運命の錬金   作:天野河

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第2話 人狼

東京の某高級ホテルの一室、青を基調とした立襟のコート、同色のパンツには黒色のベルト二本で締め上げられており、緑の星が刺繍された青の帽子を深く被る長身の男は懐かしむように二つの写真立てに視線を落とした。寡黙な雰囲気を醸し出す男は振り返ると開口一番に語り出す。

 

 

「私は空条承太郎。君は知っているだろうか、2012年に世界は一度終わりかけたことを」

 

 

彼は自らを「空条承太郎」と名乗る。冷淡で必要最低限の会話しかしない無愛想な彼をよく知らない者は誤解する。しかし、仲間達や家族は彼の内に秘めた優しさ、強い正義感を理解する。世に蔓延る巨悪や邪悪と戦い続けた彼の勇姿と能力を皆「無敵」と評価する。———それが空条承太郎である。

 

 

「2012年の3月19日、ディオ・ブランドーという男の息子の一人…ウンガロが引き起こした未曾有の大災害『ファンタジー・ヒーロー事件』。新宿を含めた世界各国の都市が一度壊滅している。そして22日、アメリカのケープ・カナベラルでエンリコ・プッチという神父が能力…スタンドを行使して時を加速させた。世界の法則を逸脱した大災害、これは復旧後の世界でも影響を与え続けている」

 

 

先述した二人の男による犯行は人間が成せる所業ではなく、スタンドなる能力による被害だった。犠牲者は数え切れず、都市が壊滅して経済状況も崩壊した世界は恐慌に陥った。多大なダメージが残り続けているとはいえ、壊滅以前に見劣りしない程の復興を世界は重ねた。そこに経済的援助をした者は空条承太郎を含めて数は計り知れない。空条承太郎は尚も顔を顰めた。

 

 

「手始めに…君たちは『呪い』を知っているか?」

 

 

******

 

 

2017年10月10日、《呪術師ジョジョ》こと本名・金城譲は奈良県に訪れていた。観光名所の一つである奈良公園にて大量の鹿の闊歩を見渡し、購入した鹿せんべいをばら撒きながら鹿と戯れていた。それを微笑ましそうに眺める孔時雨(こんしう)は譲を茶化すように絡んだ。

 

 

「お前もまだまだ年頃だな。もう少し遊んだ方がいいんじゃねえの」

 

 

「余計なお世話ですね。あんたは童心を忘れないようにした方がいい」

 

 

「へいへい、悪かったよ。それで依頼人は?」

 

 

SNSで活動を広げるジョジョ名義での呪術師の活動は一時期はトレンドに載る程だった。確かな信用を獲得しつつはあるが、一般人に公にできる仕事ではないため、半信半疑で閲覧する多くのネット民から辛辣な意見も寄せられる。軌道が乗る前は猫探しや落とし物探しなどなんでも屋の立ち位置だったが、呪術師としての仕事は孔時雨が譲に横流しにしていた。現在では依頼もそこそこ潤ってきたので情報源を持つ孔時雨には精査役として裏取りをしてもらい、報酬を山分けしている。

 

 

「あぁ、依頼人とはもう会いました。聞いたことあります?『人狼』」

 

 

「…………気をつけた方がいい。今度の相手は手強そうだ」

 

 

グラッツェ(ありがとう)、ご心配どーも」

 

 

午前中の内に依頼人とは話をつけた。スーパーの店長やアパレル正社員、CDショップの店員、住職など挙げたらキリがない程の人数と面談を繰り返した結果……同一犯による事件と推測。皆の口述は「大狼が夜道で人を襲い、金品や財布を盗んで逃走」というもの。

 

 

「等級は準1級と格付けされてる。そこら中の呪術師が派遣されては返り討ちにあって手を焼いている。あとはわかるだろ?」

 

 

人によっては大狼の爪で軽傷を負ったり、脅迫された者も多い。愉快犯となっているのは事実、何よりも「大狼」という点に譲は引っかかった。奈良県各地で最近かなり噂になっている怪談らしく、実際に目撃した者やスマートフォンに収めた者も多い。

 

 

「逆に考えるんだ。このジョジョが倒せば一攫千金の好機(チャンス)だとね。針に糸を通すような依頼をこなしてこそ、俺が目指す呪術師なのだからッ!」

 

 

憧れの呪術師になって夢は終わりではない。呪術師となって人を助け、生計を立て、名誉を得る。総取りしてこそ呪術師の価値、呪術師としての金城譲を証明できるッ!金城譲の中で「証明」は「信用」へ繋ぐ第一歩である。

 

 

******

 

 

直近で「人狼」を目撃したという情報は2日前、生駒市の公園で二件、寺や神社で三件…引ったくりだけではなく賽銭泥棒での被害もあるようだ。昼間の出没は無しと考え、孔時雨と手分けして情報収集に徹した。そして日没、譲はハイブランドの腕時計とサングラス、スーツに身を包んで片手にバッグを下げたまま生駒市のまだ無事の神社の前を通る。

 

 

ブォナセーラ(こんばんは)、動物園に帰るならここから南ですよ」

 

 

スポットライトが当たるように街灯の光に照らされ、鋭利な爪を光らせる大狼が堂々と前傾姿勢で虎視眈々と睨みつけてくる。サングラスを取った譲は一目で呪霊ではないことを見破り、対話を試みたが大狼こと人狼は問答無用で襲いかかってきた。大振りで爪を突き出してくるモーションに譲は横へステップし、腹目掛けて回し蹴りを一撃入れた後にバッグで頭部を打つ。バッグの内部には分厚い鉄板を仕込んだから手応えはある。

 

 

本気(マジ)ですか、怯みもしないとは」

 

 

「ウオオオオ!!」

 

 

「《錬金(アルケミア)》!理性をドブに捨てたこの獣を打ち倒せ!」

 

 

軽く頭部を仰け反らせただけで野太い咆哮を上げて牙を剥き出しにして反撃に移る人狼、咄嗟にスタンド・アルケミアを顕現させると拳や蹴りを繰り出す。それらは容易に命中し、負傷箇所に「《錬金》を試みる圧力干渉」が働く。しかし、そんな継続ダメージも屁でもないとでもいうのか!人狼は発生する疼痛を無視して乱暴に突っ込んで車道と歩道の境目である縁石を壊す。

 

 

『無駄だァッー!!』

 

 

飛んで後退した譲は自傷覚悟の人狼が振り翳した爪をアルケミアの連続蹴りで跳ね返し、砕けた縁石を手に取ってアルケミアに《錬金》させる。砕けた縁石は譲のイメージによって角ばった岩塊のエネルギーに再定義し、アルケミアはそこに蹴りを高速で打ち込むことでサッカーボールをわざとゴールキーパーにシュートするように人狼へとぶつけた。流石に効いたのか人狼は電柱に背中から強打し、ずるずると尻餅をついた。弱まることはなく、呪力が漲ったままの人狼に違和感を抱いた譲はアルケミアを出しっ放しのままで注視した。

 

 

「攻撃はした…が、アルケミアによる痛みはアドレナリンの過剰分泌でも説明がつかないくらい滲みるはずだ。パフォーマンスは全く変えず、乱暴な戦闘スタイル…何よりも……弱すぎやしないかい、あんた」

 

 

コップ一杯に注ぎ込んだジュースが余所見をして溢れ出したかのように人狼の呪力は満ち満ちている。攻撃を受けてもゆっくりと立ちあがろうとする人狼の耐久度に冷や汗が噴き出し始めた。その硬さで粗暴なスタイルでありながら、自分に打たれるだけなどあってはならないと譲は冷静でありながら疑念を抱いた。眼前のコイツは仮にも準一級相当の呪詛師なのだからッ!

 

 

「アルケミア、《錬金》を…———ッ!なにィ!?」

 

 

急に人狼の背中辺りが忙しなくぼこぼこと盛り上がり、吐き出すかのように“人を置き去り”にした。人狼は大きな毛皮のような着ぐるみのような物体ッ!飽くまで着ぐるみを着用した人物を傀儡のように操る術だったのだ!宙に浮かび上がり、吸い寄せられるように北へ進んでいく人狼の着ぐるみに譲は懐から取り出した釘を《錬金》し、即座に杭のエネルギーに再定義して飛ばすがゆらゆらと揺れて回避するそれには届かなかった。

 

 

「住職…!昼間に聴取した方じゃあないか!最も気をつけなくちゃあならないことをしでかしてはいけないことを俺はしてしまった…!」

 

 

人狼の討伐よりも傀儡にされていた住職の身を譲は最優先した。依頼を受け取り、成功を達成する者は何よりも「依頼人の安全」が全てを優先するからだ。自らのスタンドで非術師の住職を殴ってしまった、重傷だ…息はある。譲はポケットから絆創膏を取り出し、アルケミアによって《錬金》し、治癒力に再定義すると住職の肉体を少しずつ癒やしていく。そのまま抱き抱え、目の前の長い長い寺の階段を登って温かい布団へと優しく返す。

 

 

「きっとお詫びはします、申し訳ありませんでした。それでも俺はまだ諦めていない、あなたも諦めないでください」

 

 

死者が最後まで生きている感覚は「聴覚」だという話を譲は幼い頃に耳にした。その記憶を信じて譲は痛めつけてしまい、気絶した住職に治癒力を継続して流しながら告げる。スーツの内側で震えるスマートフォンを取り出し、孔時雨から送信された位置情報を頼りに寺から駆け抜けるその姿は闘志の塊そのものだった。

 

 

「……逃がさない、ツケは払ってもらう」

 

 

闘志を胸に「証明」しろ———!!

 

 

******

 

 

《パラメータ》

 

【術式名】         【術者】

人狼            不明

 

等級-準1級呪詛師

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