカンの呪霊の口内に入り込み、その嘴が閉ざされる寸前に吐露した美音は瞬きをせずに最後までネオンの灯りが広がる都内の街並みを瞳に映し、飛翔する。

 

 

******

 

 

翌朝、不覚にも寝落ちした美音は全身から伝わる衝撃に目覚める。未だペリカン呪霊の口内、恐らく目的地である夏油の拠点に到着したのだろう。ペリカンの羽を羽撃かせる音や飛行機のジェット音は真夜中の眠気に襲われる中で慣れてしまっていたが、聴覚が敏感な美音にとって体に伝わる振動やズッシリとした音は良いアラーム代わりになった。

 

 

「おはよう。よく眠れたかい?」

 

 

「……別に」

 

 

「乗り心地は悪くないはずなんだけどね。それよりもここが拠点だ、結構大きいだろう?見かけ倒しではなく、内装も中々広いんだ」

 

 

夏油という男はかなりのお喋り、というよりも口達者だ。“以前をよく知る”美音としては引きもしないが妙に馴れ馴れしく、ぺらぺらと世間話を吹っかけてくるせいで苛立ちが抑えられない。竹下通りや原宿を歩いた時にしつこく声をかけてくるスカウトマンやナンパ野郎のようで嫌な思い出がノイズとなって冷静さを欠いてしまうのを必死に防ごうと寡黙を演じる。

 

 

「お腹が空いただろうから朝食を摂ろうか。事前に聞いておくんだった」

 

 

「………あなたに合わせるわ」

 

 

「そうだね……ではお茶漬けに金平牛蒡、半熟卵の巾着煮、茄子とピーマンの焼き浸しにしようか!出来上がるまでの間は全員ではないけれど私の家族達とも親睦を深めてもらうよ。汚れた服の代わりもセンスに優れた彼女らに任せるよ」

 

 

朝食のメニューは悪くなさそうだ。料理を作るのは夏油ではなく、使用人でも雇ってやらせているのだろうか。夏油の手口からして財政という観点で困窮している様子はないので充分にあり得ることだ。高尾山の登頂を達成できたのは良かったが、服は泥で薄汚れている。

 

 

「夏油様、その娘は…例の方でしょうか」

 

 

「紹介するよ、鈴原美音さん。才溢れる呪術師なんだ、丁重に案内を頼んだよ。まずは服を選んであげて欲しい」

 

 

夏油と別れた後は緩いウェーブがかかったロングの薄い茶髪でスリムドレスを身に着けた女性、菅田真奈美(すだまなみ)が先行して部屋を案内するようだ。どうやら秘書の立ち位置らしい。

 

 

「夏油様をどう誑かしたの?」

 

 

「…誑かせるわけがないでしょ」

 

 

「この大変な時期に戦力を増やすとはいえ、突然すぎるの」

 

 

「夏油さんが自分の何を見て引き抜きたいと思ったのかは定かじゃあない。呪術師として知見を得るためにここへ来た、それだけです」

 

 

何を言おうと菅田真奈美は言い訳だと言わんばかりの不服な表情をしている。誑かしてどうにかなる相手なら手は打っている。菅田真奈美が開けた扉の先には女性物の衣類がハンガーで掛けられ、並んでいる。その中央には美音と年齢が変わらない女子が二人はしゃいでいた。

 

 

「美々子、菜々子、夏油様の客人よ」

 

 

「鈴原美音です。よろしく」

 

 

「わ〜脚なっが!美音っち、モデルみたいなんですけどぉ〜〜!あ、菜々子で〜す!」

 

 

「菜々子、急に距離詰めすぎ。初めまして、美音…ちゃん。私は美々子」

 

 

肩につかない長さの黒髪で黒のセーラー服を着用する清楚の方が枷場美々子(はさばみみこ)、金髪のお団子頭に白いブラウスの上からクリーム色のカーディガンを羽織っているギャルの方が枷場菜々子(はさばななこ)。双子の姉妹らしいが真逆の姿をしているので見分けはつきやすい。年齢も近いからなのかあまり警戒されずに手を引かれたが、汚れた服を見て二人の動きが止まった。

 

 

「服を選んであげて。美々子と菜々子は年も近いから分かり合えることもあるでしょ」

 

 

「ん、オッケー。美音っちならスタイルいいしなんでも似合いそうだけどせっかくならファッションショーしよ!」

 

 

「菜々子、美音ちゃんの意見もちゃんと聞かないと」

 

 

「ありがとう。自分も気に入ったのを選んでみるわ」

 

 

女子水入らず、完全な女子会が繰り広げられていた。衣類を剥ぎ取られて下着を除けば生まれたままの姿になるという惜しい所で美音の着せ替えショーが開催された。アメリカンカジュアル、モードカジュアル、スポーツ、ストリート、エレガンス、ガーリー、デザイナーズ、オフィスカジュアル、マニッシュ、地雷系と言った多種多様なスタイルを着せ替え人形のように試される。

 

 

「美音っち、顔面もさいきょーすぎてなんでも似合うんですけどー!」

 

 

「未成年で大人びた服の系統も着こなせるなんてちょっと驚いたわ」

 

 

「美音ちゃん、着せ替え甲斐がある」

 

 

「…嬉しいけど……自分は一応呪術師だから動きやすい上で可愛いのってない?我儘かな」

 

 

美々子や菜々子だけではなく、乗り気でなかった真奈美とも少し打ち解けた美音は傲慢とは思いつつも要望を伝えてみる。それが跳ね返されることはなく、三人は頷いて部屋の服を漁り始めてそれぞれコーデを差し出してくる。そのコーデを見定めた上で自らが選んだ服装は鈴のワッペンが刺繍されたダークネイビーのショートジャケット、インナーはライトグレーのハイネック、チャコールグレーのプリーツスカートから伸びる脚にはネイビーなニーハイと黒のブーツを履き、首には銀の鈴のチョーカーが巻かれているもの。

 

 

「よし、自分の新地点でのコーデはこれで決まり!」

 

 

「すごく似合う、美音ちゃん」

 

 

「前の緑のワンピも似合ってたけど、これはこれでいいじゃんね」

 

 

「ガールズトークに花が咲かせられたようだね。朝食の準備ができたよ」

 

 

着替え終わると扉の向こう側から三回のノックと共に夏油の声が聞こえてくる。真奈美は夏油の元へ戻らずに一緒になって服を選んでいたことに謝罪していたが、笑顔のままの夏油は気にしていないようで寧ろご満悦のようだった。真奈美と夏油が先頭に立って食卓へ誘導する。異様に長いバンケットテーブルとそこにポツンと並べられた料理は少し寂しく見えるが、引いた椅子に腰を掛ける。毒物が混入していないことを願い、夏油や他の面々に遅れながらも「いただきます」と口にして手を合わせ、料理に箸を伸ばす。

 

 

「美音っちはこれから仲間になんの?」

 

 

「そのつもりだけど、もっと拒否されると思ってたわ」

 

 

「私たち同様、家族になるんだ。きっとみんな受け入れて歓迎してくれるよ」

 

 

夏油だけは気に入らない美音だったが、それでもその周囲の真奈美、美々子、菜々子とは仲が深まった気がした。お茶漬けをかき込みながら談笑し、絆を深めるというのはまさに家族団欒そのものだった。鈴原美音が“真に追い求めていた”関係に近く、“取り戻したかった”関係だ。

 

 

「美音さんの術師としての実力はどの程度なのでしょうか?夏油様」

 

 

「全貌は見えてないから美音さんの腕を試さないといけないが、現時点で3級…ポテンシャルだと1級はあると思ってるよ」

 

 

「自分の実力としては3級が妥当なんだと思う。正確な等級は知らないけど、自己評価はそんなに高くしてるつもりはないから」

 

 

現実的な話だと真奈美の追求したい点は戦力として美音が運用できるか、そうでないかだろう。美音が術式を呪術戦に転用し始めたのは実のところ最近のことであり、「才」が未だ深く埋まる岩石を磨き上げられていない。夏油が注目したのは現時点での鈴原美音の実力と生得術式から推察した近い将来の成長具合。しかし、美音はそんなことは露知らず圧倒的な威圧感を誇る特級呪詛師の夏油やイタリア出身のスタンド使いでありながら呪術師として金と名誉を得ようと奮闘する譲と比較した自分の実力差を比較して自己評価を低く見積もっている。

 

 

******

 

 

皿や椀の上にある料理を平らげて完食し、食器を下げようとした時に全員の動作がピタリと静止した。美音も同様、術式の副次的効果で底上げされた聴覚と併用した呪力感知により拠点周囲でそそくさと走り回る微量の呪力と足音に集中していた。

 

 

「………これも家族?」

 

 

「いいや、誰のものでもない…侵入者だ。尾行されていたのかもね」

 

 

「夏油様、私たちで迎え討つ?」

 

 

「攻撃的ではいけないよ。まずは客人を持て成そう」

 

 

呪力総量が少量の非術師の線も有り得るが、誰もがそれは無いと切り捨てる。拠点周囲を駆け巡る殺気が只者ではないと本能に警鐘を鳴らす。余程の呪力操作の達人或いは———

 

 

「あなたも宗教にご興味があるみたいですね」

 

 

「馬鹿言わないで欲しいな、僕はカトリックしか信じない。その声……よお〜〜く聞いた…スグル・ゲトー、僕たちチームの仲間であるフィリオ・ピアッツィを殺害した張本人!」

 

 

「ということは噂のスタンド使いというわけだ。ご愁傷様という他ないね。君の仲間は貴重な呪術師の命を手に掛けようとしていたのだから、私に非術師として撲殺されても文句は言えないよ」

 

 

「なんであろうと敵討ちはさせてもらうッ!この際、ユズル・カネシロのことは放棄させてもらおう。僕、ルタレ・アスコルは仲間の敵討ちとしてスグル・ゲトーを討たせてもらうッ!」

 

 

拠点に正面から堂々と闊歩してきたのは闘志を剥き出しにした者はダークブラウンの短髪を乱雑にセットした吊り目の少年、穴の空いた明るい青のジャンパーを羽織り、細身なジーンズと汚れたスニーカーに足を通す。ルタレ・アスコルと名乗った少年が微量な呪力だったのはスタンド使いであるからだと一目瞭然だった。

 

 

「夏油、自分があいつを倒す…再起不能にしてやるから」

 

 

「お嬢さん、僕の目的はスグル・ゲトーだ。君じゃあない、耳は良いんだろう?それとも頭の方が反比例して足りていないのか?」

 

 

「あんたにお嬢さんって呼ばれるほど年下でもないわ、見る限りね。そっちこそ多勢に無勢の絶望的状況を自分一人と戦うだけで済ませてやるって言ってるんだから感謝しなさいよ」

 

 

「おかしいな、呪術師というのはどこまで憎らしいのか。蚊ほどの脳味噌も持ち合わせていないらしいな。既に仕掛けられている僕のスタンド『エブリ・ブレス・ユー・テイク』は君と日常を共にしているんだ、ミオト・スズハラ」

 

 

美音が誰よりも先にルタレと闘争すると名乗り出た。余裕綽々のルタレが指差す方向には美音の足首があった。そこには10cm程度の大きな耳と背中にアンテナが突き刺さる人型のスタンド『エブリ・ブレス・ユー・テイク』がしがみついていた。スタンド攻撃を受けた自覚は美音には全くないが、ルタレという敵勢を夏油一派が集う拠点に引き込んだ責任は自身にある。

 

 

「あんたが夏油と自分を追えたのもこのスタンドのお陰っぽいわね。尚更自分が相手をしてやる、持ち込んだ問題は自分で解かなきゃね」

 

 

「ルタレ君、だっけ?君のスタンド能力は目星がついたよ。生憎だけど彼女は新入りでね、呪術師としての戦力をみんなに『証明』してもらう良い機会だと思っているんだ。君が彼女を倒せたらその後すぐに私が相手になろう」

 

 

数少ないやり取りでルタレのスタンド能力を看破した夏油に美音は冷や汗を滲ませる。自身の頭脳では結論に至るのは困難、戦闘における一挙手一投足で耳を傾けるしかない。美音は問答無用で術式《鈴鳴生成(すずなるなる)》を発動し、自身の足首目掛けて鈴の音による音撃を放つ。ルタレは無言のままスタンドを消滅させ、自身の元へ回帰させる。任意でスタンドを解除したのは術式による攻撃をなるべく受けないようにするためと美音は判断、たとえ1/2に軽減されようとも積極的に術式をぶつける。

 

 

「『エブリ・ブレス・ユー・テイク』ッ!決して僕に彼女の攻撃を到達させるな」

 

 

紐で吊るした鈴の音を薙ぎ払う形で術式で増幅させた音の斬撃は確かにルタレに直撃したが、ダメージは無に等しかった。遠隔で発動できて技を無効化するスタンドだとでもいうのか、絡繰が未だ掴めない。鈴の音を常に鳴らしてフェイントをかけながら時々、術式で威力を上げた音の爆弾を投入していくが決定打は得られず。ルタレは平静を崩さずに美音を夏油への踏み台としてしか眼中になく、自動式拳銃のベレッタM1934を握って構える。

 

 

「神はすべてを聞いている。僕の『エブリ・ブレス・ユー・テイク』も同じさ」

 

 

「実銃、術師相手なら有効か」

 

 

夏油が顎に手を当てて独白する。一発、静寂を貫く弾丸が美音に向けて発砲される。本来、日本で扱われることのない実銃に緊張が高まる美音だが、音を鳴らした鈴をゆっくりと縦に移動させることで音の盾「音重盾(おんじゅうじゅん)」を展開して弾く。「音符恩譜(おんぷおんぷ)」による音符の弾幕を拡散して一つ一つを発射していくが、たじろぎもせずにルタレは突っ込んでくる。音さえも撃ち抜く弾丸にこちらが怯みそうになるが、彼は床に手をつけて間合いを測る。

 

 

「音が……吸い込まれているッ!?スタンドは既に床へ接着していた!」

 

 

「僕は『エブリ・ブレス・ユー・テイク』に命じたんだ。君の発する音を僕に到達させるなと」

 

 

「そういうことか…『盗聴』されているッ!」

 

 

「情報を盗むのは僕の『得意』だ。音を『情報源』とする僕と音を『攻撃』とする君では言わなくてもわかるだろう?君の攻撃は掃除機に吸い込まれる『埃』に等しいッ!!」

 

 

ルタレは任意でスタンドを移動できる。「エブリ・ブレス・ユー・テイク」は盗聴を目的とする攻撃性が皆無のスタンド、遠隔自動操縦型でありながら盗聴することでルタレは常時周辺の音を聞き分ける。金城譲、鈴原美音が相対したフィリオ・ピアッツィに自身のスタンドをつかせていたルタレはフィリオが美音に攻撃した時点でスタンドを美音に移動させていた。移動対象を認識した上であれば現在のように床へ移動させ、美音の音波をスタンドに吸収させる。それよりも後方に位置するルタレは銃の引き金を指で引く準備はできている。

 

 

「『掃除機』っていうのは上手く言ったじゃん。自分の術式が『埃』なら暫くは勝ち目なさそう」

 

 

「言い得て妙ってヤツだ。僕とは極めて相性が悪い」

 

 

「因みにだけど掃除したことある?『埃』はそこら中に散らばってる。何度掃除したって気が付いたら溜まってて邪魔よね」

 

 

「さあ?僕が今掃除するのはスグル・ゲトーだ」

 

 

「ああそう。『粗大ゴミ』を片付けようと焦ってるから自分の『仕掛け』にも気づかないでくれたのか」

 

 

遠隔自動操縦型のスタンドはダメージが本体へフィードバックしないという利点が存在する。それを悟られぬように美音の初撃時点でスタンドを引っ込めた。今、呪力を込めた足で「エブリ・ブレス・ユー・テイク」を踏み込んだ美音は全身の皮膚から汗を吹き出しながら苦手な呪力操作に集中力を全ベット、散らして散らして散らした音を術式でやっと発動する。「埃」のように浮いていた「音」が牙を剥く。「掃除機」の役割を果たしていた「エブリ・ブレス・ユー・テイク」は美音の呪力が注がれた足裏で塞がれ、スタンド解除への希望も乏しい。

 

 

「覚えておきなさい、『掃除機』は塞がれちゃあ吸い込むどころか壊れるの」

 

 

「こんな…緻密な攻撃を……ッ!呪術師……情報を…盗み切れなかったか……」

 

 

「『遅拉波浰(ちらばり)』……今名付けた新技よ。あんたが負けたのは無策で挑み、夏油だけを敵として捉えていたこと。盗んだ『情報』を活かすほど敵を敵として『執着』できていない。ギャングがどうとかじゃあなくて、あんたは仲間の敵討ちをする『復讐者』として未熟だった」

 

 

パッショーネ団員・ルタレ・アスコル、スタンド名—「エブリ・ブレス・ユー・テイク」———宙に実体化した音の波紋が全身を走り、焼き尽くすような衝撃で再起不能(リタイア)。床に設置されていたスタンドは霧散し、敗北者の身柄は突如として飛び降りてきた上半身裸でハート型のニプレスを付けた筋骨隆々の男、顔の右半分には大きな傷がある青年によって縄で縛り上げられて拘束された。

 

 

「ラルゥ、利久(としひさ)おかえり。どうだい?新入りの活躍」

 

 

「悪くないわね、私の美貌には及ばないけど」

 

 

「戦力として申し分ない。後は『覚悟』だ」

 

 

夏油が笑いかける新たな家族———!!

 

 

******

 

 

《パラメータ》

 

【STAND NAME】

エブリ・ブレス・ユー・テイク

 

【STAND MASTER】

ルタレ・アスコル

 

破壊力-E スピード-E 射程距離-A 持続力-A 精密動作性-C 成長性-D

_______

 

【術式名】   【術者】

不明     菅田真奈美

 

等級-不明(呪詛師)

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