運命の錬金   作:天野河

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第16話 空条承太郎

金城譲(かねしろゆずる)鈴原美音(すずはらみおと)が東京都立呪術高等専門学校に所属してから1週間後の2018年1月11日、訓練所で五条に呪力操作の精度の指導を譲は受けていた。しかし、その間に決して嫌ではないが妙な気配を高専内に感じ取っていた。

 

 

「美音ちゃんは先輩達と任務ですか、羨ましいですね」

 

 

「譲も早く行きたいんだね。大丈夫でしょ、4月になったら嫌でも馬車馬のように働いてもらうからさ」

 

 

「今の俺の扱いは高専での保護対象、中学生だが高専生に値するまであと3ヶ月弱はかかる。それまでに呪術の基礎は磨いておきますよ」

 

 

(呪力総量はかなり少ない、術師としては扱いにくいくらいにね。それでも譲の強みは圧倒的な呪力操作の高精度、器用過ぎて瞬間的な呪力出力を急に跳ね上げたり落としたりできる。僕には及ばなくてもかなり効率が良い。これを呪術を学び始めて1年未満でやってのけるのは幽波紋(スタンド)の操作と呪力操作が似ているからだろうね)

 

 

金城譲の弱点は呪力総量がごく僅かのため、呪力切れを起こしやすい点。しかし、スタンドを会得している譲はスタンドの操作と呪力操作が関連していると結論付け、最大限に効率を底上げしている。スタンドをメインウェポンで運用しているため、呪力をサブウェポンとして飽くまで自身の肉体強化に充てている戦術も彼だからこそ成り立っている。

 

 

「あーそうだ。疑問があってさ、譲にちょっと質問したいんだけど〜…もしかして譲って術式のこと認識してない?」

 

 

「誰の術式のことですか?俺は呪力は扱いますが術式ではなく、スタンドで戦うので」

 

 

「そういうこだわりってわけでもないでしょ。あのね、譲には生得術式が刻まれてるのにどうして使わないのってこと」

 

 

呪術界御三家の一つ『五条家』の人間に発現する能力であり、生得術式とは異なる特殊体質の名を『六眼(りくがん)』と呼称する。五条悟はこの六眼によって対象の生得術式・呪力を視覚情報として詳細に認識する。初見の術式でも構成や条件を把握可能な彼が譲のスタンドの詳細を認知していないのは生得術式とは異なり、呪力とは別で肉体に刻まれるものではなく六眼の探知から外れているため。

 

 

「僕には譲のスタンドはわからない。スタンドが呪力とは近い性質だってことはわかる。肉体に刻まれる生得術式は僕の眼に映るけど、スタンドの情報まではわからない」

 

 

「つまり俺には…俺が認識していない術式があるって言いたいんですか?」

 

 

「そゆこと!多分使えないわけではないだろうけど、譲は呪力総量が少ないから気づけなかったんだろうね。それでも呪術師ジョジョとして死線を潜り抜けた君が知らずに発動してた余地はある。心当たり無い?」

 

 

思い当たる節も何も、譲は今になって術式が肉体に刻まれていることを伝えられたばかりで疑問符しか浮かんでいない。これまでの戦闘経験を振り返っても尚、中々答えを掘り当てられない。五条の嘘でもない限り、頭を悩ませても発見できない術式なのであればかなり地味なものなのではないかと苦笑いを浮かべる。

 

 

「ま、きっと役立つよ。使い方次第では譲のスタンドと相性合うだろうし」

 

 

「その言い草は教えないつもりですか」

 

 

「まだ3ヶ月あるんだし、自分で探してみたら面白いでしょ!ファイティン!なんとかなるって!」

 

 

軽薄で深く考えてなさそうな五条の言動に深くため息をついた譲は頼るのをやめた。手探りで自身の術式と向き合うことは確かな成長に繋がるだろうし、戦術の面積も広がる。これも研鑽の一環だと譲は納得を力に変える。

 

 

「よし、キリもいいしちょっと別室いくよ」

 

 

「良いですが、何か用事でも?」

 

 

「そんなとこ。会わせたい人がいるんだ」

 

 

五条は無茶振りや急な要件が多い人間だとたった1週間で理解した譲だったが、たっぷりと時間が有り余っているので拒否する理由もなかった。呪術高専の入学前とはいえ、非公式で続けていた《呪術師ジョジョ》としての仕事は閉業している。代わりに呪いに関連しそうな被害の報告を連絡して独自に収集するSNSのアカウントとして利用している。そんな彼は以前のような忙しない日常ではないため、暫くは融通が利くのである。

 

******

 

呪術高専東京校に設置された客人用の会議室に向かうと待ち構えていたかのように男がこちらに振り向き、大きな背中が窓際に映り込む。青を基調とした立襟のコート、同色のパンツには黒色のベルト二本で締め上げられており、緑の星が刺繍された青の帽子を深く被る長身の男、背丈は五条悟よりも少しだけ高く見えた。

 

 

「相変わらずの遅刻癖だな、五条君」

 

 

「お待たせしました、承太郎さん」

 

 

承太郎と五条に呼ばれた男の顔に譲はギョッと肝を冷やすこととなった。洗面台でツルツルに磨かれた鏡に映る自らの顔面と瓜二つだったのだッ!しかしそれは同時に父、ジョルノ・ジョバーナを彷彿とさせるような顔面ッ!そして妙な気配の正体はこの男だと理解(わか)らせられたッ!

 

 

「あ、あなたは…一体何者だと言うんだ」

 

 

「申し遅れた。私は空条承太郎(くうじょうじょうたろう)、五条君に取り次いでもらい君と話をしにきた」

 

 

「金城譲です。その承太郎さんは…呪術師の方ですか?」

 

 

「いいや、私は呪術師ではない。だが君と同様にスタンド使いだ」

 

 

空条承太郎、呪術師ではないがスタンド使いとのことで譲は軽く警戒する。無愛想ながらも落ち着きのある温和な雰囲気を醸し出す彼に敵意はないとわかっていても底が計り知れず、まるで出口の見えない迷路に放り込まれた感覚に陥っていた。

 

 

「悟先生とはどのようなご関係で…?」

 

 

「2年前に知り合った。君もご存知の通り、スタンド使いにも呪いは視える。近年は特にその呪いが増加傾向にあった」

 

 

「それで承太郎さんが日本に渡ってきた時に僕と知り合ったってわけ、初対面ってわけじゃあないんだけどね。先日死亡が確認された最悪の呪詛師である夏油傑がせこせこ呪いを集めて戦力を拡大できたのもそこに直結している」

 

 

「私が五条君とコンタクトを取った時に呪いとは、呪術とはなんたるかを教わった。お陰でスタンドでもない幽霊を成人を迎えた後の方がよく視える理由を知れた」

 

 

五条がスタンドの存在を認識している理由も納得がいくが、そうなると呪術総監部や一部の術師もスタンドを周知の事実なのだろうか。どちらにせよ内密にしていることには違いはなく、譲が抗争してきた呪詛師の中にスタンドを認知する者は存在しなかった。

 

 

「君にも話しておかなくちゃあならない。2012年の3月に世界は一度終わりかけた」

 

 

「2012年……ッ!覚えている!俺は覚えているッ!世界各国でコミックヒーローやゲームキャラクターが突如として現れて人日の意思を無視して名シーンを再現していたとッ!」

 

 

「これはウンガロという男のスタンド能力で世界が混乱に巻き込まれた。日本の新宿も例外ではない。そして同月、アメリカのケープ・カナベラルでエンリコ・プッチという神父がスタンドを行使して時を加速させた」

 

 

「あれは僕達も焦ったんだ。非術師の避難とそして状況説明、術師であっても訳の分からない事象が起きてるんだからね。僕は直接出向くことを決意した。異変が立て続けに起こっていたアメリカのフロリダ州にね」

 

 

その当時、ウンガロが発動したスタンド『自由人への狂想曲(ボヘミアン・ラプソディー)』により『ファンタジー・ヒーロー事件』が未曾有の大災害を招く。その翌日、承太郎と五条の口から語られることは無かったが、アメリカのフロリダ州に限定された「人々がカタツムリに変貌を遂げる」異変が発生する。更に翌日、エンリコ・プッチによる時の加速が全てを巻き込み、犠牲者も厭わずに影響が降り注ぐ。

 

 

「神父を倒そうとした私や私の娘、その仲間達も死んでいてもおかしくはなかった。いや…死んでしまった者もいる。それ程までにエンリコ・プッチのスタンド『メイド・イン・ヘブン』は脅威だった」

 

 

「でもね、僕が到着した頃には全部終わってたんだ。それまで神父が味方に付けていた『運命力』でもあっさり敗北する相手がまだ居たんだ。僕が来ても彼はもう立ち去った後だったけどね」

 

 

「アメリカに“彼”が来ていた。嘗て私の友人に調査を依頼した私と同じ血筋を引く青年、それが君の父親…ジョルノ・ジョバーナだ。彼は神父を時の加速の果てにある天国という『真実』には到達させなかった」

 

 

世界をひっくり返すような戦争、その当時は確かに譲の記憶と相違なかった。父、ジョルノはアメリカへ出張に出ていた。偶然の産物、しかし譲は承太郎が発した『同じ血筋』という言動に引っ掛かる。

 

 

「ジョルノ・ジョバーナは神父を食い止め、そして私と娘が神父にトドメを刺した。彼が居なければこの世界は存在していなかっただろう」

 

 

「で、本題はここから。呪いの発生が増加傾向にあるのは承太郎さんが言及してた大災害が人々の負の感情を高めたからだと呪術総監部は結論付けた。僕もそうだと思うよ。呪いの数が日本よりも少ない海外でも呪いの件数は増えた。そしてそれは今も尚、影響が残り続けてる」

 

 

「神父との決着後に五条君とは少し話したが、神父と戦った私たちはバックアップをしてくれているSPW(スピードワゴン)財団で治療を受けた。勿論、エンリコ・プッチの遺体はその財団で跡形もなく処理した」

 

 

呪いの発生が右肩上がりになっていた理由も2012年の大災害を境にしていたことは理解した。その上で父のジョルノが介入したことで世界の運命が救われたというのも頷ける。承太郎が経済において世界規模の影響力を有する巨大な組織・SPW財団と密接な関係にあることも把握はできた。それでも納得し切れていない部分がある。

 

 

「承太郎さん、教えてください。どうして俺にそんな重要な秘密を伝えてくれるのか。あなたが口にした『同じ血筋』というのはなんです!?」

 

 

「回りくどかった、申し訳ない。私と君には同じ血筋が通っている。君の父、ジョルノ・ジョバーナも同じだ」

 

 

「遠い親戚?いや…俺には祖父母は存在していなかったと聞きます」

 

 

「やれやれだぜ。もう感じているだろう、俺と君との『繋がり』を。はっきりと言おうか、ジョルノ・ジョバーナの父はディオ・ブランドーという長寿の男、その首から下の肉体は私の高祖父の物だ」

 

 

「あなたは何を言っているんだ…承太郎さんッ。そんなことがあっていいわけないじゃあないかッ!」

 

 

「ああ。あってはならなかったことだが、実際に起きてしまったことだ。君の祖父、ディオ・ブランドーは吸血鬼だった。人間の所業とは思えないが、私の高祖父…ジョナサン・ジョースターの肉体を乗っ取ることができたのも納得できるだろう」

 

 

譲にとって壮大な話が展開されている。自身には吸血鬼の血が流れているが、譲はおろか父のジョルノにもそんな影響はない。ジョルノに祖父母のことを聞いてもはぐらかされたがこの事実を彼も既知しているのかどうかは譲でさえもわからないし、今はとてもではないが言い出して答えを確かめることなどできない。

 

 

「君と私が同じ『ジョースターの血』を引く証明をしてみせよう。首筋に星型の痣があるだろう。浴室の鏡で入念に背中の汚れを洗う時に疑問に思ったことはないか?」

 

 

「確かに……あるッ!星型の痣は父にも俺にも刻み込まれているッ!これが『ジョースターの血統の証』なのか…!」

 

 

上着を脱いで下ろした承太郎の首筋には確かに幼い頃より見慣れたはずの星型の痣があった。見慣れているはずだというのに異様な雰囲気が漏れ出していた。五条にスマホで撮られた写真の中には自身の首筋に映り込む星型の痣と承太郎の星型の痣は完全に一致していた。頭の中で整理するのは手間取ったが、その血の運命(さだめ)の円環に乗っているとわかった。

 

 

「一通りの説明は済んだので私は帰らせてもらう」

 

 

「承太郎さん、土産ありがとうね」

 

 

「こちらこそ。金城君、君がもし困難に陥った時は私にも頼ってくれ。連絡先を交換しておこう。五条君や君の父親の後ろ盾だけではどうにもならない状況の際はSPW財団も頼ると良い。『信用』がそこにはある、必ずな」

 

 

「ありがとうございます。承太郎さん、何かあれば必ず」

 

 

「急に悩ませるような情報を一気に伝えて済まない。君が窮地の時は沢山の仲間がついている、それを一番に伝えたかったんだ」

 

 

きっと空条承太郎という男は金城譲の素性すらも調べがついていたのだろう。血縁関係や呪術師ジョジョとしての活動、それを五条悟に横流ししていたのはきっと彼なのだろうが不思議と不快感は無かった。故郷にノスタルジーを感じるような不思議な人物、無愛想とは思っていたが自然に浮かべる笑みは優しいものだった。

 

 

「さ、今日は僕の奢りで焼肉でもいこうか。みんなには内緒ね」

 

 

「はい。ご馳走になります、悟先生」

 

 

金城譲はジョースターの血統———!!

 

******

 

《パラメータ》

 

【術式名】   【術者】

無下限呪術  五条悟

 

等級-特級呪術師

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