運命の錬金   作:天野河

22 / 22
第22話 呪胎戴天-参- 両面宿儺

西東京市・英集修道院、第二宿舎内で展開された特級呪霊の生得領域内から金城譲(かねしろゆずる)鈴原美音(すずはらみおと)伏黒恵(ふしぐろめぐみ)釘崎野薔薇(くぎさきのばら)が脱出を試みるよりも時間は少し遡る。虎杖悠仁(いたどりゆうじ)はたった一人で仲間を逃がすために特級呪霊と睨み合う。

 

 

「ふんどし一丁で動きやすくなりましたってか」

 

 

舐め腐って嘲る特級呪霊は下半身の布を引き千切り、覆い隠すものはふんどしだけとなった。虎杖は軽口を飛ばすものの、呪術のいろはすら学んでおらず、ただの打撃が通用する相手ではない。時間稼ぎに徹しようとしたが、圧倒的な呪力量と衝撃の波に押し出され、勢いよく壁にぶち当たる。壁面が凹むほどの破壊力、鼻血が垂れながら思考を回すが、目を見開いた時には漲る呪力を拳に宿して特級呪霊が切迫していた。呻くのと同時に特級呪霊の拳が減り込み、内臓が暴れながら壁に風穴を空けて別の部屋へと転がる。白目を剥いて意識を飛ばすが、穴から闊歩する特級呪霊は身を縮めて呪力を解き放そうとしている。

 

 

「ううッ!ぐううううッ"!!あぁ"!」

 

 

特級呪霊を中心に広がった呪力のバリアは両腕で抵抗しようとする虎杖のまだ機能していた右手の指を焦がし、肉の焼ける匂いが立ち込め、ボロボロと劣化した木屑のように焼灼する。涙を浮かべ、ひたすらに喘ぐ———痛い痛い痛い、辛い辛い辛い、なんで俺が!!あの時、俺が指なんて拾わなければ、喰わなければ!あの時、あの時!!やめろ、考えるな!嫌だ嫌だ、逃げたい逃げたい、死にたくない!ここで死んで、死んだとして、それは『正しい死』か!?

 

 

「ん…ぐうううウ"ッ!!考えるなァァ!!!」

 

 

『人を助けろ』

 

 

誤魔化しきれない今際の際の本音、人間たる所以の『死』に対する恨み辛み、それら全てを反芻しようとも虎杖は意を決して咆哮を上げる。祖父の遺言が身に染み、圧倒的な呪力を誇った衝撃波に吹き飛ばされる。「俺はこんなに弱かったのか」と自身の脆弱さに打ちひしがれ、現実は非情であると突き飛ばされる。背中を強打した壁は蜘蛛の巣状のヒビが入り、強さへの自信は既に擦り減っていた。

 

 

「俺は強いと思ってた。死に時を選べるくらいには強いと思ってたんだ。でも違った…俺は弱い……ッ!全っ然、弱すぎる……!!ああ"ーーッ、死にたくねえ!嫌だ!嫌だよ、でも…死ぬんだ……!!」

 

 

『特級』という位置付けの呪霊、虎杖はそのスタートラインに立つことすら許されない。眼前の敵は並の呪霊ではないのだから当然だ。通用していたはずの体術も常識も全てを覆すのが『特級』。憎悪、恐怖、後悔が音として込められる。しかし、彼は言の葉の裏で自身を罵倒、静かに密かに秘密裏に滾らせていた———『正しい死か?』じゃねえよ、甘えんな!『呪術師に悔いのない死はない』、それでもこの死が正しかったと言えるように。

 

 

『呪いは人間の負の感情から生まれる』

 

 

嘗て伏黒が語った言葉の意味———ならば憎悪も恐怖も後悔も全て出しきれ!拳に乗せろッ!———膂力に負の感情を源流とする呪力を足して床の破片が砕け散るまで足で強く踏み込み、拳を振るう。歯を見せて笑いながらその拳を止めた特級呪霊の前では意味を成さない。刹那、犬の遠吠えが鼓膜に触れる。伏黒の合図、全員が無事に脱出した合図だ。顔面に黒の紋様が浮かび上がり、気配が変化すると特級呪霊は若干後退る。

 

 

「つくづく忌々しい小僧だ。この俺を完全に舐めてやがる。少し待て、今考えてる。どうすればあの小僧(虎杖悠仁)を後悔させられるかをな」

 

 

呪いの王(両面宿儺)が虎杖の肉体を媒介に再臨する。既に距離を離されたため、伏黒達の始末に駆り出すたとしても肉体の主導権は飽くまで虎杖にある。直前で意識を代わられるのがオチ、宿儺は元の状況に戻してやるために肩に手を置いていた特級呪霊に向き直る。

 

 

「おい。ガキ共を殺しに行くぞ、付いて来い」

 

 

「うう…アアアア"ーーッ!!」

 

 

「馬鹿が」

 

 

右手を再生してからさっさと出口を探そうと歩き出した時、特級呪霊は両手に呪力のエネルギーを溜め込んでそれを光線として発射する。宿儺は欠損していたはずの左手首から先を瞬時に再生し、その光線を弾き飛ばした。後方に余波が飛んで土埃が舞いながら壁を破壊する。特級呪霊は呆気に取られたようで、声を上げて口をあんぐりと開けていた。

 

 

「散歩は嫌か。まあ元来、呪霊は生まれた場に留まるモノだしな。良い良い、それならここで死ねッ!」

 

 

「ガッ……ガハッ…アア…」

 

 

「おいどうした?もう終わりではないだろうな?ほら、頑張れ頑張れ」

 

 

笑顔を見せた宿儺は特級呪霊でも目で追えぬ速度で飛び上がり、特級呪霊の顔面を鷲掴むと地面へと叩き付けた。呻き声を上げながら上体を起こそうとする特級呪霊を踏み付け、橋が崩れてそのまま砕けた建材と共に落下する。途中、特級呪霊は宿儺の左足首を掴み、振り回そうとする。ぶん投げる直前でその右手は切断されて紫色の血液が飛び散った。

 

 

「呪霊といえど、腕は惜しいか?」

 

 

「ヒッ…」

 

 

「ケヒッ、ウッフッフッフッ!ハハハハッ!!」

 

 

落石の上に腰を掛けて切り取った特級呪霊の腕を見せつけながら、崩壊した橋と共に下に溜まる水中へと特級呪霊が沈み、大きな水飛沫を上げる様を腹の底から笑い声を出してやった。これが両面宿儺、特級とはいえど半端な呪霊では呪いの王に太刀打ちする術すら持ち合わせていなかった。狂気的な強さと笑みに畏怖の念を抱く他ない。

 

******

 

特級呪霊の生得領域及び修道院から脱出した四人は合流し、補助監督の伊地知潔高(いじちきよたか)に状況を説明する。そして特級呪霊と宿儺の出現の脅威度を鑑みて避難区域を10キロメートルという広範囲に設定してもらう。湿った匂いと共に天から雫が降り注ぎ、曇天が頭上を埋め尽くす。

 

 

「伏黒君と金城君は?」

 

 

「ここで虎杖が戻るのを待ちます」

 

 

「俺も残ります。野薔薇さんや美音ちゃんよりは幾分か気力が残っているのでね」

 

 

居残る二人より釘崎も美音も十分なパフォーマンスを持って継戦するのは困難と判断された。譲の術式《金の命運(ゴールデンフェイト)》を使用して呪力を分け与え、幽波紋(スタンド)・『錬金(アルケミア)』によって絆創膏から治癒力を付与すれば二人とも加勢することは可能である。しかし、そうしないのは伏黒と譲が話し合った上での意向。加勢したところで、勝機の薄い相手に挑むともなれば死は免れない。仮に特級呪霊、延いては宿儺と接敵するとすれば死者も負傷者も少ない方がいいのだ。

 

 

「そうですか。私も釘崎さんと鈴原さんを病院へ届けたらなるべく早く戻ります」

 

 

「いや、伊地知さんは居てもあんまり意味ないので」

 

 

「随分な言い様だよ。もっとオブラートにいこう、恵君」

 

 

「…1級以上の術師を寄越してもらうように頼んでもらえますか?まあ、いないと思うけど」

 

 

「努力いたします。では」

 

 

伊地知さんは頼りになる補助監督だが、呪術師としての戦闘能力は限りなく皆無。それを理解した上での要求だったのだが、横から譲が首を突っ込むほどのデリカシーの無さだったので思わず指摘する。呪術師の人員不足、限られた時間内での派遣は極めて難しいので、他の術師の助力は諦めていた。窓を閉めてアクセルを踏んだことで発進した伊地知の車は段々と小さくなっていく。

 

 

「…もしもの時は……俺にはあいつを始末する責任がある」

 

 

「随分重たい責任だ。それって、一人で抱え込まなくちゃいけないのかい?」

 

 

「あいつを助けたのは俺の私情だ。もし宿儺が表に出ているのなら問答無用で殺すしかない」

 

 

「君って優しいな。太陽に寄り添える影のようで、鋭く見えるけど柔らかい人だ」

 

 

「褒め言葉には聞こえないな。それに俺はそんな立派な人間じゃねえよ」

 

 

「今は俺がいる。俺にも背負わせてくれよ」

 

 

宿儺から虎杖に戻るとして、そこには何らかの条件という名の縛りが課せられていてもおかしくはない。自らの情で五条悟(ごじょうさとる)に頼み込んでまで、虎杖を人間として生存させた。その『身勝手』はいずれ甚大な被害を起こしかねない脅威となり、大いなる『責任』が伴う。その責任を今だけは譲も背負ってやる。それが成せるのは彼ら二人が互いを『信頼』しているからだ。二人はその証に相手の肩を軽く拳で殴って、覚悟を決める。

 

******

 

瓦解した建材の上でポケットに手を突っ込みながら薄ら笑いを浮かべる宿儺は斜め上を見上げて、滴り落ちる紫色の液体が壁を伝う様を鼻で笑っていた。水面はひと揺れもせずに宿儺の周囲に波紋すら生じていない。

 

 

「おい、知ってるか?我々は共に“特級”という等級に分類されるそうだ。俺と…(お前)がだぞ?」

 

 

宿儺の視線の先には四肢を分断され、壁に(はりつけ)になった特級呪霊の哀れな姿、無様という他ない。壁に埋まる特級呪霊は息を荒くしながら這い出てくると呪力から肉体を再生し、ぶくぶくと両腕、両足を復元する。

 

 

「いいぞ、特級。頑張れがんばれ」

 

 

「ニフッ」

 

 

「嬉しそうだな、褒めてやろうか?だが呪力による治癒は人間とは違い、呪霊にとってそう難しいことではないぞ。お前もこの小僧(虎杖悠仁)も呪いのなんたるかをまるで分かっていないなあ。良い機会だ、教えてやる…本物の呪術というものを」

 

 

完全に肉体が復活を遂げた特級呪霊は宿儺の前に着地して形成逆転と言わんばかりの調子づいた様子で威嚇する。しかし、宿儺は特級呪霊ですら呪術の全貌を知らないとまで豪語する。宿儺は手印を組む、それはとある呪術の掌印。運命と死と地獄の神閻魔天の印。

 

 

「領域展開———『伏魔御廚子(ふくまみづし)』」

 

 

鈴の音が鼓動のように反響し、水面に一つの波紋が広がる。両面宿儺の生得領域を具現化した領域展開は伏魔御廚子、多種多様な生物の頭骨に象られた不気味な寺のお堂が背後に顕現。特級呪霊が瞬きする間もなく、胴体が五枚に分断、その他の両手足は細かく切り飛ばされた。

 

 

「三枚に下ろしたつもりだったんだが、やはり弱いなお前。そうそうそれからこれこれ、これ()は貰っていくぞ」

 

 

微動だにしない特級呪霊の胸の穴に指を突っ込み、何かを捻り出すとそこからは特級呪物『宿儺の指』が姿を露わにする。特級呪霊は宿儺の指の呪力を依代に呪力を得ていたのだった。元の持ち主へと渡り、宿儺が背を向けてその場から離れると特級呪霊は炎に包まれて灰のように朽ちていく。

 

 

「終わったぞ!不愉快だ、代わるのならさっさと代われ!どうした?小僧………………………………ケヒッ」

 

 

言いなりになるのは心底不愉快であろう宿儺が虎杖の理想通りに特級呪霊を始末した。肉体のコントロールを可能とするのは虎杖本人、しかし宿儺が声を張り上げようともそこに応答はなく、暫く黙り込んだ後に状況を察してか宿儺は口角を上げて悍ましい笑みを浮かべた。

 

******

 

雨水に全身を小刻みに打たれる中、修道院の方向から巨大な呪力の消失を感知する。それが意味することとは、生得領域が閉じたことによる特級呪霊の死亡。伏黒と譲は若干安堵し、虎杖の帰還を待ち望むのみ。

 

 

「残念だが、ヤツ(虎杖)なら戻らんぞ」

 

 

二人は気取られる。背後で別人の声で語りかけるそれは原因不明ではあるものの、虎杖の肉体を支配下に収めた宿儺だ。起こり得る最悪のパターンに二人は遭遇した。特級呪霊を祓ったのは間違いなく、宿儺だ。その宿儺に背後を取られているのならば、もれなく二人の命の線は宿儺によって切られることとなるだろう。

 

 

「そう脅えるな。今は機嫌がいい、少し話そう。これなんの“縛り”もなく、俺を利用したツケだな。俺と代わるのに少々手こずっているようだ」

 

 

「相手が呪いの王ともなると…代償がでかかった。縛りとはいえ、俺達の最大の誤算だった」

 

 

「しかしまあ、それも時間の問題だろう。そこで俺に今できることを考えた」

 

 

虎杖との接触から宿儺の呪力に直接触れた譲は表面化した宿儺との対話に冷や汗が毛穴から噴き出てくるが、それは雨に紛れる。余裕綽々の宿儺は両手で高専の制服を引き裂き、破り捨てた。露わになるのは鍛え上げられた肉体に刻み込まれた紋様、黒く尖った爪を胸に突き刺し、鮮血が漏れ出た。

 

 

「なっ…命を繋ぐ……心臓を…ッ」

 

 

「クククッ…小僧を人質にする」

 

 

「人質…?」

 

 

「ああ。俺はこれ(心臓)無しでも生きていられるがな、小僧はそうもいかん。俺と代わることは死を意味する。“縛り”か知らんが、そこの錬金の餓鬼(金城譲)でもこの体を『人間』として扱う内は治すことができないのだろう?」

 

 

「……っ、悠仁君の中からでも俺のことは筒抜けか…ご明察の通りだ」

 

 

胸の中から引き抜いたのは虎杖の心臓、鼓動が弱まり、血濡れたそれを野原に投げ捨てる。呪いの王ともなると心臓無しでも生存する所業までやり遂げ、その上で譲の能力の条件や限界の大体を虎杖の中で把握されている。自身でもそこだけは不便な能力であることは自覚しているが、変えようがないのだ。

 

 

「そして更に、駄目押しだ」

 

 

((宿儺の指ッ!))

 

 

「さてと、晴れて自由の身だ。もう脅えていいぞ、殺す。特に理由はない」

 

 

「あの時と…立場が逆転したな」

 

 

吐血していた口内へ運ぶように宿儺は取り出した宿儺の指を迎え舌で取り込む。やはり特級呪霊が宿儺の指を糧に呪力を得ていたことの証明、宿儺の気紛れはこれにて閉幕するらしい。これからは一方的な殺戮が起きかねない。ビキビキと音を鳴らしながら鋭利な爪を光らせる宿儺の前で俺たちは臨戦体制に入る。伏黒だけはポツリと独りごちてから目付きを強いものへと変える。伏黒は想起する、『不平等な現実のみが平等に与えられている』という自身の考え方の一つを。

 

 

「分かってないんだな。アイツは…虎杖は戻ってくる。その結果、自分が死んでもな。そういう奴だ」

 

 

「買い被りすぎだ。コイツは他の人間より多少頑丈で鈍いだけだ。先刻もな、今際の際で脅えに脅え、ゴチャゴチャと御託を並べていたぞ。断言する、奴に自死する度胸はない!」

 

 

「勝手に言い切ればいい。宿儺、お前が内側で見た悠仁君よりもこの目で見てきた悠仁君を俺達は『信頼』する。こちらも言い切らせてもらおうか、呪いの王にわかるはずもないが、『死』は誰であろうと怖いものだ。それでも死に迫ろうと立ち向かう『覚悟』ってのが、悠仁君の中にも眠っていることを俺達は願うし、『信頼』するんだ」

 

 

「よく喋る。お前もこの俺に畏怖の念を抱いているだろうに。虚勢を張るのに全力、手足が震えているぞ?」

 

 

宿儺がどんなに虎杖の生にしがみつく惨めな姿をその目に焼き付けていようとこの場において二人だけは彼を『信頼』する。以前、虎杖を介して触れた宿儺の呪力からその張本人と接敵し、生まれて初めて譲はその『死』への恐怖からトラウマというものに鉢合わせることとなる。それでも虎杖を『信頼』する上で、口だけではないことを『証明』するため、譲自らも宿儺に立ち向かってやる気でいた。否、立ち向かうのだッ!

 

 

(特級にやられた腕が治ってる。治癒…反転術式が使えるんだ。宿儺は受肉してる。心臓無しで生きられるとはいえ、ダメージはあるはずだ。虎杖が戻る前に心臓を治させる。心臓を欠いた体では俺達に勝てないと思わせるんだ!できるか?俺達に…特級の前ですら動けなかった俺に………できるかじゃねえ、やるんだよッ!)

 

 

「必ず君に繋ぐから、君は俺に繋いでくれッ!決して無駄にはしないッ!!」

 

 

「折角外に出たんだ。広く使おう」

 

 

意気込んだ二人、伏黒が先制して両手を交差させて翼を表現し、親指をくちばしに見立てる影絵から髑髏のような仮面をつけた巨鳥の式神・『(ぬえ)』を召喚して繰り出す。飛び回る鵺が牽制、譲と伏黒が同時に宿儺へ殴り掛かるがのらりくらりと躱される。タイミングを見計らって伏黒が後ろ蹴りで宿儺を後方へ引き摺らせ、鵺と挟み撃ちにしようと試みる。

 

 

「ほう、面白い。式神使いのくせに術師本人が向かってくるか」

 

 

「アルケミアッ!遠慮はいらない、宿儺を叩けッ!!」

 

 

(こっちの餓鬼も式神使い…だが、見たところ術師本人からはそう離れられんらしい。錬金云々の術式は式神由来のモノか………いや、これは——)

 

 

『無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ!!』

 

 

「この俺の目は誤魔化せん。お前が主軸に扱っているのは呪力とは似て非なる力、性質的には反転術式に近いが、直接的に治癒する力とは程遠い。少数ではあるが、1000年前にも存在はしていた。呪術師とは言えんがなッ!もっと呪いを込めて打ってみろ!!フッ、ハハハッ」

 

 

宿儺の前ではスタンドすらも呪力によって発動する術式とは異なるものだと看破される。伏黒と鵺による攻撃に合わせ、アルケミアもラッシュを繰り出していくが全て回避され、宿儺に二人の腕を掴まれる。瞬時に頭部を鷲掴まれ、そのまま互いの頭部同士を宿儺に衝突させられ、その振動に目眩が起きる。すぐに顎先を殴り飛ばされ、宿儺からまるで玩具を乱暴に扱うかのように恐怖に漬け込まれるような笑みをかけられる。

 

 

「『大蛇(オロチ)』!!畳みかけろッ!」

 

 

人差し指と中指で輪っか、作り目を表現、親指を下顎として見立てる影絵により宿儺の足元から白い大蛇の式神を昇らせる。宿儺に噛みついたまま上空へ拘束し、鵺が羽撃きながら電撃を幾度となく浴びせる。不適な笑みを浮かべる宿儺は大蛇を頭部から尻尾まで次々に内部から破壊し、姿を眩ます。しかし、譲は決して活かすタイミングを見逃さず、破壊される前の大蛇の尻尾にアルケミアで触れていた。アルケミアは式神である大蛇も破壊された側から完全に復元させる。

 

 

「恵君ッ!大蛇を戻せ!!全貌はわからないが、宿儺は術式を使用して大蛇を一度破壊したッ!次は………っ」

 

 

「なあ、言ったろう?広く使おうッ!!」

 

 

譲が言い終わる前に視界は曇天で包まれる。続いて伏黒も服を掴まれ、投げ飛ばされる。二人は林の中で幹を砕きながら傷を負い、伏黒は宿儺から蹴りをもらい、譲はスタンドで防御をしたものの顔面に拳が減り込んだまま団地の屋上に転がり込む。二人とも肉体を呪力で強化しているが、全く歯が立たない。規格外、四方八方に打撃を浴びるだけで内臓や四肢が千切れそうになる威力で天へ投げ出され、建造物を突き抜けてまた宙へ放り込まれる。伏黒は鵺に拾われ、譲はどさくさに紛れて拾い上げた紙飛行機を錬金することで紙飛行機型のエネルギーに変換し、飛行能力を得たままその場を離れる。

 

 

(呪術云々じゃない。膂力(パワー)敏捷性(アジリティ)も格が違うッ!)

 

 

「良い術式だッ!!」

 

 

一瞬を掻い潜るだけで精一杯どころか必ず何処かで数発貰う。その数発が生死を分けるほどの強大な威力を誇り、宿儺の片手で弾かれただけで二人は地面に捩じ伏せられた。伏黒は団地を突き抜けて一階に辿り着き、瀕死の鵺に羽で守護されている。一方の譲は20m先の木の枝を折ってそれごとタイルに衝突し、頭から血を流して気絶していた。

 

 

(どうする…?金城はもう動けない。アイツも万全とはいえない状態で宿儺と戦って、余力なんて微塵もないはずだ。俺は生得領域を抜けるのに式神を一通り使っちまった。金城のお陰で大蛇は無事だが、玉犬・白は破壊され、その上…鵺も限界だ。壊される前に解いた方がいいな)

 

 

「なるほど。お前の式神、影を媒体にしているのか。錬金の餓鬼が使役する式神とは違う」

 

 

「なら、なんだ?」

 

 

譲は先の波瀬清也(はせせいや)との戦闘で得た呪力を活用していたとはいえ、肉体の回復に直結するものではない。増加した呪力で肉体を強化しようと貫通してくる宿儺の攻撃の前ではスタンドでの防御すら辛うじて死を免れているに過ぎない。伏黒は鵺を解き、宿儺の問い掛けに大して今更術式の概要を当てられたところで支障はないと話に乗ってやる。

 

 

(どちらも呪符を扱うありきたりな術式ではないが、式神だけを見るならばコイツ(伏黒)の術式は特に抜きん出て応用も利く…。対して錬金の餓鬼は錬金能力を補う形で正真正銘の術式を保持している。推し量るに術式の方は呪力の補足と運搬…そして術式発動時の呪力の“起こり”を容易く高精度で観測する。俺の呪力に触れることができたのも頷ける)

 

 

譲のアルケミアはスタンドであり、術式ではない。その点に於いても宿儺は術式とはっきり区別しており、伏黒の術式の優位性を理解していた。伏黒の術式《十種影法術(とくさのかげぼうじゅつ)》は術式一つで多数の式神を使役し、その分だけ能力を保持している。譲は射程距離の限られたスタンドに本来の術式である《金の命運》によって戦闘のバランスを保つ。それでも宿儺の中では強力な術式として観察していたのは伏黒恵の十種影法術だ。術式という点が大きいのだ。

 

 

「分からんな。お前あの時、何故逃げた?ふっ、宝の持ち腐れだな」

 

 

「ん…?」

 

 

「まあいい。どのみちその程度ではここ(心臓)は治さんぞ。つまらんことに命を懸けたな」

 

 

(バレバレか…)

 

 

「この小僧にそれほどの価値はないというのに」

 

 

宿儺の質問の意図はわからない。ふらふらと蹌踉めきながら立ち上がる伏黒は虎杖からの「じゃあなんで俺は助けたんだよ」という叫びが脳裏にこびりついていた。『不平等な現実のみが平等に与えられている』という伏黒の思想、それの基盤は彼の姉である伏黒津美紀(ふしぐろつみき)が原因だった。「誰かを呪う暇があれば大切な人を考えていたい」という思想を持つ津美紀は疑う余地のない善人だった。誰よりも幸せになるべきだと伏黒は願っていたし、それが当然だと思っていた。しかし、彼女は呪われた…呪いに侵され、額にはそれを示す呪印が浮かび上がり、寝たきりとなった。

 

伏黒の性別を知らずに“恵”という名前をつけた父親は今も何処かでのうのうと生きており、因果応報は全自動ではないと疑わなかった。悪人は法の下で初めて裁かれる。呪術師はそんな“報い”の歯車の一つ、ただ伏黒は少しでも多くの善人が平等を享受できるように———津美紀が呪われたのを切っ掛けに彼は『俺は不平等に人を助ける』と心に誓っていた。両手を突き出して先程よりも膨れ上がった呪力を練り上げる伏黒、その『覚悟』が決まった鋭い目付きに宿儺はビリビリと全身でその闘志を受ける。

 

 

「良い、良いぞ。お前が命を燃やすのはこれからだったわけだ。なるほど、そうか、それなら…魅せてみろ!!伏黒恵ッ!!」

 

 

布瑠部(ふるべ)……由良由良(ゆらゆら)八握(やつかの)…………あ…………………………言っておくが俺はお前を助けた理由に論理的な思考を持ち合わせていない。危険だとしてもお前のような善人が死ぬのを見たくなかった。それなりに迷いはしたが、結局は我儘な感情論、でもそれでいいんだ。俺はヒーローじゃない、呪術師なんだ」

 

 

宿儺の期待に応えてやるつもりはないが、自死を覚悟してでも倒し切ろうとしていた。練り上げた呪力を祓詞(はらえことば)に乗せる。その途中で目を見開き、呪力を抑えて中断すると少しずつ紋様が薄くなっていく宿儺に語り出した伏黒。否…それは肉体をコントロール下に収めて意識を戻した虎杖に伝えておくべき『信念』だった。

 

 

「だからお前を助けたことを一度だって後悔したことはない」

 

 

「…そっか。やっぱ伏黒は頭がいいからな、俺より色々考えてんだろ。お前の真実は正しいと思う。でも俺が間違ってるとも思わん。あー、悪い…そろそろだわ…伏黒も釘崎も金城も鈴原先輩も……五条先生…は心配いらねえか。長生き、しろよ」

 

 

降る雨強く、虎杖死亡———!!

 

******

 

《パラメータ》

 

【術式名】   【術者】

不明     少年院の呪霊

 

等級-特級呪霊

 

【術式名】   【術者】

不明     両面宿儺

 

等級-特級呪物(特級呪術師相当)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(必須:50文字~500文字)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

磁石みたいな呪力してたら厄ネタも寄ってくるんだが(作者:トルへパ)(原作:呪術廻戦)

▼「なんか無下限みたい」「攻撃あたんないし」「五条先生とはどういう関係性なん?」▼主人公「」▼黒幕「興味深いね」


総合評価:213/評価:6.71/連載:11話/更新日時:2026年05月31日(日) 16:58 小説情報

禪院家に生まれしハンター(作者:とっとこDIO)(原作:呪術廻戦)

禪院家の二十五代目当主の三兄弟の三男として生まれたオリ主。名を"禪院龍甚"術式は禪院家相伝に非常に似通った術式【百竜夜行】▼モンスターを調伏《狩猟》する事で操り、狩猟したモンスターの装備を纏う事で力を発揮する。▼※フロンティア・ストーリーズのみの登場であるモンスターは、今作に登場しません。▼↓主人公の見た目の特徴を言ってなかったのでここに…


総合評価:334/評価:5.38/連載:24話/更新日時:2026年07月22日(水) 21:16 小説情報

最強さんに拾われたら呪術師になった話(作者:サーナイト大好きっ子)(原作:呪術廻戦)

最強の術師・五条悟に拾われたのは、不思議な力を秘めた少女・神念りこ。▼呪術界の常識を塗り替える「エスパー」の力。 ▼彼女が抱きしめるルカリオやサーナイトのぬいぐるみには、ある秘密が……?▼虎杖悠仁、伏黒恵、釘崎野薔薇。 ▼かけがえのない仲間と共に、彼女は呪い渦巻く世界を駆け抜ける。▼——これは、弱気な少女が「最強」の傍らで自分の居場所を見つける物語。▼なんで…


総合評価:42/評価:-.--/連載:12話/更新日時:2026年06月14日(日) 17:53 小説情報

もしも五条悟がフリーレン世界に転生したら(作者:ケンタ〜)(原作:葬送のフリーレン)

▼ もしも五条悟がフリーレン世界に転生したら。▼ 最強の大呪術師はどう生きるのだろうか。▼ 注意▼ 五条悟がバチバチに戦いますが、最初は実力出てないように見えるかもしれません。▼ でもその時は『まだ五条様は本気を出していない』だけなので、安心して読み進めてください。


総合評価:6154/評価:7.53/連載:47話/更新日時:2026年06月05日(金) 21:40 小説情報

呪力は呪力でも呪力かよ!?(作者:パンツ男)(原作:僕のヒーローアカデミア)

事故に遭い、死亡した少年はヒロアカの世界に転生する。▼転生特典は────呪力。▼術式や縛り、黒閃……強力な力でこの世界を生きていくと意気込むも、何かがおかしい……え!?▼呪力(じゅりょく)じゃなくて呪力(しゅりょく)なの!?▼


総合評価:774/評価:6.95/連載:29話/更新日時:2026年08月05日(水) 07:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>