運命の錬金   作:天野河

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第17話 伏黒恵

2018年4月初旬、金城譲(かねしろゆずる)は正式に呪術高専東京校へ入学した。カスタムを要請した高専の制服に袖を通し、鏡の前で黒色の布地の手触りをチェックして満足そうに部屋を出る。襟と胸のボタンは渦巻きのような呪術高専の校章を象った金色のもので襟のボタンのみを外し、チラリと覗かせるのはチェーンで首から垂れるドッグタグ。両方の袖には銀色のジッパーで開閉する蜘蛛の巣柄のポケットが備え付けられ、少し幅にゆとりのあるズボンには蜘蛛の巣の模様がプリントされた革のベルトが巻かれている。

 

 

「恵君、おはようございます。今日は合同任務よろしくお願いしますね」

 

 

「ああ。よろしく、金城」

 

 

「恵君の足を引っ張らないように頑張ります」

 

 

学生寮の廊下を突っ切ると出入り口付近で通常の制服を身に纏い、黒髪でツンツン頭の少年と出会す。名は伏黒恵(ふしぐろめぐみ)、譲と同様に呪術高専東京校の1年生だが、天才として扱われているようで2級呪術師として入学した。現状1年の中で唯一単独での任務が許可された存在、そんな彼と譲は今日タッグで任務を熟す。

 

 

「全く悟先生も無茶苦茶なことを言い出しますね」

 

 

「あの人の無茶振りは日常茶飯事だ。慣れておいた方がいい」

 

 

「少しずつタイミングは掴めてきましたけど、恵君はもっと大変そうだ」

 

 

2級術師である伏黒は単独での任務が許可されている。詳細はわからない譲ではあるが、伏黒が小学1年生の頃に五条悟(ごじょうさとる)と顔を合わせた。そんな五条は昨日になって急に伏黒と譲を呼び出して共同任務を言いつけてきた。二人の面識は少なく、学生寮に住み込む譲と時折り立ち寄る伏黒とではすれ違う時に挨拶を交わす程度だった。

 

 

「で、今回の任務の詳細…俺は聞かされてないけど恵君は?」

 

 

「五条先生は気紛れだから俺も今回は知らない。ただ、そういう説明は基本的に補助監督からされる」

 

 

暫く高専内で暮らしていた譲のスケジュールは鍛錬と学習以外は自由時間が設けられていたが、呪術高等専門学校補助監督の仕事内容は既に頭に入っている。高専を出発すると補助監督である細身で頬が痩けた伊地知潔高(いじちきよたか)が黒色の車を用意して待っていた。

 

 

「おはようございます。補助監督を務める伊地知です。伏黒君と金城君には世田谷区に向かってもらいますのでそこまで私が送り届けます」

 

 

「具体的に世田谷区の何処なんですか?」

 

 

「交差点です。世田谷区の多くの交差点で度重なる交通事故が発生しており、“窓”がそこに呪いと残穢を昨日の正午から確認し、そこから既に事故件数は六件と右肩上がりです」

 

 

「窓」とは補助監督と同様に呪術高等専門学校の関係者のことを指す。呪術師ではないが、呪いや残穢を目視することが可能で呪術師の任務に貢献する存在。普段は一般の職業に就いていて日常生活に紛れている。そんな複数の窓から補助監督へと報告が上がっている事故が今回の任務へと直結する。二人は伊地知からの任務の詳細に耳を貸しながら車の後部座席へ乗り込み、世田谷区まで派遣される。

 

******

 

世田谷区の下北沢駅で停車した車内で伊地知は再度、伏黒と譲に任務内容を説明する。世田谷区内の交差点、またはその付近の呪いと残穢の正体の調査、特に窓が視認した現場付近と直近の事故現場を巡回しなければならない。窓の報告が上がった現場は赤堤交番前、池尻3丁目、稲荷神社前。直近で確認された六件の事故現場は梅岡1丁目、おおくら大仏前、尾山台駅前、上北沢1丁目、上野毛駅前、西澄寺前。

 

 

「窓からの報告では猛スピードで走行する車に呪力は確認できたそうですが、それが赤色の車ということだけしかわかりません。また、走行の跡には残穢が確認されています。正体が掴めない以上、くれぐれも無理はしないで下さい」

 

 

報告通りならばそれは呪いで間違いないだろうと二人は断定していた。世田谷区という限定された地区でありながらその区内であれば広域で爆走しているのも車に纏わる呪霊や呪詛師なのであれば納得がいく。今回の任務は呪いの正体を掴むこと。事故の発生原因を突き止め、呪いを祓うことまでやってのけていた呪術師ジョジョの時よりも相対的に見てイージーな任務。それは4級呪術師である譲自身が一番自覚していた。想定外の事態は2級術師の伏黒頼りということなのだろう。

 

 

「そして、俺もこの任務に打ってつけってわけですね」

 

 

「お前……バイク乗れるのか?年齢的な意味で」

 

 

「いいえ、無免許ですよ。まだ15なので。高専側に暗黙の了解ということで免許は偽造してもらいました」

 

 

「なんでもいいか。人が集まる場所だから俺の術式はなるべく使用を避けたい。頼んだ」

 

 

譲は幽波紋(スタンド)能力でミニチュアサイズだったバイクを元の赤い炎がペイントされたYZF-R3 ABSに戻す。二つのヘルメットの内、一つを伏黒へ渡してもう一つは自身で被る。バイク用のグローブを手に嵌め込み、サドルに跨るとエンジンを蒸して公道へ発進し、伊地知と別れてから車列へ仲間入りする。伏黒の術式の全貌は不明、現状使用が困難なのであれば虱潰しに交差点を回ればいい。

 

 

「報告にあった交差点、事故の遭った交差点、そこへ急行するついでに見た交差点…」

 

 

「ああ、どれも残穢がある。しかもそのついでに見た交差点の殆どにもな。共通して言えることは少し前に交通事故が遭ったってことだ」

 

 

「流石は恵君、気づいてましたか。呪いによって意図的に起こされた事故、匂いますね」

 

 

1時間程度巡回し、路肩に停車して情報を纏める。二人の見識を持ってすれば真相に辿り着けそうなものだが、事故の発生要因となっている呪いとは遭遇していない。しかし、譲には少しだけ引っ掛かる点があった。否、以前に同様の現象を肉眼で目にしたことがあるのだ。

 

 

「恵君、俺はオレンジジュースにしますが何が好きですか?」

 

 

「コーヒーだな。いい、自分で買う」

 

 

「別に後から一円ずつ寄越せだなんて言いませんよ。気になることがあるんですよ、交差点に残穢がある。そこまでは良い、途切れてるんですよ、不自然なところで。尚且つ途切れる前と途切れてまた発生してる残穢では呪力の濃さが異なる」

 

 

「コーヒー、すまん。……つまり何が言いたい」

 

 

「呪いは別の空間に一時的に飛んでるんじゃあないかってことですよ」

 

 

自動販売機に硬貨を投入し、オレンジジュースと缶コーヒーを購入する。缶コーヒーの方を伏黒へ投げ渡しながら譲の観察眼が発揮された推測を語り出した。以前の経験則、鈴原美音(すずはらみおと)と共に2017年10月26日、山梨県北杜市某遊園地での謎の大量失踪事件を調査中に祓うこととなったピエロの呪霊がまさに今回の残穢の特徴と一致した途切れ方になっていた。

 

 

「領域持ちってことか?それなら俺達じゃ相手にならない」

 

 

「そこまではわからないです。転移、または本当に別空間を移動する術式が絡んでいる可能性だってあるはずですよ」

 

 

「事件時刻はどれも昼間、手掛かりを更に掴むならまだ事故が起こっていない交差点、しかも事故現場と近い交差点に絞って回るべきか」

 

 

「直接、呪いと衝突してやるしかなさそうですね。事故だけに」

 

 

「不謹慎」

 

 

「すみません、配慮が足りていませんでした。少し喉を潤したら出発しましょう」

 

 

コーヒーを飲み干した伏黒はゴミ箱に捨てるが、譲はジュースを容器と中身ごとスタンドで小さく錬金してそれを仕舞う。再度、バイクを走らせる最中、伏黒は譲の走行中でも発揮される洞察力に内心驚かされていた。状況整理でここまで噛み合って目的を決定し、スムーズに任務が進むのも中々無いだろう。三つ目の交差点に差し掛かった時、二人は強い呪いの気配に五感を研ぎ澄ませるが街中なのもあり、喧騒が邪魔をする。

 

 

「金城!!後ろだッ、『鵺』!!」

 

 

移動中、60キロは速度が出ていたはずだと言うのに追いつかれた。呪いは切迫、そして伏黒が両手を交差させて翼を表現し、親指を嘴に見立てる影絵で髑髏のような仮面をつけた巨鳥の式神「鵺」が召喚し、文字通りの赤い車に電撃を放つ。しかし、その車の窓から飛び出したのは紛れも無く人間であり滞空しながら伏黒と譲の肩に触れた。

 

******

 

姿変わらぬ街並み、しかしそこは異変と認識させるには十分な説得力がある。騒音も歩む人々も車の一台でさえ消し飛んだ。否、現実の空間から二人だけが連れ去られたのだと譲と伏黒は直感する。不気味な赤い空の下、二人の元に肌を黒く焦がしたボディビルダーのような屈強な男が星条旗柄のタンクトップを肌に張り付け、片手を挙げる。

 

 

「領域?いや、呪力は感じられない」

 

 

「お前達、レースは好きかッ!!」

 

 

「誰です?あなた。スタンド使いのようですが」

 

 

「俺の紹介は後だッ!手に汗握るレースは好きかッ!!」

 

 

謎の空間、外界へと脱出する糸口がわからないが呪力とは異なるエネルギーで構成されているのを伏黒は見抜き、領域展開による閉鎖ではないと確信する。譲だけはそれがスタンドエネルギーであると断言、男の正体もスタンド使いだろうと決め付けている。

 

 

「あの車の呪霊、飼い慣らしているのはお前で間違いないな!」

 

 

「ああ!レースはどうなんだッ!好きか、嫌いかッ!!」

 

 

「俺は嫌いじゃあない。ボートレース(競艇)ホースレース(競馬)もね。個人的には車やバイクが好みなのでカーレース(自動車競技)を推しています」

 

 

「いいじゃあねえかッ!カーレース好きに悪い奴はいねえ!!俺は郷川琉騎(ごうかわりゅうき)、36歳ッ!!」

 

 

「金城譲、15歳です。それで質問の意図は?」

 

 

男、郷川琉騎は伏黒の問いにあっさりと車の呪霊の乗り手が自身であることを認めた。その上でレースの好き嫌いを判断(ジャッジ)したいらしいが、二人は警戒を高めつつ郷川の出方を指先に至る繊細な部分までに目を凝らし、臨戦体制を整える。

 

 

「レースに年齢だとか体格差だとかは関係ねえと俺はそう思い込んでいる。そこにあるのは『情熱』だろうがッ!!金城、そしてそこのお前!俺主催のレースに乗るか、乗らないか今この場で決めろッ!!」

 

 

「何が目的だ、呪詛師」

 

 

「呪詛師ィ?なんだそれは、知らんッ!お前達に委ねられているぞ、レースの決定権はッ!!」

 

 

「乗らない、と言ったら?」

 

 

「お前達がつまらん男というレッテルを張って生きることになる。ポッカリと空いた心の穴に『言い訳をつけてレースに乗れなかった』という虚しさだけがお前達を襲うッ!!」

 

 

「まさかそれで一般人が交通事故を起こしているのか…?それがお前の術式か!」

 

 

「術式とやらではないッ!俺のスタンド『レース・フォー・ザ・プライズ』はレース会場を設営するッ!!勝者は優越感をッ!敗者は達成感をッ!レースから逃亡した負け犬(敗者)は虚無感をプレゼントするッ!!」

 

 

正真正銘のスタンド使い、伏黒の読みは外れたが呪詛師とは全く無関係の人間。そんな郷川が車型呪霊を傍に大人しく控えさせるのはスタンド使いが呪いに干渉可能だからだろう。今回の二人のように『レース・フォー・ザ・プライズ』に招かれたのが非術師や非スタンド使いであれば混乱し、そんな馬鹿げたレースなど拒否するだろう。しかし、郷川のレースの誘いを断れば現実へ帰還したとしても“虚無感”が心中を支配し、交通事故を引き起こしてしまう情緒に変貌を遂げる。

 

 

「であれば、断る理由はありませんね」

 

 

「金城、お前はスタンド使いって知ってるのか?得体の知れない存在に突っかかるのは愚策としか言いようがない!」

 

 

「ええ、よく知っていますよ。呪力とは異なる生命エネルギーを源とする(ビジョン)、どちらにせよ俺たちはレースに躍り出るッ」

 

 

伏黒の発言で彼がスタンドやそれを操るスタンド使いの存在を知らないということがわかったが、既知である五条の口から語られていないという現状に譲は説明を自身に丸投げしたのだと深くため息をついた。レースに参加表明を示すのには拒絶したとてデメリットしか付き纏ってこないからだ。

 

 

「レースに参加はします。ただし、条件がある」

 

 

「条件?試しに言ってみな、金城」

 

 

「本気で言うんだ。俺たちが勝利を手にした時、あんたは無差別にレースを仕掛けることを辞める。水中で溺れた時の羽虫のように這いあがろうとする程に本気の発言だ」

 

 

「条件なんて付ける気はなかったが、お前の度胸に免じて乗ってやるッ!ではお前達が負けた時は一生レースに参加してもらうッ!!これこそ手に汗握るレースだッ!!」

 

 

ベネ(良し)、互いに条件を呑んだ。そしてレースのルールはあんたの口から説明するんだ」

 

 

「男と男の約束だ。口約束とて守れんようではレースの走者失格ッ!ただ、ゴールを目指しトップでゴールすればそれで良いッ!ゴール地点は上北沢駅ッ!ルートも妨害も自由、そして勝負は絶対に投げ出してはならないッ!!」

 

 

条件付きのレース勝負になってしまい、挙げ句の果てには伏黒まで巻き込む形になったが冷静なのは何も譲だけではないらしい。一生レースに参加など御免な二人はルートも妨害も自由なのであれば勝ち筋は十分にあると見込んでいた。そして郷川は赤色の車型呪霊に乗り込み、譲達もバイクに跨ってハンドルを捻って闘争心をエンジン音に乗せて轟かせる。

 

 

「制限時間は当然ないぜ、『情熱』を沸かせようッ!只今を以てレーススタートだッ!!」

 

 

車道に浮かび上がったスタートラインに車輪の先端を乗せる。郷川のスタート宣言を皮切りに二台同時に飛び出す。最初のコースは直進、なんの変哲もない直進。スピードはやや車型呪霊が勝り、その幅を利かせて進路を妨害されるため追い抜きすら叶わない。ヘルメット内部の譲の表情は一ミリたりとも崩れない。

 

 

「あんた、“組織”の人間じゃあないだろ」

 

 

「組織ぃ?なんだよ、レースに集中しろッ!金城ォ!!」

 

 

「天然のスタンド使いってわけですか」

 

 

「俺のレースは『レース・フォー・ザ・プライズ』は誰にだって理解はされなかった。コイツの真価は『競争』の場があるから物があるから発揮されるッ!広大な私有地に使い道を開拓したのは俺さッ!」

 

 

譲の父、ジョルノ・ジョバーナを(ボス)とするイタリアのギャング組織・パッショーネの団員ではない。日本人でありながら郷川琉騎は生まれながらのスタンド使いであった。車型呪霊との出会いが彼の走者としての運命を引き合わせたのだろう。

 

 

「金城、どうするつもりだ。奴との差はどんどん開いてる!」

 

 

「上北沢駅まではまだ数キロあります。奴と奴が運転する呪霊の特性を見極めましょう。それに俺は恵君の力を強く『信頼』していますよ」

 

 

「……だったら俺が痺れを切らして『攻め』に回ったっていいわけだな」

 

 

「ええ、俺達ならなんだってできるはずだ。『できる』と思い込むその精神力こそがゴールへの活路を見い出し、分かつッ!」

 

 

「乗ってやるよ…その大勝負!『大蛇(オロチ)』ッ!!」

 

 

“最強”の称号を経て頂点に君臨する現代の術師、五条悟が手塩にかける伏黒の知性と少しだけ垣間見た才能の塊である術式を譲は「信頼」する。伏黒は掛けられた「信頼」という重圧を汗が滲む太々しい顔のまま受け入れる。人差し指と中指で輪を作ると目を表現、親指を下顎として見立てる影絵で、頭部に生玉(いくたま)の紋様が刻まれた白い大蛇の式神がバイクから5m先に出現。その好機を最大限に利用すべく、背中に車輪を滑らせて蛇の道を進行して頭部から落下するとコースから大きく外れた住宅街の屋上へと着地する。

 

 

「ドデカい大蛇ッ!ウニ頭のガキが絡んでいるな?スタンドの存在を知らないということはこの車と“似た能力”か」

 

 

家々を転々とする度に譲はスタンド・『錬金(アルケミア)』で瓦を殴り、屋根と屋根を繋ぐ瓦のエネルギーで橋を作って速度を緩めずに走り抜ける。郷川は車型呪霊を操作し、排気口を地面に向けると熱気を一気に放出して浮遊すると回転式多銃身機関銃(ガトリングガン)を装備し、鉛玉の雨を譲と伏黒へ降らせる。

 

 

『無駄無駄無駄ッ!!』

 

 

本体である譲と伏黒を守護する形でアルケミアが顕現し、銃弾を拳の連打で弾く。その弾いた拍子に一部の弾丸を錬金し、銃弾のエネルギーに変換すると車型呪霊へと撃ち返し、幾多の風穴を空ける。屋根から落下して家の壁をアルケミアで蹴り、その勢いのまま住宅街の狭い道へと着地して郷川の妨害から掻い潜る。

 

 

「俺のバイクは320cc、最高速度は甘く見積もって時速190キロってとこでしょう」

 

 

「それでも奴の呪霊には追いつかれる。そうだな?」

 

 

「ええ。馬力もスピードも口惜しいですが、完全に郷川の走者としてのスキルも相まって根負けする。今は路地に入って姿を眩ますことでなんとかなっているが、時間の問題だ。呪霊の攻撃も凄まじいことが確定したのだから、転倒のリスクも加味すると勝率は20パー」

 

 

「………ここまできて怖気付くなよ、金城。お前と同じ“式神使い”でも俺は複数持ち、まだまだ手札は余ってる。『蝦蟇(がま)』!」

 

 

手影絵は両手を合わせ親指と人差し指で口を表現、小指を少し曲げて目を見立てることで発生した人体サイズの大ガエルの式神が家の壁に張り付いたまま舌を伸ばす。その舌はバイクの車体に巻きつけられ、遠心力でゴール方向まで投げ飛ばされるが屈み込んだ状態で譲はハンドルを捻り、トップスピードの時速190キロを超越した260キロのまま公道を駆走する。

 

 

「はっははーッ!!金城ォ!ウニ頭ァ!お前らは最高のレーサーだ!!侮って不覚を取られた俺だが、俺だって譲れんレーサーのプライドがある!!ゴールが目前であろうがなかろうが常に全力(フルパワー)ッ!!」

 

 

「もう追いついてきたのか、あのオッサン!」

 

 

「なんてヘヴィな…車からロボット変形だなんてトランスフォーマーじゃあないかッ!」

 

 

「上北沢が見えてきたーーッ!俺の『情熱』は誰にだって止められやしないし、追い抜けない!!一生、レース相手になる約束ゥ!忘れてないよなあ〜〜〜ッ!」

 

 

超加速の維持はバイクの速度限界値を超えているため、儘ならない。タイヤのゴムは火花を散らしながら擦り減り、追走する郷川が乗り熟す車型呪霊からミサイルが六発発射される。軌道を変えると横転するであろう速度が落ち続け、爆風が掠って抉れたアスファルトの破片は飛び散るがアルケミアの殴打で対処する。しかし、車型呪霊は奥の手である人型ロボット形態を切り出し、バイク目掛けて拳を振り下ろす。大地が揺れて亀裂が入り、車体は揺れて今にも傾き始めていた。

 

 

「星条旗のストライプ、1776年の独立時にアメリカに存在した『最初の13の植民地』に由来するそうだ」

 

 

「ん?急になんの話だ、金城。約束は忘れていないのかと聞いているんだッ!」

 

 

「1865年までアメリカはアフリカ系黒人を強制労働させる奴隷制度を思う存分に使い込んでいたって。あんたの星条旗柄のタンクトップがあまりにも輝いているもんだから思い出したんだ。ところで、負ければあんた主催のレースで、一生『奴隷』になってしまう約束でしたよね」

 

 

「人聞きの悪い…それがお前達の呑んだ条件だ。相応じゃあないかッ!レースに条件という『対価』を要求したのはお前らの方だ!」

 

 

「違う。それ以前にお前は自分の私利私欲で呪霊を使い、無差別に非術師(一般市民)の時間まで奪った。レース云々より先にテメェの術式を右も左もわかってない非術師が面白さ見たさで、一方的に押し付けられた要求を呑まされたんだ」

 

 

「そう、残念ながら恵君の言う通りです。あんたは『自由』を掲げたその星条旗に泥を塗っている。誰も裁けないのなら、あんたを今から裁くのは俺たちだ。次いでに忠告しよう、あんたからインスピレーションを受けたお陰で俺も想像(イメージ)できそうだ。“変形”をね」

 

 

郷川との勝負以前に多数の一般市民は彼のスタンド能力によって意思能力を欠乏した上で交通事故を起こしていた。その責任は私的にスタンドを使用した郷川に在る。逆輸入、郷川と車型呪霊から得た想像(イメージ)はアルケミアにより、バイクのエンジン、排気口は数倍に膨れ上がり、ロケットの如く火を吹かす。車輪はより強固且つ弾力が跳ね上がり、耐久性を上げるために車体は相応のサイズへと錬金を経て進化を遂げる。

 

 

「文句垂れようが俺のフルスロットルは止まらんぜえええッ!!」

 

 

「そのお前を止めるのが俺だ。『玉犬(ぎょくけん)』」

 

 

「犬っころを出したところで何になっ——」

 

 

「目潰しだ。本命はこっち()だ!」

 

 

片手の薬指と中指の間を広げてもう片方の手を重ね、両親指を耳に見立てる影絵によって額に道反玉(ちかへしのたま)の文様が刻まれた白い犬の式神を召喚した後に郷川目掛けて飛ばす。やっと顕現させた郷川のスタンドがそれを破壊しようと拳を伸ばすが、その前に伏黒は玉犬・白を解いて反動で発生する黒い液体を被せて目潰しする。鵺を透かさず繰り出し、翼を広げたそれによって放たれる電撃を喰らわせる。

 

 

「あんたこそ約束、覚えていますよね」

 

 

「ま、負けちまうッ!うおおおオ〜〜ッ!!」

 

 

「負けるあんたに一つ教えてやる。カーレースの起源はフランスだ。アメリカじゃねえ」

 

 

ゴールを勝ち取ったのは譲と伏黒。伏黒恵の術式《十種影法術(とくさのかげぼうじゅつ)》、自身の影を媒介に十種類の式神を召喚する術式で攻撃。その隙に譲の錬金により魔改造したトップスピード時速300キロを更に超える速度でテープをぶっちぎる。電撃で怯み切った郷川は運転手としての操作性が一時的に喪失し、復帰まで20秒を要する。二人に遅れ、40秒後にゴールを果たした。

 

 

「口約束とて守れんようではレースの走者失格……俺の負けだ。最高のレーサーだ、金城…そして恵!」

 

 

「では、無差別にレースを仕掛けるのは無しということでいいですね?」

 

 

「あぁ、お前らの『情熱』は伝わった。いい歳こいて俺はお前らに心打たれたんだ」

 

 

郷川は素直に要求を受け入れてへたり込んだ。車型呪霊から降りて名残惜しそうに自身の愛車(呪霊)を後ろ髪に引かれる思いで見つめ直し、その度に項垂れている。しかし、彼の人生でここまで胸が躍るレースは無いと誓えるほどの満足感だったため、天を仰ぎながら笑みを浮かべていた。

 

 

「金城、コイツは連行する」

 

 

「それは俺たちが提示した条件には無いです」

 

 

「みすみす逃がす気か?」

 

 

「守るんですよね、約束」

 

 

「………俺たちは呪術師だ。コイツが呪霊を使って無差別に人を呪った事実に変わりない。呪詛師判定されてもおかしくはない」

 

 

「力の使い方も呪霊の判別もできていない。わからないのなら道標になってやりましょう。それに呪霊はなんとかなりますよ、俺のアルケミアがあれば」

 

 

不服そうな伏黒を横目に呪霊にアルケミアの手を翳すとそれは呪いから脱却した立派な赤きスポーツカーへと錬金される。行き場のない呪力は翳した手を起点に譲へと取り込まれる。他の呪力を取り込む芸当はアルケミアのスタンド能力ではなく、譲が自覚し始めた生得術式———

 

 

「俺の車が紛れも無く車になりやがった!」

 

 

「さっきみたいな妨害はしない普通のカーレースに出て初心を学んでください。あんたの活躍を俺は楽しみにしてます」

 

 

「あぁ!ありがとう、金城!恵も俺を見つめ直す勝負をくれたこと感謝してるぞ」

 

 

「………伏黒だ。下の名前で呼ぶんじゃねえ」

 

 

野生の走者(レーサー)・郷川琉騎—『レース・フォー・ザ・プライズ』———金城譲と伏黒恵とのレースに敗北、真っ当なカーレーサーを目指すために改心し、再起不能(リタイア)。その後、現実世界へと帰還した譲と伏黒は伊地知に全てを報告した後に郷川を要観察対象とした上で手を打つことに成功する。

 

 

「俺の我儘を聞いてもらってすみません。恵君」

 

 

「…お前の気紛れに乗ってやれるのはこれっきりだ。ただ…郷川に情状酌量の余地があったことは認める。悪かった」

 

 

「彼には呪いとは無縁な日常で活躍して欲しいと切に願った。勝負に要した条件を破るわけにもいかないでしょう」

 

 

「縛りで成り立ってる勝負には違いない。どちらにせよ、その条件に連行も付け足さなかった俺のミスだ」

 

 

「恵君がいないと負けていましたけどね」

 

 

「お互い様だろ。あと金城、今後のことだが敬語はいらない」

 

 

「わかった、恵君。また君と戦いたい」

 

 

方針や考え方は異なる二人、それでも誰か一人でも欠けていては勝ち取れなかった結末。互いの能力と人間性を評価し、認め合った上で握手を交わして高専へと足を運ばせる前に二人はなんとなく外食の気分だったのでハンバーガーを買って食べることにした。

 

******

 

高専へと帰還した伏黒は譲と別れて速攻で自身の担任である五条の元へと出向いた。待ち構えていたかのように振り向いた黒い目隠しの奥から全てを見透かすように手を挙げた五条は開口一番に譲の働き振りについて質問する。

 

 

「お疲れサマンサ!恵から見て譲はどうだった」

 

 

「どうもこうも無茶苦茶な奴ですよ。冷静でいて危なげ、端的に言うならイカれてます」

 

 

「それが呪術師としては模範なんだよね」

 

 

「でも…金城は常に自己と他者の位置関係を立体的に捉えられている。リスクと隣り合わせでも汗一つ流さずに博打を打てる。今回の任務だって教えていないはずの俺の術式を瞬時に把握していました」

 

 

「いいねえ、術師としては申し分ない!それで譲は何級相当の強さか、わかった?」

 

 

「はっきり言って2級は下らないです。五条先生が隠してたスタンドって力も金城は使えるらしいですし、キレも半端じゃない。なんで4級なんですか、あれが」

 

 

「隠してたのはごめん、許して!恵の面子も僕は潰すつもりないけどさ、譲は僕自身高く評価してるんだ。譲の過去のことで総監部も小うるさいからね〜、一旦は4級に位置付けしてたの。取り敢えず、準2級で処理してみるよ」

 

 

金城譲、一気に飛び級———!!

 

******

 

《パラメータ》

 

【STAND NAME】

レース・フォー・ザ・プライズ

 

【STAND MASTER】

郷川琉騎

 

破壊力-C スピード-E 射程距離-A 持続力-A 精密動作性-E 成長性-E

_______

 

【術式名】   【術者】

無      車型呪霊

 

等級-2級呪霊

_______

 

【術式名】   【術者】

十種影法術  伏黒恵

 

等級-2級呪術師

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総合評価:305/評価:5.38/連載:20話/更新日時:2026年06月29日(月) 23:13 小説情報

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最強の術師・五条悟に拾われたのは、不思議な力を秘めた少女・神念りこ。▼呪術界の常識を塗り替える「エスパー」の力。 ▼彼女が抱きしめるルカリオやサーナイトのぬいぐるみには、ある秘密が……?▼虎杖悠仁、伏黒恵、釘崎野薔薇。 ▼かけがえのない仲間と共に、彼女は呪い渦巻く世界を駆け抜ける。▼——これは、弱気な少女が「最強」の傍らで自分の居場所を見つける物語。▼なんで…


総合評価:40/評価:-.--/連載:12話/更新日時:2026年06月14日(日) 17:53 小説情報

呪術廻戦〜蒼風を纏う者(作者:腹黒薩摩)(原作:呪術廻戦)

最強の術師――五条悟。▼現代呪術界において、その名を知らぬ者はいない。▼だが、その五条悟が、ただ一人だけ「先輩」と呼ぶ存在がいた。▼神凪颯真(かんなぎ・そうま)。▼風を基盤とする術式を操り、術式展開と同時に戦場の理を塗り替える異端の術師。▼かつて若き日の五条悟に、初めて“勝てないかもしれない”という感覚を植え付けた男。▼彼を知る術師たちは口を揃える。▼――五…


総合評価:4926/評価:8.03/連載:49話/更新日時:2026年02月23日(月) 09:43 小説情報

Re:術式が百式観音ってマ?(作者:隣の家に晩飯凸する止まらないゴルシ)(原作:呪術廻戦)

過去作のリメイクです。▼書くだけ書いてみて、投稿するか非常に迷った末に供養。▼人気が出るか気が向いたら続きを書くかも


総合評価:282/評価:7/連載:4話/更新日時:2026年05月08日(金) 08:36 小説情報


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