西東京市・英集修道院、第二宿舎内で展開された特級呪霊の生得領域内で
「おい、宿儺!俺が死んだらお前も死ぬんだろ?それが嫌なら協力しろよ!」
「断る。お前の中の俺が俺が終わろうと切り分けた魂はまだ十八もある。とはいえ、腹立たしいことにこの体の支配者は俺ではない。代わりたいのなら代わるがいい。だがその時は呪霊よりも先に
「んなこと俺がさせねぇよ…!」
「だろうな。だが俺にばかり構っているとそれこそ仲間が死ぬぞ」
虎杖の肉体に受肉している
(呪術じゃない…ただ呪力を飛ばしただけだ…)
「伏黒!みんな連れて
「できるわけねえだろ!特級相手に片腕で!!」
「よく見ろって、楽しんでる。完全に舐めてんだよ、俺達のこと。時間稼ぎくらいなんとかなる」
「駄目だ…!」
「伏黒!…頼む」
絶望的な状況ではあるが、特級呪霊はケタケタと笑い声を上げながら挑発している。実力差を理解した上で玩具のように弄ぶつもりなのだろう。等級による格付けの呪術的な意味合いを学ぶ伏黒だからこそ虎杖の決断を止めようとしていたが、虎杖の覚悟を決めた眼差しに根負けして歯を食いしばりながら一人逃亡を図る。
「『
生得領域内を駆け回り、手の薬指と中指の間を広げてもう片方の手を重ね、両親指を耳に見立てる影絵を媒体に召喚した玉犬・黒を傍らに奔走する。特級呪霊に破壊された玉犬・白のように嗅覚による探知と呪力による感知を併用し、仲間の居場所を探し当てていく。宿儺というカードを切らねば、虎杖は落命する。それだけは避けなければならない事態だが、タイムリミットは刻一刻と迫る。
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暗闇が広がる空間にて
「残りはこれ一本。はぁ…もっといっぱい持ってくれば良かった」
しかし、釘崎は諦念を抱いていようと最後の一本を爪痕として活かす。手の中で握り直す金槌でそれを打ち飛ばし、一体の呪霊を仕留めるとそれが落下する前に飛び移る。当たって砕ける覚悟で呪霊へ殴りかかり、金槌で殴打してから次々に別の呪霊に飛び掛かって祓っていく。しかし、調子が良かったのも束の間…釘崎は下半身を何者かに掴まれて視界と髪の流れが逆さまになって身動きが取れなくなる。その拍子に金槌は落下して柄の部分がへし折れた。
「お前、顔覚えたからな!絶対呪ってやる!」
丸腰の状態の釘崎を摘み上げるのは、不気味な色をした爬虫型の呪霊。その周囲を取り囲んで嘲笑するように声を上げているのは、目が複数蠢く傘を持つ三体の茸型呪霊。爬虫型の呪霊が大口を開けて釘崎を呑み込もうとした時、舌のようなものが釘崎の胴に巻き付く。その舌は釘崎を爬虫型の呪霊から引き寄せ、その呪霊の頭部には生玉の紋様を持つ白い大蛇が噛み付いて牽制している。
「脱出するぞ、釘崎!」
「カエル…苦手なんすけど…」
「悪かったな!」
釘崎を救出したのは伏黒、人体サイズの大ガエルの式神『
「この合図……金城は問題ないってことか。お前は自力でなんとかするって言いたいんだな。生きて戻れよ、絶対に」
小石が普通のサイズに戻ったということは、離れ離れになった譲と美音は生存している。特級との対決に備えて、譲と伏黒にだけ把握できる合図の方法だった。その小石は生存確認と同時に「俺は余裕だ、どんと構えてやってる」の精神が込められている。脱出次第、虎杖に合図を伝えて宿儺の力を借りたいところだが、伏黒は早めに譲と美音が脱出しなければ皆殺しにされる可能性を考慮した上での判断を下さなければならない。ここでの譲が残した小石はその判断を後押しする『希望』と『信頼』が詰まっている。
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虎杖、伏黒、釘崎と分離された譲と美音は
「スタンドのガスを噴射!?管の中は閉鎖空間だ、逃げ場なんてない!自分自身を危険に曝しているだけだッ!!」
「煙幕にしているつもり?自傷覚悟なら悪いけど、自分の耳は誤魔化せない。波瀬ッ!」
大きな管のエネルギー内には波瀬のスタンド・『
「まずいッ!スタンドの射程距離を利用して、奴の能力で床を掘り、攻撃のタイミングに合わせて美音ちゃんに直撃させたのかッ!」
「うッ……やば…呪力が練りにくい…」
アルケミアの錬金によって絆創膏から治癒力を生成したとしても、ペイント・イット・ブラックにより発生したガスの毒性と取り込んだ物質による呪力操作阻害は拭えない。そして他人の心配をする余裕も譲には残されていない。アルケミアで作り出した管のエネルギー、則ち波瀬を閉じ込めていた閉鎖空間は崩壊する。溜まりに溜まっていたガスは瞬く間に広がり、勢いよく吹き抜けて後方の壁にまで塗りたくられる。
「こ…れは……宿儺の……呪力なのかッ…!?」
「宿儺……そんな名前を聞いた気がするっスな」
「波瀬………お前は何者…なんだ…ッ」
「芸術を追求し、探求する画家っスな〜〜ッ!」
吹き付けられ、あっという間に譲の全身に張り巡らされたガスの成分には生得領域の物質が取り込まれている。特級呪霊が展開した生得領域、故に呪力操作阻害が働いているのかと考察していたが、それは不正確だった。虎杖と接触した際に微かに触れた両面宿儺の呪力がガスには練り込まれていた。宿儺は二十本もの指に自身の膨大な呪力を分散し、呪物化して生き永らえている。その『宿儺の指』という呪物を取り込んだのが特級呪霊なのであれば、生得領域の物質から生成したペイント・イット・ブラックのガスも宿儺の指の毒が詰まっている。
ガスや特級呪霊、宿儺の指の毒性のトリプルパンチで肉体の自由が効かずに突っ伏す譲は波瀬のスタンドで蹴り飛ばされる。『宿儺の指』が特級呪霊に取り込まれ、スタンド使いである波瀬が襲撃するなど何者かによって仕組まれているとしか思えない。譲は力を振り絞って上体を起こし、ハンディファンを錬金して風力でガスを晴らす。空間内は閉鎖されているため、その場を凌ぐ時間稼ぎにしかならない。間髪入れずに間合いを詰めてきた波瀬はスタンドを行使して譲にラッシュを繰り出すが、弱々しくも防戦一方を貫いて譲は抵抗する。しかし、劣悪な健康状態のまま攻撃を受ければ打ち負ける。
「さてと、そろそろ二人まとめて作品に昇華させないとっスな。
「………俺の術式は…対象を……錬金対象として…視ることで………互いの呪力に……共振が…働いて…………位置を…特定する」
「は?……いやいや、君の能力はスタンドで名はアルケミアっスよな」
「“スタンド”……はな。気付けないのも……無理はない。俺の術式は……心底地味、接近すれば……するほど…呪力の微細な……揺らぎを……読み取り、攻撃を……半歩先まで…先読みすることも可能に………なるから…物は使い様だと…思っている。お前の……スタンド…だって…使い方が上手いから…………ここまで…俺達を…追い詰めたんじゃあ……ないか」
「君に……術式…?そんな情報は聞いていないっスな!!」
「だろうな………以前の俺でも…気付くことのできなかった術式…………実は…前の方が呪力消費は………抑えめ…だったんだ。タネが…バレてしまえば…元も子もない術式………だから、よっぽど……じゃなきゃ術式の開示はしない。どうやら…お前は………その…よっぽどの……相手になってしまったようだな………波瀬」
譲の術式は最初から波瀬を捕捉していた。波瀬は呪力よりもスタンドパワーの主張が激しかったが、彼の呪力のみに術式対象を絞ることで本体の位置を常に特定する。スタンドによる予測不能な攻撃は術式対象の範囲外のため、結果的には譲も美音も窮地に追い詰められた。この選択ミスは波瀬のスタンドが近距離パワー型だと抜かったのが原因。途中の術式対象の変更は呪力を更に消費し、呪力総量が限りなく少ない譲はそれをリスクだと考慮して変更は加えなかった。以前の譲は術式に気づかないという縛りによって術式を成立、限りなく少ない呪力消費で運用していたため、過去に発揮された動体視力の向上や敵の位置の特定はそこが起因している。チェルカ・ヴィッラとの戦闘はそれがより顕著である。
「肝心なことを…教えていなかった。術式の名は《
「……おい、金城譲…何故君は普通に喋れているっスな!?」
「義理はないが、欲張りなお前に解説をオマケしておこうか。術式の開示で《金の命運》は呪力消費を格段に少なくし、効率もアップした。そしてもう一つ、俺は他者に触れることで『呪力』を自由に運搬できる。お前の新鮮な呪力は俺に攻撃した時、この手で触れてきっちりと貰っておいた。濾過して“俺達”に使えるようにな」
「………俺…達……?」
《金の命運》は自身と触れた対象の呪力の行き来を可能とする。現在、譲が施した術は三つ。波瀬の呪力を自分へ強奪、その呪力を全身に循環させて復帰、そして………残りの呪力は硬直していたはずの美音へ明け渡され、波瀬の背後に立って両腕を構えられる程に回復させた。両者共に満身創痍ではあるものの反撃を見舞うくらいの底力は出せる。そして、美音の両拳には四つの鈴が埋め込まれたグローブがあり、革は色鮮やかに光を反射する。痛め付けられた分だけ返す、気合いは十分だ。
「あんたに……自分達の思う『芸術』をぶち込む。『
『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ!!
画家・波瀬清也、スタンド名—「ペイント・イット・ブラック」———譲のアルケミアのラッシュと美音の拳の鈴から叩き込まれる音撃に板挟みにされ、
「一番芸術的なのはあんたの顔ね…」
「さて、恵君に合図は済ませた。急ごうか、美音ちゃん」
金の命運、音の拳、勝利へ導き———!!
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《パラメータ》
【術式名】 【術者】
金の命運 金城譲
等級-準2級呪術師