高層ビルが天を貫き、晴れ渡った空の下では交差点で車や人々が右往左往し、喧騒が日常に染み込んでいる。繁華街の日常、点灯は赤を示す信号機の前で横断歩道を眼前に人々の中に紛れ込むのは袈裟の男、そして単眼で頭部が火山のような異形、白い肌に黒い紋様が枝葉のように走っており、顔面から角のように二本の枝が伸びている異形、白布を被ったタコの異形。男以外は所謂…“呪霊”という存在だ。
「おい、どうなんだ?態々貴重な指一本使ってまで、確かめる必要があったかね。宿儺の実力」
「まあ、中途半端な当て馬じゃ、意味ないからね」
「フン。言い訳でないことを祈るぞ」
人語をぺらぺらと操る火山頭の呪霊は
「ぶふぅー、ぶふっー」
「◎△$♪×¥●&%#」
「貴様は喋るでないィ!何を言っているか分からんッ!分からんのに内容は頭に流れてきて気色悪いのだ!!」
動物のように鳴いて反応するタコの呪霊、
「いらっしゃいませー!一名様のご案内でよろしいですか?」
「はい。
『Cafe' レストラン ライス』という緑を基調とした旗におすすめメニューとしてハンバーグを推すチェーン店、所謂ファミレスに一同は足を踏み入れた。店員の目には袈裟の男の姿しか映っておらず、確認に応えるように男は当然のように人差し指を天井に立てながら一人であることを伝え、呪霊らと共にテーブル席へ着く。
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猛暑日、蝉がけたたましく叫ぶ屋外とは裏腹に、呪術高専東京校・霊安室では静寂に包まれていた。死亡して遺体となった
「会敵した時の選択肢は、逃げるか死ぬか…まずは絶対に戦わないことと彼らに忠告したのですが…」
「わざとでしょ」
「は……?と、おっしゃいますと……」
「特級相手。しかも生死不明の五人の救助に1年生の派遣はあり得ない。3年の
虎杖悠仁が絶命する原因となった西東京市・英集修道院での任務の現場状況や任務に当たる際の重要事項、その他諸々の情報を1年生の担任である
「それに悠仁は僕が無理を通して、死刑に実質無期限の猶予を与えた。それを面白くない上が、僕のいぬ間に特級を利用して、体よく彼を始末したってとこだろう」
「あっ…」
「他の四人の誰かが死んでも僕に嫌がらせができて、一石二鳥とか思ってんじゃない?去年まで、高専に属さずに独断で活動していた“呪術師ジョジョ”と“百鬼夜行という呪術テロを起こした
「いや、しかし…派遣が決まった時点では本当に特級になるとは…」
「犯人捜しも面倒だ。一層のこと上の連中、全員殺してしまおうか…!」
両面宿儺が巣食う器である虎杖を誅殺することで、呪術総監部や保守派の人間は安泰となる。現時点では虎杖の次点で
「珍しく感情的だな」
「お疲れ様です!家入さん!」
伊地知が声を張って背筋を整えて角度のいい礼をしたのは
「彼のこと、随分とお気に入りだったんだな」
「僕はいつだって生徒思いのナイスガイさ」
「あまり伊地知を虐めるな。私達と上の間で苦労してるんだ」
(もっと言って…もっと言って、もっと言って!)
「男の苦労なんて興味ねえっつーの」
未来への可能性を紡ぐであろう芽を潰され、五条は怒り心頭に発していたのを汲み取りつつも家入は伊地知に当たるなとフォローを入れる。その心遣いに伊地知は内心その言葉をもっと欲しがっていたが、そう長くは続かなかった。それよりも家入が興味を示すのは白布に覆われた虎杖の遺体だった。
「で、これが“宿儺の器”か。好きに
「役立てろよ」
「役立てるよ。誰に言ってんの」
躊躇いもなく白布を剥ぎ取って、胸に風穴が空いた虎杖の曝された裸体を見下ろす。五条の一言に自信満々で返事をする家入はそれだけのスキルが備わっている。彼女は反転術式を扱えるが死者蘇生は不可能、しかし医療知識はその頭脳に蓄えられているからこそ呪術に精通しながら随一の医者なのである。
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晴れ渡る空、太い木々が並んでその奥から蝉の声が幾度となく弾んでくる。虎杖の犠牲の上で生存した
「『長生きしろよ』って…自分が死んでりゃ世話ないわよ。みんな、仲間が死ぬの初めて?」
「
「……ちょっと前に親代わりになってくれた人が死んじゃった」
「呪術師になってからは、俺も初めてだな」
皆、虎杖の凶報を伏黒に聞かされてからは微かな息遣いしか鼓膜に触れず、その静寂を破ったのは釘崎だった。誰しもが仲間を喪失する経験が済んでいる。美音は嘗て復讐心を燃やしていた夏油傑を亡くし、譲は呪術師になる以前でパッショーネというギャング組織に所属していたため、数は少ないものの危険な任務で仲間が死に至ることもあった。
「……その割には伏黒と金城は平気そうね」
「………お前もな」
「当然でしょ。会って2週間やそこらよ。そんな男が死んで泣き喚くほど、チョロい女じゃないのよ」
「……悠仁君、根明で身の丈に合わない『信念』を持っていたけれど好きな人だった。美音ちゃんもそうでしょう?」
「なっ……う、うん。良い奴だった…すごく。せっかく仲良くなれたのにね……可愛い後輩だったな」
「美音先輩は虎杖のこと結構気に入ってたでしょ。可愛がってたのも丸わかりだし」
「それ抜きにしても、良い奴だった。良い奴だったの、惜しいなあって思わせる人柄…この悲しい気持ちに蓋をして我慢なんてできやしない。それくらい……良い奴」
平然を振る舞う伏黒と釘崎、それでも譲が虎杖という仲間をこの手で救えなかったことを悔やみつつ、彼の『信念』とその明快な人柄だけは誰がなんと言おうと高く付くものだと芯から思い、仲間として好きだとまで言いのけた。釘崎の言う通り、美音は虎杖のことを後輩としてお墨付きにしていたが、それでも譲に続いて彼女は素直に“良い奴”だと吐露した。誰にもその頬を伝う雫を見られぬように顔を伏せて、森林をただひたすら焦がすほど視線を一点集中する。斯く言う釘崎も唇を噛み締めながら表情が口角から歪むのを堪えていた。
「……暑いな」
「そうね。夏服はまだかしら」
季節は空気を読まず、夏の日照りは彼らを天から炙る。伏黒と釘崎の会話のキャッチボールの最中、美音は木に止まっていた蝉の幼虫が姿を変えて成虫として進化しようと、飛び立とうとするのを見た。丈夫に越したことはないが、冷え込んだ心とは裏腹に涼しい夏服を欲しているのは満場一致だった。
「何だ。いつにも増して辛気臭いなあ、お通夜かよ」
「禪院先輩」
「私を苗字で呼ぶんじゃねえ!」
気の強そうな男勝りな長身の女性、眼鏡をかけたポニーテールに高専の制服を身に纏うのは
「真希…!真希!」
「今、話し中だ」
「し…知らないのか?あいつらが暗い訳ッ…!」
「何のことだ?」
「マジで死んでるんですよ。昨日!!1年坊が一人!!」
「おかか…」
「うっ…は・や・く・言・え・や…!これじゃ、私が血も涙もねえ鬼みてぇだろ!!」
「実際そんな感じだぞ!?」
「ツナマヨ」
「いや違えよ!もっと気遣いくらいできるわ!」
同じく2年生の呪骸のパンダ、おにぎりの具が語彙である
「何?あの人達」
「2年の先輩」
「野薔薇さんは初めまして、だったか」
「禪院先輩、呪具の扱いなら学生一だ。呪言師、狗巻先輩、語彙がおにぎりの具しかない。パンダ先輩。あと一人ここには居ないが、乙骨先輩って唯一手放しで尊敬できる人がいるが、今海外」
「あんた達、パンダをパンダで済ませる気か」
「慣れちゃったの、最初はなんでパンダが?って感じ。パンダは2年だけど、そもそも歳の概念すらあるのかよくわかんないし」
当然長く在籍している伏黒、譲、美音は2年生との関わりもそこそこあるため、語彙がおにぎりの具であろうと、呪術師の一員にパンダが加わっていようと既に度肝を抜かれるなんてことは済ませてあるのだ。味のないガムを噛み続けるのと同義、既に驚きは枯れている。
「いやあ、すまんなあ、喪中に。許して、このとお〜りだ!実はお前達に“京都姉妹校交流会”に出て欲しくてな」
「京都姉妹校交流会ぃ?」
「京都にあるもう一校の高専との交流会だ」
「でも、それって2、3年メインのイベントですよね?」
パンダが手を合わせて誠意ある謝罪をしている絵面は新鮮で面白いが、それよりも『京都姉妹校交流会』というイベントの方がインパクトがあった。釘崎は当然ながら知るはずもないが、伏黒と譲も耳に入れた程度の行事に過ぎなかった。例年までは2、3年が出張るだけで1年生は不参加だった。ただし、前年度は数合わせのために当時1年生だった
「その3年のボンクラが停学中なんだ。今年から転入してきた美音を除いてな」
「自分も停学中の同級生は名前しか知らなくて、顔すら見たこともないわ」
「そういうことだ。だからお前ら出ろ」
「その交流会って何するの?スマブラ?Wii版なら負けないわよ。メテオで復帰潰すの!!」
美音を除いた3年の面々は去年に問題を起こして停学中のため、交流会の出場人数がそもそも不足している。人員補充のために真希は1年のメンバーを誘うが、釘崎が余計な発言をしたためパンダは軽く三人で出るとまで言い出した。
「交流会は高専の東京校、京都校、それぞれの学長が提案した勝負方法を1日ずつ2日間かけて行う。つってもそれは建前で、初日が団体戦、2日目が個人戦って毎年決まってる」
「しゃけ」
「個人戦、団体戦って…戦うの!?呪術師同士で!?」
「あぁ、殺す以外なら何してもいい呪術合戦だ」
「逆に殺されないようミッチリしごいてやるぞ」
パンダの三人で出る発言は飽くまで冗談、しっかりと交流会の説明をしてくれた上で、釘崎もやっと交流会の仕組みを理解してきた。呪術師同士が呪術の研鑽を積むための呪術合戦、それに備えて鍛錬も当然必要になってくる。どうせ出番が来るのなら勝利を手にして終わりたいだろう。
「ん?ていうかそんな暇あんの?人手不足なんでしょ?呪術師は」
「い〜い質問ですねえ。ただ、それは今の話だな。冬の終わりから春までの人間の陰気が、初夏にどかっと呪いとなって現れる繁忙期ってやつだ」
「年中忙しいって時もあるが、ボチボチ落ち着いてくると思うぜ」
パンダが説く人間の陰気が溜まる時期こそ冬季憂鬱や自律神経の乱れ、環境の変化、五月病などが挙げられる。新生活に向けての走り出しや新生活の開始直後は特にその陰気が膨大となり、後に呪いとして形作られることが大半の事例なのだ。本来であれば徐々に呪術師は夏を皮切りにのびのびとした休暇が貰えてもおかしくはない。
「で、やるだろ?仲間が死んだんだもんな」
「「「「
「力不足、それを思い知らされました。この金城譲には夢がある!呪術師としての俺を『証明』するには必ずやこの壁を突破しなくてはならないッ!諦めは報いを無碍にすることだ。『信用』をここで勝ち取って繋いでみせるッ!」
「自分も仲間一人守れないような呪術師になんてなりたくない。呪われる被害者を少しでも減らすために、自分は誰よりも強くならなくちゃあいけない!少しでもみんなが多くの『選択』を得て、『決断』できるように」
俺は、私は、自分は強くなるんだと心に誓った。虎杖悠仁という呪術師としては未熟ながらも、心にポッカリと穴が空いた仲間の喪失を飛び越えてどんな手を使おうと成長の糧となるものを吸収しなくてはならないのだと、そこだけは四人の志は合致していた。
「でも、しごきも交流会も意味がないと思ったら即やめるから」
「同じく」
「先輩達のしごき、どれ程のものか味わってみたいですね」
「初参加だけど、後輩達に遅れを取るつもりはないから!」
「まあ、こんくらい生意気な方がやり甲斐があるわな」
「おかか」
2年生の実力は伏黒や譲、美音でさえも知り得ない。どんなに強烈なしごきで打ち負けそうになろうと根性で食らいついてやると闘志を燃やす。『特級』という桁違いの化け物との戦闘を経て、特に譲は拳を握り締める。宿儺との交戦、決定的な敗色…挙げ句の果てには仲間の心の臓を放り投げられ、頑強なプライドを足蹴にされた気分だったのだ。今こそ、挽回の時である。
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『Cafe' レストラン ライス』店内のテーブル席では、袈裟の男がその格好で平気そうに水を飲むためにコップの縁を口に運ぶだけでも大きな存在感を放っていた。それだというのにそのテーブル席には更に呪霊が三体、違和感の塊でしかないのだがその光景を目にできる非術師は店内で限られていたため、騒ぎにはならない。
「つまり君たちのボスは、今の人間と呪いの立場を逆転させたいと、そういう訳だね?」
「まあ、大体はな。だが少し違う。人間は嘘でできている、表に出る正の感情や行動には必ず裏がある。だが負の感情、憎悪や殺意などは偽りのない真実だ。そこから生まれ落ちた我々呪いこそ、真に純粋な
「だが現状、消されるのは君達の方だ」
「だから貴様に聞いているのだ。我々はどうすれば呪術師に勝てる?」
「戦争の前に、二つ条件を満たせば勝てるよ」
「何だ?その二つの条件とは」
「一つ目は呪術師最強と言われる男、五条悟を戦闘不能にすること。二つ目、両面宿儺・虎杖悠仁を仲間に引き込むこと」
「んん?ちょっと待て、死んだのであろう?その虎杖悠仁とかいう餓鬼は」
「さあ?どうかな?」
漏瑚は火山頭をグツグツと煮えたぎらせながら呪霊としての思想を説いている。袈裟の男は人間の立場でありながら、まるで呪詛師のように呪霊達に現状打破の条件を提示する。漏瑚は他の呪霊と比較しても知性を持ち合わせているため、宿儺と虎杖が死に至ったことを理解しつつも男がその条件を推進したことに違和感を抱いていた。男は不敵な笑みを浮かべながら、決して「あぁ、虎杖悠仁も両面宿儺も死んでしまっていたね」などと冗談を口にしているつもりはない。
「しかし、今のは“呪術師”にだけ勝つための条件だ」
「“呪術師”にだけ……だと?どういうことだ、それではまるで我々に、呪術師以外の者が…人間が通用するみたいな言い方をしているようにしか聞こえんな」
「その通りだよ。君達の敵は何も呪術師だけとは限らない。“
「スタンド使い…其奴らが我々に仇をなすと?」
「ほぼ確実にね。スタンドの攻撃は呪霊にも通用するし、術式や呪力による攻撃はスタンドで受けさえすれば1/2のダメージに抑えられる。かと言って君達が負けるとは言わない。油断をすれば足元を掬われる程度だよ。問題なのはそのスタンド使いの中に、とある“血統”が潜んでいること」
「…それは貴様が先程話した五条悟ほどの脅威に成り得るのか?」
「かもしれない、今はそれしか言えないね。虎杖悠仁が死亡した地点に、そのとある血統を引き継ぐ者が一人だけ同行していた。昨年に呪術師ジョジョという名義で呪術界を騒ぎ立てた少年、金城譲というスタンド使いだ。スタンド使いでありながら呪術界を繋ぐ呪術師になっている。なるべく早めに彼を始末しようと目論んではいるんだけどね、私が送り込んだスタンド使いもどうやら彼にやられてしまったらしい」
呪術師と並びに敵としてカウントしなければならないのがスタンド使い、呪霊らが人間の立場を虎視眈々と狙うのであれば無視できない存在となるだろう。スタンドは術式よりも奇天烈な能力のものが多く、そのルールを理解しなければ膨大な呪力を操る圧倒的な戦闘力を誇る呪霊であろうと消滅しかねない。金城譲、鈴原美音と接敵したスタンド使い・
「そのたかがスタンド使いに始末などと…随分と手間をかけているのだな」
「気をつけるに越したことはないよ。それにその血統には強い『運命力』があるからね。金城譲の実力自体は恐れるほどではない。ただ、それも野放しにすれば覆るだろう」
「一応聞いておこうか、その血統とはなんだ」
「ジョースター、元はイギリスの誇り高き貴族。彼らにはスタンドだけではなく、気高い『黄金の精神』が宿っている」
「おい、感情論で我々に勝つとでも言わんだろうな」
「まさか、ジョースターの血を引く者達が運命の繋ぎあわせで出会した敵達を蹴散らしたからそう言っているのさ。ただ、私も『運命』を単に信じるわけではなく、本当に倒してしまうから末恐ろしいと、警戒すべきだと言うんだ」
「まどろっこしいぞ、夏油。そのジョースターは何をやってのけた?お得意の『運命』とやらで」
「私の知り合いを殺したんだ。ディオ・ブランドーという異形を当時高校生だった
死亡したはずの
******
《パラメータ》
【術式名】 【術者】
無 家入硝子
等級-不明