運命の錬金   作:天野河

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第12話 百鬼夜行・胎動

鈴原美音(すずはらみおと)が夏油一派に加入してから2週間後の2017年11月24日、山奥でグレーのスポーツウェアを纏って傷だらけの美音は短い金髪の上に水色のカチューシャを身につけ、ハートのニプレスを付けた筋肉質な上半身裸に素足の男…ラルゥに顰めっ面をされていた。

 

 

「あぁ…!ほんっとに難しいこれ!」

 

 

「美音ちゃん、集中力が散ってるわ。呪力操作に必須なのは感情のコントロール、私はそこに集中力も直結していると思うわ」

 

 

「そうは言っても…かれこれもう1週間以上は続けてる。呪力は臍を中心に体中に流すってのはわかるんだけど、自分の場合は術式的に鈴にも流すから術式の発動を遅らせるとか器用にやるのは中々難しいの」

 

 

「御託はいらないわ、美音ちゃん。傑ちゃんについていくと決めたのなら私は厳しく徹する。美音ちゃんは気づいていないだろうけど、全身に流す呪力の扱いは少しずつ上達してる」

 

 

呪力操作のコントロールをなるべく精密に長時間に亘って維持できるようにするのが美音の課題である。精神力、持久力をラルゥとの鍛錬で向上させつつある美音は意識して呪力を操作する分にはかなり進歩している。これをあたかも生理現象のように自然に動作として組み込めるかが重要。物体への呪力操作はその次のステップだ。

 

 

(譲は……繊細な呪力操作を自然にできていた。多分自分よりも呪力総量は少ないのにタフだったのはそこに原因があるのね。普段はスタンドばっか使っててわかりにくかったけど、少ない呪力量をそれで補っていただけで、スタンドを扱えるからこそ呪力操作も余計に上手いのかも)

 

 

「ま、鍛錬あるのみね。45分後にはミゲルちゃんの所に行きなさいよ。美音ちゃんには体の筋力と体力も兼ねて身体能力を上げてもらうんだから」

 

 

「……ハードすぎるわ、本当に」

 

 

「文句は禁止よ。傑ちゃんが目を掛けるあなたを家族として私たちも受け入れている。私たちもあなたを強くしたいし、強くなりたいと願ったのもあなた」

 

 

「わかってるわよ。とことんやってやるッ」

 

 

特訓の誘いをしたのはラルゥ、誘いに威勢よく乗ったのは美音。特訓メニューは早朝に水を一杯飲んで顔を洗ってから祢木利久(ねぎとしひさ)と呪力不使用ランニング、朝食を摂ってから2時間は前日に受けた菅田真奈美(すだまなみ)の呪術界や呪術に関しての授業の復習に充てる。その後、昼食までラルゥと呪力出力、呪力操作の鍛錬を挟み、昼食を摂ってから更に3時間をラルゥとより精密な呪力のコントロールと物体へ呪力を流し込む応用、それらの維持を吐くほど続行する。その後は夕食までミゲルと基礎体力トレーニングを行い、放出する汗で搾りカスになるまで体を鞭打つ。

 

 

「それで、夏油はいつ帰ってくんの」

 

 

「そろそろのはずよ。美音ちゃんは何故そうも傑ちゃんが気になるわけ?まさかッ、狙っているの!?そうとなれば私の敵ねッ!!」

 

 

「違うっての。大変そうよね、夏油も」

 

 

ラルゥは体の性別は男だが、オネエ口調なのも相まって夏油への熱は恐らく本物だろうと美音は察している。ややこしい色恋沙汰に巻き込まれたくはないので早々に話を切り上げる。初日から5日目までは呑気に話すらもできなかった程の疲労困憊状態だったので、美音自身も成長は肉体を通して感じている。拠点から離れることも互いに多いので夏油との接触は減るが、鍛えるのも悪くはない。その後、ミゲルとのトレーニングで力尽きて夕食を少し摘んでソファへバタンキューする。

 

 

******

 

 

全身筋肉痛で目覚めの悪い朝、疲弊しているのもお構いなしに祢木利久はランニングのために毎朝6時には叩き起こしてくる。美音は血反吐を吐きながらも昨夜はシャワーすら浴びず、スキンケアも全くせずに昏倒したことを悔いて足に踏ん張りを効かせる。朝食を摂ってからは昨夜忘れていたストレッチを試みるが、1日サボるだけでもかなり硬くなる。シャワーを浴びようと立って伸びをしていると真奈美に声をかけられる。

 

 

「…美音、今日も復習をしてから午後は私との授業、忘れないようにね」

 

 

「了解。今日もよろしく、真奈美先生」

 

 

特訓のスケジュールは1日ずつ交互に変更されている。早朝のランニングと復習は変わりないが、午後は必ず真奈美の授業が組み込まれる。前日が体と呪力のトレーニングなのであればその翌日は基本的には知識を蓄える脳のトレーニングである。今日はやけに真奈美が淡々と接してきて、余所余所しい気がしたが疲れでそれどころではなかった。

 

 

「今日はお疲れ様、夕食の準備もできているみたいだから余裕を持って終了しておきましょ」

 

 

「はあ……疲れた…ご指導ありがとう…ございました…」

 

 

「……先、行くわよ」

 

 

「あー……うん」

 

 

この2週間、かなり関係を築いたはずだが信用を得るのはまだ難しいのだろうか。美音は真奈美ともかなり仲良くなったと自負していたが、対して今の真奈美はまるで初対面の頃のような素っ気なさだった。オーバーヒートしている頭を癒やすために夕食を摂り終えて栄養補給すると浴室へと向かう。その最中、夏油の部屋の前を通り過ぎた所で小さく会話が漏れていた。

 

 

「……夏油様、鈴原美音は以前に集金した信徒の一人娘でした」

 

 

「あぁ、それで?」

 

 

「……なるべく早く排除することをお勧めします。鈴原美音が私たちに加勢したのは恐らく内部に潜り込んで復讐を果たそうとしています。このままでは夏油様の身が…」

 

 

「私の身を案じてくれてありがとう」

 

 

美音は全身から血が引いていく感覚を味わった。真の目的が知られてしまった。完全な油断、夏油の秘書は真奈美なのだから美音のことなど幾らでも調べ上げられる。ここまで猶予を与えられていたのが、不思議なくらいに。美音が鍛錬に勤しんでいたのは全ては夏油への復讐、なるべく憎悪を押し殺して直様挑む喧嘩っ早さを制御して成り立っていた環境だったのに。

 

 

(もう…今ここでッ、不意打ちで夏油を仕留めるしかない!!)

 

 

「でもね、大丈夫だよ。知った上で私は彼女を勧誘したんだ」

 

 

「夏油様への反逆の意思があるのなら危険です。夏油様がやらないのなら私が…」

 

 

「どんな形であれ、美音も家族だ」

 

 

呪力を練ろうとした時、夏油の発言に耳を疑った。美音の正体、それは夏油に心酔した両親が金を献上し、信徒として貢ぎに貢いで家庭崩壊した末の居場所を喪失した齢17歳の謳歌するはずだった青春を捨てた女子高生だった。

 

 

非術師()は嫌い、その根底は変わらない。美音は非術師との間に産まれた一般家庭由来の術師だ。当時……半年前に金を集める猿として鈴原家を選んだ時は気がつけなかった」

 

 

「まさか…美音はその時、呪術に目覚めていなかった?」

 

 

「彼女に術師の素質があることを見抜けていない私が悪かった。きっちりと精査すべきだったんだ。金を集める猿としての役割を鈴原家は4ヶ月全うしてくれたが、彼女だけは私を訝しんで家族を必死に止めていたがそれも叶わなかった」

 

 

夏油の思想は非術師をとことん嫌悪し、術師だけの世界を創造するというもの。夏油の過去に何が起きたのか知る由もないが、美音は夏油のその思想と目的のための過程に巻き込まれた被害者である。両親は共に破産し、借金取りに毎晩玄関の扉を叩かれる毎日、連絡をくれていた友人は離れ、近所からもヒソヒソと噂をされるようで冷たい眼差しを向けられる。

 

 

「悔しかったはずだ。その悔恨が彼女を術師のステージへと押し上げた。私としては嬉しい限りだが、彼女は違うだろう。私が家族を壊したのだから私が家族になったっていいだろう」

 

 

「それで……受け入れると?彼女の恨みさえも」

 

 

「生半可な気持ちではない。実力差は十二分に分かり切っているはずなのに彼女の闘志は燃え滾っている。素晴らしいことだ。術師としては申し分ない強さの原動力だ。目に見えて強くなっているのがわかる」

 

 

「ですが、私たちは…誰一人として欠けてはいけないと思っています。夏油様に付き従うのはもちろんのこと、鈴原美音は危険因子なのであれば…」

 

 

「殺せ、と?私はするつもりはないけど、君にだってそんな残酷なことはできそうにない。ポーカーフェイスってのは難しい、真奈美…辛い顔をしているよ」

 

 

声の反響音から聴覚の優れた美音は夏油や真奈美の表情を音の反射を利用して顔の窪みや造形の変化を知り得る。真奈美は心底沈痛な面持ちで唇を噛み締めていた。家族の一員として美音を認めていたのだから、笑い合えていたのだから、家族を手に掛けるなんてなるべく避けたい事案だ。

 

 

「短い付き合いだけど、彼女の人となりはわかったはずだ。強がってはいるけど、寂しがり屋でせっかちだけどどこか抜けている。生意気だけど愛嬌だってあるはずだ」

 

 

「…………ええ、可愛い子です。我儘をお許しください。夏油様…彼女の、美音の居場所になりたいです。私たちで」

 

 

「そうだね、元々そのつもりだったよ。馬が合わなくても、私に仇討ちを仕掛けようとも美音も家族だ。私には責任がある、彼女の居場所を奪った夏油傑として彼女の居場所を作る責任がね」

 

 

夏油傑が憎いはずで、鈴原美音は復讐心を糧に彼へ辿り着くために「家族」という居場所を捨てた。それだというのに眼前の男、夏油の独り善がりな優しさに嫌気が差しているはずが、気づけば涙が頬を伝っていた。感情がぐちゃぐちゃに刻まれて蹲った。声を押し殺して泣き喚いた。居場所を無くした鈴原美音にとって既に夏油達は第二の「家族」で、夏油やその仲間もまた「家族」の愛に溢れていた。そのかけがえの無い時間を奪うことなんてできない。未だ鈴原美音は優しく、普通を生き抜く女子高生だった。

 

 

******

 

 

日曜日、唯一の休息日であるが筋肉と脳のリソースがパンクするよりも昨夜の夏油と真奈美の会話を忘却に放つことができずにいることが心底痛烈だった。殺したいほど憎いはずの夏油の冷酷さと優しさ、どちらにも触れてしまったのがまずかった。感傷に浸る間もなく、部屋の扉を叩かれる。今日はランニングも休みのはずだ。

 

 

「美音っち、起きてる?今日、パフェ食べ行こ!」

 

 

「菜々子…朝から迷惑…」

 

 

結局朝っぱらから枷場菜々子(はさばななこ)枷場美々子(はさばみみこ)に纏わりつかれて外出へ駆り出されることとなる。同年代の女子に好かれる気分は悪くなく、真っ当な女子高生をしていた頃を思い出して勝手に懐かしさを覚えられる。

 

 

「ねえ、せっかくならさ…その……自分も制服で遊びたい」

 

 

「いいじゃん、美音っち!めっちゃアリ!」

 

 

「私も着替えてくる…楽しみ」

 

 

居場所を捨てる時に唯一捨てられなかった物が通っていた高校の制服、白を基調とした青のラインが差し込まれた懐かしの制服だ。鏡の前で久々の制服姿をチェックし、ばっちりとメイクを決めて巻き髪にして二人と合流する。

 

 

「美音ちゃん、すごくかわいい」

 

 

「バリかわいいんですけどお!国宝級顔面遺産って感じ〜!」

 

 

「褒めすぎ。二人もかわいいから一緒に遊べるの楽しいわ」

 

 

女子同士、本音で互いのオシャレを褒め合って出掛ける。駅まで歩きながら中身のない話で駄弁って腹を抱えて笑う。悔しさを殺すような友人と居られる幸福感、血は繋がっていないのに道行く老夫婦からは姉妹みたいと煽られて内心胸が熱くなった。美音は夏油を親の仇として見ていたが、美々子や菜々子の大切な人を奪える自信はもう毛ほどもなかった。

 

 

「ここのパフェ、マジ可愛いって評判でさあ〜行って見たかったんだ〜」

 

 

「菜々子、もっと仲良くなって美音ちゃんを連れてきたいってずっと言ってた」

 

 

「美々子、それ言うなし!恥ずかしいじゃん」

 

 

活発な菜々子が美々子に暴露された胸の内に顔を赤らめている。浅草のパフェがメインの店に入ってメニュー表に視線を泳がせる。至福、これ以上ない満足度だと美音は思っていた。三人で違うパフェを選んでシェアする。夏油傑という呪詛師を討つために呪術師になって青春をかなぐり捨てたはずが、小さくても狭くても得られる青春がそこにあった。

 

 

「美音ちゃん、楽しいね」

 

 

「美音っちと出会えてよかった。次さ、服選び行こ!」

 

 

「うん。自分も二人やみんなと出会えたことに感謝してる」

 

 

パフェを完食して満喫した後、三人はショッピングモールで衣服を試着して買いに行く。気の合う二人と再び喜びを分かち合えると信じてやまない美音、それでも心の奥底に眠る肉親への想いは決して消えることはなく残留する。普通の日常、あの頃が恋しかったとあの頃に戻りたいと手を伸ばすのはいけないことなのだろうか。美々子や菜々子、みんなに失礼だろうか。

 

 

******

 

 

別日、大広間にて非術師の女性に憑いていた呪霊を取り込んだ夏油は感謝の言葉を受け取って見送りながらも陰で彼女とその母親を卑下した。現場を目撃した真奈美に「幹部が出揃った」と告げられ、夏油は除菌消臭スプレーを全身に噴霧してから共に廊下を歩く。

 

 

「嬉しいなぁ、いつぶりかな、全員集合は。そうだ、久しぶりにみんなで写真を撮ろう。一眼どこだっけ?」

 

 

「こちらに」

 

 

家族全員が同じ時、同じ場所に集うことは少ない。用意のいい真奈美が持つ一眼レフカメラを夏油が受け取り、二人でポージングを決めて試し撮りする。シャッター音が鳴り響く中、夏油の名を連呼する禿げ上がった肥満体型の中年が押しかけてきた。

 

 

「これはこれは金森さん。そんなに慌ててどうされました?」

 

 

「惚けるな!早くわしの呪いを祓え!お前に幾ら払ったと思ってる!」

 

 

「幾ら?」

 

 

「ざっと1億飛んで500万ですね。しかし、ここ半年間の寄付はありません」

 

 

「あーあ、もう限界かな」

 

 

顔色の悪い金森を前に余裕綽々で夏油は尋ねる。真奈美は即座に名簿を確認して注ぎ込まれた金の額を告げる。渋そうな表情でため息を吐いた夏油は金森の周囲に小さな黄色の呪霊を三体つける。

 

 

「猿にはね、それぞれ役割があります。金を集める猿と呪いを集める猿、あなたは前者。お金がないなら用済みです」

 

 

「ふざけるな!!」

 

 

金森の呪霊を取り込んだ上で夏油は使役する三体の呪霊に金森の顔面を吸わせ、そのまま引き千切らせると血の水溜りが真奈美の足元まで広がる。

 

 

「穢らわしい、本当に同じ人間ですか?」

 

 

「だから言っているだろう。非術師(彼ら)は猿だ」

 

 

遺体の処理は呪霊に諸々任せ、後々になるが証拠を隠滅するために隅々まで掃除をしておく。これが夏油傑のやり方である。茶色の両扉の前に立つと清潔で綺麗な空気を肺に溜め込んでから両手で勢いよく開ける。

 

 

「時が来たよ!家族たち!猿の時代に幕を下ろし、呪術師の楽園を築こう。まずは手始めに呪術界の要、呪術高専を———落とす」

 

 

部屋に入り、タイルに音を鳴らす夏油と真奈美、二人を待っていたミゲル、美々子、利久、ソファに腰をかけるラルゥ、菜々子、そして…窓際で外を眺めていた美音を新たな幹部として迎えた夏油一派が目的のため、始動する。

 

 

******

 

 

東京都立呪術高等専門学校、淡い水色のマフラーを首に巻いて刀の入った鞘袋を背中に携える乙骨憂太(おっこつゆうた)は暗雲が立ち込める気配を一人感じ取って上空を見上げる。乙骨と同学年の高専生、呪骸のパンダ、禪院真希(ぜんいんまき)狗巻棘(いぬまきとげ)は普段の乙骨の呪力感知が当てにならないのを理由に相手にしていない。しかし、校内が騒然とした雰囲気になり、パンダや真希、棘すらも警戒する。

 

 

「珍しいな」

 

 

「憂太の勘が当たった」

 

 

「しゃけ」

 

 

真希、パンダ、そしておにぎりの具を語彙として扱う棘は上空から降り立つ巨大なペリカンの呪霊を視界に捉える。その呪霊の横には袈裟の男、夏油が着地して呪霊の口内からはラルゥ、美々子、菜々子の順番で外へと這い出てくる。

 

 

「変わらないねえ〜ここは」

 

 

「うぇ〜、夏油様ぁ。本当にここ東京ぉ?田舎くさぁ」

 

 

「菜々子…失礼」

 

 

「えーっ!美々子だってそう思うでしょ?」

 

 

隅々まで見渡して目を細める夏油に続いて菜々子も高専の地味で古風な立ち振る舞いに驚愕しながら正直な感想を吐き捨てる。美々子から注意されるのもお構いなしに今度はパンダをスマホで撮影し、シャッター音を数回鳴らす。

 

 

「お前らこそ何者だ?侵入者は許さんぞ!憂太さんが」

 

 

「こんぶ!」

 

 

「殴られる前にさっさと帰んな!憂太さんに」

 

 

9月に京都府立呪術高等専門学校にて開催された京都姉妹交流会にて東京校が勝利。勝因の一端、いや大半を担うのは乙骨憂太。それ故に三人は見知らぬ呪霊、呪詛師の連中に憂太を使って威嚇する。

 

 

「初めまして、乙骨君。私は夏油傑」

 

 

速い、あまりにも速い。乙骨以外の三人が気取られ、認識するよりも前に夏油は乙骨の両手を優しく自身の両手で包み込んだ。困惑しながらも乙骨も挨拶に答える。

 

 

「君はとても素晴らしい力を持っているね。私はね、大いなる力は大いなる目的のために使うべきだと考える。今の世界に疑問はないかい?一般社会の秩序を守るため、呪術師が暗躍する世界さ。つまりね、強者が弱者に適応する矛盾が成立してしまっているんだ。なんって嘆かわしい!」

 

 

「はあ……」

 

 

「万物の霊長が自ら進化の歩みを止めてるわけさ。ナンセンス!そろそろ人類も生存戦略を見直すべきだよ。だからね、君にも手伝って欲しいわけ」

 

 

「何をですか?」

 

 

「非術師を皆殺しにして呪術師だけの世界を作るんだ」

 

 

乙骨憂太は夏油傑と同様の特級術師、まだ呪術界のことは右も左もわからない。そんな乙骨を懐柔して夏油一派に加えることができれば敵無しだと、呪術師だけの世界の創造も現在より容易くなると作戦を立てていた。

 

 

「僕の生徒にイカれた思想を吹き込まないでもらおうか?」

 

 

「悟ー!久しいね〜」

 

 

「まずその子たちから離れろ、傑」

 

 

「今年の一年は粒揃いと聞いたが、なるほど君の受け持ちか。特級被呪者、突然変異呪骸、呪言師の末裔、そして禪院家の落ちこぼれ」

 

 

多数の術師を引き連れた高身長の白髪に白い包帯で目隠しをする男、特級術師の五条悟(ごじょうさとる)に馴れ馴れしく挨拶を飛ばす夏油は要求には応えず、真希を非術師の猿として侮辱した。真希には呪いが視認できず、生まれつき呪力を殆ど持たず、術式も扱えない。

 

 

「君のような猿は私の世界にはいらない」

 

 

「ごめんなさい。夏油さんが言っていることはまだよく分かりません。…けど、友達を侮辱する人の手伝いは僕にはできない!」

 

 

「ふぅ…すまない。(乙骨)を不快にさせるつもりはなかった」

 

 

強い眼差しで夏油を睨み上げ、肩に乗った夏油の手を払い除けた。彼にとって高専の生徒は友人であり、たとえ呪力を殆ど持たない真希でも彼の価値基準では友人。夏油とは反りが合わない。

 

 

「一体どういうつもりでここに来た」

 

 

「宣戦布告さ。お集まりの皆々様、耳の穴かっぽじってよーく聞いて頂こう!来たる12月24日、日没と同時に我々は“百鬼夜行”を行う。場所は呪いの坩堝、東京新宿、呪術の聖地…京都。各地に千の呪いを放つ。下す命令は勿論“鏖殺”だ。地獄絵図を描きたくなければ死力を尽くして止めに来い。

 

思う存分、呪い合おうじゃないか…!!」

 

 

『百鬼夜行』夏油、堂々たる宣言———!!

 

 

******

 

 

《パラメータ》

 

【術式名】           【術者】

不明(スマホを媒介にした術式)枷場菜々子

 

等級-不明(呪詛師)

_______

 

【術式名】           【術者】

不明(人形を媒介にした術式) 枷場美々子

 

等級-不明(呪詛師)

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